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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第82話 王都で名前売り込み

 次の日、俺は王都クロエにやってきた。


 石畳の大通りを人や馬車が行き交っている。

 静かな村で過ごしていると、王都の人ごみがとても賑わって感じた。

 日帰りのつもりだったのでミーニャとラピシアはいない。

 代わりに馬丁のベイリーを連れてきた。


 俺はセリカを連れて王城へ行った。

 王様に会って交渉する。

 ――もちろん、対価としてケイカ式パイプを持って。



 王城2階の謁見の間で王様と会った。俺の斜め後方にセリカがひざまずいている。

「お久しぶりです、王様」

「うむ。ドラゴンの時以来であるな。報告が欲しいところであったが」

 ――あ、忘れてた。


 俺は頬を掻きながら誤魔化す。

「それはまたのちほど……今日はお願いがあってまいりました」

「ほう、願いとな?」


「とある役立つ技術を持ってきましたので、その交換にこの技術の名をケイカ式パイプとして広めること、そして今住んでる村の名前をケイカ村に変えること、を了承していただきたいと思います」

 朝出かけるときに村長に尋ねて村の名前変更についての進捗を尋ねていた。

 やはりヴァーヌス教の横槍がうるさくて、難航しているらしい。

 ――魔王の息がかかっているだけに本当に厄介だ。



 王様は長い髭を撫でつつ言う。

「ふむ。名前の変更ぐらい構わぬであろう。認めたいと思うが、その対価とする技術とは、いったいどのようなものじゃ?」

「こちらでございます」

 俺は色の付いた水の入ったガラス容器を2つ取り出し、透明な管で繋いだ。


「これは?」

「ケイカ式パイプの簡略な説明です。動力が要らずに上から下へと水を流すための」

「ほう。詳しく聞かせてみよ」

 玉座から前のめりになる王様。よほど気になったらしい。


 俺は簡単に説明した。高いところから低いところへ水を流す場合、途中に障害があっても水で満たされたパイプがあれば上から下へと流れると。

 止まった際にはバルブを使って取水口と排水口を閉め、中を水で満たせばまた使用できると付け加えた。

 そして農地灌漑に使えると説明した。



 王様は深く頷く。

「そういう現象があるのは知っていたが、ここまで正確に把握しているものはいなかった。村の名を『勇者ケイカ村』にすることを認め、そして『ケイカ式パイプ』としてわが国に普及させることを誓おう」

 ――よし! さすが王様。

 これでヴァーヌス教に多額の寄付をしなくても改名できる!


