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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第76話 東へ帰還

 犯罪組織を滅ぼした数日後。

 夜明けから降り始めた雨は朝になると上がっていた。

 高い青空と澄んだ大気が朝を輝かせる。


 そんな朝日の下、俺たちは東へと向かった。

 ダフネス王国へ戻るため。



 あの後、王宮に呼ばれて、王様から褒め称えられた。

 褒美として聖金貨10枚(5000万円)とメルビウスの出国許可をもらう。


 それから民衆が広場に集められ、俺の活躍を称えられた。

 民衆たちもすでに事件を知っていたらしく、大歓声で応えてくれた。

 ――名前を売るのに、ばっちり。



 そして、王都を三重に囲む街壁に、足場が組まれて工事が始まった。

 今までの俺の活躍を巨大な壁画として刻んでもらうためだった。


 北の四天王を倒して魔王軍の侵攻をたった一人で食い止め、海の四天王を王女を守りながら倒して、荒ぶるドラゴンを倒して改心させ、砂の四天王を倒して世界樹を守った。最後はインダストリアに忍び寄る魔の手を粉砕。

 もちろん人魚のお姫様や絶世の美女たる王女様、エルフに天使に女神とのラブロマンスも!

 セリカがジト目で「事実とかなり違いますが……」と呟いたが気にしない。

 歴史は勝者によって作られるのだから問題ない!



 それにしても、なぜ壁画なのか?

