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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
補遺閑話集・勇者のんびり編

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第266話 ステラの協力(侯爵領問題余話)

 雨上がりの夕暮れ。

 ケイカ村の濡れた木々は西日を浴びてルビーのようにきらきらと輝き、遠くの畑も芽吹いている。


 俺は下駄を鳴らして舗装された道を歩いていた。

 向かっているは村の南側の通りに面した旅館だった。



 侯爵が24時間の救急病院を開設したことが、ずっと頭に引っかかっていた。

 考えれば考えるほど、俺のケイカ村より名前が目立ってしまうのではないかと。


 もちろん俺の生み出した飛竜宅配便と協力関係にあるから一方的にはならないとは思うが、それでもどうも気にかかる。


 そこで、ケイカ村でも侯爵国ではやらない独自のことをする必要があると考えた。



 旅館のエントランスに入ると女中が寄ってきた。

 すぐに女将の部屋へ案内される。


「ステラ。入るぞ」

 声と同時に部屋へ入ったが、桃色の髪を揺らしてサキュバスの少女ステラが飛びついてきた。


 先の尖った尻尾を鞭のようにぶんぶん振って喜んでいる。

「きゃはっ! ケイカじゃ~ん! 来てくれたんだっ!」


 俺の胸に笑顔をうずめて、形の良い胸を押し当ててくる。


 ただ少し小ぶりになった気がした。

「痩せたか? ――ああ、そうか。最近忙しくて会ってやれなかったな。悪かった」


 エーデルシュタインの行事に顔を出したり、セリカの体調を気遣ったり。

 あとは侯爵やドライドと飛竜宅配便について、詳細を詰めたりしていた。


 ステラはサキュバスなので、精気を吸わないと生きていけなかった。



 ステラは背中にある蝙蝠状の小さな羽をパタパタさせて喜ぶ。

「ううんっ、こうして来てくれたんだからっ。ぜんぜんオッケーじゃんっ♪ ――ダーリンっ」

 細い腕を回してぎゅううっと抱きしめてきた。


 一度寝てからというもの、二人っきりの時は甘えるような態度が増えた気がする。

「可愛いこと言うようになったな。まあ、そのまま聞いてくれ。今日は相談があってきたんだ」

「……ん? なぁに?」


「侯爵が24時間の救急病院を始めたのは知ってるか?」

「ほへー。そうなんだ。こーしゃくも働き者だね~」


「このままだとケイカ村の知名度が負けるだろう」

「えー。アタシ、夜も働くなんてヤダよぉ」

 ちょっと頬を膨らませて、火照る体をすり寄せてきた。

 柔らかな曲線が布越しに伝わる。



「サキュバスの癖に……まあ、夜勤をしてもらうわけじゃない。侯爵とは別の分野でケイカ村の名を広めようと思う」

「というと?」

「不妊治療を一般の人々に安く提供してもらいたい」


 彼女は和服の隙間から手を入れつつ首を傾げた。肌を直接なでる指先がくすぐったい。

「ん~、それならいいけど……でも、他の夢魔たちが怒るんじゃない?」


「あ~、価格破壊になってしまうのか」

「うんうん。みんな、貴族や豪商相手にかなりふっかけてるからね~」


「だったら金持ちは相手にせず、貧しい人たちだけにしよう」

「それなら……いいのかなぁ? アタシ、わかんない」

 眉間にしわを寄せつつ、もぞもぞと動いて俺と自分の帯を解いた。より肌同士が密着する。

 胸や鎖骨を小さな舌でチロチロと舐め始めた。



 俺も彼女の丸みを緩くなぞりながら呟く。 

「夢魔伯爵と話し合うしかないか」

「う……1人で行ってきてね」

「史上初の魔王を倒した勇者と寝たサキュバスなのに、まだ嫌われてるのか?」


「ううん、その逆なんだけど……だってさぁ、絶対どんなプレイしたか聞かれるしぃ……頭真っ白でほとんど覚えてないし……」

 後半は顔を赤くして消え入りそうな声で言った。



「ほう――だったら今度は記憶にしっかりと刻まれるぐらいのことをしようか――ほら」

 半脱ぎの浴衣をめくって小ぶりなお尻をきゅっと掴む。 


 ステラは頬を染めて悲鳴を上げた。

