第47話 王都帰還
第三章開始。
4話と5話を直しました。話の流れは同じです。
走っただけで疲れるのはおかしいので内心余裕な感じに直し、
あとセリカの不自然な心理を変更と、村長の咎人判定アイテムを追加。
咎人判定は頻繁に行われるものではなく、生まれたときや、よそ者がやってきたとき、神職に就くとき、などです。
勇者になった俺は港町ドルアースでケイカビーチを作り、咎人を助け、四天王を倒して勇者ケイカの名前を広めた。おかげで信者は百人を超えた。
早朝。
俺はベッドの中で目を覚ました。
隣からは聞こえるセリカの優しい寝息が聞こえる。なだらかな頬に掛かる金髪。閉じられた瞳の長い睫毛。
それはいいとして、何か体がくすぐったかった。
腹の上に何か乗っているような感覚。
視線をそちらに向けると、猫獣人のミーニャが俺の和服をはだけさせて胸や肩をチロチロと小さな舌先で舐めていた。艶やかな黒髪が肌の上を滑ってくすぐったい。
ミーニャの巫女服も大きく乱れて膨らみかけの胸や黒のパンツが見えている。
「……ミーニャ? なにしてる?」
「ケイカお兄ちゃん……おはよう」
黒く大きな瞳で俺を見ると、ギュッと抱きついてきた。
細い肢体を密着させて首や頬を舐めてくる。猫のように。
しかし密着されてことで気付いた。
――震えている? 怖いのか?
そこで昨日の話――王都が魔物に襲われたという話をミーニャに聞かれてしまったのではないかと思い当たった。
王都にはミーニャの家族がいる。
それで心配が募って、変な行動に出ているのではないかと思った。
俺はミーニャの頭を撫でる。尖った三角耳がピピッと動き、黒い尻尾がへにゃっと垂れた。
「心配するな。親父さんはきっと大丈夫だ」
「……ん」
気持ち良さそうに目を細めると、撫でられるままに俺の上に倒れ込むミーニャ。肌と肌がじかに触れ合う。幼くしなやかな筋肉と温かい体温を感じる。
――というか、確認すればいいのか。
俺は《千里眼》を使いつつ顔を北の方、王都の方角へ向けた。
王都は国の真ん中辺り、広い平原の中の大河沿いにあった。
分厚い城壁に囲まれて、街の中は馬車や人々が行き交う。
あれ? おかしいぞ?
街の建物にまったく被害がない。人々も普通に暮らしている。
魔物に襲撃されたようには見えなかった。
俺は首を傾げた。
「魔物の大群に襲われた割には、おかしいところがなにもないな――ああ、親父さんも元気だな」
「……本当? ケイカお兄ちゃん、好き」
ぎゅううっと細腕に力を込めて抱きついてきた。
慰めるように背中をポンポンと叩いて撫でた。
気持ちが良いのかゴロゴロと猫のように喉を鳴らした。
すると隣から声がした。
「ケイカさま、朝からなにを……?」
寝ていたセリカが目を覚ました。青い瞳が驚きで見開かれている。
「心配するな。お前にもしてやるから」
寝起きのためかガウンの乱れた彼女を抱き寄せる。
「ひゃっ?! ダメですっ――あぅっ」
頭を撫でて、背中をぽんぽんと叩く。
彼女の体から力が抜けて、大きな丸みが押し付けられた。
しばらくそうやって二人を慰めた。
◇ ◇ ◇
清々しい日差しの降る早朝。
俺たちは河口の桟橋にいた。
川船が用意されて、たくましい体躯を持つ蛇女のダリアが持っている。船を引くのが一番早かった。
「今日はたのむぞ」
「ああ、ナーガ族最速を誇る我に任せておけ」
反らした胸をドンッと叩いた。ビキニアーマーに包まれた、豊満な胸がはみ出そうに揺れた。
すると町長のフランクが息子のリオネルと咎人のファルを連れてやってきた。
「おはようございます、勇者さま。どうか息子をよろしくお願いします」
「心配するな。小さい宿だが主は信頼が置ける奴だ」
「なんでも勇者さまと一緒に試練の塔を攻略したとか。私も安心です」
――さすが大きな港町の長か。情報収集が早い。
俺は頷いた。
「子供にとっても、いい経験になるだろう」
町長の後ろにいたリオネルが頭を下げる。金髪が朝日に輝く。
「よろしくお願いします」
「たいしたことじゃない。決めたのはリオネルなんだから」
「はい」
リオネルは嬉しそうに微笑んだ。
「それから勇者さま、こちらが頼まれていた品です」
フランクが服のポケットから、手のひらほどの包みを取り出した。
中には砕けたガラス片が入っていた。
エビルスクイッドが装備していた魔王製モノクルの破片。
「助かる。これでいろいろ調べられる」
「そうですか。お力になれて何よりです――それと、これなのですが」
「なんだ?」
フランクは背負い袋を下ろして中を見せた。真っ黒い玉が入っていた。
一瞬、ボーリングの玉かと思うぐらい丸かった。
