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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 勇者冒険編・海

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第34話 計画思案と服購入



 ホテルのような豪華な宿屋の食堂。

 朝食を食べ終えた俺は、バーカウンターに座ったまま、カウンター内にいるウェイターへ呼びかけた。

 懐から手のひらぐらいの平らな銀色のメダル【勇者の証】を取り出しながら。


「少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「はい、なんでしょう。勇者さま」

「海に魔物が増えて困ってると聞いたが、その割には繁栄しているように思えた。どういうことか知っているか?」

 ウェイターは布でコップを磨きながら、小さく息を吐いた。


「よくぞ聞いてくれました。1年ぐらい前から魔物が出没して、船が襲われるようになったのです」

「魔王がいるのだから、それはわかるな」

「しかし、やりかたがひどいのです。船を5隻ほど捕まえてから、1隻だけ破壊するのです。そして、その1隻を、船に乗っている人たちに決めさせるのです」

 バーテンはコップを置いた。カツンと冷たい音が鳴った。

 ミーニャはどうでも良さそうに、黙々と朝食を食べていた。



 俺は内心で舌打ちした。

 狡猾な魔王のやりそうなことだった。

 殺す仲間を自分たちで選ばせ、精神的な恐怖を与える。

 自分たちが選んだという罪悪感。次、捕まったら自分が生贄にされるのではないかという恐怖。怖れ。疑心暗鬼。

 人同士が信じ合えなくなっていく。


 俺は、はあっと溜息を吐く。

「なるほどな。船を破壊するという行為ではなく、生贄を選ばせるという恐怖によって、人々を怯えさせたのか。――だから海の守護者にすがる思いで、勇者ラザン祭りがここまで盛大におこなわれるんだな」

「そのとおりでございます、勇者さま」

 ウェイターは別のコップを磨き始めた。心なしか力がこもりキュッキュッと鳴っている。



 俺は考えてから言った。

「しかしだな。そこまで統制が取れているからには、それなりの司令官がいるんじゃないのか?」

「噂によりますと、四天王の一人、巨大なイカ――エビルスクイッドが来ているそうです」

「四天王か……」

 俺は黙り込んだ。

 もちろん簡単に勝てるだろう。

 しかし、今までは「光属性ではないから、魔王を倒せない勇者」としてやってきた。

 魔王は気付いているかいないか知らないが、俺になんて注目していないだろう。


 だが四天王を勇者として殺せば別だ。

 きっと魔王の「警戒する人物リスト」に載るだろう。

 面倒くさい。

 ――いっそのこと、先に魔王を殺しておいて、あとは自作自演しながら頃合いを見て勇者になるか。


 いや、この世界の神を封印したり、怨霊化させたりしてる奴だ。

 何かしら神の能力を制限する力を持っていても不思議はない。

 【魔王撃滅閃アルテマスラッシュ】を覚えるまでは戦わない方が安全か。


 ――当分は、神という素性は隠して、勇者のふりをするしかないな。



 そう考えていると、バーテンから話し掛けてきた。

「エビルスクイッドは剣では傷一つ付けられないそうです」

「まあ、それは問題じゃないな。俺なら倒せる」

「す、すごい自信です。ですが、勇者さま。傲慢な心は隙を生みます。どうかお気をつけますように」

「わかってる。忠告、心にとどめておく――エビルスクイッドの出現場所はわかるか?」

「詳しい場所まではわかりません」

「どこで誰の船が襲われたか、記録は残ってそうだが」

「船員ギルドか町長、領事館には正確な情報が届いているでしょう」


 俺は振り返ってレストランを振り返った。

 散らばって座る商人たちを眺めつつ尋ねる。

「この中で船員ギルドの関係者はいるか?」

「はい、あの人とあの人が船主なので加入してますね」

「ありがとう」

 俺は席から立ち上がる。

 教えられた商人2人をメインに、他の商人にも話しかけていろいろ聞き出した。


 

 魔物に襲われた場所や、捕獲された船の数。運んでいた品や船の持ち主。

 どれだけ航路を変えても狙われてしまうそうだった。

 商人たちは口々に魔物の恐ろしさを語った。すっかり絶望している様子だった。


 でも俺は話を総合的に考えるうちに、違うんじゃないかと考えた。

 ――誰か、裏で情報を流しているんじゃないか?

