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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第80話 村づくり工房づくり

 ケイカ村に来た次の日。

 俺は朝食を食べると、畑を魔物から守る結界を拡張しにいった。


 魔法陣の変形なので、正○角形が基本となる。

 貴族は7角形や15角形なんて結界を作らせたりもするが、拡張が面倒になる。

 そこで村で利用する時は、正三角形か正四角形が基本となった。お金が溜まればそのつど結界術師に依頼して拡張していた。


 午前中かかって結界が干渉しないように、最大限まで広げた。

 結果、今までの5倍以上の農地が手に入った。

 これ以上は村から離れすぎて耕作自体が難しくなる。

 これだけあれば今のところは充分だろう。


 案内役の村人たちが喜びと驚きで声を震わせた。

「すごいです、こんなに広げて!」

「金額にしたらいったいいくらになるか……! ありがとうございます!」

 村人たちは泣いて喜んだ。

 俺にとっては何でもない作業なので、少し照れくさかった。



 一方でラピシアには、植樹のためにフィオリア親子についていってもらった。

 魔物が出る危険性があるので。

 何かあれば心話で伝えるようには言ってあった。


 それでも時々、千里眼でフィオリアたちの様子を窺った。

 順調に林の探索と木の選定をできているようだった。


       ◇  ◇  ◇


 昼。

 屋敷に戻って昼食をさっさとすませると、セリカの部屋に行った。

 フィオリア親子が林に出かけたため、セリカが妖精ハーヤを預かっていた。


「どうされました、ケイカさま?」

 金髪を揺らして可愛く首を傾げるセリカ。

「ハーヤに聞きたいことがあってな」 

 テーブルの上に座って道具の手入れしていたハーヤが顔を上げる。

「なんでしょーか、ケイカさん」


「屋敷の裏庭にハーヤ専用の工房を建てようと思う。どんな間取りがいいか、設計図を描いててくれ」

「わあ~、ありがとうです、ケイカさん。さっそく書きますっ」

 道具を手早くしまってピョコっと立ち上がると、テーブルに紙を広げてペンを動かし始めた。



「じゃあ、メルビウスのところへ行ってくる」

 セリカが青い瞳を細めて、寂しげに笑う。

「お忙しそうですね、ケイカさま。わたくしにも手伝えることがあれば、遠慮なく言ってください」

「ありがとう、セリカ」

 部屋を出ると長屋へ向かった。


       ◇  ◇  ◇


 長屋はアパートのような構造で、玄関から入ると廊下に沿って各部屋の扉があった。


 メルビウスの部屋の扉をノックする。

「なんだ?」

「俺だ。ケイカだ。用があってきた」

「ケイカさんか。開いている」



 部屋に入ると、メルビウスは食事をしていた。テーブルには空になった食器。

 ベッドには妻のオリビアが寝ていた。メルビウスが介護して妻に食べさせたらしい。

「調子悪そうだな」

「いえ、寝たら随分と良くなりました、お気遣いありがとうございます」

 オリビアは頭を下げた。赤みがかった黒髪が揺れる。


「ちょっと診察させてもらうぞ」

 俺はオリビアに近付いて額に手を置くと、真理眼でオリビアのステータスを見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:オリビア

