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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 勇者冒険編・海

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第31話 白蛇女と高速川下り



 俺たちは船に乗り、港町ドルアースへ行くため大きな川を下っていた。

 幅が百メートル以上ある広い川。水深も深い。

 青い水が豊かに流れていた。


 昼食を食べて、4人でカードゲームをして遊んだ。

 セリカは上品に笑いながら手堅くこなし、ミーニャは真剣な無表情でゲームに打ち込む。しかし良い手が来ると尻尾が動いてスカートがめくれ、悪い手だと耳がしゅんっと垂れて帽子がへこむのでバレバレだった。


 こんな、なごやかな川下りがずっと続くのだろう。

 ――そう思っていたときだった。



 突然、船頭が叫んだ。

「何かに掴まれ! 振り落とされるぞ!」

「なに!?」「いきなりどうした!」「何もないぞ――!?」

 乗客たちが声を上げた。


 次の瞬間、船底にドンッと衝撃が走った。

 船全体が浮かび上がるような震動。

 乗客たちから「ひゃああ!」「うわぁぁ!」と悲鳴が上がる。

 ミーニャは猫のような身のこなしで立っていたが、ラピシアはバランスを崩して船内をゴロゴロと転がった。

 俺は叫ぶ。

「セリカはラピシアが落ちないよう見ててくれ!」

「はいっ、ケイカさま!」

 セリカは転がるラピシアを膝の上に抱き上げた。


 それを見届けてから俺は船頭の傍へと走った。

「いったいどうした!」

「勇者さんよぉ、魔物が出たんだ!」

「なにっ!?」



 俺は千里眼で辺りを見る。

 すると、体長15メートルはある、鯨ぐらいの巨大な魚が水中を泳いでいた。家すらも飲み込めそうなほど大きな口には、禍々しい刃がずらりと並んでいた。

「なんつーでかい魚だ」

「なんとか川岸に寄せて逃げるから! 船のどこかに掴まっててくれ!」


「いや、その必要はないな」

「なんだと!?」

「安心しろ。勇者である俺が切り捨ててやる」

「で、できるのか?」

「どうせできなきゃ、岸へたどり着く前に魚の餌食なんだろう?」


 船頭は目を見開いて驚いていたが、力強くうなずいた。

「わかったぜ。あんたを信じるからな!」

「もっと戦いやすい場所に移動してくれ」

「おうよ!」

 船頭は船絵尾動かし、大河の真ん中へと出た。

 早い流れに乗って加速する。


 でかい魚は俺たちの乗る船を追いかけてきた。

 とげの多い背びれが水面を切る。

--------------------

【ステータス】

名 前:グリードリバー

属 性:【水】


 攻撃力:2300

 防御力:1200

 生命力:2000

 精神力: 500


【スキル】

飲み込み:敵一体を丸呑みする。

噛み砕き:敵一体を防御値無視で粉砕する。

サーフェススラッシュ:鋭い背びれで、鋼鉄をも切り裂く。

飛翔圧撃プレッシャーダウン:飛び上って体で押しつぶす。範囲攻撃。


水属性攻撃無効:水属性の直接攻撃を弾く鱗。一切通用しない。

--------------------


 大口を開けて船を丸ごと飲み込もうとする。陽光を浴びてギラリと光った。

 ――水属性無効は厄介だな……と思うかバカめ。

 水と風が俺の眷属!


 俺は太刀を抜き払い、上段に構えながら魔法を発する。

「――《封魔水牢》!」

 水が青く輝いて、格子状の形を成す。直接攻撃ではないので通用する。

 魚は捕えられて、激しく体を左右に振った。

 もちろんその程度では壊れない。


「我が名に従うそよ風よ 鋭く集まり刃と成せ――《烈風斬》」

 俺は太刀を振り下ろした。

 鋭い風の刃が放たれる。


 ――ズァンッ!


 巨大な魚の顔、その上半分を吹き飛ばす。

 脳みそが散って、痙攣したあとで動かなくなる。


 バッシャーン、と盛大な水しぶきを上げて、魚が川に落ちた。



 おおおおお!

 と、船の乗客たちから歓声が上がった。

「すげえ!」「一撃でしとめた!」「さすが勇者さまだ!」


 などなど。口々に絶賛された。

 商人が褒めながらも、惜しそうに言う。

「いやぁ、さすがです。でも、もったいないことをしましたねぇ。グリードリバーは歯も鱗もトゲも、全部高級素材になるんですよ。肉も美味。アレだけの大きさなら、大金貨30枚は出しましたよ。惜しいことをしました」

「そうだったのか……」


 マグロ並みの高級魚だったのか。

 魔物を倒して、その素材を売るってのは考えてなかったな。

 金を稼がないといけないし、大金貨30枚(300万円)は惜しい気がした。

 とは言え、もう川底に沈んでしまった。

 次からは、釣竿でも用意するか。



 そんな事を考えていると。

 突然、船頭が叫んだ。

「もう一匹いるぞー!」

「なに!」「なんだって!?」


 俺は船頭の指差す方を見た。

 大河の向こう側を、巨大魚グリードリバーが白蛇を追いかけていた。

 白蛇は長い体をくねらせて泳ぎ、必死で逃げている。

「魚が魔物を食おうとしてる」「いいぞー、逃げろ逃げろ~!」

 乗客たちの笑い声。


 しかし俺は別のことが気になった。

 蛇としては大きい。全長5メートルはありそうだった。

 白色をして――上半身女の?

