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第52話 土小人ピックル

 ケルキラの町を出てから、馬で一時間。


 俺はミーニャを前に乗せてブーホースに乗っていた。

 セリカはラピシアを抱えて乗っている。

 俺とセリカは乗馬ができるため。

 ブーホースは匂いに敏感なので、目的地へとまっすぐ走って行った。


 そして頂上が雲の上に霞む槍のように鋭い山、グリーン山がはっきりと見えてきた頃。

 ふもとに広がる林の近くで、狼のような魔物が大勢で、少数の魔物を取り囲んでいた。


 包囲側には狼の獣人というべき背の高い男がいて、指揮を出していた。

「絶対逃がすな! 裏切り者を殺せ!」

 狼そのものの顔で叫ぶ。全身毛で覆われていた。普通の獣人とは違う様子。 


 俺は《真理眼》でそいつを見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:ガウラ

種 族:狼魔族

職 業:魔王軍西方部隊小隊長

属 性:【闇】


 攻撃力:1100

 防御力: 300

 生命力: 600

 精神力: 200

--------------------


 ほう。魔王軍か。

 襲われているほうは、どうだ?

 普通の狼のほかに、小人がいた。


--------------------

【ステータス】

名 前:ゴウ

種 族:魔狼族

職 業:魔王軍逃亡兵

属 性:【闇風】


【ステータス】

名 前:ピックル

種 族:土小人族

職 業:魔王軍逃亡兵

属 性:【土】

-------------------

 

 取り囲んでいる狼も同じ【魔狼族】だった。

 ゴウは傷つき生命力は半分以下。

 ピックルも怪我をしている。


 それにしても逃亡兵とは。

 ――これは、情報を聞き出すチャンスだ。



 ブーホースで駆けながら指示を出す。

「魔法を撃つから巻き込まれるなよ! 囲まれて傷ついてる魔物たちを助けるぞ!」

「はい!」「わかった」


 俺の前に座っていたミーニャが巫女服を翻して飛び降りた。

 包丁を抜くと、俺の横を馬と同じ速度で駆け続ける。



 俺は馬上で太刀を抜くと、ひょうたんの水をかけた。

「うまくいくか……蛍河比古命の名に従う、神代の時より谷間を渡りしそよ風よ、一束に集まり烈風と成せ――《轟破嵐刃斬》!」


 無数の暴風が刃となって、狼の大群に襲い掛かった。

「ギャォ!」「グェァ!」

 風の刃に切り刻まれる狼たち。

 血が煙のように舞い上がり、吹き荒れる風が赤黒く染まる。

 狼たちの叫びが高い青空に反響した。


 力をうまく調整して、逃亡兵のいる中心は無風状態にした。

 そのため、全滅させるには至らなかった。

 残りはまだ数十頭いる。

 


 小隊長の狼男が叫ぶ。

「なんだ! 誰だ、いったい!」

 そこへミーニャが疾風となって襲いかかる。黒い袴がめくれるようになびく。

「それは……ケイカお兄ちゃん」

「――がっ」

 包丁が光の弧を描いて、狼男の首を切り飛ばした。


 馬を下りたセリカが駆ける。

「はっ! てぁっ!」

 細剣がきらめき、金髪が舞う。赤いスカートが花のように開く。 

 そのたびに、狼が討ち取られていった。



 俺は襲い掛かってくる何匹かを切り捨てつつ、戦いの中心へ来た。

 傷ついて身を寄せ合う逃亡兵たち。深手を負っている狼がガルルッと牙を剥いて唸る。

「大丈夫か? ――《快癒》」

 たちまち逃亡兵の傷が治った。驚きで目を丸くして自分の体を見ていた。 


 すると背丈が50センチメートルほどしかない、土小人ピックルが立ち上がった。

「どうして助けたの? 僕らも魔物だよ?」

「魔王軍から逃げたんだろ? だったら敵の敵は味方かもしれん」

「信じていいの?」

 つぶらな瞳が不安そうに揺れている。


 俺は【勇者の証】を懐から取り出して言った。

「俺は勇者だ。無益な殺生はしない……はずだ」

「ゆ、勇者さまっ!? ――ボクは悪い魔物じゃないよ、ほんとだよ!」

 ピックルは胸の前でこぶしを握って訴えた。


 俺は頷く。

「わかった、信じよう――その前に、この戦いを終わらせるぞ。お前たちは自分の身を守ることだけ考えておけ」

 喋りながらも狼を切り捨てていたが、いいかげん面倒だった。

 

 俺はミーニャやセリカとともに、逃げようとしない狼の残りを切り捨てていった。




 戦いは10分もしないうちに終わった。

 ピックルたちを守りながらなので、少し手間取った。


 みんな命に別状はなかった。

 ミーニャはすでに解体作業に移っていた。手早く牙を抜き、毛皮をはいでいく。

 それを逃亡兵の狼が怯えた目で見ていた。

 


