第51話 勇者と勇者
次の日の昼頃、ケルキラの町に着いた。
農業地帯にある町としては大きな方で、外壁を持ち、各地の村から税を集めていた。
農作物以外にも内職で作った品が持ち込まれて取引される。魔物を解体した素材も。
そのための商会の買い取り窓口が設置され、繁盛していた。
俺たちはとりあえず宿へ向かった。
二軒あるうちの高いほうへ。
中へ入ると、この世界に良くある宿屋だった。
一階は酒場で二階からは宿泊施設になっている。
俺はセリカやミーニャ、ラピシアを引き連れてカウンターへ向かった。
すると、客たちの視線が集まった。特にセリカの胸やミーニャの太もも辺りに。
――2人ともクラスアップしてますます強く美しくなったからな。注目されるのは当然か。
まあ、くだらない視線は無視してカウンターで【勇者の証】を見せつつ尋ねる。
「4名、泊まれる部屋は空いてるか?」
「あ! 勇者さま! はい、一番いい部屋が空いております。どうぞ宿泊ください!」
マスターは前金も取らずに鍵を取り出し、部屋へ案内しようとする。
何かあるな、と思ったら、酒場の隅から声が上がった。
「おいおい、どういうことだよ? 俺に一番いい部屋あてがえっつっただろ?」
そこには鋭い目つきをした中年の男が立っていた。
周りには、これまた目付きの悪い仲間たちが座っている。筋肉質な巨漢と、性格悪そうなロンゲの男。
言われなくても分かった。
こいつらが隣の国の勇者だな。
俺は《真理眼》で勇者とやらを見た。
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【ステータス】
名 前:エディー(エデュアルド)
性 別:男
年 齢:41
種 族:人間
職 業:快楽殺人鬼
クラス:戦士Lv45
属 性:【風】
攻撃力:321
防御力:283
生命力:752
精神力:192
【データ】
隣国では賞金首 価格・大金貨60枚
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弱い。
というか、職業【快楽殺人鬼】て。
そんな職業ありなのか?
すでに人ですらない。
でもすごいな。大金貨60枚とは。600万円だ。
他の連中はバカらしくて見る気にもなれなかった。
俺はエディーに近付いた。
エディーも威勢良く向かってくる。
「よお。この国の勇者かよ。そんな細い体で――ぐふっ!」
俺はエディーへまともにぶつかった。
エディーは吹き飛ばされて壁にぶつかる。
エディーは鼻を押さえつつ叫ぶ。
「てめぇ! 何しやがる!」
「ああ、すまん。ゴミかと思った」
「な、なんだとぉ! 俺を誰だと思ってやがる、勇者だぞ!」
「ほう。証拠は?」
「なめやがって……見て驚くなよ?」
エディーはごそごそと懐を漁り、丸いメダルを取り出した。
見た目は確かに【勇者の証】に似ているメダル。
真理眼で見ると【勇者の証(偽物)】と出た。
「どうだ、参ったか! 後ろにいる女どもを置いてったら許してやってもいいんだぜ?」
「俺も勇者なんだが」
そういって和服の懐から【勇者の証(本物)】を取り出した。
しかしエディーは、ケッと悪態をついた。
「お前が勇者だろうと、関係ねぇよ! 国同士の問題になっちまうぜ?」
「どうかな? お前が本物の勇者だったらな」
「なに!」
俺は【勇者の証】をいじりながら言った。
「最近気付いたんだが、このメダルの外周をいじると――」
突然、俺の周囲が明るくなった。
「うおっ、なんだ!?」「外ぐらい明るい!」「どうなってんだ!?」
酒場にいた他の客が騒ぎ出した。
これは【勇者の証】の力だった。
自分の周り10メートルほどを照らす、いわば懐中電灯のような仕組み。
ダンジョン探検などでは松明を持たなくてすむので、重宝しそうだった。
「本物の勇者の証なら当然組み込まれている仕様だが、お前のも当然できるんだよな?」
「うぐ……お、俺のは、隣の国ものだから……」
「へぇ。仕様はどこの国も全部同じはずだがな? そもそも賞金首の殺人鬼が持ってるのがおかしい。そうだろ、エデュアルド?」
エディーの目の色が変わる。
「な、なんだと! ――おい、てめえら、やっちまうぞ!」
「おう!」「任せな!」
巨漢とロンゲが立ち上がる。
俺は後ろを見て言った。
「そうだな……巨漢はセリカ、髪の長い男はミーニャに任せる。殺さず倒してみろ」
「はいっ!」「わかった」
セリカは細身の剣を抜き放ち、ミーニャは包丁を両手に持って構えた。
すらりとした戦乙女の雰囲気を放つ。
ロンゲが短剣を抜きつつ言った。
「君かわいいねぇ、何歳? 俺ならもっと優しくしてあげるよ!」
「いらない」
ミーニャが動いた。風よりも早く。巫女服がはためく。
キィンッ!
