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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第三章 勇者冒険編・山

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第62話 ドラゴンとの対話は肉体言語!

 グリーン山の頂上にあるドラゴンの住む洞窟に入った。

 中は蒸し暑くて汗が吹き出た。

 洞窟内に、なんらかの熱源があるらしい。



 奥へ進むほどに天井は高く、道幅は広くなっていった。

 そしてサッカー場ぐらいある、大きく広い場所に出た。


 太陽が差し込んできている。

 俺たちから見て奥の壁に、外に繋がる大きな穴が開いていた。青空が見える。



 その手前に、羽根を折り畳んでうずくまる巨体。胴体だけで普通の家ほどもある。

 エメラルドのような美しい鱗を持つドラゴン。

 熱気はドラゴンから出ていた。怒りのオーラが熱を持っているようで、緑の巨体が陽炎のように揺れていた。


 思わず、溜息が漏れた。

「ほほう、素晴らしく美しいな。全身が宝石みたいだ」

「はい。素晴らしいですわ」

 セリカもまた、感心する声で答えた。



 しかしドラゴンは、長い首をもたげるとガァッと牙を剥いた。

「何しに来た、愚かなる人間どもよ!」


 レオが青髪を揺らして前に出る。

「お待ちください、ドラゴンさま! お話をお聞きください! 私はその昔お世話になったレオです!」

「くだらん! 人間どもよ! 死んで我にわびるがよい!」


 ドラゴンは有無を言わさず、地響きを立てて迫ってきた。

--------------------

【ステータス】

名 前:アウロラ

種 族:【神格種】神域竜ファブラドラゴン

職 業:ダンジョンマスター

属 性:【豪光】【風雅】


 攻撃力:2万1000

 防御力:1万6000

 生命力:6万5000

 精神力:4万3000


【スキル】

   牙:敵一列に攻撃。

   爪:敵一列に攻撃。

  尻尾:敵全体に攻撃。

 神炎息ゴッドブレイズ:敵全体に劫火の炎を浴びせる。

惑星破壊ブラネットブラスター:大陸を消し飛ばすほどの高熱極光攻撃。


【データ】

スキル以外に、各種魔法を唱える。

3回連続攻撃。

--------------------

 ふぅん。さすがに神格持ちだけあって、強いな。ダンジョンマスターってなんだ? あのゲームでよくある、あれか?

 とりあえず、人間なら一撃で消し飛びそうな強さだ。

 ――まあ、俺の敵じゃないが。


 俺はすたすたと無造作に前へ出ながら叫ぶ。

「お前たち、前に出るなよ! ――ラピシア、頭上に注意しろ!」

「わかった!」



「おのれぇぇ! 神竜の力の前に、絶望するがよいわっ!」

 勢いを増して突進してくるドラゴン。


「――《水刃付与》」

 俺は、太刀を振ると、峰で顎を叩いた。

 

 ゴッと鈍い音とともに、ドラゴンは仰け反るように倒れた。


 ドォォン……ッ!


 腹を見せて地面に叩きつけられるドラゴン。

 山が揺れた。


 ドラゴンは目を丸く見開く。

「な、なんだと! 我を突き飛ばしただと!」

「そうだ。少しは格の違いを理解したか?」

「くぅ……。我が人間如きにっ! ――なっ!」

 突然ドラゴンの目が固まった。



 視線の先にはラピシアがいた。

 数刻、固まった後、ドラゴンは素早く起き上がると翼をバサァッと広げてラピシア目掛けて突進した!

「返せぇぇぇ!!」


 しかし、ドラゴンはラピシアにまで到達できなかった。

「何している? お前の相手は俺だ」

「な、なんだとっ!」

 太い腹の下に太刀を入れて峰で掬い上げた。


 ズ、ズゥゥ……ンッ!


