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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
補遺閑話集・勇者のんびり編

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第265話 問題解決?(侯爵領問題その4)

 侯爵の指示の下、ケイカ村で妊婦の入院生活が始まった。

 母子の体調管理から、病気予防。


 出産時における手洗いや熱消毒はもちろんのこと、殺菌魔法なる魔法も使用された。


 ひっひっふーといういきみを逃がす呼吸法がケイカ式呼吸法として取り入れられた。


 おかげで妊婦たちは無事出産を終え、元気に退院していった。

 何例かの成功例の後で、セリカも入院することになる。

 セリカの場合は国務があるので通院という形になったが。


       ◇  ◇  ◇


 ある日のこと。

 俺は病院でセリカの診察に付き添っていた。


 狭い診察室の中、俺とセリカは椅子に座っていた。

 向かいには象獣人の女医がいて、鼻で掴んだ聴診器をセリカの大きな胸や、少し膨らんできた腹に当てて診察している。


 それから聴診器を離すとカルテに何かを書き込んでから言った。

「無事に育っているようです。流産の危険も当分ないでしょう」

「ありがとうございます、先生」

 セリカは金髪を揺らして礼を述べた。心からの喜びを言葉に感じる。



 俺は隣に座るセリカの肩を優しく抱く。

「もう何人も無事に出産している。これでセリカが無事出産すれば、誰も文句を言うものはいなくなるだろう」


「ええ、その通りですわ。すでに多くの方々が無事に、笑顔で退院しました……本当にありがとうございます、ケイカさま」

 彼女は美しい笑みを浮かべて言った。



 それから二人で屋敷に帰った。

 巫女服を着た猫獣人ミーニャが尻尾を揺らして出迎える。

「ケイカお兄ちゃん、エトワール来てる」

 

「ほう珍しいな。向こうから来るとは」

「報告、らしい。侯爵の」

「わざわざ来るってことは、話が進んだな」



 応接室に入るとエトワールがソファーから立ち上がって頭を下げる。

「お待ちしておりました、ケイカさま。ご朗報ですわ」


「おー、うまくいきそうか」

 俺とセリカはエトワールの向かい側に並んで座った。



 ミーニャがお茶を運んできて置いていった。

 お茶を飲んで一息つくと、エトワールが赤髪を揺らして態度を改めた。

「ケイカさま、ご報告です。母子ともに健康に出産できることはほぼ確実と認められました。これによりケイカさまと侯爵さまの力は高く評価されました。また、血筋の存続を強く望む貴族や富豪たちが強力に後押ししています。安全な産婦病院を全国的な制度にせよと」