短剣と包丁がぶつかる音。
「へっ、この程度じゃ……なにっ!」
右の包丁でつばぜり合いをしつつ、左の包丁が唸りを上げて脇腹を狙う。
ロンゲは慌てて、髪を揺らして後方へ飛んだ。
しかしミーニャは相手に距離を取らせない。
床を蹴ってさらなる追撃を繰り出す。
舞うような連撃が襲いかかる。
ロンゲは短剣を煌かせて包丁を防ぐが、しなやかな蹴りまでは防げなかった。
腹に突き刺さる細い足。
「ぐふっ!」
ロンゲは両膝をついて反吐を吐く。
「汚い」
ゴッ!
包丁の柄がロンゲの後頭部に打ち下ろされた。
「んがっ」
ロンゲは前のめりに倒れて自分の吐いた反吐に顔から突っ込んだ。
素早く包丁を納めて、つんと顎を伸ばす。絵のように美しい立ち姿。
猫耳がピンッと尖っていた。
セリカは大男と対峙していた。
男は上半身の筋肉をうねらせて太い棍棒を振り下ろす。
セリカは受けるのではなく、斜めにした剣で鮮やかに流していた。
金髪を揺らし、半身になって鋭い突きを放つ。
大男の体に浅い傷をつける。
日焼けした肌に血を滲ませつつも大男は笑う。
「軽い軽い! いつまで逃げられるか楽しみだぜ!」
「頑丈なようで、安心いたしましたわ――ハァッ!」
今までとは違う、全身の力を乗せた突きを放つ。
男は避けられず、棍棒を盾の代わりにした。
ゴスッと鈍い音がして、剣が棍棒を貫いた。
しかし大男はニヤリと笑うと棍棒を手放し、飛び掛ってきた。
「甘いな、お嬢ちゃん! 勇者パーティーに剣を向けたむくいを、そのでかい胸で支払ってもらうぜ!」
2メートルの肉壁が押しつぶすように迫り来る。
セリカが赤い唇の端を上げて、ふっと笑った。
「私に触れていいのはケイカさまだけですわ」
セリカは棍棒が突き刺さったまま、細身の剣を腰溜めに構える。
そして素早く突き出した。
――烈風突き《ゲールスティング》!
ドォンッ!
