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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 勇者冒険編・海

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第32話 交渉と生意気な接吻


 夜。

 見知らぬ星空が広がっている。

 海に近い河口の傍には、きらびやかな明かりを灯す大きな街ドルアースが広がっていた。

 その土手になっている岸壁に、川船がずらっと並んで停泊していた。


 本来なら3日かかる川下りを1日で終えた。

 イエトゥリアのおかげだった。


 

 接岸した船から運び出されるグリードリバーの肉や素材。

 それを横目に見ながら、船の真ん中の縁に頬杖をついているイエトゥリアへ話しかけた。

「お前のおかげで魚の肉を干さずに済んだ。助かったよ」

「それはいいんだが……我は疲れたぞ」

「そうか。癒してやる」

 俺が手を魔力で青く光らせてかざした。


 するとイエトゥリアは長い銀髪から水を滴らせ、ちゃぷっと水音を立てて身を乗り出してきた。俺の手を掴み、小ぶりな胸に押し当てる。

 手のひらに丁度収まるぐらいの柔らかさ。白い肌は水のように冷たい。

 彼女は赤い目を細めて「あぁ……」と、とろけるような声を出す。

「気持ちがいいな、これは」

 俺は空いたほうの手で彼女の肌を触り、肩や腰を撫でる。

 冷たいが、すべすべした肌。抱き締めたくなるような華奢な体。

「上半身は本当に美しい女だな」

「そんなこと言われたのは初めてだな。――ふふっ、よかろう。下半身も試してみるか?」

 イエトゥリアは妖艶な笑みを浮かべると、赤い舌で唇を舐めた。尻尾がパシャッと水面に跳ねた。


「そんな趣味はない。それよりお前は一人だけなのか?」

「どういう意味だ?」

「仲間や家族はいないのか」

「結婚の日取りか? 我とそなただけで決めればよいことだ」

「なんでだよ。仲間は多いほうがお前の居場所を作りやすいんだが」

「ふむ。ならば近隣にいる同胞を呼び寄せよう。3人ほどいるはずだ」

「そうか、それは好都合だ」



 俺が手を離すと、イエトゥリアは「あ……まだ」と名残惜しげに声を漏らした。

「なんだ。まだ足りなかったのか?」

 俺は彼女のおわん型の白い胸を強く掴んだ。青く光る手に伝わる張りのある弾力。

 彼女は苦しげに形の良い眉を寄せた。

「くぅっ、なにをするっ。――わ、我のことがやはり嫌いであったか!?」

「うーん、大勢に全裸を晒すような女はあまり好きじゃないかな」


 ぐっ、と彼女は端整な顔をしかめた。

「そうなのか……人の習慣はよくわからなくてな。しかし、服を着ては泳ぎにくくなる……」

「それもそうか。あとでなんとかしてやる」

「お願いする」

 イエトゥリアはちゃぷっと水面に沈んだ。



 俺は荷物の運び出しを見守る太った商人、ドライドに話しかけた。

「なあ、ドライド。この船を王都へ戻すときは、川沿いを馬で引いて行くんだろう?」

「そうです。上りは1週間かかりますかね」

「儲け話があるんだが、乗らないか?」

 俺の言葉にドライドの目が光る。

「なんでしょう?」

「イエトゥリアを雇わないか?」

「え、あの化け物をですか!?」

「イエトゥリアは化け物じゃない。あんな姿をしているが、実は神の使いなんだ」

「そ、そうだったのですか……」

「しかも自分で体験しただろう。王都と港町を一日で行き来できるようになるぞ」

「な、なるほど。そうなると――」

「干し魚しか持ち込めなかった王都に、鮮魚を持ち込める。高速輸送をお前の商会が独占できる」

「かなりの利益が出ますね……しかし、他の船主や商人から目を付けられるかもしれません」

 確かにその可能性は高かった。

 魔物と取引をしているから魔王の手先だ、などと噂を広められては俺まで風評被害を受けかねない。


「だから、手数料だけ取って、荷物は扱ってやればいい。ドライド商会がナーガと契約する危険性を一手に引き受けるからとでも言えば、魔物と直接取引きすることに恐れをなす商人たちは従うしかないだろう」

