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第60話 ミーニャの究極クッキング!(ダンジョン8~10層目)

本日二回目。

 8層目は宝箱の多いダンジョンだった。

 普通の通路にすらゴロゴロ落ちていた。

 しかし大半が魔物の入った宝箱。

 まあ真理眼で見れば一発で分かる。


 水のダンジョンで懲りたのか、ティルトは宝箱に近付かなかった。

 そのことでダークにからかわれていた。

「おや、ティルト。開けに行かないのですか? 目の色変えて」

「うっせ!」


 ちなみに入っていたのは店で売ってそうな剣や盾、鎧など。 

 小金貨数枚で買えそうなガラクタばかりだった。

 薬以外は箱に戻した。



 9層目は砂漠だった。

 階段の部屋を出た先は、一面の砂漠。1キロメートル四方の巨大さ。

 サソリやトカゲ、それに30メートルはある流砂クジラがいた。


 いくらでかくても俺たちに勝てるはずがなく。

 ラピシアが怪力でクジラを砂から引きずり出して、セリカがフリーズさせ、全員でめったうち。

 ミーニャの願いで、俺とラピシアで頭と尻尾を持って体を折り曲げるように血抜き。

 そして解体。クジラの髭や、肉、皮、骨など、素材をゲット。


 その後、昼ごはん。

 血抜きしたおかげで臭みのないクジラ肉、大変おいしゅうございました。


       ◇  ◇  ◇


 10層目は台所だった。

 階段の部屋を出た先は、広々とした清潔なキッチン。かまどやコンロ、まな板に調理器具。すべて揃っている。ケーキ用の型まであった。


 同じようなキッチンがもう一つあり、そこにはシェフ帽を被ったウサ耳の女がいた。

--------------------

【ステータス】

名 前:ジェラート

性 別:女

種 族:兎人族

職 業:料理研究家

クラス:料理士Lv68

--------------------

 68……。

 ミーニャの料理士スキルの4倍以上、宮廷料理長クラリッサの1.5倍。

 これはすごいな。



 奥にはテーブル席があり、腹の出た男が座っていた。

 俺たちが入るなり、太った男が叫ぶ。

「ゴールデン、シェェェフ!」

 しーんと静まり返る室内。



 おほん、と太った男が咳払いをした。

「ここに人が訪れるのは何十年ぶりかな? 見てのとおり、ここは厨房だ。料理を作って、専属料理人の料理よりも私を喜ばせることができたら、次の階層へ行く扉を開こう。よろしいか?」


 ――面倒だな。戦いじゃないのか。

 男を脅して次の階層へ行く、という方法もあるが……。


 横を見ると、ミーニャはキッチンを穴が開くほど見つめていた。

 尻尾がピーンと立ち、そわそわしている。

 名匠の手によって作られた数々の調理器具。光り輝いている。

 包丁1本だけでも家が建つほどの高級品。そんな一品がずらりと並ぶ厨房は王様ですら揃えられない。

 こんなキッチンは料理人の夢であり、憧れだろう。

 ――いい経験になるか。



「まあ、引き受けるしかないだろうな……ミーニャ、いけるか?」

「がんばる」

 耳とをピコッと跳ねさせて気合を入れた。


 太った男は部屋の奥を指差した。

「食材はここにあ~る! 好きなだけ使うが良い!」

 ゴゴゴ……と扉が自然と開いていき、白い冷気が流れ出す。


 

