第36話 海と掃除と海水浴!
なんだかエロいみたいですみません。
しばらくは水着回が続きます。
真上から太陽の光が降り注ぐ昼。
祭り最終日まであと4日。
汗ばむ熱気の中、俺は港町近くの入り江にいた。今朝になって許可が下りたので。
周りを崖に囲まれたCの字型の入り江で、南のところに海に繋がる狭い切れ込みがあった。幅は船が1隻通れる程度。ただし中はとても広い。弧を描く白浜だけで百メートルはあった。
白い砂浜に青い海。入り江のために波は静かで海の底までよく見えた。
しかし、鋭い光がきらめくと、赤や青の血がブシュッと吹き上げた。
俺は海パン一枚の姿で小さな船に乗り、《千里眼》ですべての魔物を把握しながら太刀を振りまくっていた。血しぶきが舞う。
水着姿のセリカが同乗していた。赤いビキニと腰回りに赤い布――パレオ姿だった。
細身の剣を持ち、打ち漏らしに注意してもらっていた。
扇風機になった気分で太刀を振る。海の色が変わりそうな勢い。
カエルっぽいのや、蛇みたいなの、角を持つ魚を切っていく。
「グエェェッ!」「シャビァァ!」「ゴポォッ」
するとイグアナ人間みたいなのが離れた場所に現れた。海上に足で立ち、手には槍を持っている。
しかし目は驚愕で見開かれている。
「な、なんだお前は……ッ!」
「なんだと言われてもな。ここの管理者だ。強制退去を命じる」
「ふざけるな! 人間ごときが! 殺してや――うべぁ!」
俺の無造作な横凪の一閃から生まれた風の刃が、イグアナ人間の首を刎ね飛ばす。
「邪魔だ」
すると次々にイグアナ人間が沸いてきた。船を取り囲むように立つ。
「よくも兄貴をやっ――ぎゃあ!」「ふざけやがっ――んがぁ!」「助け――ぐはぁ!」「待て、話し合――うぁ!」
喋りかけてくるが、聞く耳持たない。
話し合いの隙を突いて殺そうとしてくるだけだ。
水の中の会話すら《多聞耳》で聞こえているんだからな。
それからもサクサク処理していく。
入り江に魔物の悲鳴が反響を続けた。
同時に《真理眼》を発動しているので、たまに高い肉や素材になる魔物であれば、陸へと飛ばした。
ラピシアが怪力でキャッチして、傍で待ち構えているミーニャに渡す。
猫耳、猫尻尾をぴこぴこ動かしつつ、二刀流の包丁で解体していく。
ラピシアは白のスク水タイプの水着が可愛らしい。
ミーニャは黒のビキニを着ていた。猫耳の可愛さと相まって、アンバランスな色気が出ている。
二時間ほどで入り江内の魔物を全部倒した。
さすがに疲れて俺は額の汗を手の甲で拭った。
「ふう。これで終わりかな」
「す、すごいです、ケイカさま……これだけの魔物を全部倒されるなんて」
「弱いのばかりで助かったよ」
「いえ……ゴールドバイパーやシーリザードマンまでいたはずですが……」
「そうだったか? 記憶にないな。――あ、しまったっ」
俺は舌打ちした。
気がつくと首から鎖で下げた【勇者の証】が明滅していた。
確認すると、文字が浮かび上がる。
『メンバー(セリカ)がレベルアップしました』
『メンバー(セリカ)がレベルアップしました』
『メンバー(セリカ)がレベルアップしました』
『新しいスキルを修得しました』
セリカのLvが3つ上がって26になった。
【スキル】
烈風突き《ゲールスティング》:激しい風を伴う突き。小遠距離攻撃。
セリカが首を傾げる。
「どうされました?」
「経験値がたくさん入るんだから、先にミーニャの職業を与えればよかった。セリカは3つlv上がったな。烈風突きってのを覚えたぞ」
「まあ! ――こうですか?」
セリカが細身の剣を腰溜めに構えた。魔力を込める。そして腕を伸ばして強烈な突きを放つ。
ブゥン!