 出港の際にはどこへ行くかは届けなければいけない。他国へ行くなら領事館で入国許可を取っておく必要がある。

 その情報が流されている。


 この町に協力者がいる。ライバルたちの船が次々と沈めば、儲けを独り占めできる。

 でも自分だけ狙われなかったら怪しまれる。

 それが発覚しないように、人間に選ばせているのではないか。積荷が安いときだけ狙ってもらうとかも考えられる。



 あと咎人がどこにいるかも教えてもらった。

 町長の屋敷に囚われているらしい。

 祭り最終日に生贄として魔物のエサにされるそうだ。


 ついでに泳げそうな砂浜がないか聞いた。

 セリカの答えと同じで、魔物だらけの海で泳ぐ人はいないとのこと。

 でも町のすぐ傍に魔物の巣と化した入り江があると教えてもらった。


 だんだん、計画が頭の中で固まってきた。

 魔物を倒し、咎人を救い、『勇者ケイカ』の名を根付かせる計画。

 しかし祭り最終日まであと6日しかない。

 準備期間が圧倒的に足りない。

 どうするか。



 悩んでいるとセリカが入ってきた。白い上着に赤いスカート。

 白いワンピースを着たラピシアと手を繋いでいる。

「ケイカ おはよ!」

「ラピシアおはよう――セリカ、朝食食べたら買い物に行くぞ」

「はいっ。楽しみです」

 笑顔になったセリカが声を弾ませて答えた。金髪が楽しげに揺れる。

 暗くなりかけていた心が、それだけで明るくなる。


 優雅な仕草で朝食を食べるセリカを眺めながら、買い物は楽しもうと思った。




 午前中の明るい日差し。

 漆喰の白壁に照りかえっている。

 石畳の大通りを歩く。祭り期間とあって人々で賑わっていた。

 露店や屋台、剣技を披露する芸人や怪しげな占い師もいた。

 ミーニャやラピシアがすぐに足を止めて見物を始めるので、なかなか目的地へ着かなかった。


 ようやくたどり着いた先は裏通りにある一軒の服屋。

 看板には『マダムの店』とある。

 商人のドライドから教えてもらった。あまり流行ってなさそうな店。

 入ると店内はそこそこ広かった。しかし服と布地が所狭しと積み上げられていた。



 薄暗い店の奥には一人の女が座っていた。

 厚化粧をした年配の女マダム。頭の上に丸い耳があり、手足には黒と黄色の縞模様の毛が生えていた。獣人らしい。

 薄絹一枚の姿は熟れきった女の体が透けて見えた。

「あら、いらっしゃい。誰の紹介かしら?」

「商人のドライドから聞いた」

「まあ、ドライドさんの紹介なのね。いったい何をお探しかしら?」

「まずはセリカの着替えと下着。それからこの子の服を作って欲しい。――仕立てが得意と聞いたんでな」

 俺はミーニャの帽子を取った。ピコッと尖った耳が立つ。

 ミーニャの細い体に怯えが走る。俺の背中に抱きつくようにして隠れてしまう。


 けれどマダムはにっこりと笑った。

「お仲間なのね。……とりあえず順番にしていきましょう」

 マダムが立ち上がり、腰をくねらせながら歩いてきた。

 


