第72話 人形退治!
王都インダストリアは三重の壁に囲まれた街だった。
その中心に豪華なつくりをした城というより宮殿がある。
俺は迎えの騎士たちに連れられて、王宮内へと案内された。
王宮の2階にある謁見の間。
体育館ほどもある広い部屋。赤い絨毯が敷かれて、奥の一段高くなった場所に玉座があり、初老の男が座っている。
壁際には正装をした騎士が並んで立っていた。
俺は一応ダフネス王国の勇者なので、丁寧に挨拶する。
「初めましてロンヘイム陛下。俺はダフネス王国の勇者です」
「き、き、貴様が勇者……だと?」
――ん?
なんだか国王の様子がおかしかった。
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【ステータス】
名 前:ロンヘイム4世
性 別:男
年 齢:51
種 族:人間
職 業:王
クラス:キングLv51
属 性:【土】
状 態:傀儡操作
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――誰かに操られている。
ロンヘイムは玉座から立ち上がると、プルプルと震える指で俺を示した。
「こ、こやつは、偽者じゃ! ダフネス王国のスパイじゃ! ひっとらえよ!」
「俺はスパイではないし、本物の勇者ですよ」
一応、反論しておく。
壁に並んでいた騎士たちが、ガチャガチャと鎧を鳴らして剣を抜いた。
「観念しろ!」「覚悟っ!」
次々と切りかかってくる騎士の剣をひらひら避ける。
すれ違いざまに、手首を握って別の騎士へぶつける。
儀式用の重い鎧を着た騎士の動きはとてものろい。
子供をあしらうより簡単だった。
すると謁見の間の大きな扉が開いて、偉そうな男が兵士を連れて入ってきた。
こちらは軽装。槍を持っている。
偉そうな男が命令する。
「偽勇者がロンヘイム陛下を殺そうとしてるぞ! 殺せ! 陛下を守れ!」
わぁぁ! と槍を並べて突撃してくる。
こっちの方がよっぽど厄介。
念のために《真理眼》を発動させて、兵士のステータスを見る。
強い奴から倒せば、相手はしり込みするから。
ん? 変な奴がいる……というか魔導人形だ。これは。
俺は太刀を抜き、呟く。
「――《風刃付与》」
緑に光る太刀で槍の穂先を切り落としていく。
さーて、どうするか。
洗脳や誘惑ではなく、外部から命令をして操っていると思われる。
だったら。
余裕で戦いながら、呪文を唱える。
「そよ風よ あらゆる波を断ち切る幕となれ――《八遮結界》」
正方形を二つ重ね合わせた八角形が国王の足元に描かれた。
眩しい光が王を包む。
兵士たちが騒ぐ。
「こ、国王!」「陛下!」「貴様、何をした!」
「何って、正気に戻させただけだ」
「なに!?」
床に尻餅をついて頭を振る国王。灰色の髪を手で掴むように撫でた。
顔を険しくしかめながら、声を出す。
「皆のもの、静まれ! 剣を下げよ!」
低いながらもよく通る声は、重ねた年月の威厳を感じさせた。
息を飲まれた騎士や兵士が、その場に立ちすくむ。
俺は太刀を持ったまま話しかける。
「王様、どうですか」
「うむ。霧が晴れたようによい気分じゃ。勇者であったか。よくぞおかしな状態を治してくれた」
「まだ終わってませんよ。結界から出ないでください。操る魔法は続いているので」
「操る、じゃと!」
俺は扉のほうへと体を向けた。
「ですよね、そこに立ってるちょび髭のおっさん。お前が操っていたんだな」
兵士たちを連れてきた偉そうな人。たぶん大臣。
これが魔導人形だった。
おっさん大臣は怒鳴った。
「国王暗殺に失敗したら次は愚弄か! 証拠はあるのか、この偽勇者め!」
「証拠? そう言うお前は誰だ?」
「私は国防大臣のガトロだ! 早く、その偽勇者を殺せ!」
「ふぅん」
俺は赤い絨毯を駆け抜けた。風のように。
立ちすくんでいた兵士たちはすぐには反応できない。
彼らの間を走り抜けて、ガトロの後ろへ。
「これが――証拠だ!」
ザンッ!