「領土の割譲は認められそうか?」

「むしろ魔物を国民とするよりも、侯爵領を独立させて協力関係を結んだ方が治めやすいと考えておりますわ」


「魔物に対する法整備やその他いろいろ考えると、そっちの方がいいだろう。うまくことが運んでいる感じだな」

「はい。さすがケイカさまですわ」

 エトワールは心酔する瞳で俺を熱く見てきた。



 隣のセリカが金髪を揺らしてうなずきつつも、なぜか俺に寄り添ってくる。

「ええ、母親たちの怖れや苦悩を取り除かれるとは、ケイカさまはなんてすばらしいのでしょう。エトワールさまもこのたびの働き、ありがとうございました」

「とんでもありませんわ。すべては恩人ケイカさまのため――って、ケイカさまをあなたからとったりはしないわ。そんなに警戒しないでくださいまし」


 セリカは顔を真っ赤にして俺から離れた。

「ご、ごめんなさい。つい……」


「子供ができてナイーブになるのはしかたない。心配するな、セリカが一番大切だから」

「はい、ケイカさまっ」


 セリカが嬉しそうに、ほほを染めた笑顔でうなずいた。

 対面のエトワールがぐぬぬっと悔しそうな顔をしていたが気にしない。



 こうして問題は解決して、すべては丸く収まった。


 めでたし、めでたし。



 ――となるはずだったが、一人だけ納得しない者がいた。

 一番面倒くさい奴が。


       ◇  ◇  ◇


 ある朝のこと。

 俺が自室のベッドに寝転がって信者の願いを眺めていると、突然部屋の扉が開いた。


「ケイカ! いったい、どういうことだ!」

 入り口には侯爵が黒マントをなびかせて立っていた。

 風もないのにマントがばたばたとなびいている。

 怒っているらしい。



 俺はベッドから起きあがりつつ頭をかいた。

「いったいどうした、侯爵」

「どうしたもこうしたもない! なぜ我が国の名前が地獄侯国ではないのだ!」

 鋭い犬歯を光らせて、睨み付けてきた。


「地獄なんて名前だと、人々が拒絶反応起こすからな」

「他人の感情など、知ったことではないわ! 我輩はこの世を地獄に変えるために日夜努力をしておるのだ! それがデスペラード侯国などという、普通な名前でいいと思うのかっ!」


 ぷりぷりと怒っていた。


 俺は肩をすくめつつ言った。

「さすがにそんな名前では認められないだろう」

「我輩は地獄侯爵だ! 我輩こそが地獄なのだ!」



 ――やれやれである。

 本人は地獄という名称にこだわっているようたが、さすがにまずい。

 しかしこのまま放置して侯爵の感情がこじれても困る。


 なので、適当にごまかすことにする。



 俺は居住まいをただすと真剣な口調で諭すように言った。

「では聞くが侯爵。本当にその名前でいいのか?」

「なに!?」


「今はまだ完全な地獄が完成したとはいえないだろう。それなのに地獄の名を使用しては、人々に『地獄なんてこの程度か』と思われかねないぞ」


「なっ!? ……ふむ。確かにそうだ。我輩の地獄が生ぬるいと思われてはかなわんな。くくくっ、いつか地獄が完成した暁には人々を恐怖のどん底につき落としてくれるわ! ふははははっ!」


 狭い部屋の中に侯爵の高笑いが響く。

 朝からこのテンションは疲れる。

 でも単純で助かった。



「そうだな。将来頑張ってくれ。――もういいか?」

「ふん、茶の一つも出ないこの狭い部屋で、無駄にする時間などないわ!」

「勝手に来ておいて、その言いぐさはないだろ」


 俺の言葉に、にやりと不敵に笑う侯爵。

「ふふん、ケイカはまだまだだな。我輩の地獄は朝も深夜も開いておるぞ!」

「ほう。ついに24時間営業になったのか」


「国交が樹立すれば人が来るからな! 夜が得意な魔物に深夜勤務をさせ、訪れた人々を常に震え上がらせてくれるわ!」

 得意げに胸を反らす侯爵。



 彼の言葉が気になったので尋ねる。

「夜に震え上がらせるって、あれか。お化け屋敷でもするのか」


「くだらん! 見損なったぞ、ケイカ! それのどこが地獄だというのだ!」

「じゃあ、なにするんだ?」


「聞いて驚くな……24時間入院できる病院だ!」

「ほう。最先端医療がいつでも受けられるのか」

「夜にすら人を死なせず、我輩の地獄に引きずり込むのだ! ふははははっ!」

 残忍な笑みを浮かべてふんぞり返った。



 彼の高笑いを聞きながら、少し考え込む。

 ――24時間営業されてしまうと、ケイカ村よりも目立つことになる。

 侯爵に信者を奪われかねない。


 あくまで俺の名を同時に広めなければ……勇者の活躍が目立つから人々も安心していられる。

 魔物の名前だけが広まると不安を掻き立てかねない。

 信者を奪われるのは癪だしな。


 でもどうする?

 ケイカ村で同じ24時間体制を敷くのは難しい――いや、日本の制度を考えればまだ名前を売り込む隙間はある!