 先程よりも強く地面にたたきつけられたドラゴン。

 山が揺れ、洞窟の天井が何箇所か崩れた。

 落ちてきた岩がドラゴンの巨体に当たって砕ける。



 レオたちは唖然として目を見開いていた。

「いったい……どういうことなのです?」

「魔法は使っているが……ありえない! 計算上ではそこまでの力は出ないはず!」

「もう、驚くのにも疲れちまったよ……」


 セリカが胸に手を当てて少女のように呟く。

「さすがですわ……ケイカさま」

 ミーニャは無表情に、でも耳は喜びでピコピコと動き。

 ラピシアは落ちてくる岩をジャンピングパンチで砕きながら、キャッキャと楽しんでいた。

 ……予想通りハンマー使わなかったな。



 ドラゴンもまた、目を見開いたまま呆然としていた。


 俺は腰に手を当てつつ、横たわるドラゴンに近付いた。

「これでわかったか? お前では勝てない、と。それから、余計なことは喋るなよ?」

 釘を刺すと、ドラゴンは心話を飛ばしてきた。

 神への心話は神か自分の巫女しかできないはずだが、さすが神話から生きる神格持ちといったところか。

 雑音が多いが。


『ザザッ……ひょっとして……ザザザ、そなたは神か? ザッ――あの娘も』

 ――ああ、ようやく気付いたか。そうだ。俺は異界の神だが、あいつはラピシア。ルペルシアの娘だ。

『なんと! ザザ……申し訳ない。つい怒りに目が、ザッ……曇ってしまっていた』

 ――気にするな。間違いは誰にでもあることだ。



 ここからは声を出して言った。みなにも聞かせる必要があった。

「で、どうして目の色変えてラピシアを襲ったんだ?」

「……我の温めていた、たまごが盗まれたのだ」

「ほう? それがあのたまごか。進化のたまご、らしいな」


 ドラゴンは首をうなだれた。

「そうだ。人間に奪われた。だから探し回っていたのだ」

「それは違うぞ。あのたまごは魔王四天王の一人、エビルスクイッドが持っていた。だから盗んだのは人間じゃなく、魔王だ」

「な、なんだと――ッ! 話がちがう……。いや、その可能性も考えるべきであったな……」

 しゅんと長い首を曲げて縮こまるドラゴン。

 なんだか、可哀想になってきた。



「つまり、たまごを奪われたから、周辺の村や町を襲っていたのか。1つだけなのか?」

「6個だ。あのたまごは温めていた者の属性で何が出てくるか決まる……四天王ほどの魔物が温めていたのなら、きっと凶悪な魔獣が生まれるであろう……世界の終わりだ」

「そうとも限らないぞ? ――ラピシア、ちょっときてくれ」


 とことこと、たまごを抱えてラピシアが傍へ来る。

「よく見てみろ。真っ黒だったたまごに白い線が入ってる。ラピシアの属性に影響されてるんだよ」


 ドラゴンは目を見開いてたまごを見た。

「おお……! なんたることだ! 本来10年はかかるというのに――ありがとう、導いてくれて本当にありがとう!」

「でもあと5個あるんだよな」

「うむ……たまごが孵る前になんとかして探し出さねば」

「すぐ孵るのか?」

「あと3年は大丈夫。しかし温め直して白色殻の竜種に変える時間まではないが。ただ、一つでも帰ってきたのは嬉しいぞ……」



 そう言ってドラゴンは鋭い爪の光る前足を伸ばしたが、ラピシアは後ろに飛び跳ねて下がった。

「や!」

「こら、ラピシア。そのたまごは、ドラゴンのものなんだぞ?」

「それでも、いや!」

 ラピシアは、たまごを抱えて逃げた。

「おい、こら!」


 けれどもドラゴンは深く頷いた。

「その子の行く末は、そなたに任せよう……」

「いいのか?」


 俺が尋ねると、ドラゴンは心話で言った。

『大地母神が浄化して、ズザッ……くれるのだ。ザザザ……あの子にとってもよい将来と、なるだろう』

「そうか……母親が言うのならわかった。俺も注意して見守るようにしよう」

「ありがたい」

 ドラゴンは深く頭を下げた。

 ――まあ、ラピシアは世界のためになることを本能的に選択している節があるから、きっとなにかあるのだろう。



「さて、と」

「ぬ?」

「ここまで来たのはお前に協力して欲しくて来たんだが」