「ひゃっ!? だ、だめぇ……まだ夕方じゃん――っ」

「明るいほうがよく見えて覚えていられるんじゃないか?」


 むうっと赤い唇を尖らせて、上目づかいで俺を見上げる。

「……そりゃあ、そうだけどぉ~恥ずかしいじゃん……」

 顔を真っ赤にしてうつむく。


 大胆なのに恥ずかしがり屋のサキュバス。

 この先、生きていけるのだろうか。



 ふと名案を思い付いたので実行することにした。

 ステラの薄い腰に腕を回して軽く上へ持ち上げる。「あっ……」と彼女は腕の中で声を漏らした。


 俺が顔を近づけると、ステラは目を閉じて上を向く。赤い唇が誘うかのように開けられている。

 彼女のほうからもつま先立ちになって近づいてくる。


 ――が。

 俺は唇が降れるか触れないかぐらいで避け続ける。

 彼女の呼吸が乱れて次第にあえぎだす。

 そして泣きそうな顔になって言った。

「どうしたの、ケイカぁ? じらさないでよぉ!」 


「続きは一緒に行ってからだな」

 にやっと笑って言うと、彼女は盛大に頬を膨らませた。

「ずる~い! ――もうっ、ケイカったらますます悪くなってるぅ!」


「そう言うな。さあ、さっさと行って終わらせよう」

「ぶふ~」

 拗ねだしたステラの桃色の髪をぽんぽんとなでて慰めた。


       ◇  ◇  ◇


 大陸北西の海近くにある夜魔伯爵領。

 地下に建設された享楽都市ウォルピタスは今日も熱気と退廃的な雰囲気を漂わせている。


 俺とステラは大通りの奥にある夜魔伯爵の屋敷にいた。

 いかがわしい展示物の飾られた応接間にて、夜魔伯爵マッシブと相対している。

 もちろんおかしな薬の入ったお茶には手を出さない。



 要件を話し終えたところ、向かいに座るマッシブは大げさに顔をしかめた。

「それは困る。不妊治療は夜魔伯爵領の重要な外貨獲得手段の一つなのでな。誰でも受けられるようになってしまっては夜魔たちの価値が下がることにもつながりかねん」

 言い終えると、彼は筋肉質の大きな体格をソファーにうずめた。


「なるほど。大金を出してでも跡目を作りたい者たちに限るというわけか」

「その通り。そしてこの能力を周知してあるからこそ、夜魔伯爵領はどこからも攻められずに安泰なのだよ」

 マッシブは足を組み替えつつ堂々と言った。どこか誇らしげだった。

 能力を広めて人間と友好的な関係を築いたのはマッシブの功績なのかもしれない。


 確かに、と俺は思う。

 ケイカ村でステラが不妊をするようになると、相対的に他のサキュバスやインキュバスたちの地位が下がる。

 夜魔たちがただの魔物扱いになれば、いろいろと迫害などのもめ事が起きる可能性が出てきそうだ。



 隣に座るステラが背中の羽をパタパタさせながらのんきな声で言った。

「ほら~、言ったとおりじゃん? 侯爵に勝てるチャンスだったのに、ざんね~ん」


 俺は顎を撫でつつうなずいた。自然と眉間にしわが寄る。

「困ったな……侯爵に勝つには不妊治療で人気を集めるのが一番だと考えたんだが……夜魔たちの今後を考えると、厳しいな」



 するとマッシブが目を見開いた。

「なに!? 侯爵に勝つだと! あのデスペラードのやつか!」

「そうだが?」

「奴は何をやったんだ!?」


 前のめりになって食い気味に話しかけてくる。

 ――そういやこいつ、地獄侯爵をライバル視していたな。



 俺は軽く説明した。

「侯爵は24時間営業の病院を始めたんだ。飛竜宅配便と組んで緊急患者を全部収容することになった」

「なんだとぅ! あの高慢男め! また変なことをして人気者にでもなるつもりか! ――くぅ!」


 マッシブは並びの良い歯で、ぎりっと音を立てて歯ぎしりした。



 ちらっと横を見ると、ステラがウインクしてきた。

 偶然じゃなく、わかってて侯爵の名を出したらしい。

 ――お手柄だな。


 俺はチャンスを無駄にしないよう考えつつ、片手でステラの頭を撫でてやった。

 彼女はくすぐったそうに目を細めて笑った。


「そうだな。このままだと地獄侯爵の名前はますます知れ渡り、尊敬されることになるだろう。ここはひとつ、差を開けられないためにも夜魔伯爵とその仲間の力を示さないとな」