「エビルスクイッドの死体から出てきました。何かのアイテムでしょうか? 一応お見せした方が良いと思いまして」
「なるほど」
俺は《真理眼》で玉を見た。
【進化のたまご】何が生まれるかは生まれるまでわからない。
《千里眼》で中身を見ると、何百種類もの魔物のデータが目まぐるしく変わっていた。
スロットマシンのリールが回転しているような感じ。
「なんだこりゃ。課金ガチャかよ。……魔物の卵らしいが中身は不明だ」
「ま、魔物のたまご!? 危険ですね、どうしましょう?」
すると白いワンピースを着た見た目10歳ぐらいのラピシアが、とことこと歩いて傍へ来た。金色の瞳で俺を見上げる。
「欲しい!」
「そうか。……町長、もらっていいか?」
「ええ、どうぞ。私どもとしても助かります」
ラピシアはたまごを両腕で抱えるようにして受け取った。
「やった! ありがと!」
喜びながら、くるくると回った。青いツインテールが弧を描いて揺れる。
――ラピシアのレベルアップ条件が『育てる』だったから、このたまごが何かいい影響を与えてくれると嬉しいんだがな。
その後、王女エトワール一行もやってきて船に乗った。
俺たちも船に乗り込む。
「それじゃ、向かおうか――みんなはしっかり掴まっておくんだ。揺れるからな」
俺の言葉に、船頭が声を上げる。
「よっしゃ、縄を解け! 出発だ!」
船は川岸を離れて北上を始めた。
船を引くダリアが豪快な笑顔で言った。
「ケイカさま、我の力をたっぷりと見ていただきたい! ――それ!」
グンッ!
と一気に加速する船。激しく揺れる。
水面を割って河をさかのぼっていく。
俺たちは体勢を整えていたので平気だったが、初めて乗るエトワールは悲鳴を上げた。
「ひゃああ! なにこれ! 落ちる、落ちちゃう! いやぁああ!」
赤い髪を振り回すように、床の上をごろごろ転がるエトワール。レースのパンツが盛大に見えた。
しかし王女の部下たちは船へしがみつくのに必死で助けられない。
「やれやれ」
俺は呆れながら揺れる船の上をすいすいと歩いて、エトワールを抱え上げた。
必死でしがみついてくる彼女。
――さすがに水の中に落ちられたら営業に差しさわりがでるからな。
そのまま屋根のある場所へと移動して、胡坐をかいた。
その上にエトワールを横抱きにして座らせる。
「大丈夫か?」
「は、はい。ケイカさま……」
すみれ色の瞳を潤ませて俺を見上げてきた。
「今日は急ぐから特別揺れる。我慢しろ」
「わかりました」
細い腕を俺の首に回すと、よりいっそうしがみついてきた。甘い香りが鼻をくすぐる。
揺れる船の上でドレスに包まれた華奢な肢体を抱え続ける。
なぜかセリカが大きな胸を押し付けるように、ぴたっと背中にくっついてきたが。
◇ ◇ ◇
昼過ぎには王都へ着いた。
とても早い。
ダリアとの別れの挨拶もそこそこに城へ。
馬車が用意されていたのでそれに乗って向かった。
王城。
体育館ぐらいの広さに柱が並ぶ謁見の間。
正面の段の上に玉座があり、老齢の国王ダフネス3世が座っていた。
俺とエトワールがその前に立った。膝は付かない。勇者は形式上、対等になるから。
エトワールだけが膝を付いて挨拶する。
「お父さま、勇者ケイカさまをお連れしました」
「ご苦労であった……急な呼び出しすまなかったな、ケイカよ」
「それで王様。魔物に襲われたと聞きましたが」
「うむ。それはなんとか撃退した。しかし彼らには別の目的があったのだ」
「と言いますと?」
王は沈痛な面持ちで、しかしはっきりと言った。
「そなたには魔王の手先、レオを退治してきて欲しい」
「え!? レオを!」
「魔物たちが襲ってきた隙を突いて、レオが逃げ出した。いや、魔物たちに助け出されたのだ。レオは魔王の手先であったのは間違いない、という結論に達した」
レオが魔王の手先?
にわかに信じられなかった。
「信じられぬようであるが、わしも同じじゃ。しかし騎士や兵士、町の者まで、魔物とともに逃げるレオを見ている。動かぬ証拠といえよう」
「レオ討伐……生きて連れて帰ってくるのでしょうか?」
「もう死んでいてもかまわぬ。必ずや、彼の者を倒してくるのじゃ」
国の決定。
覆せそうにもない。
青い髪の、優しさあふれる青年が魔王の関係者……。
信じられないが、俺は頷くしかない。
「わかりました王様。この勇者ケイカ、必ずや魔王の手先を処罰してきましょう」
「うむ、頼んだぞ」
俺は頭を下げてから、玉座の間を退出した。
最初のプロットではここでレオは死んでいたのでした。うまく変更していけるか不安ですが楽しみでもあります。




