第79話 リィを治療(全力で)
村長宅を出て、屋敷に戻る頃には夕暮れになっていた。
厨房の辺りから夕餉の支度をする煙が昇っていた。
屋敷に入ると、東側の部屋にいるエルフのフィオリアを訪ねた。
扉をノックして尋ねる。
「ちょっといいか?」
「うん、いいよ。ケイカさん」
リィの明るい声が聞こえたので中に入った。
ベッドとテーブルとイスがあるだけの簡素な部屋。
今はみんな似たようなものだった。
リィはテーブルに紙を広げて、何か書いていた。見た目14歳ぐらいの少女。
ハーヤは部屋の隅でごそごそしている。
「お母さんは夕飯の手伝いしてるよ」
「そうか。リィは勉強でもしてたのか?」
「ううん、違う。お屋敷の庭に植える木は、どうしようかなぁって考えてたの。ケイカさんは高い木を並べるのがいいのね?」
「そうだな……目隠しや風を防げたらいいと思ってな」
「なるほど~。だったら、柵から1~2メートル離れたところに等間隔に木を植えて、柵の傍は密集しても育つ低木がいいかなあ? 種類を選べば2メートルぐらいになるし」
「生垣か。それいいな」
「わかった。そうするねっ」
リィは、ふんふーんと鼻歌を歌いながら屋敷の見取り図にペンを走らせた。肩で切りそろえられた緑髪がさらさらと揺れる。
俺はハーヤに近寄った。
「ハーヤ、ちょっと頼みたいんだが」
「なんでしょーか、ケイカさん」
「これ、改良できるか?」
村長から借りてきた咎人判定の玉を、懐から出した。
村長宅よりで見たときよりも、強く紫の光を発している。
傍に光属性のリィがいるからだろう。
やっぱり新式に対してはステータス表記を変えただけじゃダメなんだな。
玉を見たハーヤは細い眉を寄せた。とても嫌そうだった。
「まがまがしいオーラが出てます。気味が悪いです」
「咎人判定機だそうだ。おそらく光属性がいると紫に光るんだろう」
「そのよーですね」
玉を受け取ったハーヤは、眉をしかめながら、小さな手で回して叩いて調べていた。
「これを……そうだな、魔物が来たときに紫に光るよう改善できるか?」
「むう……できなくはないですが。魔物と普通の生き物を区別する定義がわかれば、可能です」
「あぁ、そうか」
グレウハデスやエビルスクイッドは完全な魔物だ。
しかし大きな狼やトカゲなんかは普通の生き物とも考えられる。
結局のところ、人の意識の違いに過ぎない。
例えばナーガ族を魔物とするかどうかは人それぞれ違うだろう。
「うーん。じゃあ、闇属性が来たら光らせるようにはできるか?」
――今のところ、人は四大元素か光ばかりで、闇はほとんど見かけなかった。
「それならお安い御用です」
ハーヤは短い手で、とんっと胸を叩いた。三角帽子がふわっとなびいた。
「じゃあ、そういうふうに改造してくれ」
「いえっさー。仕上がりは明日の朝になりますー」
「わかった」
ハーヤは小さなハンマーやノミ、バーナーなんかを取り出して改造を始めた。
俺は紙とペンを借りて魔法陣を描いた。咎人判定を誤魔化す積層型魔法陣。
「あと、これを鉄片に刻めるか? 小型化していくつか作って欲しい」
「はーい。これは玉の力を無効化できますね。がんばりまーす」
「よし、頼んだ」
ハーヤはるんるん♪と楽しげに、道具を持って工作を始めた。
これでファルやリィやセリカ、他の咎人たちも安全を確保できることだろう。
ふと顔を上げると、リィが興味津々な視線で俺たちを見ていた。いや、ハーヤの手元を熱心に見ている。
――ああ、ちょうどいいな。
「リィ。体の悪いところを治すから、ベッドへ横になってくれないか。上は脱いでくれ」
「え……今?」
「ああそうだ。前にやったのと同じことだ。すぐ済むから」
ティルトに教えてもらったので、種族と年齢が分かっていた。
あとはステータスを改変するだけ。
リィは顔を赤らめて俯いた。
「は、恥ずかしぃよぉ……」
「治さないと、またおかしくなるぞ?」
「う……わかった」
ゆるゆると時間を掛けて服を脱ぎ、ベッドへ横たわった。
細い腕で胸を隠しているが、隠し切れない白い肌が眩しい。
幼さの残る端整な顔とエルフの長耳だけが赤かった。
俺が横に座ると、ベッドがギシッときしんだ。
胸を隠す細い両手を、片手で掴んで彼女の頭の上で押さえた。
それから薄い胸や華奢な体に手を滑らせる。
「あ……っ。ああっ……」
リィは育ちかけの華奢な肢体を震わせた。我慢できないのか、長い脚が交差する。短いスカートがめくれて下着が見えた。
「できるだけ動かないでくれ」
「だ、だってぇ。くすぐったいんだもん……ぁんっ」
指先の動きにあわせて、ビクッと肢体が跳ねるように揺れた。
またステータス表記をミスったら大変なので、白い肌に優しく触れて、慎重に動かした。指先にすべすべした温かさが伝わる。
リィは整った顔を歪めて目をつむり、ぐっと歯を噛み締めていた。
それでも花のように赤い唇から我慢できない喘ぎを漏らす。
「うぅ……。あぅっ……!」
「痛いか?」
「だ、大丈夫だから、早く終わらせてぇ……」
「じゃあ、動くなよ」
さらに指先を動かす。
「や、やっぱり――むりっ!」
リィは身をよじって逃げ出そうとした。肩までの緑髪が激しく乱れる。
「こら、危ないっ」
変更途中で終えたら、余計に危険だった。
俺は強引に彼女の薄い腰の上にまたがると、左手で肩を押さえつけながら、右手で胸の形をなぞった。