 マッシブは声に憤りを漲らせて叫ぶ。

「だったら私も飛竜宅配便とやらと組んで、娼婦を全国の家庭に送り届け、世界を愛欲で埋めつくす――」

「まて! デリヘルなんかを普及させるんじゃない! ――つーか、そんなことしたら、勇者の討伐対象になるぞ」


 太刀に手を当ててカチャッと無機質な音を立てて脅すと、マッシブの顔に大粒の汗が噴き出した。

「いや、まあ。――あはははは! 私なりのジョークだよ。面白かったかね?」

 乾いた声で笑うマッシブ。



 俺は肩をすくめて太刀を戻した。

「まあ、いいだろう。それより不妊治療をケイカ村でおこなうことを許可してくれ。貴族や大商人には施さない。子供ができなくて困っている貧しい人々に授けるだけだ」


「貧しいの基準があいまいではないかね? それに普通の人々も子が欲しくなれば押し寄せるだろう? 勇者としてはその者たちを追い払うわけにもいくまい」



 ここぞとばかりに不敵な笑みを浮かべてマッシブを見る。

「甘いなマッシブ。そこは治療の条件次第でどうにもなるだろう」

「条件次第? どういうことだ?」


 

「生まれてくる子は必ず双子か三つ子にする。これだと上流階級は跡目争いがややこしくなるからまず利用しないし、不満も出ない。それに普通の家庭や貧しい人々でいきなり三つ子を育てることは苦しいから、よっぽど子供が欲しい人でない限り利用しない」


 それにこの世界における双子や三つ子の出産時母子死亡率は桁違いに高い。

 ケイカ村の病院でしか安全な分娩は不可能だろう。

 俺か侯爵のところでしか帝王切開はできないしな。



 ぐぬぬ、とマッシブは唇を噛んでうなった。

「確かにそれなら差別化はできるし、抑止力になりうるだろう……」


 ステラも横で感心した声を上げた。

「双子は不吉って迷信もあるぐらいだしねぇ~。利用する人は限られそう。それでも欲しい人にとっては覚悟を決めてきそうだし。さっすがケイカ!」

 自分のことのようにとがった尻尾を揺らして喜んでいた。



 しかしマッシブの顔にはまだ不信が残っている。

「必ず双子や三つ子……当然、私たちならそれぐらい可能だが、夜魔はそういう能力しかないのかと疑われるのではないかね?」


「それは適当に誤魔化せばなんとかなるだろ。不妊だった反動で多く生まれてしまうとかなんとか。いやなら大金を出せば高度な施術をおこなって一人だけ生まれるようにできると言えばいい」


