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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 勇者冒険編・海

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第45話 決戦! 海の四天王!

 港町ドルアースの祭り最終日。

 俺は港にいた。湾内に入り込んだ黒い巨体、エビルスクイッドと対峙している。イカの化け物。


「いくぞ! ――従う風よ 集まり飛ばせ! ――《高速流風》!」

 俺の体が風で包まれ、空へと飛翔する。和服の裾がはためく。

 鳥のように軽やかに、矢のように早く飛ぶ。


 襲い来る触手をきりもみ飛行でかわす。

 そして《真理眼》でステータスを見る。

--------------------

【ステータス】

名 前:エビルスクイッド

種 族:柔魔族

職 業:魔王軍南方部隊及び辺境大陸部隊総司令官 兼 海洋部隊提督及び水軍元帥

クラス:魔獣Lv99 司令官Lv80

属 性:【水】【風】【炎闇】


 攻撃力:6000 触手×10

 防御力:1200 触手×10

 生命力:8000 触手×10

 精神力:4800 


【スキル】

触手攻防:触手で叩く、また守る。

触手乱舞アームストーム:5本以上触手が残っている時に発動。同時多段攻撃。

火水圧破ジェットスラッシュ:触手をあわせて筒となし、高圧の熱水を噴出。

大海嘯タイダルウェーブ:巨大な波で襲う。範囲攻撃。

炎熱風刃嵐イグニステンペスタス:切って焼いて蒸す大範囲魔法。町が一つが消し飛ぶ威力。自身にも大ダメージ。


暗黒墨吐ワールドナイトメア:何も見えない深淵の闇を吐く。

触手再生リカバリー:すべての触手を再生させる。

触手結界マキシマムバリア:自分の回りに触手を張り巡らせて完全防御する。


【データ】

触手にも本体と同等の攻撃力・防御力・生命力が備わっている。触手は順番に再生する。

触手に対する水攻撃無効・風攻撃無効・火攻撃無効・土攻撃無効。


【装備】

魔王製モノクル(旧式):咎人を見抜く。装備者の視界を魔王も共有して見ることができる。

--------------------


 高位の職を兼任とは、やはり秀でた魔物であったか。

 相手の力量を見抜いて、必要とあらば敵でも勧誘する器の広さも持っていたしな。

 上官としてはかなり優秀だと感じた。


 あの四天王の1人グレウハデスより人望がありそうだ。

 その分、苦労してそうだが。



 暗黒墨吐ワールドナイトメアが厄介だな。千里眼も発動しとこう。


 でも【データ】によると触手だけが無敵で本体にはダメージが入るのか。

 イエトゥリアから聞いてた能力とはだいぶ違うな。

 土属性攻撃無効の文字を見たときは冷や汗が出たが、これなら思ったりよりも弱い。

 勇者のふりで勝てると思ったが――。



 【魔王製モノクル(旧式)】ですよねー。これで魔王に俺の存在が決定的にばれた。

 モノクルは赤く光っている。エビルスクイッドとは違う魔力を感じる。

 今見てるぜってことか。


 もう勇者として逃げも隠れもできないな。神とは知られたくないが。

 ただ魔王の気配は覚えた。近付いてきたら先手を取ってやる。


 あとはできるだけ手の内を知られずに倒すだけか。

 だったら――。



 俺は心で呼びかけた。

 ――ラピシア、準備はいいか?

