第57話 ダンジョンの一夜
ダンジョン2層目で夕食を終えた頃。
宝箱の中身が出された。
金貨と、細身の剣。
レオは言う。
「これらが宝箱に入っていました。どうされますか?」
「んー。金貨は二等分にするか? ――いや」
俺は《真理眼》で剣を見た。
【フローズンレイピア】氷の魔力を封じられた聖銀の剣。攻撃時、追加氷ダメージ+数秒フリーズ。道具として使えば吹雪を呼ぶ。攻+230
「ふぅん。この剣は【フローズンレイピア】と言うらしい。強そうだ」
「フローズンレイピア!? エルフの名匠ディードリアが打った傑作のはずですわ……失われて久しいとも聞きます」
セリカが驚きで目を丸くしていた。
「高価そうだから、パーティーごとに金貨を取るか、剣を取るかにしたらどうだ?」
「そうですね。その方が良さそうです。――ダーク、どうする?」
「私に訊かれましてもね……。剣を使うレオが欲しいかどうか決めてくれて結構ですよ」
「オレも別にいらねーや」
ダークがティルトを見ながら、眼鏡を押し上げて光らせる。
「そんなこと言われなくても分かってますよ」
「うっせ! 意見ぐらい言ってもいいだろ!」
ティルトとダークの言い争いが始まる。
レオは苦笑しながら剣を手にとって眺めていた。
しかし首を振ると、セリカの前に置いた。
「私が扱うには少しリーチが短いですね。それに軽すぎる」
もちろん攻撃力自体は最高クラスに匹敵する強さなのでレオが装備しても意味がある。
しかし使い慣れない武器では、スキルの発動に失敗する可能性が高くなる。
幾ら攻撃力が高くても、戦闘時のスキル失敗は致命的な結果を生む。
さすがレオ。欲に目がくらまない、賢明な判断だった。
「そうか。ならセリカがもらうか?」
セリカは手にとって眺めた。美しい刀身に青い瞳が映りこむ。
「……素晴らしい剣ですわ。わたくしの理想。重さもちょうど良いです」
「決まりだな。うちのセリカがもらうから、そっちは金貨で我慢してくれ。次にいいアイテムが出たらそちらが優先権を持つということで」
「何を言うんですか。付いてきてるだけなんですから充分です。ありがとうございます」
レオが誠実な返事をしつつ、頭を下げた。青い髪がさらりと流れる。
俺は思わず微笑んでしまう。
――本当に気持ちのいい奴だな。良い勇者になれただろうに。
この世界がハードモードだったのが悔やまれるところだ。
ダークが苦笑しながら言った。
「まあ、これほどの一品はそうそうないと思いますがね。確率で言えば1%以下でしょう」
「そうとも限らないぞ?」
「なぜそう言えるのです?」
「このダンジョンは、人がドラゴンに会って話すためのものだろ? ところが今ドラゴンはご機嫌斜めで誰にも会いたくない。だから設定難易度が跳ね上がっている」
「そうですね? ――あ」
「そう。普段イージーモードのダンジョンが設定さているのでそちらは冒険者などに荒され済み。ところが難易度ベーリーハードは使用回数自体が稀なので宝箱も手付かず。ってわけだ」
「……なるほど。そこまで気が回らず……さすがレオを差し置いて勇者になるだけありますね。他にも良いものが得られる確率は――40%ぐらいでしょうか」
「楽しみになってきたぜっ! オレも皮バンドや指貫手袋じゃなくて、なんかこう、ドカーンて感じの武器が欲しいぜ!」
ティルトが拳を突き出した。革のバンドを巻いて保護してあるだけだった。
「呆れますね。話し聞いてましたか? 難易度も跳ね上がってるのですよ」
「おうよ! 余計楽しみだぜ!」
「せいぜい、罠に掛からないよう気をつけてください」
ダークが肩をすくめて言った。
セリカは金髪を揺らして全員にお礼を言った。
「みなさん、譲ってくださって、ありがとうとざいます。もっとケイカさまの役に立って、いつか必ず魔王を倒します」
「頑張って」「頼もしいですね」「ひゅーひゅー。頑張れ、でかパイ姉ちゃん」
「な、ななっ。で、でかぱい!?」
セリカが顔を真っ赤にして胸を腕で隠す。
するとレオが、ティルトの頭をパシッとはたいた。
「いってぇ! なにすんだよ、レオ!」
「人の容姿をあげつらうのはダメだよ、ティルト。君だって長い耳を話題にされたら嬉しくなかったはずだよ?」
「あ……そうか…………姉ちゃん、ごめん」
ティルトは正直に頭を下げた。
セリカは胸をまだ隠しつつも微笑む。
「いえ、いいんです。これぐらいよくあることですから」