「ん?」

 俺は、目を凝らした。ただの蛇とは思えなかったから。

--------------------

【ステータス】

名 前:イエトゥリア

性 別:女

種 族:【神格種】ナーガ

クラス:祈祷師Lv65

属 性:【水】


生命力:6000

精神力:4000


攻撃力:1900

防御力:1400

魔攻力:1800

魔防力:1200


【スキル】

水槍撃ウォータースピア:敵一体に強烈な水攻撃。

水針撃スプレッドニードル:敵複数に高圧の水針攻撃。

瀑布斧撃アクアフォール:水を高圧縮の斧に変え、滝のように斬る。範囲大ダメージ。

--------------------

 ――ほう。神格を持っているのか。

 見た目は魔物みたいだが、神獣みたいだな。


 強いのに、何で戦わないのか?

 と一瞬思ったが、そういえば巨大魚は水攻撃無効だった。

 武器は持っていないようだし、逃げるしかないのだろう。



 俺は船べりに手を付いて叫んだ。

「おーい、ナーガとやら。こっちに向かってこい。助けてやるぞ~」

 俺が叫ぶと、蛇女はしばらく逡巡したのち、急激に角度を変えて向かってきた。


 船の横腹へと向かってくる蛇女。そのすぐ後ろに迫り来る大魚。


 俺は太刀を構えて呪文を唱える。

「――《烈風斬》」

 太刀を横に振ると、真横に薙ぐ斬撃が飛ぶ!


 ――ズァン!


 鯨のような巨大魚を真横に切る。

 バシャァンッ! と音を立てて魚は沈んだ。



 すると、蛇女イエトゥリアが白い蛇の体を波打たせて、船へとゆるゆると泳いできた。

 悲鳴が上がる船内。

 しかし俺は言った。

「心配するな。彼女は神の使いだ。だから攻撃するなよ?」

「ひぃっ」「なんで……いや、わかった」「勇者さまの言うとおりにするよ」

 乗客たちが静かになったので、俺は船べりに手を付いた。


 イエトゥリアが傍まで来た。背中へ届く長い銀髪から水が滴る。

 上半身は雪花石膏のように白い肌と、つんっと上を向いたおわん形の胸をした美しい女。しかし下半身は白い鱗に覆われた長い蛇。蛇の部分だけで4メートルはあった。


 彼女は整った顔を歪め、訝しげな目で満たして俺を見た。

「……なぜ、助けた?」 

「んー。魔物じゃなくて、神獣だと思ったからだ。違うか?」


 イエトゥリアは、赤い目を大きく見開いた。

「よくわかったな……そうだ、我は神格を持つ者。良くぞ助けてくれた。礼を言う」

「だったら、ついでと言ってはなんだが、倒した魚を持ってきてくれないか? 高く売れるらしいんだ」

「……納得がいかないが、命を助けてくれた上に、格上の頼み。引き受けよう」

 そういうと、長い蛇の体をくねらせて、水面へ潜った。

 今、格上って言ったな。俺が神だと見抜いたのか。



 しばらくしてイエトゥリアが巨大魚を2匹持ってきた。

 さすがに一度には甲板に乗らないので、船の横にくくりつける。


 するとミーニャが、包丁を両手に持って傍へ来た。ふんっと鼻息荒く、足を開いて立つ。

「解体……する」

「できるのか?」

 こくっと頷くミーニャ。

 相変わらずの無表情ながらも、黒い瞳には力強い意志が光っていた。

 自分の得意分野、ということらしい。


 俺は任せることにした。

「……そうか、助かる。さすが料理屋の娘だな。頼んだぞ」

 ミーニャは黒い瞳を輝かせて喜ぶ。

「頑張るっ」

 そして船の全長より大きな魚の解体を始めた。

 一蹴りで大魚の背に乗り、包丁を振るう。

 エラを切り取り血抜きをし、鱗の隙間を縫って鮮やかに肉を絶つ。

 一挙手一投足に無駄がなく、武芸演舞のように美しかった。



 俺は商人に話しかける。

「肉や素材を買い取ってもらえないか?」

「ええ、素材は買い取らせていただきますよ。ただ、肉は日持ちがしませんので、腐ってしまうかと」

「そうか。それは残念だな」

 俺が答えると、ミーニャがこちらを振り返りもせずに言った。

「……日に干せば、もつ」

「なるほど。一夜干しか。頼んだ」

「では、勇者さま。2匹分の素材が大金貨18枚、干し肉が大金貨3枚でどうでしょう?」

「相場がわからんな。いいのか?」

 まだ解体が終わっていないので、各素材はアイテムになっておらず《真理眼》は使えなかった。一匹全体として鑑定すると、大金貨1枚~100枚と幅が大きすぎて違いがよくわからない。