 セリカとマダムは、服や布を手に取りながら相談していた。

「鎧の下に着るブラウスと、あと……下着を」

「そんな地味なのより、こっちの方があなたには似合うわ」

 マダムが手にしたのは、紫色の透け透けのパンツと胸下着。花の刺繍が施されていて、妖艶な雰囲気を漂わせていた。

 セリカが顔を頬を染めて手を振った。

「そ、そんな恥ずかしい下着は無理ですっ」

「あらあ? 奥手な相手には、これぐらい着ないと誘惑できないわよ?」

 なぜか俺のほうをちらりと流し目してくるマダム。


 セリカは、うっと声を詰まらせる。

「誘惑だなんて、そんなっ」

「今はまだ一番大切にされてるのね。だから余裕があるのよ。男なんて移り気だから、もっといい女が現れたら捨てられちゃうのよ?」

「はぅ……っ。き、きっと大丈夫です」

 セリカは涙目で俺を見てきた。

 返す言葉が見つからず、俺は無言だった。


 マダムはセリカへ寄り添いながら言う。

「もっておいてそんはないわよ~。その時になってからでは遅いのよ?」

 セリカは顔を真っ赤にして、その時を考えているようだった。


 俺は他の商品を見ながら言う。

「セリカ」

「は、はい、なんでしょう、ケイカさま!?」

「セリカが欲しいと思うものは全部買っていいからな」

「……ケイカさま。ありがとうございます」

 セリカは、青い瞳を細めて嬉しそうに笑った。



 セリカが終わると次はミーニャ。

 俺はマダムに話しかける。

「それでこの子の服なんだが、俺の服と似たような感じで作れるだろうか?」

「あら? 猫人族用の服ではなくて?」

 マダムが丸い耳をひこひこと動く。

 ミーニャの尖った耳が怯えのためかますます伏せられる。でも、はっきりと言った。

「これが、いい。ケイカお兄ちゃんと……おそろい」

「というわけだ。おそらく俺の服は初めて見るだろうから、オーダーメイドで製作してほしい」

「それはかまわないわよ。どんな民族衣装だってそれっぽく作ってあげるわ。でも、そうねえ。裏地や袖の作りを参考にしたいから見せてもらえるかしら?」

「構わない。なんなら脱いで置いていこうか?」

「そっちの方が確実ね」



 そこで俺は着物を脱ぎ、白いシャツと茶色のズボンに着替えた。首からは【勇者の証】を鎖で下げる。一気にチャラい姿になった。


 セリカがニヤニヤ笑っている。

「ふふっ。ケイカさま。似合ってます、ふふっ」

「なんで半笑いなんだよ」

「神秘的な格好に見慣れていましたから、普通の服を着られると逆に新鮮です。ふふっ」

 口元に手をあて、優雅に笑う。

 その気持ち、わからなくもないので放っておいた。


 それよりも問題はどうやって女物の着物を伝えるか。

 マダムに言う。

「それでだな、俺の着てた服は、実は男と女で形が違うんだ。えーっと……」

 布地の山の上に広げた和服を使っていろいろ説明した。

 ただ、長い裾は戦闘の邪魔になるので、膝丈にしてもらう。

 本当は刀と脇差も欲しいところだが、さすがに入手は無理だと思われた。


 口で説明してもなかなか要領を得ないので、最後はマダムの頭を触って、魔法で直接イメージを送り込んだ。

 目を丸くしながらも、マダムはうなずく。

「そっくり同じというわけには行かないけど、だいたい似たようにはできるわ」

「それで頼む――できるだけ早く頼めるか」

「勇者さまの頼みですもの。最優先で仕立てさせていただきますわ」

「助かる――が、もう一つ最優先で頼みたいものがある」

「何かしら?」



 俺はセリカが選んでいるときに見つけておいた下着を手に取った。

 サンプルとしておかれていた、女性用の胸下着――いわゆるブラジャーとパンツを広げながら言う。

「これを水に濡れても透けない生地で作って欲しい」

「何に使うのかしら?」

「海で泳ぐためだ」

 俺は息も荒く答えた。


 セリカが青い瞳を見開く。

「ちょ、ちょっと待ってください、ケイカさま!? 下着を着て泳げといわれるのですか!?」

「当然。服は水を吸うと重くなる上、手足に絡んで動けなくなる。できるだけ関節を自由に動かせるようにしたい――これが俺の故郷での水着だ!」

 セリカは綺麗な顔を真っ赤にして反論する。

「そんな恥ずかしいこと、できませんっ!」

「……水着は他にこんなのもある――《心映投射》」

 俺はマダムの頭を触って直接イメージを送り込む。ビキニ、スク水、パレオ。



 マダムは慣れたのか驚きもせず、ふむふむと頷く。

「だいたいイメージはつかめたわ。下着みたいだけど、泳ぐ力に負けない素材と縫製が必要ね。面白そうだわ」