 するとセリカが近付いてきた。左手を押さえている。怪我をしたらしい。

「大丈夫か、セリカ?」

「申し訳ありません、ケイカさま。不覚を取ってしまいました」

「これだけの数が相手じゃ、しかたない。狼だけに連携もうまかったしな」

「はい、次からは気をつけます」

「どれ……怪我を見せてみろ」

 彼女のしなやかな手を取る。すべすべした手のひら。

 セリカが頬を赤らめた。


 ところが、治療しようとしたら、ラピシアがやって来た。

「ラピシアが治す!」

「お。回復魔法使えるようになったのか」

「ファルに習った!」

「そうだったな。――うん、試しに治してみてくれ」

「うん わかった!」


 ラピシアはセリカの傷に手を当てた。唱える前から指先から清浄な白光が漏れ始める。

「――回復キュア

 初期魔法とは思えないほどの強烈な輝きが生まれ、そしてセリカの傷が一瞬で治った。


「すごいな、これは」

「この傷が一瞬で……すごいですわ」


 いくらなんでもおかしいと思い、スキルを見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:ラピシア

性 別:女

年 齢:257

種 族:半神人

職 業:大地母神Lv3(育てる)

クラス:治癒師 神術師

属 性:【豊穣】【輝土】【聖地】


【治癒師スキル】

 回復キュア:味方を回復させる。(熟練度:35/100)

 幻惑ブラード:体をぼやけさせて攻撃を当たりにくくする。(熟練度:5/100)

 防御低下デクラーン:相手を柔らかくする。(熟練度:1/100)

 睡眠スリープ:相手を眠らせる。(熟練度:3/100)

--------------------

 熟練度付きかよ!

 熟練度が上がると効果も高くなるらしい。


 なんかラピシアだけ違うゲームをしてないか? さすがは神といったところか。

 治癒師スキルとあるけれど、神術師スキルは別なのか。うーん、この世界の神じゃないから俺とは使ってる魔法体系や術式が違うから教えられないな。

 まあ、別に困ってないからいいか。



 とりあえず頭を撫でておいた。

「偉いぞ、ラピシア」

「えへへ~」

 金色の目を細めて、青いツインテールを震わせて喜んだ。


 ちなみにラピシア自身は積極的には戦っていなかったが、向かってきたのは返り討ちにしていた。

 フルパワーで殴ったり蹴られたりした狼は、千切れ砕けて肉塊になりながら、はるか地の果てまで飛んでいった。

 数十キロメートル先で血肉の雨を降らせたことだろう。

 落下地点に人がいないことを祈るばかり。



「さて、と」

 俺はピックルたちに向き直った。

 ピックルはぺこっとお辞儀をした。

「助けてくれてありがとう、勇者さま」

「いや、いい。それよりも聞かせてくれ。どうして襲われていたかを」

「実はボクら、命令に背いて勝手な行動しちゃったんだ……」


 俺は、やはりなと思いつつ頷いた。

「王都を襲ったのはお前たちだろう?」

「えっ、知ってるの!?」

「レオを助けたかった。違うか?」

「その通りだよ……で、でも! レオは悪くないんだ! ほんとにいい人なんだ!」

 眉を寄せて訴えかけるピックル。



 俺は詐欺師のような笑みを浮かべて言った。

 安心させて、レオのところへ案内させるために。


「ああ、知ってるとも。俺はレオに会って話がしたくて来ただけだ」

「うん、任せて! グリーン山のふもとの洞窟にいるからね! 案内するよ!」

 ピックルはぴょこっと飛び跳ねて、俺の前へ出た。


 ――ちょろい。

 俺は内心でニヤリと笑った。


 しかし狼が彼に寄り添う。何か言ったらしい。

 するとピックルが首をぶんぶんと振って怒った。

「ボクたちを助けてくれたじゃないか! 本物の勇者さまだよ! どうして疑うの!」

 怒られた狼は、しゅんっと尻尾を垂らしてしまう。


 ――狼が正しいんだがな。俺はレオ討伐の任務を受けてるんだから。

 けれどもピックルは完全に信じてくれたようで、俺の前をぴょこぴょこと飛び跳ねるように歩いた。



 俺たちはブーホースに乗り、ついていった。

 ミーニャだけは警戒してか、徒歩でついてきた。

 あの話の間に手に入れた狼の毛皮10枚ほどを背負いながら。

 ――仕事が早い。


 ちなみにミーニャは今の戦闘でレベルが2つ上がって舞闘師17になった。

 盗賊は1つ上がって8。

 覚えたスキルは1つ。

【疾風迅雷】絶対先制攻撃。確率で相手を驚き戸惑わせる。

 俺の加護と本人の属性のためだろうか、風にまつわるスキルが多いように思った。


       ◇  ◇  ◇


 山のふもとの林に入ってからは馬を下りて歩いた。

 枝が頭に当たりそうになるため。


 前を行くピックルに尋ねる。

「それでレオは元気にしているのか?」

「うん……でもちょっと落ち込んでるかな」


「でもどうして助けようと思ったんだ?」

「友達だから……昔、命を助けてもらったんだ。ボクら土小人は鉱石や宝石の収集が仕事なんだけど、人間に見つかって殺されそうになったところをレオに助けてもらって。安全に持ち出せる鉱石の場所も教えてもらったんだ」