「やだぁ……ッ! んぅっ」
俺の下で暴れるが、華奢な細腕は俺の胸を力なく押すばかり。
手を少し強く動かしては、脇腹や首筋に指を這わせた。
リィは頬を赤く上気させて、はぁはぁと荒い息を吐く。
押さえつけたため変更しやすくなった。
数値と表記を一気に書き換える。
――信者数1000人。
今の俺なら、表層じゃなく少し下の部分まで書き換えられるはず――。
華奢な肢体へもぐりこむように指先に力を込める。湿った汗が指に絡む。
「ああ――ッ!」
痛みが走ったのか、リィが切なく喘いで、華奢な肢体を弓のように仰け反らせた。
最後は額に手を添え、真理眼で見た。
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【ステータス】
名 前:リィ
性 別:女
年 齢:72
種 族:ハーフエルフ
職 業:精霊使い
クラス:精霊術師Lv8 魔道具技師Lv1 庭師Lv1
属 性:【木】【光】
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「よし。成功だ……どうだ、体の調子は?」
俺は横へ移動しながら言った。
リィは答えず片手で目を覆って、はぁはぁと薄い肩で荒い息を繰り返していた。スカートがめくれて細い足が付け根まで見えてるのに隠そうともしない。
俺はくしゃくしゃに丸まっていた上着を拾うと、彼女の体にかけてやった。
ぽつりと、リィが息の合間に言った。
「頭が、ぼぉ~っと、する」
「え? 大丈夫か? ちゃんと治したはずだが」
「……それは、わかってる、けど、違うのっ」
怒ったような口調で言いながら上体を起こすと、半裸のまま俺の胸にもたれかかってきた。じかに触れる火照った肌が、溶けるように柔らかくて熱い。
「本当に大丈夫か? 体も熱っぽい」
「……体はさっきよりもっと軽くなった感じがする」
「それはよかった」
ほっとして、離れようとしたら、和服をつかまれて逃げられなかった。
至近距離から上目使いで見上げてくる。大きな黒い瞳は熱く潤んでいた。
「ケイカさん、なでなでして」
「ん? まあ、いいけど」
細く柔らかな緑の髪を撫でる。
リィは撫でられるたびに、あぁ~と甘い息を漏らして、ますますもたれかかってきた。
しばらくして彼女の様子が収まってきたので、尋ねた。
「そういえば、リィは魔道具技師に興味があるのか?」
「……うん。さっき、ハーヤちゃんからいろいろ聞いたの。けっこう面白そうかなって思った」
「ハーヤを手伝ってみるといいかもな」
「うん! そのつもり」
「頑張れ――ハーヤもよろしく頼む」
俺はハーヤを見たが、腕が6本ぐらいに見える速さで作業していた。
人の話などまったく聞いていなかった。
くすっ、とリィが笑う。
「ハーヤちゃん、すごい」
「あれはたぶんマネしなくていい」
「だよねっ」
俺とリィは抱き合いながら笑った。
――と。
どたどたと廊下を走ってくる音がした。
リィが、はっと身を引くと、急いで上着を着る。
間一髪で、着終わったところにフィオリアが入ってきた。
「あら、ケイカさま。それにリィ。ちょうど夕飯ができましたわ。食堂へ来ていただけますか?」
「わかった、すぐ行く。丁度、リィの治療が終わったところだ」
「まあ! どうでしたか!?」
「うまくいった。おそらく治ったが。異変がないか1~2ヶ月は様子を見たいところだ」
「わかりました、ケイカさま。その間はお屋敷が素敵になるよう頑張ります」
「とても助かる。頼んだぞ」
「ええ。お任せください。……リィもケイカさまに気に入られるよう頑張りなさい」
チラッと意味深な流し目をすると、フィオリアは部屋から出て行った。
リィは俺へとしがみついてくる。
「だ、大丈夫よね、ケイカさん? 怒られないよね!?」
「何が? 俺は治療しただけだぞ」
「そ、そうよね。治療、だもんね」
俺はベッドから降りた。リィも続く。
食堂へ向かう間、リィは、かあっと頬を赤らめたまま和服の袖を指先で摘んでいた。
◇ ◇ ◇
食堂では全員揃って夕飯を食べた。
大きなテーブルに全員で座る。
ミーニャとクラリッサが腕を振るったようで、豪華な食事がテーブルに並んだ。
干し貝と新鮮なサラダ、川魚のムニエル、カツ揚げ、野菜のかきあげ、甘酢団子あんかけ、柔らかいパン、大きな鳥の丸焼き、肉とキノコのクリームシチュー。
「さあさあ、食べておくれ。お祝いの豪華料理だよ!」
「いっぱい作った……食べて」
「いただきます」
みんないっせいに食べ始める。どれも一口食べると頬が緩む美味しさ。
「このサラダ、懐かしいですわ」
セリカが微笑んで手を動かす。発酵させたような酸っぱさのあるサラダ。白菜の漬物っぽい味。エーデルシュタインの名物らしい。
クラリッサを見ると、ニヤッと笑った。
「おかわりもまだまだありますよ! さあ、食べた食べた!」
美味しい料理と賑やかな会話。
――大勢で食べる料理はうまいな。
そんな事を考えたら、ふいに笑みが浮かんだ。
楽しい夕食は続き。
旅の疲れは笑い声の中に消えていった。
しかし夕食後にショックな出来事があった。
――この屋敷には、風呂がなかった……。
仕方ないので水浴びをして我慢した。
なんとかしたいが、まだ先にすることがあった。