「しかし、彼女1人ですから運ぶ量が知れてますね」

「いや、仲間を呼んでもらうことにした。最低3~4人いれば、休ませつつローテーションが組めるだろう」



 うーん、とドライドは顎を撫でる。

「それで、勇者さまの取り分はどれぐらいで?」

「高速輸送の商売が軌道に乗るまでは無しでいい。その代わりあのナーガは魔物ではなく神の使いだと周知させるんだ。勇者ケイカの偉大なる力によって魔物が心を入れ替えて神獣になったと宣伝してもいい」

「つまり全力で告知せよ、と。あなたの取り分は裏工作費用に当てると」

「そうだ。快く思わない他の商人たちが足を引っ張ってくるかもしれないからな。やってくれるか?」


 ドライドは眉間に深いしわを作って、口を横に曲げて悩み出した。

 確かに慣習を変えるのは大変だ。しかも金銭が絡むとなればなおさら。

 せっかく船を何隻も持つ商人になったのだから冒険的な商売は恐れるに決まっている。


 だから俺は駄目押しの言葉を吐いた。

「嫌なら断ってくれたらいい。別の商人にこの儲け話を持ち込むまでだ」

「ちょ、ちょっと待ってください、考えていますから」

 慌てる彼に畳み掛ける。

「お前はドライド商会を身一つで育てたやり手商人だそうじゃないか。それだからお前に持ちかけたんだ。冒険を恐れる老舗商店の何代目とかよりいいと思った。でも思い違いだったようだ」