『うん! できる!』

 ――姿を見られないように気をつけながら目を狙うんだ。ただし触手には攻撃が効かない。攻撃するタイミングはミーニャに聞け。

『わかった!』


 俺は飛び続けて、触手を払う。

 本体へ切り込もうとするが別の触手が突いてくる。

 急上昇して回避。



 エビルスクイッドが豪快に笑った。

「どうした、勇者! お前の攻撃などまったく届かんぞ、もっと本気でかかってこい!」


 俺は太刀を腰溜めに構えた。

 ――えーっと、セリカがやっていたのはこんな感じだったかな。

 小声で呟く。

「風よ 集え 塊となって飛べ――ふんっ!」


 太刀を突き出した。

 波動拳のように、風の塊が飛ぶ。


 エビルスクイッドの胴体に命中して黒い肉塊が大きく削れた。青い血が飛び散る。

 100ほどのダメージにしかならなかった。

「ぬうっ! 烈風突き《ゲールスティング》かっ! ――さすがは勇者だ! なら、これはどうだ?」



 エビルスクイッドは楽しげに笑いながら、数本の触手を凄まじい速さで繰り出した。

 嵐に揺れる木々のごとく、激しい連続攻撃が襲う。

 【触手乱舞アームストーム】か。


 太刀で触手を弾き、身をかわし、隙をついてはまた太刀を突き出して風の塊を飛ばした。

 胴体のあちこちがえぐれて、青い血をダラダラと流した。


「くっ! 我の触手をかいくぐるとは、なんたる早さだ! ゲールスティングも磨きが掛かってきたな!」

 さらに触手を繰り出してくるが、軽々とかわした。



 なぜゲールスティングのまがい物を飛ばしているのか。

 【烈風突き】は勇者ではなく、聖騎士が覚えるスキルだから。

 これで魔王は、俺がまともに育っていないと安堵するはずだ。

 入り江掃除のとき手本を見せてもらっていて幸いだった。


 そしてあることに気付いて、俺は煽った。

「触手の動きが鈍すぎる。お前では俺を倒せないな!」

「くっ、言わせておけば……我の技はまだまだあるぞ!」

 歯軋りするエビルスクイッド。



 イカの戦い方が根本的におかしかった。

 もっと効果的な戦い方があるように思われた。

 例えば、弱点である内臓の詰まった胴体を海に沈めて、触手だけで攻撃すればよい。


 なぜそうしないのか――と思ったところで理解する。

 モノクルの輝きを。


 魔王に戦いを見せるため、胴体の下にある目を海上に出していないといけないのだ。

 暗黒墨吐ワールドナイトメアも使えそうにない。

 無能な上司の命令のせいで、全力を出せない部下の悲哀を感じた。

 早く終わらせてやりたい。



 するとエビルスクイッドは触手をすべて海に沈めた。

 目をこちらに向ける。

「触手だけと思うな! 受けてみよ! ――火水圧破ジェットスラッシュ!」


 高圧の熱水が海面から何本も放たれる。

 圧縮された水だけに、威力は桁違い。岩や鉄にも穴を穿つ。

 もちろん俺には効かないが、もし一張羅の和服が破れたらイヤなので必死で回避する。


「ふはは、どうした! 手も足も出ないか!」


 ――その時だった。

 パシィンッ!

 と空気を揺るがす破裂音が港の東側、堤防の辺りからした。

 

「なんだ!? ――ぐわぁ!」


 ドッッゴォォォンンッ!


 エビルスクイッドは振り向く暇もなく、吹っ飛ばされた。

 魔王モノクルをぶち抜いて目に突き刺さる石。


「ぐわぁああああ!」

 痛みに巨体を揺らし、触手を暴れさせる。高波が生まれて湾岸を襲った。



 ラピシアが土の魔力を込めた石を投げたのだった。

 コントロール重視の軽いキャッチボールしか練習しなかったが、彼女にとっては軽く投げたつもりでも5000近く生命力が削れていた。さすが大地母神、の代理。

 最初のパンッという破裂音は、初速で音速を超えたための衝撃音だった。


 触手を水中に沈めていたためガードができなかった。

 というか沈めさせるための挑発だが。


 もう一回投げたが、胴体が水中に沈んだため、大砲のような大きな水柱が上がっただけだった。

 攻撃が通じないとわかると、すぐにミーニャが出てきてラピシアを堤防の後ろに引っ込めた。



 8000あったエビルスクイッドの生命力が1000を切る。


 一度は倒れたエビルスクイッドが息も絶え絶えに、守る触手とともに体を起こす。

 しかし残った片方の目は闘志が燃え上がっていた。


「お前自身が陽動だったのかっ……さすがだ、と言いたいが……このまま思い通りにはさせん! 魔王四天王の一人、南方総司令官にして水軍元帥エビルスクイッドの奥義をいなしてみるがよい!」

 

 覚悟を決めた叫びとともに、触手で胴体を覆い始めた。隙間なくぴっちりと。

 【触手結界マキシマムバリア】か。

 しょせんこれは、次の魔法への布石でしかない。自身を大ダメージから守るための。


 触手に覆われた胴体から、大きな魔力が膨れ上がる。

 奴が使うのは炎熱風刃嵐イグニステンペスタス

 町が一つ消える威力。



「使わせてたまるか!」

 俺は一度上空に上がり、そこから一気に下降した。

 イカの胴体目掛けてまっすぐに。


 ひょうたんの水を太刀にかける!