「なんだ? 我はたまご探しをするから忙しいのだが……」

「わかってる、交換条件といこう。たまごは俺たちがすべて取り返してやる。そのかわり、レオを助けてやってくれ」

「ほう……レオか。懐かしいな」


 レオが近寄ってきて頭を下げた。

「お久しぶりです、ドラゴンさま。疫病が流行ったその節は、どうもありがとうございました」

「いや、いや。薬草のありかを教えるぐらい、どうということでもない」


「ありがとうございます、ドラゴンさま……それで、ケイカさんに尋ねたいことが」

「ん? なんだ?」

「……いえ、やっぱりなんでもないです」

 レオは顔を伏せた。

 ――さすがにばれたか?

 ドラゴンを軽くあしらったのは不味かったか。

 まあ、べらべら喋ったりするような奴らじゃないことは確かだ。

 他人に言っても信じられないだろうしな。



「しかし、ケイカよ。――レオを助けるとはどういうことだ?」

「なぁに、簡単なことだ。これから俺とレオを乗せて王都まで行き『レオを奪ったのは、我の大切な物を盗んだからだ。こやつの処分は我がする』と言ってくれたらいい」

「……よくわからんが、その程度なら協力しよう――そうすれば他のたまごも探してくれるのだな?」


「もちろん。俺と――そして、レオパーティーがな」

「え!?」

 レオが驚いて俺を見た。

「このダンジョンでとても稼いだし、いい武器も手に入ったよな? 嫌とはいえないはずだ」

 俺は、にやりと笑って言った。


 すぐに気が付いたらしく、レオは白い歯を見せて苦笑した。

「かないませんね、ケイカさんには……」

「ふふん、当然だ――じゃあ、ドラゴン、行ってくれ」

「任せるのだ――いや、稼いだ!? ちょっと待て!?」

「どうした?」



 突然、ドラゴンは「管理魔法――《階層表示》」と叫んで、何もない空中を眺め始めた。

「ま、まさか! 最高難易度のダンジョンを突破しただと!」


「ああ、やっぱりベリーハードだったのか。アイテム貰ったぞ。返す気はない。だいたい勇者は必要物資の現地調達許可が認められてるからな。落し物は国に届けて半年待たなくてもすべて勇者のものにできる」

 ――すべては勇者が迅速に魔王を倒すための優遇制度。



「うわぁぁぁ……なんて奴らだ! 手塩にかけて育てたお気に入りのダンジョンがぁぁぁ!」

「また一から育てる楽しみができてよかったな」

「うう……ひどい。クリスタルボアに流砂クジラ、マジックゴーレム。用意するの死ぬほど大変だったんだぞっ!」

 ドラゴンの大きな緑の瞳に涙が浮かぶ。


「おいしかったぞ? それより早く王都へ行ってくれ。嫌だというなら、また用意した端から倒してやってもいいんだぞ?」

「くぅ……っ! 鬼だなお前! ――仕方あるまい、乗れ」


 ドラゴンは背中を屈めて、乗りやすいようにした。

 俺とレオがその背に乗る。



 そこからセリカを振り返って言った。

「セリカ! ここで待っていてくれ! すぐ戻る」

「お気をつけて、ケイカさま!」

 セリカの心から案じる声とともに、ドラゴンは翼を広げて羽ばたいた。


 ぶわっと巨体が浮かび上がる。

 ドラゴンは首を曲げて俺たちを見た。

「しっかり掴まっておけ! ――行くぞ!」



 ドラゴンは飛んだ。

 洞窟を飛び出し、青空へ舞い上がる。

 そして東にある王都へと一直線に向かった。


 風がびゅうびゅうと顔に当たる。

 でもそれが心地よい。

「遅いな、もっと飛ばせ!」

「言ってくれる! では全力をお見せしよう!」

 ズバッと空気を切り裂いて、ドラゴンは加速した。


 キィィン――ッ!


 と耳をつんざく飛行音。

 翼の端から白い飛行機雲が生まれ、ドラゴンは東へと飛んでいった。

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GAノベルより1月15日に3巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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