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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第三章 勇者冒険編・山

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第56話 蛇とネズミと(ダンジョン2層目)

 2階に上がると、そこは教室ぐらいの広さがある部屋だった。

 通路を仕切る扉はなかった。

 1階とは違い、ひびのない石材で作られたダンジョン。


 俺はあちこちを見た。

「おー、部屋と通路の間にさっそく罠があるな。眠りガスか。……ミーニャ、解除できるか?」

「やってみる」

 黒い袴を揺らして前に出る。

 罠手前の床にしゃがみこんで道具を取り出し、解除を始めた。



 その間に俺は《千里眼》で通路を見ていった。幅は3メートルほどの広さ。

 この階層は迷路のようになっていた。部屋数も多い。

 通路自体に罠はなく、どれも部屋の入口と通路を繋ぐ間に設置されている。

 部屋の中に目ぼしいものはなかった。扉もない。


 なぜかと思ったらすぐにわかった。

 この通路を移動する巨大な蛇を見つけたらからだった。

--------------------

【ステータス】

名 前:クリスタルボア

属 性:【水】


 攻撃力: 800

 防御力:9999

 生命力:3600

 精神力: 100


【スキル】

 飲み込み:敵一体を丸呑みする。

 巻きつき:敵一体を締め上げて気絶させる。

圧し掛かり:体で押しつぶす。範囲攻撃。


【パッシブスキル】

  魔法反射:魔法を反射して任意の相手に返す。

ダメージ反射:受けたダメージの3倍を相手に返す。

--------------------


「この通路をでかい蛇が這い回ってる。クリスタルボアというらしい」

 レオが驚きの声を上げる。

「そんな危険な魔物が……どうしてわかったのですか?」

「勘だ。それより強いのか?」

「ええ、水晶の鱗に覆われた蛇でして、魔法が効かない上に硬いですから」

 確かに。

 攻撃が通じるのは俺とラピシアぐらいか。

 普通なら倒せない。


 部屋が多いのはそこに退避して蛇をやりすごすためだろう。

 部屋の入口は人一人通れるほどの幅しかなかったから。蛇は入ってこれない。



「まともに攻略したら時間がかかりそうだが……逆に蛇は通路の幅の半分ぐらいの太さがあるから、後ろから襲ったら、すぐに倒せるだろう」

「さすがケイカさんですね……」

 驚きと呆れの混じった声でレオは言った。



 この階層には、あと2種類の敵がいた。

 ウォーラットという巨大ネズミと、ファンガスプラントという根っこで歩き回る植物。幹からキノコを生やしている。

 蛇やネズミのフンで植物が増えて、増えた植物をネズミが食べて、蛇がネズミを食べる。そんなサイクルがあるようだった。


 今もクリスタルボアが通路をかなりの速度で駆け抜けてネズミの1匹に噛み付いた。

「キュキィィィィ!!」

 ネズミの断末魔が通路に不気味に響いてくる。



 セリカが青い顔で尋ねてくる。

「い、今の音はなんでしょう……?」

「おそらく、クリスタルボアがウォーラットを食べたところだ。あとファンガスプラントという植物の魔物がいるから注意な」


 ダークが眼鏡を押し上げて言う。

「ファンガスプラント……攻撃すると胞子を撒き散らします。80%の確率で。――すべて私が焼きましょう」

「そうしてくれ、頼む」



 ミーニャが立ち上がる。

「解除、終わった」

「初めてなのに成功か。さすが親父の娘だな」

「ん……」

 黒髪を撫でてやると気持ち良さそうに尻尾をゆらゆら揺らした。


「それじゃ、行くぞ」

 俺とミーニャが先頭に立って歩き出した。

 全員が後に続く。


 通路幅は3メートルほど。

 カラカラと下駄の音が響く。



 何度か通路を曲がる。

 真理眼で見えているので、迷わず一直線に向かっていった。


 途中、T字路の突き当りを右に進んだところで俺は言った。

「ん、正面からネズミがくるぞ」

「……倒す」

 前から3匹のネズミが走ってくる。ネズミといっても1メートルはある、巨大な体躯。速度もあるので、灰色の岩が突進してくるように見える。

 俺とミーニャは武器を構えた。



 すると最後尾からティルトの声がした。

「オレが! オレがやるよ! さっき全然戦えなかったからな!」

「いや、俺たちの後ろ、T字路の左からも2匹来てる。そっちを相手してくれ」

「まじかよ! ……って、本当だ、足音が聞こえるっ! よくわかったな、すげえ!」

「まあ、ただの勘だ」

「へっ、そうかい。んじゃ、いっちょやってやるぜ! ――ダークは手を出すなよ!」

