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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 勇者冒険編・海

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第37話 神と魔王


 午後の暖かな日差しと、優しい潮風が吹く。

 俺は入り江に戻った。


 町の人たちがすぐに泳ぎ始める。静かだった入り江が楽しい声にあふれる。

 自分のやったことで人々が喜ぶのは、神として嬉しくなった。

 思わず顔がにやけてしまう。


 それから砂浜を見回してセリカを探した。

 しかし、いなかった。服を着たミーニャが体育座りしているだけだった。

 一瞬ドキッとしたが、すぐに別の場所にいるのを見つけて、ほっとする。

 ラピシアと一緒に海へ入っていた。ラピシアは胸下まで、セリカは腰まで浸かっていた。



 《多聞耳》を使って会話を聞く。

「水の中に1分も顔を付けられましたね、偉いわラピシアちゃん」

「ラピシア えらい!」

「次は、水の中で体を丸めてみましょうか」

「丸める?」

「こうするのですよ」

 すうっと息を吸い込むと、そのまま水に顔を付けた、そして膝を抱えて丸くなる。金色の髪が扇状に広がり、白い背中がぷかぷかと波間に浮かんだ。

 しばらくしてから、ぷはぁっと顔を上げた。

「こんな感じでするのですよ」


 ラピシアが金色の目をワクワクと光らせている。

「やってみる! すぅぅ~」

 息を吸い込んで、顔を付けた。丸くなる。青いツインテールが波間に広がる。

 小柄な体が沈んだり浮かんだり。

 それから顔を上げた。ぷはぁっと大きな口で息をする。

「できた!」

「えらい、よくできましたわ」

 セリカはラピシアの頭を撫でると、えへへ~と目を細めて笑った。


 ――これはしばらく任せておいたほうがよさそうだ。

 俺は川の神だから、いろいろなことができて当たり前になってしまっている。

 


 とりあえず、泳ごう。

 俺はゆっくりした平泳ぎで深いほうへと泳いでいった。

 入り江の中でも海は広い。緩やかな波が体に当たって気持ちがいい。


 そして入口まで来た。

 船が通れるぐらいの広さの入口の向こうには、雄大な海がどこまでも広がっていた。

 中とは違い、波が力強く押し寄せる。

 その入口傍の岩の上に、白い肢体を晒したイエトゥリアが座っていた。銀色のビキニとスカート。手には銛を持っている。


「ケイカさまか。人が増えたな」

「もし溺れた者がいたら助けてやってくれ」

「わかっている」

 赤い瞳に鋭い光を満たして、遠洋と入り江を交互に見ていた。

「人と魔物、両方に注意払わせてしまうから大変だな」

「我が種族のためだ。これぐらいなんともない。それに族長が完全にケイカさまに下ったから、遠いところにいる仲間も参加してくれるそうだ」

「それはよかった。ここも人が増える。魔物の警戒と人の救助で、二人体制にしたいところだな」


「我も思っていた。――しかし」

「なんだ?」

 イエトゥリアは尊敬の目で俺を見下ろした。

「勇者は魔物や魔王を倒すだけの存在かと思っていたが、こうして喜びの声を人やそれ以外にも与えるのだな」

「まあ、それが俺の目的でもあるしな」

「どうしてだ?」



 俺は一瞬、言うかどうかで悩んだ。

 しかし、俺が神だと気付いたのだから言ったほうがいいのだろう。

「俺は神になりたい」

「ほう」

「俺はこの世界の神ではない。元の世界では信者を集めることに失敗して、人々に敬われる神になれなかった。だからこの世界でもう一度、今度こそは人々に慕われる神になりたいんだ」

「それで魔王をすぐ倒しに行かなかったのか……ケイカさまは素晴らしいお方だ。きっと名実ともに神になれるだろう」

 素直な心で言われると、なんだか照れくさかった。


 俺は頭を掻きつつ、水平線を見ながら言った。

「ありがとう。努力するよ……ああ、そうだ」

「なんだ?」

「この世界の神について知りたい。神殿や社を回ったが、一人もいなかった。やはり魔王の仕業か?」

「うむ……」

 頷いたっきり、黙り込むイエトゥリア。

 何か言えない事情でもあるのだろうか?