「まあ、セリカの胸は俺のものだから、ティルトにはやらないからな」
俺が言うと、セリカは顔を真っ赤にした。
「け、ケイカさま、そんなこと言わないでくださいっ」
「ずるいぞ、兄ちゃん!」
「でかぱい!」
突然、ラピシアが叫んだ。
ワンピースの中に足を入れて膝小僧を胸のように見せ付けた。
今度はダークの拳がティルトの頭に落ちる。
「ほら、ティルトが余計なこと言うから、幼い子供に悪影響が出てしまったではないですか」
「ちぇ! 全部オレのせいかよっ!」
「でかぱい!」
ぎゃーぎゃーと騒がしくなる部屋。
俺は言った。
「ええい、ダンジョンの中だぞ、静かにしろ! 騒ぐんだったら、そろそろ休め。念のため、見張りの順番を決めて交代で寝るぞ」
「「「はいっ」」」
順番を決めて、俺たちは横になった。
◇ ◇ ◇
深夜頃。
遠くの方でネズミの騒ぐ音がして、俺は目を覚ました。
取り切れなかった蛇の肉を漁っているのだろうと考えた。
結界を張ったので、部屋の中に魔物は入ってこれない。
今の見張りはダークがしているようで、宝箱の火に向かって座り、本を読んでいる。
小声で話しかける。
「なあ、ダーク。ちょっと失礼な言い方だが、それだけ強くてなぜレオの仲間になったんだ? 自分の魔術研究を一番に考えてそうなんだが」
ダークは苦笑しながら本から顔を上げた。
「本当に失礼ですね。しいて言うなら、レオの存在が魔術並みに面白いから、ですかね。……一度、レオに命を救われたんですよ」
「ほう」
「昔疫病が流行った時に、私も死に掛けたのですが、レオは命懸けで私やみんなを救ったんです。他人のためにここまでできるものなのかと、興味がわきましてね。その偽善的な態度、どこでボロを出すか見届けてやろうと思いまして」
「そしたら結局レオのために国を襲ってこんな洞窟にまで逃げ込むはめになったのか。まあ、レオだしな。あいつは本気で人のために生きようとしてる」
「困ったものです。偽善をあざ笑ってやることができなくなりました」
呆れた声で言うダークだったが、実際は心底楽しそうだった。
思わず苦笑してしまう。
「そのひねくれたところ、お前らしいな――ちなみに上級職には自分でなったのか?」
「ええ、そうですよ。常識に縛られるのは嫌いなのでね。……ティルトは違いますが」
すると、宝箱に背を向けて寝ていたティルトが言った。
「オレは最近、聖女に転職させてもらったんだぜ」
「起きてたのか」
「エルフは耳がいいんでね、っと」
ごろん、とこちらに向き直るティルト。緑の髪が顔にかかった。
「聖女はどんなやつだ?」
「すげーきれいな姉ちゃんだったぜ」
「魔王を倒す志のある者を上級職に転職させまくってるみたいだが」
「たぶんウーモ神殿の神官の生き残りなんじゃねぇかな?」
ウーモ神殿。
転職を司っていた神殿で、今は魔王に滅ぼされたはずだった。
「なるほどな。……でもティルトはそこまでして、どうして魔王を倒そうと思ってるんだ?」
はふぅ、とティルトは吐息を漏らした。
「魔王に奪われた世界樹を取り返すために、オレたちエルフは必死なんだよ」
「奪われた?」
「占領した魔王軍が世界樹を折ったんだ。切り株からの新芽は摘まれまくってる。枯れてしまう前に取り戻したい。つーか、オレたちは世界樹の眷属だから、世界樹が消えたらオレたちエルフもゆっくり死に絶えちまうしな」
「ということは、エルフたちは今、ばらばらに行動してるのか」
「……きっと、みんな元気してるだろうから心配してねーな」
「いろいろ大変だな。いつかそこへ行くことがあるだろうから、その時は俺が取り戻してやる」
「へっ、期待しないぜ。オレがこの手で取り戻してやらぁ」
そううそぶくと、ティルトは背中を向けた。華奢な背中が悲しげだった。
ダークが一つ咳払いをして言った。
「一つ尋ねても?」
「ああ、いいぞ。応えられることならな」
「あの魔方陣を切った魔法についてですが……」
「切ったというより、違う存在に変換したって方が正しいな」
「ほう。どのような術式で?」
「それはだな……」
俺は神とばれないようにしつつ、ダークに方法を話した。
ダークは真剣に聞き、また質問した。さすが異界魔術まで修めているだけあって的確だった。
こうして夜は更けていった。
攻略が進まなかったので夜にも更新したいですが、無理かもしれません。できても0時超えるかも。頑張ります。