「ほう。そうだったのか」

「みんなそうだよ。レオに助けてもらって……。だから今度はボクらがレオを助ける番なんだっ!」


 ――それが間違いだったんだけどな。

 しかし言えなかった。


 咎人として決定されても、俺ならどうとでもできたのに。

 助け出してもいいし、引き取ってもいい。奴隷として売られたら買ってもいい。

 エビルスクイッドのときのように、魔王の手先が現れたところで倒して助け出してもいい。


 魔王の手先に認定されて討伐対象にならなければ。


 

 俺は溜息を吐きつつ尋ねた。

「しかし最近まで魔王軍にいたのなら、魔王の動向を知っていたりしないか? やはり俺を狙いに来るか?」 

「魔王様は、今それどころじゃないと思うよ」

「どういうことだ?」

「聖女を捕えるのに必死なんだ。ボクらにも命令がきたけど居場所が分からずじまい」

「聖女?」


「魔王様を一番困らせてる人なんだって。でも捕まえられなくて。みんな聖女探しを第一に動いてるよ」

「よくわからないが、四天王を倒した俺よりも聖女の方が重要なのか?」

「えっ! 四天王様を!? ……どうなんだろう、くらすあっぷ? の方が危険じゃないのかな?」


「くらすあっぷ……転職させられるのか、その聖女は!」

「あー、それかも。魔王様を倒そうと考える人たちをより強い聖騎士とか大魔導師にしてるみたい。もう何十人も、転職したんだって」

「上級職を大量生産しまくってるのか……そりゃ、強い勇者が生まれたらしいという不確定情報よりも、そっちの方を優先してしまうだろうな」

 そのおかげで、勇者になれて、四天王も倒せたんだな。



 もう一つ気になっていたことを尋ねた。

「そういやドラゴンはどうして暴れてるんだ? 何か知っているか?」

「ドラゴンさまのことはよくわからない。でも何かを探してるみたいだよ」

「そうか」

 これはドラゴンに直接聞くしかないだろうな。



 そんなことを話しながら林の奥深くへと向かった。


 そして夕暮れになる頃。

 上り坂の先にある山肌に、洞窟の口が開いていた。


ミーニャの現在のステータス

--------------------

【ステータス】

名 前:ミーニャ

性 別:女

年 齢:13

種 族:猫人族

職 業:神楽剣舞巫女(上級)

クラス:舞闘師Lv17 盗賊Lv8 料理士Lv14

属 性:【静嵐】

所 属:勇者ケイカパーティー


【パラメーター】×4(HP・MPは除外)

筋 力:288(4) 最大成長値553

敏 捷:360(5) 最大成長値707

魔 力:144(2) 最大成長値145

知 識: 76(1) 最大成長値089

幸 運:212(3) 最大成長値172


生命力:810

精神力:275


攻撃力:1073({936+40}×1.1)

防御力:1093(1008+85)

魔攻力:364

魔防力:416(296+120)


【スキル】

 二刀流:武器を両手に持って、変幻自在に攻撃する。複数回攻撃。

 瞬脚力:瞬間的に脚力を上昇させ、速度と跳躍力を上げる。複数回攻撃。

疾風迅雷:絶対先制攻撃。相手に確率で驚き戸惑わせる。


【パッシブスキル】

肉体強化ハイパワー:能力を上昇。

野性解放ワイルドリリース:体の能力を限界を超えて引き出す。能力を上昇。

主人寵愛マスターフェーバー:主の愛を感じる時、能力を上昇。

一途奉公エターナルハート:主の役に立ちたい一心で能力を上昇。取得経験値2倍。


 罠探知:罠に気付く。

隠扉探知:隠し扉を見つける。


【舞闘スキル】

  舞い:優雅な動きで舞って踊る。

魅惑剣舞:相手を魅了しながら攻撃する。敵回避率激減。

不思議舞:幻惑ブラード効果と精神力吸収。


【盗賊スキル】

 罠解除:罠を解除する。


【装 備】

武 器:肉切り包丁 攻+17

    解体包丁 攻+23

防 具:黒のビキニ 防+5

    剣舞巫女服 攻+10% 防+80 魔防+120

装身具:家の鍵


--------------------

今回のレベルアップでミーニャの攻撃力が四桁に。

少し文面変えたり、数値調整しました。


次回ようやくレオ登場。更新は明日。

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