第68話 ラピシアの想い(第三章エピローグ1)
バリアムークを倒した後、リリールやエルフたちと手分けをして切り株に済む魔物の残党を倒した。
数時間で終わる。
――が、たまごは見つからなかった。
俺とリリールが《真理眼》でくまなく探しても見つからなかったから、バリアムークは持っていないと考えて良さそうだった。
夕方。
切り株の根っこの間でテーブルが置かれ、ささやかな宴会がおこなわれた。
根っこといっても10メートルの壁ほどもある。
避難していたエルフの女子供たちも参加して500人ぐらいの立食パーティーとなった。
ご飯を食べる俺のところへエルフたちは代わる代わるやってきた。
心からの笑顔で、俺を祝福する。
「すごかったです」「兄の敵を討ってくれてありがとう」「さすが勇者さまです。憧れます」「これで念願の子供が望めます、ありがとうございました」
俺に感謝の言葉を述べるとき、みんな笑顔のまま涙を流した。
エルフはこの世界でも長寿だが、その分一人一人が長い時間苦しんだことがうかがえた。
もちろん倒せたのは俺だけの力ではなかった。リリールやラピシアがいなければ不可能だった。
しかし直接倒した瞬間を見たエルフたちからは絶大な信頼を受けた。
話もとんとん拍子で進んで、俺の等身大の木像が彫られて、崇めてもらえる算段となった。
――そして種族特性なのか、光属性処女が多かった。10人はいる。
自然と唇の端が緩んだ。
族長のヤークトと話す。渋い笑みが美しい中年男性。
「勇者さま、この度はありがとうございました。どれだけ感謝してもし尽くせません」
「いや、当然のことをしたまでだ。それに俺だけの力じゃない」
「さすが勇者さま。わきまえてらっしゃる。それで、フィオリアから詳細を聞きました。勇武神になりたいという勇者さまの願い、全力で力添えしたいと考えます」
「そうか。助かる。銅像でも建ててくれるのか?」
「いえ、鉄よりも硬い世界樹の枯れ枝に、お姿を彫らせていただきます。バリアムークを倒した話とともに、末長く伝えていくことになるでしょう」
「恩に着る」
「いえいえ、金銭を要求しない勇者さまなんて久しぶりでございます。その心意気に惚れました」
――そういや、裏金渡して勇者になるような奴も多いだろうしな。
「金は別に困ってないからな」
ヤークトは言いにくそうに口ごもった。
「それから、助けていただいた上にお願いするのは心苦しいのですが……」
「なんだ?」
「世界樹さまは大変弱られております。勇者さまから祝福をいただけるとありがたいのです」
「なるほど。わかった。宴のあとで聖女と向かおう」
「ありがとうございます」
深々と頭を上げられた。
そして宴は夜遅くまで続いた。
◇ ◇ ◇
深夜。
月明かりの砂漠。
俺とリリールとラピシアで世界樹の外周を歩いていた。
目的地は切り株から生えた芽。
壁のようにそそり立つ根を迂回するので、なかなか大変だった。
リリールはたまごを背負い、ラピシアは両手で抱えていた。
一時間ほど歩いて到着する。
切り株の端から若い双葉が出ていた。
「これか」
「そのようですね」
リリールが答える。
双葉は芽が出たばかりというのに、人間の腕よりも太かった。
「リリールが水の力を与えるから、俺は風でいいな?」
「はい、それでお願いします」
「あとラピシアは土の力を。手を伸ばして魔力を与えるんだ。近すぎると暴走するから少し離してな」
「わかった!」
たまごを片手で抱えつつ、若い葉に右手を向ける。
俺とリリールも手を向けた。
緑や青、ラピシアは黄色に光らせて、双葉を暖かく包んだ。
そして光は吸い込まれるように消える。
俺はラピシアの頭を撫でながら言った。
「まあ、こんなもんだろ。あんまり違う力を与えすぎても毒だしな」
「ええ、充分です。ありがとうございます、ケイカさん」
「これぐらいなんでもない。ラピシアも魔力調節、頑張ったな」
「きゅあ! 1回ぶんっ」
ツインテールを揺らして喜ぶラピシア。少し眠そうに目をこすっている。
リリールが言った。
「さて、ケイカさん。いろいろお話したいことがあります」
「俺もある。ただ、夜も遅い。ラピシアが眠そうだから先に寝かしつけていいか?」
「そうですね。では、先にラピシアに話をします」