風の塊に吹き飛ばされて大男は壁に叩きつけられた。
ついでに剣から外れた棍棒が男の頭にゴスッと命中する。
「ぐがぁっ」
大男は白目を向いて床に倒れた。
セリカは細身の剣を振って血をはらうと、大きな胸を反らしつつ言った。
「まだまだですわね」
俺は二人の戦いを見ながら、強くなってるなと感心した。
目の前の偽勇者、エディーへおもむろに近付く。
エディーはびびっていた。
「お、俺に何かしたら、隣の国が黙っちゃいね――ぐあ!」
俺はエディーの腹を鎧の上から殴りつけた。
拳の形に鎧がへこむ。
エディーは口から泡を吹いて大の字に伸びた。
手をパンパンとはたくと回りの連中に言った。
「誰か、騎士団か警備兵を呼んできてくれ。勇者を騙る偽者だ」
「さっき呼びました! もう来ます!」
酒場の中が悲鳴と喝采で騒がしくなる。
「すごいっすね!」「こいつら偽者だったのかよ!」「ちくしょお! 金取られた」「うちなんか、娘が、娘がぁ……!」「本物の勇者はさすがですね」「格好いい……」
心から信頼する声が聞こえた。
今なら信者にできるかもしれないと探そうとしたが、その前にどやどやと揃いの鎧を着た騎士たちが入ってきた。
その中で指揮を取っていた隊長が、俺を見るなり敬礼する。
「こ、これは、勇者ケイカさま! 不届き者を倒していただき、ありがとうございます!」
「そこのエディーという男は、隣国で賞金首になってる殺人鬼だ。絶対に逃がすなよ」
「ははっ! すぐに手配するであります!」
偽勇者一行は縛られて連行された。
隊長が俺の傍へ来て言った。
「勇者さま、一つ相談してもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「我らはドラゴン対策のために組織されたのですが、本来はあの偽勇者のサポートだったのであります」
「なるほどね。だからあんなに偉そうに振舞ってたのか……。ちゃんとチェックしないとだめだろ」
俺は【勇者の証】を見せつつ、本物ができることを教えた。
隊長は申し訳なさそうに頭を下げた。
「面目ありません……しかし、我らではドラゴンに会うことすらかなわぬゆえ、話し合いをしていただくために勇者さまのお力が必要だったのであります」
「なるほどね。……だったら、俺がなんとかしよう」
「ほ、本当ですか、勇者さま! ありがとうございます! 我らに何でも指示してください!」
ふむ、と俺は腕を組んで考えた。
どうすればいいか。
「そうだな。まずはドラゴンの情報を集めてくれ。それから被害が甚大みたいだから、せめてもの慰めに、エディーの賞金を周辺の町や村に振り分けて、復興に役立ててくれ」
「おお……! 私欲にとらわれず民の暮らしに心を割かれるなんて、なんという慈悲深さ! これが本物の、勇者さま……――わかりました。我が騎士団が命に代えても指示をこなしてみせましょう!」
隊長は目の端を指先で拭った。感動して泣いたらしかった。
――ぶっちゃけ金をばらまくのは、銅像作らせて俺の名を末長く根付かせるためなんだが……。
少し心が痛んだが、信者を集めて神になるという目標のため、そのままにした。
「うむ、頑張ってくれ。あと今、俺は王様から直々にレオ討伐を依頼されている。そちらの情報もあったら知らせてくれ」
「わかりました。隊員にも伝えておきましょう」
隊長はすぐに隊員たちに指示を出していた。
「それと思ったんだが、西の国とは国交がないのか? どうして問い合わせなかった?」
「申し訳ないです。西の国ファブリカ王国はとても強い国で、魔王軍を何度も打ち破っているため、そこの勇者さまならと無条件で信じてしまいました」
「強い?」
「はい、工業が盛んで、建築や鍛冶技術がとても高いのです」
「なるほど。一度行ってみたいな。……今はドラゴンとレオ討伐が先決だが」
その後も、隊長と話して情報を教えてもらった。
村の場所や街道、この辺りの地理など。
――と。
話し込んでいると、急に騎士団の一人が駆けてきた。
俺を見て一礼してから、隊長へ報告する。
「町の近くで魔物同士が争っているとのことです。ドラゴンや勇者さまの件に関係ないかもしれませんが、一応ご報告までに」
隊長は考え込んだが、俺は何かあると感じた。
「それはどこだ? 俺が向かう」
「ははっ、勇者さま! 町の北西になります」
「北西……グリーン山の麓の方だな」
「はい! 案内しましょうか?」
「いや、大丈夫だ。馬――ブーホースを用意してくれ」
俺は酒場の中へと呼びかけた。
「セリカ、ミーニャ、ラピシア。行くぞ」
「「「はいっ」」」
俺たちはブーホースに乗って、北西へと向かった。