 インダストリアは工業都市。

 だったら、工業的な何かを残すのが、名前を売るのに一番効果が高いだろうと考えた。


 しかも壁は高くて広い。

 王都の職人が総出で取り掛かることになる。

 すると、人間のサガとして、自分や家族が関係した大きな仕事は自慢したくなるもの。

 俺の名前と活躍は、親から子へ、祖父から孫へと伝えられていくに違いない。



 ――すべては計画通り。信者も増えるはず。

 ていうか、すでに300人ほど増えた。信者数、4桁突破。

 喜びの踊りでもしたくなる気分。


 まあ、そのためには王様から貰った聖金貨10枚は全部工事費に当てることになったが。

 この程度の出費、名前が広まるなら必要経費だった。


 国王に壁画を刻むことを申し出たときは、断られるかもしれないと思っていた。

 しかし、王に渡した魔法遮断の布が役立った。3年ごとに取り替えなければ危険ですと言い、暗に便宜を計らってくれと、さとしたのが効いた。


 ただ自国に多額のお金が還元されることもあって、快く受け入れてくれた。



 ファブリカ王国でできることはすべて終えた気がした。


 なので鍛冶師と妖精を手に入れたのでダフネス王国へ戻ることにした。


       ◇  ◇  ◇


 東に行くこと1週間。

 国境までやってきた。

 その間にもリリールの教育は続き、ラピシアは神術の魔法をいろいろ覚えた。


 そして俺も新しいスキルを覚えた。

【聖導切り《ジャスティススラッシュ》】正しいものは傷つかず、悪いものだけ切る。魔族へのダメージ3倍。 



 検問所が遠くに見える頃。

 リリールは言った。

「私はそろそろ別行動しますわ」

「村まで来ればいいのに」

「北のほうをね、見ておきたいのよ」

「……エーデルシュタインか?」

「それもあるわね」

「迷子になるなよ。ドジっ子だからな」


 リリールは頬を膨らませた。それでも美しさは崩れない。

「ドジっ子ではありません。ちょっと思い立ったら行動してしまうだけです」

「もっと悪いだろそれ」


「うるさいですわ。とりあえずラピシアにできることは全部教えましたから。――ラピシア、繰り返し練習するのよ?」

「うん! ……それでね」

「なにかしら?」



 ラピシアはたまごを両手で掲げた。

「白くなったから、あとお願いっ」

「浄化ね。……ラピシアもこの先必要になるだろうし、一緒にしましょう」

「うん!」


 リリールは手をラピシアの小さな手に重ね合わせると、白いたまごを撫で始めた。

「ラピシア、私の言葉を繰り返しなさい――安らかに眠る魂よ……」

「やすらかにねむる たましーよ……」

 二人の儀式はしばらく続いた。最後はたまごが淡く光って終わった。


 リリールがラピシアの頭を撫でる。

「これで大丈夫。偉いわ」

「えへへ……頑張った」



 俺は首を傾げながら悩んだ。

「そのたまご、ドラゴンに返したほうがいいか? また盗まれる可能性があるけども」

「浄化したものはもう悪い災厄は出てこないけれど、難しいところでしょうね」

「災厄が出ないなら、もうあとはドラゴンの自己責任だな。返そう。ラピシアもそれでいいな?」

「……うん! この子のお母さんに返す! ラピシアはケイカのたまご生むからいい!」

 ラピシアは一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐに元気な笑顔を作った。


「お前、卵で増える気か」

「違うの?」

「あー、大人になったら教えてやる」

「わかった、楽しみ!」

 青いツインテールを揺らして頷いた。



 俺はエルフのネビュラを見た。

「ネビュラも気をつけてな」

「はい。勇者さま、ありがとうございました」

 緑髪を揺らしてお辞儀した。


 リリールが北へ向かうため、途中、世界樹に寄ってエルフの村へ連れて行くことになった。

 ただしフィオリアとリィは、リィのステータスがまだ不安定のため、俺と一緒に行くことになった。


 そしてリリールたちと別れて国境を越えた。



 途中の村々では歓迎された。

 ドラゴンの被害があった村にはドラゴンから宝物を送られたためらしい。

 勇者ケイカのおかげだと感謝された。信者ゲット。


 王国の西にある町ケルキラでは、銅像を製作するための型を取らされた。

 俺の銅像は今年中には出来上がるとのこと。

 順調で何より。

 ついでに料金を払って銅像を1体、俺の村へと配送してもらうことにした。



 その後は、ドラゴンに会って2個のたまごを返しておいた。

 ダンジョンはショートカットできるようになっていた。

「おお……美しい白さだな。礼を言う」

「もう盗まれるなよ」

「う、うむ……努力する」

「あと王国との協定があるからしばらくは山周辺から離れるなよ」

「わかっている」

 そしてダンジョンのアイデアを出してから、また帰路についた。


       ◇  ◇  ◇


 インダストリアを旅立って2週間後。

 俺はダフネス王国の王都クロエに戻ってきた。


 裏通りにあるキンメリクの宿屋へ行く。

 1階の酒場は小綺麗になり、昼を過ぎた時間だというのに繁盛していた。

 