「はぁぅ? なあに? おばちゃん」
急に話しかけられたので、あくびを噛み殺して返事した。
リリールは背中のたまごを下ろしながら言う。
「ラピシア、よくたまごの本質に気がついて、災厄を止めましたね。とてもえらいですわ」
「さいやく?」
「たまごの本質とは、なんだ? 魔族が育てると凶悪な魔物が生まれるそうだが」
リリールは降ろしたたまごを撫でながら言う。
「実はこのたまご、入っているのは生物だけではありません」
「え?」
「『飢餓』『混沌』『戦渦』『恐慌』など概念的な災害も入っています」
「それは世界が乱れるな」
「はい。だからこうして白く戻す必要があるのです」
「なるほど。だからラピシアは黒いままドラゴンに返したくなかったのか」
「ラピシア えらい!」
ラピシアはたまごを抱えたまま、背筋を反らした。
するとリリールは、たまごをラピシアに差し出した。
「ですからラピシア。たまごを交換しましょう。こちらは浄化を終えましたので」
「いや! ラピシアが育てたの! これからも、育てるの!」
ラピシアは大切そうにたまごを抱えて守った。
「情が移ったのですね……でも、生まれても育てられませんよ」
「そ、育てる! ラピシアが お母さんになる!」
リリールの手を払ってたまごを渡そうとしない。
――なるほど。大地母神として世界を守るためにたまごを温めた。
でも母親と離れた寂しさから、いつしか情が移り、自分が母親になることで寂しさを埋めようとした。
「う~ん、これは俺も悪いな。でも、どうすれば正解だったかわからん。すまない」
「それはこの世界の法則を知らなかったから、仕方がなかったでしょう……さあ、ラピシア。同じたまごです。ラピシアでは仕上げの浄化ができませんから、これで我慢しなさい」
ラピシアはたまごを抱えて泣き出す。
「この子は違うの! 同じじゃない! ラピシアとずっといてくれたの! だからラピシアが育てるの!」
「育てるってどういうことかわかってるのか?」
「知ってる! なでて 温めて やさしくして!」
リリールはたまごを砂の上に置くと、そっとラピシアを抱き寄せた。
ラピシアは腕の中で暴れたが、それでもリリールは強く優しく抱き締める。
しだいにラピシアの動きが弱くなる。
「ラピシア。あなたにお母さんがいるように、この子たちにもお母さんがいるのよ」
「う……でも」
「ラピシアはお母さんに会いたい?」
「あいたい!」
「じゃあ、この子たちは?」
リリールの問いかけにラピシアは幼い顔をくしゃくしゃにした。
「うぅ……ううう!! うわぁぁん! ――会いたい、きっとお母さんに会いたい! うわぁぁん!」
「じゃあ、どうればいい?」
「この子たちを お母さんに返す! うわぁぁん!」
リリールは号泣するラピシアの頭を優しく撫でる。
「そう。よくできました。別れも一つの『育てる』なのよ」
「お母さぁん! うわぁぁん!」
ラピシアはリリールに抱きついた。
その瞬間、――カッ! と眩く光った。
勇者の証が明滅する。
『メンバー(ラピシア)がレベルアップしました』
『新しいスキルを修得しました』
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【ステータス】
名 前:ラピシア
性 別:女
年 齢:257
種 族:半神人
職 業:大地母神Lv4(空を知る)
クラス:治癒師 神術師
属 性:【豊穣】【輝土】【聖地】
所 属:勇者ケイカパーティー
【パラメーター】
筋 力: 9万(2万)(+0) 最大成長値∞
敏 捷: 5万(1万)(+0) 最大成長値∞
魔 力:16万(2万)(+0) 最大成長値∞
知 識: 7万(1万)(+0) 最大成長値∞
幸 運:999(0) (+0) 最大成長値∞
信者数: 0
生命力: 70万
精神力:115万
攻撃力: 9万
防御力:10万
魔攻力:16万
魔防力: 7万
【装 備】
武 器:なし
防 具:白銀のワンピース 母の愛が込められた服 防×2倍【全状態異常無効】【時間比例回復】
装身具:指輪
【地母神スキル】
地精結集:大地の力を自分か他の神に集める。攻撃力×Lv値。
地殻反転:地殻を引っくり返して地表を刷新する。
地質変更:土・砂・岩・鉱物などの大地自然物を別の理解している大地自然物に作りかえる。