性 別:女

年 齢:27

種 族:人間

職 業:町人 黒まじゅつし

クラス:魔法使いLv6 事務Lv5 手仕事師Lv10 

属 性:【風】

状 態:健康


筋 力:22(+4) 最大成長値75

敏 捷:13(+2) 最大成長値60

魔 力:10(+1) 最大成長値45

知 識:18(+3) 最大成長値30

幸 運: 9(+1) 最大成長値46


生命力:170

精神力:100

--------------------

 ステータス的には何も問題がなさそうだった。

 あとはごく一般的な魔法のスキル。

 というか、魔法使いじゃなくて、剣士や戦士になったほうがあきらかに成長が見込めるんだが。

 ただ、病み上がりの人間にそれを言うのは酷か。


「う~ん、何も問題がなさそうだな」

「はい、勇者さまありがとうございます。お昼から皆さんのお仕事を手伝おうと思います」

「ほ、本当に大丈夫か……?」

 メルビウスが心配そうに顔をしかめた。

 オリビアはにっこりと微笑む。

「もう大丈夫です。ありがとう、あなた」



 俺は言った。

「まあ、病み上がりだから無理するなよ。でもオリビアって魔法使いなんだな」

「え!?」

「なんのことでしょうか?」

 夫婦は揃って首を傾げた。長年連れ添ったとわかる同じ仕草をした。


「ん? そういう勉強をしたんじゃないのか?」

「知らないです。わたしは帳簿の付け方と、内職の仕事を学んだぐらいです」

「んん?」

「まさか、そんな……! ケイカさん、妻の言うことは本当だ。彼女とは幼馴染なんだが、昔、私の失敗で怪我をして依頼、病気で寝込んでいたんだ」

「魔法を習う暇なんてありませんでした」



 俺は考えた。

 おかしい。その割にはLvが上がってるぞ。

 敵を倒したか、激しい修行をしないと上がらないはずだ。


「失敗、と言ったな。どんなことをしたんだ?」

 俺が尋ねるとメルビウスは俯いた。

「そ、それは……」

「鍛冶師に関することか?」

 メルビウスが顔を上げて目を見開く。

「ど、どうしてそれを!」

「勇者だからな」

 説明にもなってないが、彼は納得して首を垂れた。ぽつりぽつりと語りだす。


 

「私は、幼い頃からものづくりが好きだった。自分の手でただの材料が役立つ道具になる。良いものを作れば褒められる。それが嬉しかった」

「しかも才能があったんだな」

「そうだ。鍛冶の真似事をしてナイフを作ったら、魔法のナイフになった。神童と呼ばれた。それで――私は調子に乗ってしまった」

「何をしたんだ?」


「彼女の誕生日に、丹精込めて作ったナイフをプレゼントした。彼女が昔からなりたいと言っていた、魔法使いになれるナイフを」

「ほう」


「そのナイフで傷つけられたものは魔法使いになれる、そう想いを込めて作った。しかし、指先を傷つけたとたん、彼女は苦しみ出して、その日から熱を出して寝込むようになった。私は死ぬほど後悔した。それ以来、ハンマーを握ることをやめ、彼女のために生きてきたんだ」

 ――それが、鍛冶師にならなかった理由か。



「なるほどな。ただの人間が人のあり方を変えようとするなんて、神の禁忌に触れることだ」

「それで天罰が下ってしまった。しかも私ではなく彼女に。本当に浅はかだった」

 メルビウスは悔しそうに拳を握り締めた。

「あなた……わたしが望んだのです。あなたは悪くないわ」

「しかし……!」


「まあ、待て。理由が分かれば治せるぞ」

「ほ、本当か!」

「薬や魔法で治したはずの彼女が、未だに調子が悪いのも、根本を解決してないからだろう」

「ど、どうすればいい!? なんでもする!」

「ほう――なんでもか。だったら、彼女を治したら、またハンマーを握ってもらおうか」

「う……いや、ケイカさんがそれを望むなら、また握ろう! 頼む、彼女を助けてくれ!」



 俺はオリビアに近寄り、シーツを剥ぎ取った。

「じゃあ、治療をするぞ。上半身裸になってくれ」

「いったいなにを!?」

「安心しろ、ただの治療だ。体調不良の原因は、魔法使いのことを良く知らないまま、魔法使いにするナイフを作ったからだ。お話やお伽噺のイメージから魔法使い像を作り上げたんだろ?」