 俺は岩に上って彼女の隣に腰掛けた。

「何か難しい問題でもあるのか?」

「いや、魔王によって封印や無力化されたことは間違いないのだ」

「やはりそうか。方法はわかるか? 大地の神ルペルシアは、魔王に子供のラピシアを人質に取られて怨霊化してたな」

「そうなのだ。方法は一つではないらしい。神とはいえ全知全能ではない。魔王は相手の弱みに付け込んで不利な状況を作り無効化するようだ」

「苛立たしいな、それは。作戦としては正しいが。全力での殴り合いの方が俺は好きだな」

「ケイカさまは普段はよく考えておられるが、時々、危ういと思うことがある」


「気をつけるよ。……魔王には俺が神だとすでに知られているだろうか? イエトゥリアにはすぐばれたが」

「我が特別なだけ、異端なのだ。ケイカさまは我に会うまではどう振舞ってきた?」

「それはな……」

 俺はこの世界に来てからのことを全部話した。


 イエトゥリアは眉間に深いしわを寄せて唸った。

「う~ん、今のところはおそらく大丈夫であろう。問題があるとすれば四天王グレウハデスを『切り殺した』ことであろうな。あ奴には通常の刃物は効かぬはず」

「魔法で倒す奴みたいだったから、離れる時に死体を水の魔法でどろどろに溶かして処分しておいた」

 首を取らなかった以上、証拠隠滅しておくほうがいいと、あの時は考えた。



 イエトゥリアは目を丸くする。

「ほう! それは賢明であったな。ならば、次の四天王を倒すまでは安泰であるな。おそらく神の力を使わねば勝てまい」

「エビルスクイッドか」

「手ごわいぞ。ケイカさまの得意な『水』『風』の魔法、それに『火』も効かぬ上に、物理攻撃では無限に再生するからな」


「真っ二つにすると分裂して増えるとか?」

 俺は昔倒した黒いミミズを思い返しながら聞いた。

「いや、切断しても元通りくっつくそうだ」

「弱点が『土』だけか……う~ん、あの調子じゃなぁ」



 俺は波打ち際で特訓をするラピシアを見た。

 セリカが銀貨を水の中へ落とすと、ラピシアが水に顔をつけては拾っていた。

「あの子がラピシアか。まだまだ神としては未熟だな」

「あれの母親から子育て任されたんだ。――まあそれだけ教えてもらったら対策は可能だ。神とはバレずに倒せるだろう。ありがとう」

「なんの。他に聞きたいことはあるか?」

「そうだな。魔王の目的は知ってるか? 俺の知る世界征服とは様子が違うんだよな」


 イエトゥリアはうつむいた。端整な顔に暗い影が差す。

「魔王は外道だ。殺したり支配することが目的ではない。弱者をいたぶってもがき苦しむ姿が見たいのだ」

「例えば?」

「我らがナーガ種は昔、ある部族に神として祀られていた。しかし魔王の手先が攻めてきて部族を皆殺しにし、それを我らの仕業だと噂を流した。弁解しようとした先代族長は人の手によって無残に拷問されて殺された」

「それで居場所を失い、魔物と人に追われる生活か」

「救いのない逃避……つらかった」

 海を見ながら、ぽつっと呟くようにいう。抑揚のない声が寂しそうに響いた。


 俺は手伸ばし、イエトゥリアの銀髪を撫でた。サラサラと指先に心地が良い。

「心配するな。俺が守ってやる」

「ありがたい」

 彼女は俺にしなだれかかってきた。自然と抱き締める。密着する冷たく柔らかい肌が火照った体に気持ちがいい。彼女の銀髪からは美しい海の香りがした。



 しばらくして落ち着いたのか、イエトゥリアから体を離した。

「迷惑をかけた。そしてこの先そなたの名を傷付けることになれば、遠慮なく切り捨ててくれ。ケイカさまの名声のために死ねるなら本望だ」

「またこの町の住人が殺されて罪を擦り付けられる可能性か? それはないだろう」

「なぜそう言える?」

「おもちゃに飽きたんだろう。そしてこの国も。ずっと四天王グレウハデスがなぜあんな北の森にいたか疑問だったが、南の海との挟み撃ちが目的だったんじゃないか。西もそうだろう」