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――そうか。育てた子供はいつか巣立つ。必ず別れが訪れる。
優しくしたり、しつけたりするだけじゃだめだったんだな。
子供を育てたことがなかったからわからなかった。
泣いているラピシアをリリールは優しく抱いている。
俺は近寄ってラピシアの頭を撫でた。少し泣き声が収まる。
「すまないな、リリール。俺じゃ無理だった」
「ケイカさんはずっと独身?」
「そうだが」
「あなたも神として成長が必要みたいですね。これからも頑張ってくださいね」
「う……頑張るよ」
俺は渋い顔になったのが自分でわかった。
リリールはふふっと楽しそうに笑う。白いベールが軽やかに揺れた。
「それから、この子。地質変更を覚えましたね」
「そうだな。大地の物質限定でいろいろ作りかえれるみたいだが。これもまた大規模なんだろうな――この砂漠を変えるか? 昔は森だったんだろ?」
「それは良さそうですね。……ラピシアが納得するかどうかですが」
ラピシアが鼻をすすり上げながら顔を上げた。
「ぐすっ、なぁに? ……ぐすっ」
「砂漠を肥沃な土に変えてみてはどうかなと思ってな」
うー、とラピシアは辺りを見ながら言った。
「いや、かなぁ? ……いい、かなぁ?」
鼻をすすり上げながら首を捻る。
悩んでる様子。
「どうした? 難しいか?」
「う~……育ってる」
そう言って、砂漠の向こうを指差した。野性のサンドリザードや、大きなカナブンみたいなサンドビートル、砂を養分とする砂硬草が見えた。
遠景では砂イルカがジャンプした。弧を描く砂が月光に照らされる。
「ああ、なるほど。新しい生態系が生まれてるから、緑化すると今度は砂に生きるものたちが死に絶えるのか」
「うん 土も 砂も どっちも大地」
ラピシアが頷くと、涙が零れて砂を濡らした。
「偉いぞ、ラピシア。ちゃんと大地の神として考えてるんだな――というか、なんで砂漠になったんだ? 世界樹が折れたからか?」
リリールが首を振る。
「違います。緑が生い茂る肥沃な土地に生えていたのですが、折られた後、魔族に対抗して芽を出し続けるために土地の養分と水分を吸い続けたのです」
「なるほど……難しいな。魔族が原因であるが、神である世界樹の意志でもあるのか。まあ力与えたからこのままでも問題ないだろうし」
「そうですね。それに砂漠化はこれ以上進行しないと思います」
「でも……う~」
真剣に悩むラピシア。
これがただ砂漠になっただけだったら、絶対に悩まず、土にしなかっただろう。
魔王が関係してるからややこしい。
「だったら世界樹の下と周りだけ土にしたらどうだ? どこまで砂漠を残すかは世界樹に任せて」
「それいい! ケイカ、やる!」
たまごを置いて涙をぬぐうと、両手をぺたんと地面につけた。
ううう~、と唸ると手が黄色く光った。
それにつれてゴゴゴッと地震の予兆のように地面が揺れる。
「お、おい。間違えて地殻引っくり返すなよ!」
「わかった――えぇーい!」
ズズズッと地すべりのような振動が起きて、辺りの砂が光った。
光は周囲の砂の上へ波のように広がり、そしてしっかりとした地面に変わった。
しゃがんでいたラピシアは潰れるように倒れこむ。青いツインテールが地面に広がる。
「おっと。大丈夫か?」
抱え起こすと、スヤスヤ寝ていた。睫毛が長い。
横からリリールが寝顔を覗き込む。
「精神力を使い切りましたね。神術の使い方をもっと練習しないといけませんね」
「練習か……。そう言えば神術師というのも、まるっきり教えてないな」
「なぜです?」
「俺は神法師だから。こっちの神の魔法はわからん。似てるとは思うが、土の魔法はあまり知らないしな」
「そうだったのですか」
「リリール、基礎だけでもいいから教えてやってもらえないか?」
「……可愛い姪っ子のために頑張るしかないですね。私も土は苦手ですけど」
「助かるよ」
そして俺はラピシアを抱えて世界樹に上がり、切り株の端に座って砂漠と夜空を眺めた。
リリールもたまごと荷物を持ってきて隣に座る。
二人だけで話すために。
エピローグ2はできれば夜更新です。間に合わなければ明日。