 兎の獣人ジェラートがぴょんぴょんと飛び跳ねて入っていった。

 俺たちも中へ入る。

 中は倉庫のように広い、魔法の冷蔵保管庫だった。

 肉、魚、野菜、果物。ありとあらゆる食材があった。


 ジェラートはひょいひょいと、慣れた手つきで選んでいく。



 ミーニャは珍しく眉間に可愛いしわを寄せて選んでいた。

「ごちそうが、いっぱい……目移りする」

 肉を手にとっては棚に戻し、干した貝柱を取っては首をかしげる。


 そんなミーニャのネコ耳へ顔を寄せて、ささやいた。

「ミーニャ、相手の技術は凄い。まともにやったら勝てない。ここにない食材で作ることは可能か?」

「ここにない……? あ、蛇肉がない。骨を取り除いて潰して塊にすれば……?」

「それにかけるソースは俺が作ろう……デミグラスソースだ。おそらく淡白な蛇肉に一番合うはずだ。味見はしてくれ」

「でみぐら……? わかった、ケイカお兄ちゃんに任せる」

「よしっ、作るぞ」



 《真理眼》で上質な肉と野菜、牛骨と酒、それに小麦粉とバターを選び、キッチンへ引き返す。


 コンロに火をつけ、鍋に肉と野菜と牛骨をいれ、さらには流砂クジラの骨も入れる。

 水を入れてコトコト煮込む。

「――《風圧縮》」

 鍋に圧力をかけてさらに煮込む。

 本来なら数日掛かる煮込みが、数分で終わる。


 蓋を開けると、ふわぁんと良い香りが広がる。

 肉と野菜はどろどろに溶けていた。

 部屋の向こうで、太った男が「おお!?」と驚きの声を上げた。



 ミーニャが傍へ来る。

「いい匂い。初めて」

「味はどうだか」

 俺は酒と塩と砂糖を加えて、味を調えたスープをミーニャに一口飲ませる。


 猫舌だったのか、ぴくっと全身の毛を逆立てた。

「熱い……でも、おいしい」

「それならよかった」


 俺は別の鍋でバターと小麦粉を炒めて焦がし、そこへどろどろのスープを荒い目で漉しながらうつした。骨や鱗を取り除く。

 そしてまた火にかけて、魔法で圧縮して煮詰める。



 その間にミーニャの包丁が軽快に動いた。

 小骨を丹念に取り除いた蛇肉を、二刀流でトントントントンと刻んでいく。


 ミーニャの手さばきを見ていたジェラートが、ほうっと感心した声を出す。

「ただの冒険者とは違うようですね。基礎をしっかり学んでいるのがうかがえます。修練を重ねた無駄のない動きです」



「私だって、店の手伝いしてきた。――負けない」

 王都で13年頑張った宿屋の娘の意地。


 蛇肉に牛脂と他の肉、それに少しのパン粉を加えてさらに刻む。

 細切れになった肉に香辛料をふり掛け、手でこねて丸い形にする。

 しっかりと真ん中はへこませていた。


 それからコンロは使わず、炭火を用意して遠火でじっくりと焼き始める。

 ハンバーグからぽたりぽたりと脂が流れて炭に落ち、香ばしい煙を昇らせた。


「うう……ん」

 太った男が身をよじらせた。



 一方、兎獣人はめまぐるしくキッチンを駆け回っていた。

 獣肉のパイや、魚介のスープ。分厚いステーキを焼いていた。

 それに色とりどりのサラダが付け合せになる。


 ミーニャが不安そうに、尖った耳をピピッと動かした。

「……もっと、作る?」

「いや、いい。品数を多くしたって、満足させられなかったら意味がない。今はこの一品に集中するんだ」

「わかった……信じる」

 ミーニャはハンバーグの焼き加減を工夫することに戻った。


 俺のソースも煮詰まってきた。

「そろそろか?」

「焼きあがった」

 皿に盛られるハンバーグ。

 そこへデミグラスソースをふんだんにかけた。

 肉とソースの交じり合った豊かな香りが漂う。


 ティルトのお腹がぐぅぅっと鳴った。

「や、オレじゃねーって!」

「見苦しいですよ、ティルト」

「うっせ!」

 ティルトは顔を真っ赤にして言い返した。



 そして、互いの料理が出来上がった。

 太った男のテーブルに並べられる料理。

 男は目を輝かせて眺めていた。


 それから太っているとは思えないほどの機敏な動きでエプロンをかけると、フォークとナイフを手に取り食べ始めた。


「まずはうちの料理人から」

 スープを飲み、切った肉を口へ運ぶ。

「うう~ん、いつもどおりの絶妙な味わい。さすがですな」

「恐縮です」

 ジェラートはペコリとお辞儀をした。ウサ耳が垂れる。



 続いて俺らの作ったハンバーグ。

 太った男は、まじまじと眺める。

「ふむ。肉を団子状にこねたのは分かりますが、この複雑な香りのするソースはいったい……?」

 ナイフでハンバーグを切り、ソースをからめてから口へ運ぶ。


 そのとたん、男の目が見開かれた。

「んん――! なんたるふくよかな味わい! 若く引き締まった肉が舌の上でほどけ、濃厚なソースがキラ星を添える! まるで激しい初恋! 若さゆえの燃え上がる熱情! おお――、口から胃まで、いや全身が舌になったかのような、甘美を感じるぞぉぉぉ!」