「蛍河比古命の名に従う、神代の時より流れしせせらぎよ、一束に集まり激流と成せ――《魔鬼水斬滅》!」


 触手に覆われた巨大な胴が眼前に迫る。

「俺の全力を受けてみよ――っ!」

 狙い定めて俺は振りぬく――。


 ――ズアァァンッ!!



 落下速度を加えた俺の一撃が、触手の隙間をこじ開け、黒い胴体を切り裂いた!

 触手に覆われた内部で水の刃が荒れ狂う。


 スキルの成り立ちを知っているからこそ可能な技。紙のように薄い切れ味の日本刀のおかげでもあった。



「ぬわあぁぁぁあ!」


 港に響くエビルスクイッドの断末魔。


 生命力0。



 つぼみが開くように触手がはがれ落ち、そして力なく海面を漂う。

 黒い胴体は無残に切られて青い血を噴き出し、中が見えていた。

 傷口から高濃度の魔力が煙のように漏れている。


 エビルスクイッドが、目から青い血を流しつつ俺を見上げる。

「よくぞ奥義を……完敗だ……だが、悔いはない……」

「今なら助けてやれるが? 俺の仲間になるなら、だが」

「たわ言を……我が、主君をたがえる……愚か者に見えるか?」


 俺は首を振った。黒髪がサラサラと動いた。

「いいや。――だからこそ、誘ったんだ」

「ふふっ。最大の賛辞と……受け取っておこう…………さらばだ」



 次の瞬間、漆黒の胴体が膨れ上がった。

 詠唱途中の魔力が暴走する。


 ドォォン――っ。



 鈍い音を響かせて、イカの胴体も足も爆発四散した。

 思わず呟いた。

「敵ながら、あっぱれ。――安らかに眠れ」

 黒い肉塊が雨のように降る。


「きゃー きゃー」

 ラピシアが楽しげに避けまくっていた。

 その横ではミーニャが包丁を降るって落下する肉を切り裂いて避けていた。



 そして静寂が訪れる。寄せては返す波の音。

 俺は港に降り立った。


 セリカが金髪を揺らして近寄ってきた。端整な顔を寂しげに曇らせている。

「お疲れ様でした、ケイカさま。さすがです……でも」

「ん、どうした?」


「……今回も、お力になれませんでしたわ」

「何を言うんだ。セリカがいなかったら手の内バレまくっていたところだ。ゲールスティングは助かった。ありがとうな」


「まあ、そうだったのですか」

「これからも強くなって、支えてくれよ」

「はいっ。ケイカさまっ」

 セリカがほころぶように笑った。そして抱きついてくる。

 俺は華奢な体をしっかりと抱き締め、金髪に顔を埋めてほお擦りした。



 そのうち、町の人も戻ってきた。

 次第に周りに集まってくる。


「すげえ!」「あんな巨大な魔物を、まあ!」「四天王を倒すなんて!」「あんたこそ最高の勇者だ!」「勇者ケイカばんざぁぁい!」


 俺の名をみんなが叫ぶ、歌う、合唱する。



 こうして勇者ケイカの名は、しばらくこの町の話題を独占した。



【レベルアップ・修得スキル】

 ケイカ:【雷火破サンダーフレイム】雷と火の混合魔法。小範囲。

     【魔消サイレント】魔法を封じる。

     勇者スキルの修得はなし。


 セリカ:姫騎士Lv28

     【威厳】パッシブスキル。相手にプレッシャーを与え攻撃順位を遅らせる。


ミーニャ:舞闘師Lv15・盗賊Lv7

     【魅惑剣舞】相手を魅了しながら攻撃する。敵回避率激減。

     【不思議舞】幻惑ブラード効果と精神力吸収。

     【一途奉公】パッシブスキル。能力上昇。取得経験値2倍。


     【罠探知】パッシブスキル。罠に気付く。

     【隠扉探知】パッシブスキル。隠し扉を見つける。

     【罠解除】罠を解除する。


ラピシア:特になし。

 エビルスクイッドが人気でしたね。

 作者も気に入っていたので嬉しいです。

 誘ってみましたが断られました。

 次回はエピローグです。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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