頭から足元へと一気に太刀を振り下ろした。
大臣の体は両側に別れて倒れていく。
バネや部品をばら撒きながら。
床に倒れてもしばらくは手足をバタバタさせていた。
当然ながら血は出ていなかった。
ざわっと室内の空気が揺れる。
「え、嘘だろ……」「魔物!?」「大臣が?」「い、いつの間に」
俺は国王へと歩み寄る。
「これでおわかりいただけたでしょうか」
「う、うむ……まさかガトロが魔物になっておったとは……礼を言うぞ、勇者よ」
「国防大臣の立場を利用して戦争を仕掛けようとしていたみたいですね。俺をスパイとして処刑してダフネス王国を攻撃する大義名分を手に入れようとした」
「確かに。危ないところであった」
「あと原価割れの発注を大量におこなったため、職人たちが悲鳴を上げておりました。救済するべきかと」
「むむ、そうだったか。確か許可したような記憶も……すぐになんとかしよう」
「ありがとうございます。これで職人たちの不満も消えるでしょう」
「我がファブリカ王国は職人たちの力で守られているのだ。それを大切にしなければ国が滅ぶ――勇者よ、名前はなんと申す」
「勇者ケイカです」
「ケイカよ、そなたに剣を向けたこと心から謝ろう――皆のもの! これこそが真の勇者である! その力、真実を見抜く誠実さ、とくと心に焼きつけよ」
「「「はは~!」」」「勇者ケイカさま、ばんざい!」「ありがとう、勇者ケイカさま!」
その場にいた全員から、頭を下げられた。そして褒め称えられた。
あとは王様に魔法反射の結界を描いた布を渡した。
「これを肌身離さず持っていてください。また操られるかもしれませんので。怪我の治療の時は外せばよいですから」
「なるほど。わが国を救ってくれた上に、このような配慮まで。急なことでこれぐらいしかできぬが――侍従長」
国王は年配の男に命じて個袋を持ってこさせた。
中には聖金貨2枚(1000万円)が入っていた。
俺は頭を下げて受け取る。
「ありがとうございます、ロンヘイム陛下」
「いや、これではとてもではないが足りぬ……何か他にしてほしいことはないか?」
「そうですね……魔物が関わっているので勇者として調べたいです。ガトロの家の捜索に加わらせてください」
「なんと欲のない望みじゃ! ……確かに兵士たちだけでは危険であるな。よかろう、ケイカ殿。こちらからも頼む」
「お任せください」
俺は頭を下げて国王の前から下がると、騎士に連れられて王宮を後にした。
◇ ◇ ◇
王宮の回りに貴族や高官の住む屋敷があった。
ガトロの家に到着する。すでに兵士が取り囲んでいる。
金髪が流れるように近付いてきた。その後ろには袋を背負ったネコ耳の少女。
「ケイカさま、ご無事で」
「ケイカお兄ちゃん。よかった」
「ああ、セリカたち。よく来たな」
セリカとミーニャとラピシアを呼んでおいた。勇者パーティーとして登録されているので王宮のある街壁も通れたのだった。
リリールとエルフ親子は宿屋で留守番。
隊長が近付いて来る。
「ケイカさま、どうしましょう。我々が先に突撃しますか?」
俺は千里眼と真理眼を駆使して、屋敷をざっと眺めた。
「そうだな。兵士たちは1階と2階の制圧、続いて俺たちが地下を探ろう」
「わかりました――全員、配置に付け! 突撃!」
号令とともに兵士たちが屋敷に押し入った。
俺たちも後に続く。
急いで地下へ。
薄暗い階段を下りると、道具や機械が転がる作業場があった。教室を2つ繋げたぐらいの広さ。
人形の手足や歯車が壁際に積み重ねてある。
だが真理眼で見たときには目ぼしいものはなかった。あるのは奥。
「セリカ、ミーニャ、部屋の隅に魔導人形がいる。倒せ!」
「はい!」「わかった」
赤いスカートを翻してセリカが向かった。