 ミーニャが言う。

「綺麗になってる……」

「壁に布を掛けて汚れを隠し、テーブルの表面を大理石にして、汚れを落としやすくしているようですわ」

 セリカが感心していた。



 給仕をしていたリオネルが気付いて、爽やかな笑顔で入口へ来た。

「ケイカさん、みなさん。久しぶりだねっ――どうぞ、お好きな場所にお座りになってください」

 白シャツと黒ズボン、それに蝶ネクタイが少年らしい華奢な体に大人びた雰囲気を与えていた。


「昼飯は食べたからいらないぞ。村に行くから泊まらないし」

 そう言うと、リオネルは寂しそうに眉をしかめた。

「それは残念かなぁ。今の時間はお茶とお菓子を提供してるんだ」

「リオネルが考えたのか?」

「うん、いろいろ思いついちゃって。みんなに喜ばれるって楽しいね。紹介してくれてありがとう」

 白い歯を光らせて答えた。素直さの中に、芯の強さのようなものを感じさせた。

 ――良い傾向だな。


「目的は見つかりそうか?」

「ううん、まだ。でも潰れそうな店を建て直すって仕事、これもありかなって思ったよ」

「おいおい。潰れそう、は余計だぜ」

 親父が厨房から顔を覗かせて叱った。

 ぺろっと舌を出すリオネル。

「ごめんなさい、マスター。ミーニャさんがいないとジリジリ売上が下がる店に訂正するね」

「余計酷いわ! つーか、ケイカよく来たな――と」



 ミーニャがしなやかな足取りで厨房へ入った。

「お父さん……ただいま」

「おお! ミーニャ、おかえり! 無事で何より……ていうか、前よりたくましくなったなぁ」

「ん。頑張った……これ、新メニュー? 手伝う」

「おお、そうかい。リオネル教えてやってくれ」

「はい」


 俺は厨房へ戻ろうとするリオネルを呼び止めた。

「リオネル。さっき言ったのは、なしで。やっぱり一泊してから村へ行く」

 ――ミーニャの家でもあるんだ。

 王都に寄ったときぐらい父親と過ごすのもいいだろう。


「わかった――じゃない、わかりましたケイカさん、すぐに部屋を用意しますので、今しばらくお待ちください」

 明るい髪を揺らして、大人のようなお辞儀をすると、厨房へ足早に戻った。

 他のテーブルにいる女性たちが「素敵っ」と呟いていたが、なんだか分かる気がした。少年なのに大人びたところがある、そんなギャップがいいのかも。



 俺とセリカはカウンターへ座った。

 他のみんなはテーブル席へ。

 妖精はミーニャが背負ったままだが大丈夫だろうか。 


 テーブル席へ話しかける。

「リィ、体調はどうだ?」

「うん。あたしは大丈夫」


「メルビウス、奥さんの調子は?」

「大丈夫そうだ。気を使ってくれてすまない」

 メルビウス夫妻は笑顔で頷いた。

 ただ若干、妻のほうに疲れが見えた。やっぱり宿を取って正解のようだった。



 すると厨房から親父が出てきた。

 無精ひげだったのが短く刈り揃えられていた。服も白いシャツに黒のズボンとベストを着ていて、渋みが上がっている。

「久しぶりだな。1ヶ月ぶりぐらいか」 

「店の印象変わったな。親父も」


 俺は店内を見た。荒そうな男たちは減り、女性客が増えていた。

「昼は定食、夜は酒場。間に茶と菓子を提供することにしたんだよ。リオネルの助言でな」

「その髭や服もリオネルが?」

「なんかよ、こうしたほうが儲かるって言うからさ……身だしなみなんてどうでもいいと思うんだが」

「いいや、似合ってるよ」

「とても素敵です、キンメリクさん」

 セリカも心から褒めたようだった。


 親父は照れたように頬をかく。

「美人に言われると照れくさいな。まあ、ありがとよ。――で、どうだったい、西は? ドラゴンがお城に来て大騒ぎだったぜ」

「ああ、あれはな……」

 俺は言えないことは隠しつつ、かいつまんで話した。セリカが時々、補足した。


 親父は、刈り揃えられたあごひげを撫でつつ、感心した相槌を打った。



 ――と。

 厨房からミーニャが出てきた。

 巫女服の上に、フリルの付いた白いエプロンをかけていた。短い黒袴から伸びる細い素足とよく似合っていた。


 無駄のない動きで、俺たちの前にお茶と膨らんでないパンケーキを置く。

「ん。お茶とお菓子、できた」

「ありがとうな」

「おいしそうですわ」

 セリカは微笑んで、優雅に一口食べた。 


 俺も喋って喉が渇いたのでお茶を飲んだ。爽やかな香りが喉を潤す。

 パンケーキは膨らんでないが、干した果物が刻んで入っていて甘い。

「うまいな、これ」

「そう」