 男は髪の毛を逆立てて叫んだ。


 もう例えが意味不明すぎる。

 とにかく感動していることだけは伝わってきた。


 男はハンバーグに、はふはふと喰らい付く。

 あっという間に食べ終わった。



 エプロンの端で、丁寧に口元拭うと、男は笑顔を向けた。

「合格です。すばらしい――これほど満足したのは、うちの料理人が作る料理を初めて食べたとき以来だ」


 ジェラートがひょこひょことテーブルまで来る。

 残ったソースを指先ですくう。

「ちょいと失礼します。――ん! こ、これは素晴らしい味……肉だけじゃなく色んな料理に合いそうですね……私の完敗です」

 負けた割には料理の可能性を見出したせいか、丸い目をキラキラと輝かせていた。


「それでは、次の階層へ行くがいい」

 男が横の壁を指差した。

 すると壁が開いて階段が現れた。



 ――と。

 ミーニャが包丁を持ってやってきた。

「これ、欲しい……だめ?」


 《真理眼》で見る。

【天下の包丁】美しい刃紋を持つ、魔法銀で作られた包丁。あらゆる食材を滅菌消毒しながら切る。攻+120 【解毒】【腐敗防止】の効果。



 太った男は腕組みをして考える。

「うう~ん、それは大切なもので……」

「金なら幾らでも払う。ミーニャに売ってもらえないだろうか?」

 ――ミーニャが欲しがるなんて相当だ。どうしても欲しいのだろうと思った。


「うう~ん。それを作った匠はもう亡くなっていてな……そうだな、ソースのレシピと、使った素材を置いていくなら、どうだ?」

「オッケー! それで取引成立だ!」


 俺は蛇肉とクジラ骨を持ってきてテーブルに並べた。

「ほほう、これが食材か」

「クリスタルボアの肉と、流砂クジラの骨。あとは保管庫の食材で補える……レシピはこれだ」

「なんと!? クリスタルボアだと! あれを倒すとはすさまじいな」

 感心して頷く男に、レシピを教えた。小麦粉や圧力を使わないなら一日以上煮込む必要があると伝える。



「ふむ。さすがここまで来ることだけあるな。さあ、行くが良い」

「取引、ありがとうな」 

「なに、また新しい調理法を知ったならいつでも来てくれ」

「こんなところに早々これるか!」

「ははは、そうだな」

 男は太った腹を揺らして笑った。



 そして俺たちは階段を登る。

 途中、ミーニャが耳をピコピコと揺らして傍へ来た。

 鞘に収められた天下の包丁を両手で胸に抱えている。大切な宝物のように。


「ケイカお兄ちゃん、ありがとう」

「いつも世話になってるからな。これぐらいなんでもない」

 俺が頭を撫でると、ミーニャは目を細めて「うんっ」と頷いた。


 そしてミーニャの料理士スキルが一気に20まで上がった。

 最高の食材と最高の道具で料理しただけじゃなく、ジェラートの手元や動きから調理法を見て盗んだのが大きい。

 こっちは一品しか作らなかったのでその余裕があった。


 この世界、どの職もLv20の腕前で一人前と認められるので、ミーニャは店と同じものが作れるようになったはず。

 今まで以上に毎日美味しい料理が食べられるので、料理対決してよかったと思った。



やはり終わらなかった。あと1回更新の予定です。

あと56話のクリスタルボアのHPを増やして、効果に【ダメージ反射】を追加。

即死させたのでケイカはノーダメとしました。話に変更はないです。

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