第55話 ドラゴンダンジョン(1層目)
俺たちは町を出てレオを向かいに行き、山の中腹にあるダンジョンの入口へとやってきた。
目の前には洞窟ではない、真四角の入口が開いている。床や壁は石のブロックを敷き詰められていた。
「意外と広いな。前列は俺とレオ、後列は適当に。セリカはラピシアが迷子にならないよう、注意してくれ」
「わかりましたわ」
7人でぞろぞろと入っていく。
中の空気はひんやりとしていた。
俺は勇者の証を捻って辺りを照らした。
横にいるレオが目を細める。
「便利ですね。さすが勇者です」
「自分の魔力を減らさないのがいいところだな……途中までの地図を貰ったからしばらくは大丈夫だろう」
「お任せします」
地図を見ながら奥へと進む。もちろん《真理眼》も使って。
石を積み上げて作られたダンジョンだが、年月のためか、ところどころ柱がかけたり、崩れたりしていた。
罠はないか、すでに発動して壊れている。
レオが言う。
「何か住んでいるようですね」
俺は《千里眼》も発動させた。何度か折れ曲がった通路の先に幾つかのステータスが浮かび上がる。
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【ステータス】
名 前:ケイブゴブリン
属 性:【土】
攻撃力: 220
防御力: 110
生命力: 150
精神力: 20
【スキル】
切り付ける:敵一体に切り攻撃。
叩く:敵一体に叩く攻撃。
矢撃:敵一体に弓矢で攻撃。
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人より一回り小さい。前足が長く、体が歪に曲がっている。肌は緑と茶色が混じった色をしていた。
攻撃値や防御値は装備によって多少変動していたが。
「ああ、この奥にケイブゴブリンてのがいるな」
「……どうしてわかったのですか?」
「勘だ。それより強いのか?」
「強くはないですが、群れるのがやっかいですね」
ケイブゴブリンが会話しているように思えたので、《多聞耳》を発動させる。
「オンナ オンナの匂い」
「柔らかくて うまい」
「男いる」
「男まずい 殺す」
「オンナ 仲間増やす!」
錆びた剣や斧を持つゴブリンたち。
――話し合いの余地はないな。
俺は太刀を抜きつつ言った。
「この通路を二回曲がったところで待ち伏せしてるから気をつけろ。隠し扉の奥にもいる。戦闘が始まったら背後を取る気だ」
「さすがケイカさんですね……」
レオは驚き呆れながらも自分の剣を抜いた。
ミーニャは包丁を持ち、セリカも細身の剣を抜く。
そして角を曲がる。通路には障害物が設置されていた。太い木の柵と大盾。
「キェェ!」
叫び声のような合図が反響して、矢が飛んできた。2本。
俺とレオは駆け出しながら矢を切り捨てる。
柵の隙間からゴブリンが3体、前に出てきた。
「はぁっ!――光烈斬!」
レオが大きく踏み込んで、横薙ぎの一閃。
2体のゴブリンの首が飛ぶ。
俺は上段に構えて振り下ろす。
「――《水月斬》!」
ザンッ!
青い光が空間を切る。
目の前のゴブリンが肩から斜めに真っ二つ。
さらに後ろにあった柵を粉砕――、勢いは止まらず、大盾に隠れた弓を持つゴブリンの一人まで盾ごと切った。
「レオ、残りの弓を――お前たち、背後に気をつけろ」
「はいっ」
レオは俺の言葉の途中ですでに駆け出していた。
俺は振り返る。
ガゴンッと音がして隠し扉が開いたところだった。
中から剣や棍棒を持ったゴブリンたちが出てくる。
長身のダークが背筋を伸ばして本を開いた。
片手で髪を掻き揚げつつ唱える。
「詠唱方陣起動……3・4・11――大火炎球!」
赤と緑と白の魔方陣が前方に展開されて光った。
ドォンッ!
出てきたゴブリンたちの中心に激しい爆発が起こった。
炎が燃え上がり、瞬時に多数を黒焦げにする。
残った3体のゴブリンは、驚いている。
そこへ二つの影が疾走する。
まずは緑髪をなびかせるティルト。
「おらよ、っと!」
ティルトが口の端に笑みを浮かべて殴りかかる。
炎の拳が唸りを上げる。
ズドンッと激しい音がした。
殴られたゴブリンの顔が爆発するように消し飛んだ。
続いてミーニャの包丁が白く輝く。
「グギャ!?」「ギャギャっ」
二刀流によって、2匹のゴブリンの首がスパッと切られた。
白衣を翻して後方へ飛ぶと、切られた首から血しぶきが上がった。
包丁を振って血を払い、鞘に収める。尖った耳がピンッと立つ。
「終わり」
ティルトが不満そうな顔で戻ってくる。
「ちぇっ。一匹しか倒せなかったじゃん。ダーク、もっと残しとけよ」
「はいはい。強くてすいませんね」
俺は目を前に向けた。レオはすでに弓使いを倒して戻ってきていた。
「相手にならなかったな」
レオが呆れながら微笑む。
「柵ごと切ったあなたが、何を言われるのですか。本来なら厄介な挟み撃ちでしたよ。さすがとは思ってましたが、ここまでとはね」
隣に来たセリカが感嘆の声で言う。
「わたくしなんて出番がありませんでしたわ」
「ラピシアを守ってくれてるだけで充分だ」
俺はセリカの頭を撫でた。頬を染めて頷いた。
「これからも頑張ります……」
「怪我はなさそうだな。――行こうか」
「はい」「わかった」「行きましょう」
俺たちは奥へ進んだ。
あのケーブゴブリンたちが他の魔物を駆逐していたらしく、敵とは一度も出会わずに一番奥の階段の間へと来た。
教室ぐらいの広さがある部屋で、真ん中に上へと続く階段があった。
俺は2階を《千里眼》で見る。
「ん? なんだ?」
千里眼で見ようとすると、ころころと映像が変わった。
テレビのチャンネルを変えていくような感じ。
真理眼で確かめる。
【異空階層】作成者の意思を反映して、ランダムでつくりが変わる階層。
「ということは、ここから案内も地図も役に立たないわけか」
「どうされたのです?」
「毎回違うダンジョンになるらしい。おそらくここのマスターであるドラゴンの意思によって」
「え……とても危険では」
レオが真剣な顔で言った。
「ということは、私がたどりつけたのも招かれていたから、と言えますね」
「そうだな。今回は、ちょっとばかり苦労しそうだ」
――うーん、レオたちを連れてきたのは裏目に出たか。
勇者ができる範囲で戦わないといけないものな。
俺は言った。
「まあしかたがない。どうせ上まで上がるしかないんだ。行くぞ」
「「はい」」
みんなの返事を背に、俺は階段を登った。
すると、2階に出たとたん、カチッとかすかな音がして階層が確定した。
短い話になってしまったので夜も更新します。