 ミーニャは無表情のままラピシアたちの座るテーブルに向かったが、尻尾は喜びでゆらゆら揺れていた。



 親父が突然、あっと声を上げた。

「そうそう。村の屋敷ができたって報告があったぜ」

「ちょうどいいタイミングだな」


「あとはそうだな……ドライドっていう商人から言付けがあるな。話がしたいそうだ」

「あー、金も貸したままだったし、会ってみるか。どこで会える?」

「いや、たぶんそろそろ来るころだ。3日に一度はリオネルの様子を見に来てる」

「なるほど。親の依頼か」

「ドルアースの産物、届けてもらってるしな」

 親父はニヤッと笑った。商機は逃さないらしい。いいことだ。



 店の入口から声が掛かる。

「やあやあ、いつもの品、持ってきましたよキンメリクさん」

「おう、いつもすまないな――で、こちらが探してた……」


 俺が振り返ると、入口に商人のドライドが立っていた。

「おお、勇者さまっ。お会いしたかったです!」

「久しぶりだなドライド」


 ドライドはカウンターまで来て、隣に座った。

「キンメリクさん、私にもお茶を一つ」

「あいよ」

 親父は厨房へ戻った。



 ドライドは俺へ頭を下げた。

「連絡が遅れてすみません」

「どうした?」

「高速輸送がとても順調です。それで今月の配当ですが――生身ですみません」

 ドライドはポケットから小袋を取り出すと、中から大金貨を18枚(180万円)取り出した。


「こんなにか?」

「いえ、少ないぐらいです。水着の収入と、ケイカビーチの屋台収入。それに高速輸送は通常便の倍の料金で、1日上り下りそれぞれ5便出してますので。ただ、ナーガが増えまして装備費が……」

「今35~36名いるんだったな」

「はい。ケイカビーチの警備を含めましても、半数が余っているような状態です。何かもったいない気がして……」

「ふむ……」

 俺は考え込んだ。



 親父が茶を運んできてドライドに出した。

 ドライドは一口飲むと溜息を吐く。

「かといって、これ以上の便は増やせませんし……」


 俺はピンッと閃いた。

「だったら各駅停車を作ったらどうだ?」

「どういうことです?」

「今はドルアースと王都の直行便だけなんだろう? 大河の途中に駅を作って、途中の街にも立ち寄るようにするんだ」


「な、なるほど! 途中には農作物の出荷に川を利用してますから、販路を拡大できるでしょう。新鮮な生野菜を運べます」

「直行便は赤い鉢巻に赤い船。各駅は青い鉢巻に青い船体だな」

「色分けですか! 利用者の混乱を避けられそうです! さすがケイカさん!」

 ――まあ、日本の電車のパクリなんだけど。



「他には、王都よりさらに北への便を作ってもいいな」

「いいですね、それ! 大河の北限クリューの街は大理石と木材が取れます」

 ――そして利用者が増えれば、勇者ケイカの名はさらに広まる。

 ただし、ナーガの船が接岸できるように工事する必要があるかもしれないから、出資金回収はまた今度だな。


「北か……俺の村から東へ行けば大河に出るんだっけか」

 大河は王都から北東へとカーブしていた。

「そうなりますね」

「道を作って利用できれば、村を訪れる人を増やせるな」

「確か王都から半日ほど北にある村でしたね。道ができたら試験運用してみますか」

「頼んだ。勇者ケイカの名前を広めることも忘れずにな」



 ドライドは大きく頷く。

「いっそのこと『勇者ケイカ高速輸送』と改名しましょうか。ナーガが増えたために、恐れている人は少なからずいますから」

「そうだな。勇者の名前なら、安心度は高まるかもしれないな。それでやってくれ。配当は今のところこの店に預けてくれていいから」

「わかりました! すぐに手配します! ――それでは」

 ぐいっとお茶を飲み干すと、銀貨を1枚カウンターに置いて、早足で出て行った。

 根っからの商売人らしい。任せて安心だった。


「セリカ、この金持っていてくれ」

「はい。ケイカさま」

 セリカは大金貨を丁寧に腰の袋に仕舞った。



 リオネルがやって来た。

「ケイカさん。部屋の用意ができました。3階のいつもの部屋です。お連れさんはその隣と、夫婦のかたは2階の小部屋で」

「気が利くな。助かる」

 褒めると、リオネルは恥ずかしそうに笑った。

「マスターに仕込まれたからね。ゆっくり休んでください」

 俺は頷くと、またお茶とケーキを食べた。



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