「西?」

「ドラゴンが暴れまわっているらしい。勇者試験でドラゴンは中立だと教わったのにな」

「西はドラゴンがいるから魔王でも手を出せなかったはずだ」

「きっとお前たちのような目に合っているんだろう。勇者がドラゴンを倒せば一石二鳥だ」

「そうか。あのドラゴンがか。……何も言うまい」

 同情を口にしようとしたのだろうが、首を振った。


 俺は笑って言った。

「本当に悪くないのなら助けるさ。それで魔王は北にいるのか?」

「すべてが凍てつく北の氷原に建つという噂だ。氷の嵐が常に吹くため、誰も侵入したものはおらぬ」

「そういや、歴代の勇者たちは旅の途中で魔王と遭遇して負けてたな」

「育ったら厄介だからであろう」

「フィールド歩いてたらラスボスとエンカウントなんて、クソゲーってレベルじゃないよな」

「くそげー?」

 イエトゥリアが不思議そうに首を傾げた。きょとんとした表情が可愛らしい。


「なんでもない。それより見張り頼む」

「任せておくのだ。誰かのために役立つのは嬉しいことだ」

 腰に手を当てて胸を反らした。銀色の水着がキラリと光る。華奢な肢体が強調された。

 俺はうなずくと海へ飛び込んだ。



 泳ぎながら考える。

 四天王の弱点はわかった。

 ラピシアの育ち具合にもよるが作戦を立てれば勇者として勝てる。


 あとは最終日に咎人を助けて四天王倒して終わりだ。

 しかし、咎人が見当たらないのが気になる。町長の屋敷も灯台にもいなかった。

 購入して護送されたはずだからもうこの町にいなくてはおかしいのだが。


 町長に会って聞き出すか?

 いや、勇者は咎人を自由に扱う権利も持つ。例えば咎人をおとりにして魔物を引き寄せるために。


 しかしこの町では咎人の虐殺ショーをしたいはずだ。助けさせてはくれないだろう。

 でないと灯台という町から見える場所でやらない。

 当日に守りながら倒してもいいが、出来れば事前に会っておきたい。


 俺の存在は知られているだろうから家宅捜索か。

 とは言え勇者が捜査権を持つのは魔王関連のみ。

 魔物に情報を流しているのが町長なら話が早いんだが証拠がない。

 適当な証拠を捏造して町長を罠にはめるか……何か考えないといけない。



 それにしても北にいる魔王は正直面倒だと思った。

 どうせあれだろ。また試練の塔みたいなダンジョンの底に住んでるんだろう。

 踏んだら方向が変わる回転床みたいなのがごろごろありそうだ。


 それなら勇者を続けて向こうから来るのを待てばいい。

 早くアルテマスラッシュを覚えないとな。



 考えているうちに波打ち際へと戻った。

 セリカたちの傍へ来ると、ラピシアが銀貨を持った手を突き出した。

 幼い顔を笑みで満たしている。

「ケイカ! 20回拾った! 20回!」

「おー、偉いな。すごいぞ」

「わーい」

 頭を撫でると、その場でくるくると回り始めた。

 水を吸った重いツインテールがバシバシと体に当たる。


 そしてセリカの大きな胸にも当たり、彼女の水着を跳ね飛ばす。赤い布が空に舞う。

 大きな胸が弾むようにさらけ出される。

「きゃあっ!」

 俺はとっさに水着をキャッチし、華奢な肢体を抱き締めて隠した。押しつぶされる胸。直接当たる柔らかさ。


 すぐに水の中にしゃがませて水着を被せた。

「大丈夫だ、誰にも見られてない」

「うう……紐が、ひもは……」

「ちょっとまて、結んでやる」

 俺は彼女の背中へ手を回して、水着の紐を結んだ。ますます華奢な体を抱き締める格好。セリカは腕の中で震えていた。



 ラピシアが金色の瞳を丸くして、小首を傾げる。

「どうしたの セリカ?」

 言葉もなく、ふるふると首を振るセリカ。


 俺は呆れ顔でラピシアに言う。

「ラピシアは当分、海では回転禁止な」

「えー やだー」

「髪の毛が人に当たったら危ないからダメだ。それとも丸坊主にするか?」

「もっと いやー! ――わかった」

 ラピシアは不満そうに唇を突き出していたが、納得してくれたようだった。



 紐を結び終えて立ち上がる。

 セリカは青い顔をしていた。

「やっぱり危険ですわ、この水着というのは」

「ラピシアがレベルアップするまでの辛抱だ。我慢してくれ」

「わかりました」

 口ではそう言うものの、恨めしそうな涙目で俺を見上げていた。


 視線をそらすとラピシアが自分から海に潜っていた。顔をつけて海底を探っている。

 白スク水を着た体が、かすかに光りかけていた。

「ラピシアを水に慣れさせてくれてありがとうな」

「明日からは泳ぎの練習もしてみようかと思います」

「木の板を削ってビート板を作るか」

「それはなんでしょう?」

「体を浮かせるための浮きだな」

「なるほど。さすがですケイカさま」

 セリカは寄り添ってきた。水に濡れた金髪が光っていた。


 それからしばらくして宿に帰った。

 途中、木の板を手に入れた。

 持ちやすく、怪我をしないように角を削った。



レオについて答えてくれてありがとうございます!

いろいろ考えることができました。先の展開の参考にします!


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