その後ろを巫女服をはためかせてミーニャが続く。黒い尻尾がぴんっと伸びている。
2体の魔導人形が動き出す。まだ髪がなく顔が書き込まれていない。
「はぁっ!」
裂帛の気合とともにセリカが細身の剣を突き出した。
人形の二の腕を切りつけ、すぐに氷が広がる。フローズンレイピアの効果で、動きが止まった。
その隙に横を駆け抜けたミーニャが両手に持った包丁を振った。
首と胴が切断されて床に散らばった。
「油断するな。動き続けるからもっとバラバラに」
「わかった」
ミーニャが追撃。
セリカはもう1体へと向かった。
――余裕だな。
俺は安心してこの部屋を任せた。
奥の部屋は8畳ほどの小さな部屋。
部屋の隅に大きな鳥かごが設置されていた。俺の腰ぐらいまである高さ。
ただ中には鳥ではなく、30センチメートルほどの人形がいた。
赤いとんがり帽子を被った、4頭身ぐらいの可愛らしい人形。
真理眼ではステータスがこう見えた。
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【ステータス】
名 前:ハーヤ
性 別:?
種 族:小妖精
職 業:奴隷
クラス:魔道具技師Lv99 妖精魔法Lv33
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魔道具技師とは魔法の効果がある道具を作れる職人のこと。
妖精とは因縁があるし、聖剣作りに関しても大きな力になってくれるだろうと考えた。
ハーヤはつまらなそうにブランコを漕いでいる。錆びているのかキィキィと鳴った。
俺が近付くとつぶらな瞳で見上げてきた。
「人間さんですか?」
「安心しろ、俺は勇者だ」
「出してくれるのです?」
「助けるから力になってくれ」
「――王女さまの力を感じます。なんでも手伝います」
妖精の加護があるからすぐに信じてくれた。
小さな瞳をうるうるさせて、笑顔になる。
檻を壊して出してやった。
すると胸に飛び込んでしがみついてきた。
「ありがとです~」
けっこう可愛い。
「奴隷紋はどこだ?」
「ここです~」
上着をぺろっとめくって、ぽっこり膨らんだお腹を見せた。
丸い魔法陣が焼印のように描かれている。
「ん~。家から逃げても激痛が走るようだな」
「ひぃ」
ぶるぶると震えだすハーヤ。とんがり帽子が揺れる。
「消すのは後だ。解除だけしておこう」
指先で何箇所かつついて、奴隷紋を無効にした。
「体が軽くなりました」
「よし。いいみたいだな」
――あとはリリールに頼もう。
俺はハーヤを抱えて部屋を出た。
作業場での戦いは終わっていた。
「ミーニャ、鞄にこいつを入れて隠してくれ」
「わかった」
ネコ耳をぴこぴこと動かして、背負い袋を下ろした。
ハーヤすぐに理解したのか、ぴょんと跳んで作業台に乗った。
「ボクの道具を持っていきます~」
「そうか。早くするんだ」
「はーい」
ミニチュアのような金づちやペンチをささっと袋にまとめ始めた。
やはりここで働かされていたらしい。魔導人形はハーヤが作ったと思われた。
命令に逆らえないとはいえ、罪に問われる可能性がある。
兵士たちに見つかったら取り上げられるかもしれなかったので先回りしたのだった。
ハーヤはサンタのように袋を背負うと、ミーニャの持つ袋に飛び込んだ。
顔をちょこんと出して言う。
「なんだか獣の臭いがします」
「素材入れてたからな。我慢しろ」
「はーい」
ミーニャは黙々と袋を背負った。
「よし、行こう。次は2階だ」
俺は天井を見上げて言った。
2階では兵士たちが魔導人形と戦っていたが、苦戦していた。
うーん、中途半端になってしまいました。
明日の昼に更新したいと思います。