激しい風が剣から放たれた。
魔力の風が固まりとなって20メートルほど飛んで消えた。
あれだな。波動拳だな。
セリカは胸に手を当てて喜ぶ。
「素晴らしい力です、ありがとうございますケイカさま」
俺も覚えていた。
『新しいスキルを修得しました』
『新しいスキルを修得しました』
『新しい勇者スキルを修得しました』
【スキル】
回復:味方を回復させる。
幻惑:体をぼやけさせて攻撃を当たりにくくする。
【勇者スキル】
無効一閃:光の波動を飛ばして効果を打ち消す。敵に使用すると能力上昇効果を打ち消し。味方に使用すると能力低下効果を打ち消し。
「俺も順調にスキルを覚えていってるな。いい感じだ。戻ろうか」
「はい、ケイカさま」
「――おおい、イエトゥリアも、こーい」
海の入口から、ちゃぱちゃぱと白い肢体をくねらせてイエトゥリアが泳いでくる。
船を引っ張りながら、彼女が言う。
「さすがケイカさまだ。数日はかかると思うておったが」
「時間が無いんでね。さっさと終わらせないと。少し休んだら今度は湾内に魔物が入ってこないか入口で見張っててくれ」
「たやすいご用だ」
白い砂浜に上がって、上着を着て少し休む。大きな傘をビーチパラソル代わりに立てていた。
解体した魔物は荷台に載せてドライドの部下に運んでもらった。
セリカが持ってきた水筒からお茶を飲む。喉が上下するたび、服に隠れた赤いビキニが揺れた。
見すぎたためか、飲み終えたセリカが顔を赤らめながら胸を手で隠した。
「これからどうされますか?」
「もちろん、泳ぐ」
「え……この海ですか?」
綺麗だった青い海は、魔物の青や赤、緑の血でまだらになっている。
俺はひょうたんの水を飲むと立ち上がる。
「こうする――波打つ水よ 大海へ帰れ《波動爆流》」
ゴォォッと入り江に溜まる海の水が入口へ向かって流れていく。
代わりに綺麗な水が流れ込む。
すぐに入り江は綺麗な青色を取り戻した。
セリカとイエトゥリアは言葉もなく、目を丸くするだけだった。
俺は白スク水のラピシアへ言った。
「さあ、ラピシア、泳ぐ練習だ――みんなも泳げ」
「わーい うみ!」
ラピシアが海へ駆け出した。青いツインテールが後ろになびく。波内際で水と戯れる。
俺は彼女の手を取り、より深いところへ行く。
背の低いラピシアの足が届かなくなる。顔が不安にゆがみ、つないだ手をぎゅっと握ってくる。
「こ コワイ」
「体を横にして浮かぶんだ。腰を上げる感じだ」
「こ こう?」
小さなお尻を浮かせてしまい、顔が沈みそうになるので、俺は片手を離してラピシアのお腹の下に手を入れた。
何度か持ち上げては水面へ浮かせる。
「足をばたばたやってみろ」
「こう?」
パチャパチャと水しぶきが上がる。
手に掛かる彼女の重みが軽くなっていく。
「お、いいぞ……」
一瞬ラピシアが光りかけたが、進み始めたとたん光は消えた。
「こ こわい」
うーん、いきなりはだめなのか。
「ストップ。俺に掴まれ」
「わかった」
細い手足を俺の体を挟み、ぎゅっと抱きついてくる。水の中でも伝わる高い体温。
全身で抱き締められたので、動きづらいまま一度陸に戻った。
「少し考える。ミーニャと遊んできてくれ」
「はーい ミーニャ 遊ぼっ」
ミーニャがいる波打ち際へ駆けていった。
うーん。教えるって難しいな。
砂浜の傘の影で座っているセリカに近付いた。
上着を羽織り、体育座りをしている。折り畳まれた足が細いながらも美しい。
隣に座ると、吐息とともに言った。
「泳ぎを教えるって難しいな」
「見ていましたが、まずは水に慣れさせてからではどうでしょう?」
「慣れさせる?」
「わたくしが川で泳ぎを習ったときは、まず顔をつけてぶくぶくさせたり、水の中で目を開いてみる練習をしました」
セリカは顔を付ける仕草や、目を見開く仕草をした。子供っぽい演技が可愛らしい。長い金髪が広がるように流れた。
「なるほど。水を怖がる人はそこからしないとダメなのか」
「ケイカさまは水がお好きですから、慣れる過程を飛ばされたのでしょう」
「ふむ。じゃあセリカ、ちょっとラピシアに教えてあげてもらえないか」
「はい……わかりました……と、言いたいのですが、もう少しあとではいけませんか?」
セリカは不安げに身をすくませた。自分の体を抱くように。大きな胸が腕でつぶれる。赤いビキニからはみ出そうになる。
俺は不安になって彼女の華奢な肩に手を置いて顔を覗き込む。
「大丈夫か? 疲れたのか?」
「いえ……その……」
「体調を崩したなら隠さず言ってくれ。倒れられたら困る。これからも傍にいて欲しいんだから」
俺はますます近付いて、しまいにはぎゅっと抱き締めていた。
ふぁぅ、と腕の中でセリカが呻いた。
白い頬を染めて、端整な顔を俺の胸に押し付けてくる。
「ごめんなさい、ケイカさま。わたくしのわがままでした。ケイカさまは大義のためにやっておられますのに、見られるのが恥ずかしいなんて、そんな甘えたこと言ってはいけませんでした」
「見られる?」
「はい……どこから聞いたのか、すでに町の人がちらほらと……のぞきに」