 俺が一歩離れると、彼は飛びつくように腕をつかんできた。

「わかりました、やりましょう! 一世一代の大仕事! このドライド、全力で手がけさせていただきます!」

 ――よし。これでイエトゥリアの居場所と俺の名前の宣伝の一石二鳥だ。

「そうか、やってくれるか。頼んだぞ――それと、イエトゥリア。聞いていただろう?」



 俺が水面を覗き込むと、ちゃぷっと美しい顔だけ出してきた。銀髪が波間に広がる。

 人に全裸を見せるなという俺の言いつけを守っているらしい。

 ただ俺を見上げる赤い瞳は恨めしそうに光っていた。

「……聞いていたとも。勝手に話を進めおってからに」

「お前の得意な泳ぎが役に立つんだ。天職じゃないか。頑張れば居場所ができるぞ。しかもライバルがいないから金を稼ぎ放題だ」

「別に金などいらぬ。興味がない」

「そう言うな。人は金で取引しているのだから。貯めておいて損はない。服や食べ物がいつでも手に入るようになるぞ」

「むう。わかった」

 イエトゥリアは赤い唇を尖らせつつも納得した。


 俺はドライドに向き直る

「あとは今日みたいな魔物に襲われたら大変だから、イエトゥリアに武器を用意してやってくれ」

「それはできますが、なにがよろしいのでしょう?」


 イエトゥリアが急に目を輝かせる。

もりがあればよいなっ。できれば先が2つか、3つに分かれたようなのをっ!」

「トライデントですね。魔法銀か聖白銀で作られた物を用意しましょう」

「ありがたい」

 赤い目を細めて喜ぶ。水の下で白い蛇の体がうねった。



 俺は態度の急変に好奇心がわいたので尋ねた。

「どうした? そんなに欲しかったのか?」

「魔物に襲われた時になくしてしまってな。それ以来、ずっと代わりを探しておったのだが。なかなか見つからず困っておったのだ」

「金がないと買えないものな」

「そうか……金があればよかったのか……」

「そうだぞ。明日から頑張って稼げよ」

「わかった。金と居場所のために頑張ろう――ケイカ」

「うん?」

「感謝する」


 そう言うとイエトゥリアは、すうっと背伸びをするように水上に出た。

 俺の目線の高さまで来ると細い腕を首に回して抱きついてくる。

 美しい顔は微笑みで満たされ、赤い唇は誘うように開いていた。

 目を閉じて顔を近づけてくる。閉じられた瞳の睫毛はとても長い。


 驚く暇もなく、キスをされた。

 優しく押し当てられる、花びらのような柔らかさ。

 水のように麗しく、そして冷たい唇だった。

 すぐに彼女の顔が離れる。勝ち誇ったかのような笑顔。

「ふふっ。こっちのほうはあまり経験しておらんな」


 赤い瞳が見下すように笑っていたので、少しムッとした。

 隙を突かれたのも悔しい。



 だから俺は、水の中へ戻ろうとする彼女の薄い腰へ素早く腕を回した。

 腰と背中を抱き締めるように持ち上げる。腕の中で彼女の肢体がきしむ。銀髪が激しく揺れた。

 イエトゥリアは驚きで目を丸くする。

「な、なにをする!? ――んぅ!」

 俺は彼女の赤い唇に唇を重ねた。

 強引に舌を押し込む。並びの良い歯を無理矢理こじ開ける。

 戸惑い震える小さな舌を捉えて、お互い重ねあう。

 温かい唾液が絡み合い、ちゅくっとみだらな音を立てた。


 イエトゥリアは、整った顔を苦しげに歪めて、横を向いて荒い息を吐く。

「悪かった……我が悪かったっ! ――ぁうっ」

 俺は彼女の頭を押さえてさらに唇を吸った。

 舌の裏や歯の裏などの、柔らかな感触を存分に楽しむ。

 んうっ、と彼女が苦しそうに喉を鳴らす。

 ばしゃばしゃと蛇体がうねって水面下で暴れた。



 俺が腕の力を抜くと、彼女は白い裸体を晒して、仰向けに倒れるように水へ潜った。

 バシャーンッと水しぶきが盛大に上がる。


 そして水の中から顔を出したイエトゥリアは、自分の体を抱くように腕を回していた。

 白い頬が赤く染まり、俺を見上げる赤い瞳は涙で潤んでいる。

「うう……わ、我を抱きとめて、唇をむさぼるなど……信じられん力だ」

「これで懲りたら、もう俺をからかわないことだ」

「本当に悪かった。格の違いを思い知った。ケイカを信じる」

「ああ、格といえば――」

 言いながら辺りを見回した。少し離れてドライドがいた。驚きで固まっている。

 ――神について尋ねたかったが、今はダメだな。


 イエトゥリアは体を抱きつつ首を傾げた。

「どうした?」

「今度、暇なときいろいろ聞きたいことがある」

「わかった。いつでも呼びかけてくれ。――ではまたの」

 イエトゥリアは名残惜しそうな流し目をしながら身を翻した。

 白い裸体は蛇の尾を跳ね上げつつ水の中へと姿を消した。



 ドライドが近付いて来る。 

「魔物――ではなかった、神の使いをあんな方法で屈服させてしまうなんて、さすが勇者さまです」

 素直に褒められていいのだろうか。


 俺は頭をかきつつ言った。

「じゃあ俺も宿へ行く。どこだったかな」

「大通りの商人関係者が多い宿屋に部屋を取ってあります。お連れの皆さんも先にご案内しました」

「すまないな」

「いえいえ。これから稼がせてもらいますし、オークションの場代だけでも相当なものでしたから」

 ドライドは運び出されるグリードリバーの素材へ、ちらっと目を向けた。


 自分の船の上だからと途中からオークションを仕切ったのだった。

 仲介手数料をしっかり取って。

 その分、値段は跳ね上がった。


 グリードリバー2匹は素材や卵巣、肉などで大金貨261枚で落札された。

 これは、ミーニャの解体技術が一流のおかげでもあった。

 あとでお礼を言わないとな。

 


 それからドライドの部下に案内されて、俺は宿へと向かった。



更新時、いい忘れてました。ブクマ5000超え、評価1万超え、ありがとうございます! これからも毎日更新がんばります。

明日も夜ぐらいかもです。

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