「利用者を丸め込むぐらいできるんじゃない? アタシたち、ベッドの上での演技なら超得意だしっ」

 きゃはっ、とステラはかわいい声を上げて陽気に笑った。



 マッシブは四角い顎を撫でて考え込んでいたが、うむっとうなずいた。

「夜魔の実力を示すいい機会になるだろう。わかったケイカ村でのみ、不妊治療を行うことを許可しようではないか」


「そうしてもらえると助かる」

 俺が手を差し出すと、伯爵はしぶしぶといった感じで握ってきた。

 握手を交わしてから、俺は村へと戻った。


       ◇  ◇  ◇


 夜のケイカ村。

 旅館にある女将の部屋に戻ってきていた。

 ベッドの端にステラと並んで腰かけている。


 ステラは何か考え事をしていたが、唐突に言った。

「でもさー、アタシ思ったんだけど」


「なんだ?」

「貧しい人に子供できたら、生活ますます苦しくなるんじゃないの?」



 俺は大仰にうなずく。

「ああ、その通りだな」

「それなのに普及させるの? ケイカってば、人気が欲しいんでしょ? 逆に恨まれたり、嫌われたりしちゃうんじゃ……?」


「いやいや。その逆だ。困る人がいる限り、勇者は彼らを助けて活躍できる――つまり人助けの結果、わざと困る人々が生まれてしまう仕組みを作ったんだ」



 ステラが桃色の瞳を見開いた。

「くろっ! ケイカめっちゃ腹黒い!」

「ふっ。なんとでも言え。人々は困ってこそ、俺を思い出すんだからな」


 困った時の神頼み。

 魔王が倒されて世界が平和になろうとも、人々が困り続ける限り勇者の需要は減らない。

 俺は名を売り込み続けられる! 勇気と慈愛の神として後世にまで名を語り継がれるだろう。


 

 ステラは、むむ~とうなっていたが最後にはうなずいて笑顔になった。

「まあ、いっか! ケイカならうまくやっちゃうだろうし。あはっ」


「だな。それと今日は助かった。ありがとうな」

 そっと肩を抱き寄せると、ステラはびくっと体を震わせた。

「やん……もう? 今日は優しくし――んう」


 全部を言わせず、彼女の唇をキスでふさいだ。

 知識だけは豊富なせいか、変幻自在の舌の動きは素晴らしい。けれども、どこかぎこちない。

 そのまま華奢な体を抱きしめつつ、手は彼女の素肌を撫でていく。


 

「やっ……だめだよぅ」

 俺の腕からするりと抜けてベッドの上に倒れこんだ。

 ただ、いつの間にか浴衣の帯は解かれていて、白い肌をみだらにさらしている。


 上体をひねっているため、胸や腰の曲線がなまめかしく強調されていた。

 こういう男を誘う仕草だけは一人前。

 ――ただし。


「まだまだだな」

 俺は床に落ちた彼女の帯を拾うと、ゆっくりと覆いかぶさる。


 彼女の瞳が丸く開かれる。

「ふえっ! きょ、今日はそっちのほう!? ――や、やだ。あんなことやこんなことまでっ」

 耳まで真っ赤になって目を回していた。


 経験がほとんどないのに知識だけは豊富なので、勝手に先まで考えてはオーバーヒートする。

 これが頭真っ白になって何も覚えていない原因だと思う。



 苦笑しつつ、体を合わせつつキスをする。

「どこまで妄想してるんだか……」

 耳元でささやきつつ、さらに耳たぶを優しく噛んだ。


 それだけでびくっと肢体を震わせて、弓なりに背をそらした。

「ああんっ! そんなに激しくっ。 ――ケイカぁっ!」


 まだ何もしてないのに。

 軽く触るたびに、妄想を働かせた彼女が悲鳴を上げる。

 普通に抱きしめてるだけなのに、耳年増というのもなかなか大変そうだった。



 それからお互い汗をかき始めるころ、深いキスをしてたっぷりと食事を与えた。

 ステラはすらりとした足をぴーんと延ばして三度ほど体を震わせる。

 それからベッドの上にぐったりと倒れこんだ。


 浅い呼吸を繰り返しながら、華奢な指先でお腹をなでる。

「もうおなかいっぱい……ケイカの熱い……当分ご飯いらない……」


 隣に寝ながら、乱れた髪をなでて整えてやる。

「毎回、大変だな。今回は覚えてられたか?」

「ふぇ? ……そんなの……わかんないよぉ……」

 ステラは弱々しく首を振った。緩やかに揺れる桃色の髪。俺を見る瞳が切なく潤んでいる。



 俺は苦笑しながら彼女の髪を撫でつつ、快活に笑いかける。

「だったら、記憶が残るぐらい強烈な感じでしようか」

「やっ、ちょっと! ムリだから! もう入らないからっ! ――やぁんっ」

 そう喘ぎながらもステラはぎこちなくキスを求めてくる。


 また二人の甘く激しい吐息が交差する。

 夜はまだまだ明けなかった。



  ステラの協力(侯爵領問題余話) 終

前回の侯爵領問題解決では禍根を残しそうだったので、今回で穴をふさぎました。

たぶん払拭できたのではないかと。


警告来たので大幅に削除しました。

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