「それをこの3人用に作って欲しい。あ、俺のは適当に短パンみたいなので構わないから、とにかく水着を大至急で」

「そ、そんな恥ずかしいもの、わたくしは着れませんっ」

 セリカはまだ顔を真っ赤にして拒否してくる。


 俺はミーニャとラピシアを見た。ラピシアはパンツを頭から被っていた。足を出す穴から青いツインテールが出ていた。

「2人は水着、着るよな? というかラピシアは絶対だが」

「ケイカが着て欲しいなら……着る」

「ラピシア なんでもいい!」

「よしよし、偉いぞ、2人とも」

 俺は2人の頭を撫でた。ミーニャは気持ち良さそうに目を細め、ラピシアはにっこり微笑んだ。


 セリカは悔しそうに唇を噛みつつ、

「わ、わたくしは、その、もう少し恥ずかしくないのなら……」

「どうせ泳ぐ時だけだ。海の中に入れば隠れるし、陸では上に何か羽織ればいい」

「……か、考えさせてください」



 俺はもう1人いたのを思い出してマダムへ言う。

「ああ、そうだ忘れてた。水着は3人分じゃないな、もう1人いる。神獣なんだが、上半身は女で、下半身が蛇なんだ。胸の大きさはこれぐらいで、下は――パンツは履けなさそうだから、短いスカートがいいだろう。できれば防御力を考慮して皮製か何かがいいかもしれない」

 俺はイエトゥリアの体を思い出しながら、手で大きさを示す。

 撫で回したのはこのためだった。


 マダムはふむふむと頷いた。

 しかしセリカが細い眉をひそめる。

「いつ、触られたのですか……? その手つき、なんだかいやらしいです」

「そう言うな。彼女のためなんだから」

 マダムは言った。

「まあ、任せてくれてかまわないわ。届け先は?」


 俺は宿屋の名を告げた。

「それでいつできる?」

「水着の試作品は明日、猫の子の服は2,3日待ってもらえるかしら」

「それで構わない。とても助かる」

「もちろん、その分のお金はもらうわよ」

「構わない。――では、頼んだ」

 俺は礼を言った。

 セリカが大金貨を何枚か支払う。


 それから店を後にした。



 昼近くになり、暑い日ざしが降り注ぐ。

 大勢の人が騒ぎながら行き交う祭りの大通りを、俺たちは歩いていく。


「さて、あとは祭りを楽しむか。いろんな屋台で買い食いしよう。他にも武器や防具、アクセサリーで欲しい物があったら遠慮なく言うんだ」

「わーい」

 ラピシアが両手を挙げて喜んだ。金色の目をキラキラさせて、屋台を物色し始める。

 ミーニャは走り出そうとするラピシアをとどめては、面倒をみている。まるで姉のように。けっこう助かる。


 一方、隣を歩くセリカはまだ怒っているらしく。頬を少し膨らませていた。

「ケイカさまって、時々、信じられないことを言ったりやったりしますね。今回なんて、ラピシアちゃんにかこつけてエッチなことさせたいだけではないですか? もう勇者とは関係ありませんっ」

「いや、そうでもない」

「どういうことです?」

 セリカは青い瞳を疑わしそうに光らせて見上げてきた。



 俺は町のあちこちに張られた『勇者ラザン祭り』のポスターを見ながら言った。

「勇者ケイカの名をこの街に根付かせるためには水着が必要だ。俺の知名度が低いままだと、北西の小国を魔王から取り返したって、今度はこの国が保護領にしてしまうだろう……俺はこのダフネス王国の勇者なのだからな」

「あ……」

 セリカが口を可愛らしく開けたまま、俺を見つめた。言葉を失っている。

 北西の小国とはエーデルシュタイン王国。セリカの故郷。


 セリカは俺の意図を理解したらしく、寄り添うように腕を組んできた。大きな胸が押し付けられる。

「ケイカさまはそこまで考えて……それなのにわたくしは目先のことにとらわれてばかり。水着を着る風習を作ることで名前を広め、民衆の後押しを得て、発言権を高められるおつもりなのですね」

「それだけじゃあ、ないがな。もっと決定的な方法も考えてある。まあ任せておけ」

「さすがですわ、ケイカさま。先ほどは反対して申し訳ありませんでした。――心して水着を着させていただきます」

 そう言うと、セリカは俺の腕をぎゅっと抱き締めてきた。見上げる青い瞳が潤んでいる。


 俺は笑顔を作って言った。

「セリカみたいな美人に協力してもらえると助かるな」

「美人だなんて、そんな……」

 セリカは顔を赤らめると、ぐりぐりと肩に顔を押し付けてきた。

 長い金髪の毛先が俺の肌に触れてくすぐったかった。


 この日は祭りを楽しんだ。宿屋に帰ったのは夜だった。



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