「い、言われてみれば、そのとおりです」


 黒魔術師なんて職業は存在しない。この世界では。

 そのため、体に異常な負荷を与えているのだと思われた。



 オリビアは真剣な顔で頷くと、上半身を脱いで裸になった。

 ツンと上を向いた手のひらに収まるぐらいの胸が晒される。

「ケイカさま、お願いします。……あなたも見ていてください」

「わかった――ケイカさん、頼む」

「ああ、すぐ終わる」

 俺は彼女の柔らかな胸に手を置き、そして形を崩した。指先に伝わる、背徳的な人妻の柔らかさ。

 腹をなで、胸の谷間を優しく撫でる。指先の動きにあわせて、丸い膨らみがふるふると震えた。


 最後は額に手を置いた。

 消すだけなので、さほど触らずに済んだ。

--------------------

【ステータス】

名 前:オリビア

性 別:女

年 齢:27

種 族:人間

職 業:町人

クラス:魔法使いLv6 事務Lv5 手仕事師Lv10 

属 性:【風】

状 態:健康


筋 力:22(+4) 最大成長値75

敏 捷:13(+2) 最大成長値60

魔 力:10(+1) 最大成長値45

知 識:18(+3) 最大成長値30

幸 運: 9(+1) 最大成長値46


生命力:175

精神力:100

--------------------

 元通り。

 というか、最大HPが減っていたんだな。

 それが熱を出した理由か。


 俺は手を離して言った。

「終わったぞ。これで、たぶん大丈夫だ」

 メルビウスがベッドへ駆け寄る。

「大丈夫か、オリビア!」

 オリビアは上体を起こしつつ、体を確かめる。

「……重かった体がとてもすっきりした感じがします」


「よかった、オリビア!」

 メルビウスは裸のオリビアを抱き締めた。

 オリビアの顔が赤くなる。

「あ、あなた……ケイカさまがいるんですよ」



 彼は慌てて離れる。

「そうだった。ありがとう、ケイカさん! なんでも力になる!」

「そうか、だったら、建物を建てて欲しいんだが」

「任せてくれ!」

 彼は眼を赤く潤ませながら、どんと胸を叩いた。


「じゃあ、さっそく、裏庭に来てくれ。ちょっと特殊な工房を建ててもらいたい」

「了解した!」

 元気よく立ち上がるメルビウス。

 彼を連れて、俺は裏庭へと向かった。


       ◇  ◇  ◇


 裏庭は幅30メートル奥行き10メートル。

 倉や納屋が5つほど建てられそうだった。

 村の外れの空き地を指定しただけあって、敷地は潤沢に用意されていた。


 ハーヤの書いた工房設計図をメルビウスに見せた。

 8畳程度の小さな掘っ立て小屋。かまどや棚、作業台の位置まで細やかに記してある。

「これを、西の端に作って欲しい。できるか?」


 真剣な顔をして口元を撫でる。

「……これは細かい指示だな……ただ、とても機能美にあふれた設計だ。建築資材さえ揃えば造れると思う」

「だったら、セリカに言ってお金を貰い、王都まで買いだしに行ってくれ。あと柵からは3メートルぐらいは離してくれ。生垣を作るから」

「ふむ、だいたいわかった。他には?」



「そうだな。今考えているのは、工房の隣に、お前が使うための鍛冶場を作ってほしい。そして東端には風呂を作りたい。5~6人が入れるぐらいの広さがあればいい」

「……鍛冶か」

「作ったものは魔法が付与されてしまうのだろ? 村人のための道具を作るのは危険だからな。隠すためにも裏庭に作ろう」

「わかった。もちろん無条件奴隷だからと言うわけではなく、妻を助けてもらった恩として、全力を尽くしたい」

 黒髪を揺らして頷いた。青い瞳には意志の強さが光る。

 ――ここから先は建築士の領分。任せて大丈夫だろう。


「頼んだぞ」

 俺は信頼する言葉をかけて、メルビウスと別れた。



 それからは井戸を掘るために適した地面を探した。

 水の神なので、水脈は感じ取れる。

 この村は水が貴重だった。50軒ぐらいの家が暮らしているのに、井戸が3つしかない。

 東の川から引いてきた小川は、ため池に流れこんでいて、農業用水として使われていた。


 ――農地を増やしたから、さらに水が必要になる。

 これも改善しなくてはな。信者獲得が難しくなる。

 とりあえず、今は生活のための井戸だ。



 俺は千里眼や真理眼を駆使して、地面下を見ていった。

 残念ながら裏庭には流れてなかった。


 そして、屋敷の東側辺りを調べたところ、地面の深いところをうねって進む水脈を見つけた。北東から流れ込んできて、南東へと逸れていく。

 ここに井戸を掘っても、他の井戸への影響は少なそうだ。

 ただし岩の層の下だった。少し厄介だな。


 水に呼びかけて噴出させようとしても岩が邪魔だった。

 かと言って俺の強い力で下手に叩き割ると、岩の層が押し潰されるように沈んで、水の流れが変わってしまう。



「土、岩、大地母神……ラピシアならできるんじゃないか?」

 神術を覚えてますます土形成は得意になっていた。

 おそらくできるだろう。

 時間の空いたときにでも、井戸掘りを頼むことにした。



中途半端なので、できれば夜も更新したいです。深夜になりそうですが。

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