「なっ! もう来たのか!? てっきり噂が広まるのに数日かかると思っていた!」
俺はすぐに千里眼で辺りを見た。近くの林や、道の傍など、十人ぐらいの男女が来ていた。若いのから年寄りまで。
――嬉しい誤算だった。
「どうしましょう、ケイカさま?」
「セリカは文字を書くのが得意だったよな? 美しいよな?」
「はい、一応、額に飾られたことなどもありました」
「オッケー。じゃあ俺のシャツを広げて、文字を書いてくれ。塗料は袋に入っている」
「な、なんと書けばよろしいのでしょう?」
俺はニヤッと笑って言った。
「もちろん『勇者ケイカビーチ』だ!」
「まあっ」
セリカは口を手で押さえ、青い瞳を丸くしていた。
俺は林に入り、まっすぐな木の棒を2本、削り出した。
それからセリカのところへ戻った。
棒を組み合わせて十字にし、そこへ文字を書いたシャツを貼り付ける。
――看板の完成だ。
「おっと。この下に『覗きは禁止 魔物とみなす 勇者より』と書いておいてくれ。あと『水着着用なら遊泳可 水着販売は裏通りマダムの店へ』とも」
「わかりました」
セリカが筆で文字を書き足した。
完成した看板を背負って、俺は砂浜に近い人から順に声をかけていった。
林の中に若い男女がいた。
「こういうわけなんだ。覗きはやめてほしい」
「勇者ケイカビーチ!? いや、貸切だったとははすまない。勇者一行が泳いでいると聞いてな」
「ごめんなさい。勇者さまが去ったあとで泳ぎたかったのです」
二人はすまなそうに頭を下げた。
「ああ、よく読んでくれ。別に貸切じゃない。水着を着てくれさえすれば一緒に泳いでもらってかまわない」
「ミズギ? それはなんだ?」
「裏通りにあるマダムの店は知っているか? そこで売っている。男性用は今俺が穿いてる、女性用は彼女たちが着ている。体の動きを邪魔しないからとても泳ぎやすいんだ」
「なるほど。泳ぎに特化した服なのか。……わかったすぐ買ってこよう」
男性が言うと、女性が海辺を見ながら言った。少し頬を染めている。
「あれ、とても可愛らしいわ。恥ずかしいけど……」
「君なら、きっと似合うよ」
「まあっ、ダーリンっ」
二人がイチャイチャし始めたので、ケイカはその場を離れた。
「そのなんだ、勇者ケイカビーチをよろしくな」
次にいたのは老婆。道端に座って入江を眺めている。
「すまないな、おばあさん。こういうわけなんだ」
看板を見せる。老婆はうなずく。
「のぞいてすまなかったのう。今ほど化け物がいなかったころは、わしもよくここで泳いだものじゃったから、懐かしくての」
「そうだったのか。……水に浮かぶぐらいならできるんじゃないか?」
「この歳では、水を吸った服が重くて、体が動くまいて」
疲れたような溜息を吐く老婆に、俺は目を光らせて言った。
「何を言う。そういうときこそ、水着だ! 水を吸っても体の動きを邪魔しない特別な布を使用している。裏通りのマダムの店で売っている。勇者である俺の発明だ」
正確には違うが、この世界では俺の発明と言ったほうがわかりやすいだろう。
老婆が目を輝かせる。
「そんな便利な物があったとはの。さすが勇者さまじゃ」
「それにここでは溺れても、あいつ――イエトゥリアという神の使いに監視させているから安心だぞ」
「よくわからんが、すごいのう。ちょっと試してみようかのう」
「ああ、楽しんでくれ。勇者ケイカビーチでな!」
俺は老婆を見送った。
その後も覗き見をしていたものたちと話しては、名前と水着を売り込んだ。
最後は入り江の道の入口に看板を突き刺した。
『勇者ケイカビーチ』と書かれたシャツが風で翻る。
「やれやれ」
暑い最中、歩き回っては熱弁を振るったので汗をかいていた。
「また泳ぐか」
すると町の方から集団がぞろぞろとやってきた。20人はいた。
追い返した人数より多い。
先頭は若い男女だった。
「これは勇者さま。さっそく買ってきました」
「一人だと恥ずかしいですが、みんなもいると勇気が湧きますわ」
女は服をずらして黄色い水着を見せた。すでに着ているらしい。
――町から近いからそういうスタイルになるか。
「そうか。それはよかった」
入り江に戻る道すがら、人々から感謝された。
「またここで泳げるなんて」「この水着、素敵ですわ」「魔物から取り戻していただいてありがとうございます」「勇者ケイカさまは思い出の守り神ですじゃ」
――いいなその名、思い出の守り神。
海の守護者ラザンの名に負けてない。
そう。
俺はラザンの名を塗り替えることは止め、別のところで名前を残そうと考えたのだ。
口々に絶賛してくる町の人たちを見るに、狙いは成功したといえた。
町の人たちが泳ぐのが好きだったとは嬉しい偶然――いや、これだけ暑い日差しだ。泳ぎたくなるのも当然だったかもしれない。
俺は陽気な気分でこたえた。
「足をつったりしないよう、軽く柔軟運動してから入るんだぞ」
「「「はい、勇者さま」」」
口々に俺を褒め称え続ける人たちを連れて、俺は入江へと戻って行った。
決勝で戦ったレオが気になるって感想を2人からもらったのですが、本編に絡めた方がよいですか?