 ――と。

 手馴れた手つきで解体していたミーニャが、ボソッと呟く。

「これメス。卵つき。大金貨40枚じゃなきゃ……ダメ」

「な、なんだって! グリードリバーの卵巣!? 買う、言い値で買う!」

 商人が上ずった声で答えた。


 しかし別の商人が目の色を変えて立ち上がる。

「ちょ、ちょっと待て。卵巣だと! 俺が全部で45枚で買う!」

「48!」

「50!」

「ええい、60!」

 なんだか知らないが、オークションが始まった。

 メスの卵はよほどの高級食材らしい。数の子やキャビアみたいなもんか。

 他の船頭や富豪客も混じり始めてオークションは白熱した。


 俺はミーニャに任せてその場を離れた。

 船べりに手を乗せて併走するイエトゥリアへと近寄った。



 しかし乗客の一人が顔を強張らせながら言ってくる。

「勇者さま、そんな化け物と仲良くして大丈夫なんですかい?」

 

 イエトゥリアを見た。日の光を浴びて、銀髪と白い肌が輝いている。惜しげもなくおわん型の胸を晒していた。

「なんだ、お前。人間と敵対しているのか?」

 彼女は船べりに手をかけた姿勢で、首を振る。水の滴る銀髪が重く揺れた。

「別に対立した覚えはない。しかし、人間が我らを魔物と勘違いして襲ってくるのだ」

「なるほど。確かに魔物っぽいもんな」

 何気なく言うと、イエトゥリアはうつむいた。

「――魔物に襲われ、人間に追われ。我らの住みかはどこにあるというのだ……」

 イエトゥリアの彫刻のように整った顔に暗い影が差した。


 俺は思った。

 ――これは好機かもしれない。

 こいつを助ければ結果的に俺の名前を売り、信者を増やせるんじゃないか。

 頭の中で瞬時に、助けるための方法を組み上げていく。



 俺は腕組みをして言う。

「今の感じだと、お前らの住む場所なんてないんじゃないか?」

「な――っ! それもこれも、お前たち神が愚か者だから――」

「わー! 最後まで聞け! 居場所がなければ作ればいんだよ! ――ていうか俺は勇者だ! 名前はケイカ。そう呼べ!」

 そして小声で「神と言うな」と念押しした。

 神とばらされたらいろいろ終わりだ。

 必死で誤魔化した。


 イエトゥリアは納得したらしく、素直にうなずいた。

「わかった、ケイカ……しかし、居場所を作れとはどういうことだ?」

「簡単な話だ。お前が人間と仲良くしたいなら、自分は人間にとって有意義な存在だとアピールすればいい」


 イエトゥリアが不思議そうに首を傾げた。銀髪がわさっと傾く。

「……んん? いまいち意味がわからんが……」

「人間は打算的な生き物だ。自分たちにとって価値があると分かったら、見た目がどうあれ大切にする。ハチミツを取るミツバチなんて、見た目はお前より怖い化け物だぞ? 複眼だからな」

「た、確かに……でも、どうすればよいのだ? 我には人の役に立つことなど……」

「水を泳ぐ速度は早いか?」

「人の船には負けぬな」

「そうか……ちょっと待ってろ」



 俺は船頭の傍へ行く。

「ちょっと相談があるんだが」

「なんだい、勇者さま。俺にできることならいくらでも言ってくれ」

「この船はお前の持ち物なのか? それとも誰か商人の持ち物なのか?」

「そこでオークションに参加してるドライドさんが、船主だ。ドライド商会といって、輸送や交易で手広くやってるよ」

「そうかい。だったら、船首にロープをくくりつけてくれないか?」

「どういう流れでそんな話になるんだ!?」

「やってくれ、頼むから」

 俺が胸元から【勇者の証】をちらつかせながら言うと、船頭は顔をしかめながらも従った。


 船首にロープがくくり付けられた。

 その一方をイエトゥリアに差し出す。

「これで船を引っ張ってくれ」

「はぁ!? 我に人の船を引けというのか! 愚弄するにもほどがあるぞ!」

「でも、居場所が欲しいんだろう? お前の特技は水の中を早く移動できることだ」

「うむ……」

「確かに使役されるように思えるかもしれない。でもそれは最初だけだ。俺に任せろ。お前の存在価値を高めて、居場所を作ってやる」

「本当か? ……いや、どうせどこにも居場所はないのだ。騙されたと思ってやってみよう」

 イエトゥリアはすらりと細い手を伸ばし、俺の手からロープを受け取った。

 冷たい指先が一瞬、触れた。

 そして前へ回ると、彼女は船を引っ張り始めた。



 ザザザザッと高速で走り出す川舟。

「早い!」「やべぇ!」「う……酔いそう」

 乗客たちの悲鳴をよそに、猛烈な勢いで大河を下っていった。



明日の更新は夜になるかもです。

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