 ティルトはT字路まで戻ると、拳とつま先に炎を生み出して少林寺に似た構えを取った。


 ダークは肩をすくめる。

「はいはい。休ませていただきますよ」

 セリカが言った。

「みなさん、ウォーラットは毒を持ってます。牙と爪に気をつけてください」

「任せとけ! オレにも、誰にも触れさせねぇ!」

 ティルトは顔だけ振り返って、ニヤッと白い歯を光らせた。


 俺たちの前にネズミが迫る。

「――《水刃付与》」

 太刀と包丁が青く光る。


 俺は上段から振り下ろす。

 ザッ! と胴体を切り込んだ。頭から真っ二つに裂ける。

「キィィ!」

 ネズミの耳に響く断末魔。

 さらに刀を返して下段から切り上げるように、もう1匹を切った。手加減を誤り上半身が吹き飛んだ。


 横ではネズミが地を蹴って飛び掛っていた。

 ミーニャは恐れず突進した。半身になって避けながら、大きく開いた口へ包丁を突っ込み、もう片方で首の下側を切る。


 血が床に飛び散るが、すでにミーニャは身を翻していた。

 ネズミの横に回って、すれ違いながら脚を切り落とす。

「キッ、キィィ……ゴポゴポ」

 床にドサッと落ちたネズミは喉から空気交じりの血の泡を出しつつ、しばらく痙攣したあと動かなくなった。



 俺は太刀を振って鞘に収めると後ろを振り返った。

 ちょうどティルトが2匹に向かって駆け出すところだった。

「ハァッ!」

 気合とともに足蹴りを繰り出す。

 ネズミの下あごを叩いて天井まで飛ばした。火達磨になって暴れるネズミ。


 さらに足が舞うように動く。

 足の軌跡に沿って、赤い炎が弧を描く。

炎舞脚バーストダンス】の連続攻撃。


 もう1匹の横腹をドゴッと蹴り上げた。

 頭の上ぐらいまで舞い上がるネズミの巨体。毛皮が燃える。

「ハァァ!」

 ティルトは気合とともに、燃え盛る拳を突き出した。


 ズドンッと大砲のような音を響かせてネズミは真横に吹き飛んだ。

「キィィィ!」

 と悲鳴を上げて通路の奥へと飛んでいく。最後は壁に当たってぐしゃっと潰れた。



「ラスト!」

 天井に当たって落ちてくる残りのネズミ。宙で足をもがいている。

 その落下地点にあわせて、ティルトは燃える拳を繰り出した。

「ハァッ!」


 ズゥンッ!

 これまた轟音を響かせて、ネズミは肉塊になりながら飛んでいった。

 壁に激突して動かなくなる。潰れた死体から煙が上がった。


 ティルトは、ふぅ~と深く息を吐いた。

 足や拳の炎が消える。

 緑の髪を跳ねて顔を上げた。

「ざっと、こんなもんよ。本気出したオレって強えだろ?」  



 ミーニャが自分で倒したネズミを解体しながら、ボソッと言う。

「その技、毛皮がだめになる。お金にならない」 

「うっ……、うっせ! 倒せればいいんだよ!」 


 ダークはやれやれと溜息を吐く。

「もっと言ってあげてください。どれだけ無駄にしてきたか」

「まあまあ、ダーク。いいんじゃないかな。ティルトには助けられてるんだから」

 レオは微笑みつつ、二人の仲を取り持っていた。



 俺はミーニャに尋ねる。

「ネズミも解体するのか?」

「毛皮はよく洗って日に干せば売れる。肉は売れない。でも内臓にある毒袋が高額」

 はいだ毛皮を専用の袋に、毒袋とやらは瓶に詰めていた。


「そうか。それが終わったら、急ごう。声に気付いた蛇がこっちに来てる」

「わかった」

 ミーニャの捌く手が早まる。4~5本に見える。


 数分で毛皮2枚と毒袋4つを回収して、先へ進んだ。



 通路を幾つか曲がって進む。

 千里眼で見れば、もうすぐ終着点だった。


 最後の十字路を右へ行けば階段のある部屋だった。

 しかし、蛇が来た。


「左から蛇が来てる。階段のある道に入ったら、追いつかれそうだ」

「どこかの部屋に入ってやりすごしますか?」

 セリカの問いかけに首を捻る。

「蛇は温度を感知して獲物を追うからな……いや、いけるか」

「どうされるのです?」

「ミーニャ。ひょっとしてクリスタルボアも捌くのか?」


 こくっと頷く。

「どんな蛇でも首を切り落として皮をはぐ。肉は鳥のようで美味しい」

「へえ。じゃあ、みんなは右の通路へ走ってくれ。急いで!」

「はいっ」「わかりました」


 みんなは十字路へ向かって駆け出した。

 俺はゆっくり歩きながら、ひょうたんの水を撒く。

「――水よ広がり、俺を覆え」

 俺の指示通りに水が布のように広がって俺を覆った。

 これで体温を隠す。


 みんなが右の通路に入ると、蛇の動きが早くなる。

 体をうねらせて追いかける。ゴゴゴッと音が鳴り、ダンジョンが揺れた。


 俺は太刀を上段に構える。

「――《風刃付与》」


 目の前の十字路を蛇が通過する。

「ふんっ!」

 一息に振り下ろした。


 ズァアン!