 俺はにやける顔を隠すため、深々とお辞儀をした。

「きっと民も喜びます。ありがとうございます、王様。ただし、取水制限についてご注意ください」

「どういうことだ?」

「川から水を取りすぎてしまいますと、生態系や日々の暮らしに大きな影響が出ます。特に船の往来に危険が出ます。水を取り過ぎないように注意してください」

「なるほどな。あい分かった。充分注意させることにしよう」


 王様の言葉を受けて、俺はもう一度頭を下げた。

 そして玉座の間を退出した。

 夜にもう一度詳細を話そうと思いながら。


       ◇  ◇  ◇


 それから屋台をはしごして簡単に昼食を取ると、奴隷商へ向かった。

 村の人手を増やすため。


 隣を歩くセリカはハチミツのかかった甘い揚げパンをまだ食べていた。

 食べながら歩くことに慣れていないのか、心なしか頬が赤い。


「もぐっ。……甘くてとても美味しいです」

 セリカは可愛らしい唇の横にパンくずをつけながら微笑む。

「それはよかったな。――顔にパンくずがついてるぞ」

「えっ!? 申し訳ありませ――ひゃっ」

 セリカが指先で拭うより早く、俺が取って食べた。

「取れたぞ」

「はぅぅ……。あ、ありがとうごじぁいます」

 セリカが噛んだ。ますます顔を真っ赤にして俯いてしまう。頬に金髪が掛かった。



 奴隷商に付くと【勇者の証】を見せて中へと踏み込む。

 陰気な奴隷商が揉み手をしながら対応する。

「ようこそお越しくださいました勇者さま。今日はどういった御用で?」

「労働力を増やそうと思ってな。ああ、そうだ。咎人の情報はあるか?」

「あったのですが……東の村で成人の咎人が見つかったのです。しかし王都へと輸送中に魔物に襲われて死にました」


「成人ということは隠れ咎人か」

「いえ、普通の咎人だったそうです。人里離れた場所で暮らしていたのでしょう」

 ――基本的に生まれた時に判定されてしまうが、ヴァーヌス教の手が届かない東のほうに隠れ里でもあるのか。

 暇になったら一度、行ってみたいところだ。


「そうか……残念だが仕方ないな。――では奴隷を見せてくれ」

「はい、こちらです」



 建物の奥へと案内される。

 教室程度の広さの薄暗い部屋に、鎖で繋がれた奴隷が10人ほどいた。


 俺は《真理眼》で各奴隷を見ていった。

 条件奴隷は4名。

 大工や侍女、戦士に教導農夫だった。すぐに役立ちそうな人材。


 無条件奴隷は6名。力の強そうな男や手先の器用な女がいた。

 アル中の男はまだいた。あと山賊が1人いた。こいつらだけは論外。



「そうだな。この2人以外、全員もらおうか。いくらになる?」

「おおっ、さすが勇者さま! 8名合計で大金貨154枚になります」

 ――高いな。

 一瞬ねぎろうかと考えたが、前回、ただ同然で引き取ったのを思い出して言い値で買うことにした。


「セリカ、今いくらある?」

「大金貨で80枚ほどでしょうか……」

「なら54枚を頭金に。残りはあとで金を届けさせる」

「おや。値切らなくてもよろしいのですか?」

「廃業したいのか?」

「とんでもありません。勇者さまにはひいきにしていただいていますので、約一割引としまして40枚を先に、あとで100枚お願いします」


 前のこと(魔物を王都に入れた)の口止め料もあるのだろう。

 俺は鷹揚に頷いた。

「わかった。それで頼むぞ」

 手続きをして奴隷たちを外へ連れ出した。



 昼過ぎの日差しの降る中、俺は言った。

「さあ、お前たちにはケイカ村を手伝ってもらうぞ。それぞれの働き場所は奴隷長のクラリッサに聞くといい」

「「「はい、勇者さま」」」

 一括購入をしたためか、不安そうな顔をする女性もいた。

 とりあえずベイリーに荷馬車を仕立ててもらい、村へ連れて行ってもらった。


 セリカが荷馬車を見送りながら言う。

「一緒に帰らないのですか?」

「ちょっと用事ができた。親父の店に行こう」

「はい」

 大通りを歩いてキンメリクの店に向かった。



 親父の店は昼過ぎでも相変わらず流行っていた。

 リオネルが少年のあどけない笑みで出迎える。

「いらっしゃいませ――どうぞカウンターへ」

 洗練された動きでカウンターへ案内される。


 親父が厨房から出てきて言った。

「おう、ケイカ。珍しいな、2人だけか?」

「ああ、ちょっと急用ができてな。泊まる予定だ」

 リオネルが言う。

「だったら部屋の用意してくるね」

「頼んだ」

 金髪をふわっと揺らして階段を上がっていった。



 親父が茶を出しながら言う。

「急用って、何しに来たんだ?」

「王様へ会いにな。あと奴隷を買った。ドライドが来たら大金貨100枚届けてくれといっておいてくれ」

「またか。豪邸でも建てたのか」

「村のほうで人手が欲しくてな」


「ほう。噂は聞こえてきてるぜ。面白いことをしてそうだって」

「俺の名をもっと広めておいてくれ」

「そりゃいいが、一度行ってみたくなるな」

「今はまだな。まあ、呼べるようになったら連絡するよ」

「お前さんのすることだ。楽しみにしてるぜ」

 親父は刈り揃えられた短い髭を撫でつつニヤッと笑った。



 リオネルが戻ってきた。

「用意できましたケイカさん」

「ありがとな」

 俺はセリカを連れて部屋へと向かった。


 いつもと同じ、3階角部屋の広い部屋。

 キングサイズのベッドがある。

「この部屋、俺たち以外に使ってるんだろうか」

「さあ、どうでしょうか? もしそうなら本来の宿泊料金は高いのかもしれませんね」



 俺はベッドを見ながら言った。

「そういえば、セリカと二人っきりになるのも久しぶりだな」

「あ……っ。そ、そうですね」

 セリカは頬を赤らめてそっぽを向いた。


 ベッドに腰掛ける。隣にセリカが寄り添うように座った。

「まだ数ヶ月前なんだよな。セリカと偶然出会って、勇者になって……」

「はい……ケイカさまはすごいです」


「あとやることは――信者増やして、聖剣作って、船を作って、妖精界を取り戻して、獣人を解放して、エーデルシュタインを取り戻し、魔王を倒す。こう考えるとまだまだ先は長いな」

「大丈夫です。きっとケイカさまならできます。ささやかながらわたくしもお力添えしますから」

「一番頼りにしてるからな」

「はいっ」

 セリカは青い瞳を細めて微笑んだ。


 ――1つ1つこなしていこう。

 彼女の笑顔を見てると、まだまだ頑張れそうな気がした。 

短くなったので、夜にもう一回更新します。

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