 顔だけで1メートルはある蛇の頭を切り飛ばした。

 蛇は勢い余ってズズズ――ッと数メートル前進してから止まった。

「しゃあああ……」

 血の流れる音と断末魔が交じり合う音が響いた。

 即死させたのでダメージ反射の効果はこなかった。



「おーい、倒したしたぞ。もう大丈夫だ」

 ぞろぞろと戻ってくる一行。

 たたたっと巫女服をなびかせてミーニャが一番に戻ってきた。


「解体するのか……さすがに時間かかりそうだな」

「そろそろ夜。休む?」

 無表情に、首だけ傾げて尋ねてきた。黒髪が揺れる。


「そうだな。――この十字路の奥が部屋になってる。宝箱があるが」

「罠は?」

「入口のところに槍の出る罠、宝箱には鍵だけだ」

「わかった。解除してくる」

 腰の袋から解除道具を出しつつ走っていった。



 俺はセリカとレオに話しかける。

「というわけだ。今日はここまでにして休もうか」

「はい、分かりましたケイカさま」

「そうですね、休んだほうがいいでしょう。それにしても……」

「ん? なんだ?」


 レオは蛇を見下ろしながら呆れた声で言う。

「さすがですね、ケイカさん。まさかクリスタルボアを倒せる人がいるとは思いませんでしたよ」

「まあ、勇者になるなら、これぐらいはな」

 俺は誤魔化して笑った。



 それから連れ添って奥の部屋へ向かった。

 中は教室ぐらいの広さ。

 中央に宝箱がある。

 ミーニャが黒い袴から白い太ももをみせつつしゃがんでいた。


「ん。解除終わり」

 腰の袋に道具を仕舞いつつ立ち上がった。

「助かる、ミーニャ、偉いぞ」

「うん」

 頭をこちらに向けてきたので、わしゃわしゃと撫でた。耳がピピッと動いて、ごろごろと喉が鳴った。



 ところが。

 撫でているといきなり巫女服を脱ぎ始めた。

 晒される白い肌、黒い下着に包まれた膨らみかけの胸。


 俺は慌てて抱き締めて隠す。

「うわ! なにしてる、ミーニャ!」

「ん、大物を解体してくるから」

「え? なぜ脱ぐ必要が……?」

「前、大きな獲物を解体したとき。全身血まみれになった。だから、血を浴びてもいい格好にする」


「だからって下着姿になる必要は――」

「これ、水着。だから、ケイカお兄ちゃん以外に見られても……大丈夫。それとも、イヤ?」

「う……この手触り……確かに水着だ。それなら、いいか」


 ミーニャは俺の腕の中からするりと抜け出した。

 部屋の隅で巫女服を脱いで包丁を両手に持つ。華奢な少女に黒ビキニ。尖ったネコミミにしなやかな尻尾。妙な雰囲気を漂わせていた。


「じゃあ、行ってくる」

「待て待て。血の匂いで魔物が寄ってくる。俺も行く」

「わかった」

「レオ、宝箱開けておいてくれ。セリカは野営の用意で」

「はい」「わかりました」



 二人で蛇まで戻ると、ミーニャが包丁を俺へと突き出した。

「ふよ、ふよ。……別々でお願い」

「ああ、わかった――《水刃付与》――《風刃付与》」

 包丁が青と緑に光る。ミーニャはさっそく蛇を解体し始めた。皮をはいで肉を切り分ける。


 10メートルはある蛇をどんどん解体していく。

 途中、何匹かネズミがやってきたが、俺が撃退した。



 こうして蛇は晩御飯となったのだった。


 部屋の中にあった空の宝箱を、かまど代わりにして肉を焼いた。香ばしい匂いが漂った。


 蛇肉の食感は鳥肉に似ていたが、味は鴨肉のように濃厚だった。

 おそるおそる口に運んだセリカも、青い瞳を見開いて驚いていた。

 というか魔力や生命力が漲ってくる。ポーション的な能力もあったらしい。


 余った蛇肉は保存食にした。

 ちなみに魔法を反射する皮は騎士の鎧の材料として高額らしい。本来は脱皮した抜け殻を使うそうだ。


後日:クリスタルボアの能力変更。HPを増やして【ダメージ反射】を追加しました。

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