 俺は不敵な笑みを浮かべて、言葉に少しだけあざけりの色を込めて言った。

「ふむ。それは便利だが……まだまだぬるいな、侯爵は」

「な、なんだと!? これ以上、なにをしろというのだ!」



 憤慨して牙をむく侯爵に対して、なだめるように言った。

「今のままじゃ待ってるだけだろ? 飛竜宅配便と組んで、夜間も病人を搬送させるようにすればいい。大陸全土からな」


「な、なんと! 死にかけている病人やけが人をこちらから動いて地獄へ連れ込むというのかっ! そして地獄から抜け出せなくなる! な、なんという恐ろしいことを思いつくのだ! やはりケイカ、魔王を倒した恐るべき男よ」


「あとは、人員に余裕があるなら、夜の得意な魔物は町や村を見回らせるといいだろう。夜すら支配下に睨みを利かせられる。また侯爵のものである村の財産や畑の被害を、害獣や山賊から守れて一石二鳥だ」



「むう! その手があったか! 移住希望者が殺到して、我が町を守護させるだけでは人手があまっていた。これで心おきなく全員に仕事という地獄を、領土全域には恐怖をばらまけるぞ、ふははははっ!」



 ――どう考えても、夜間警備だけど。

 おそらく大陸随一の治安のよい国になりそうだ。

 人々の心境も変わってくるだろう。


 ちょっと手助けしすぎたか?

 まあ、侯爵には世話になってるから、これぐらいはいいか。



「では急がねばならんな! 飛竜を捕まえてこなければ!」

「いやドルアースのドライド商会が飛竜宅配便を一手に引き受けているから、話を持ちかけてみてくれ」

 当然、ケイカ飛竜宅配便は勇者マークの安心印。

 俺の名前が同時に広まるっ!


「ほう! すでに組織しておったのか! ぬかりないな、ケイカは! ――では、さらばだ! ふははははっ」

 侯爵はマントを翻して大股で歩いて部屋を出ていった。

 高笑いが低い声になりつつ遠ざかっていく。



 静かになる室内。

 入れ替わりに静かに扉が開いて、セリカが入ってきた。 


「今、高笑いが聞こえましたが、侯爵様でしょうか?」

「ああ。急に来て、急に帰ってった」


「あの方らしいですわ」

 ふふっと笑いながら傍へ来る。

 二人並んでベッドに腰掛けた。



 優しく肩を抱きつつ、おなかをさする。

「体調はどうだ?」

「ええ、安定期に入ったところ、ずいぶんと楽になりました」


「そうか、でも気をつけてな」

「はいっ、もちろんですわ」



 少し膨らんだおなかを優しくさする。

 華奢なせいか、あまりおなかは目立たない。


 でも手を当てていると確かな命を感じる。

「俺の子か……」

「はい、もちろんですわっ」


「いあ、疑ったわけじゃなくて……もちろんそうなんだが……うまく言えないな」

 困ってしまって頭をポリポリと掻いた。



 セリカが俺へしなだれかかるように抱き着いてくる。

 柔らかな体とあたたかな体温。

 花のような香りが広がる。


 俺の胸に顔をうずめつつ、嬉しそうに言った。

「わかりますわ。ケイカさまは父親として実感されたのでしょう……本当に、ありがとうございます」

「礼を言うのは俺のほうだ。ありがとうな」


「はい、ケイカさまっ」

 素直にうなずく彼女が急にいとおしく感じて、唇を重ねた。腕の中で「ぁ……っ」と切なくなくセリカ。

 そのあともできるだけ優しく抱き合いながら、父親になるのも悪くないなと心の中でふと思った。



  侯爵領問題 終

 ブクマや評価など、応援いただきありがとうございます!

 2巻も早いところ(東京)では明日13日あたりから書店に並び始めるようです。

 下の表紙見てもわかりますが、どうかご期待ください!


 さて。今回の侯爵領問題。

 辺境大陸の話とまとめて解決するつもりが、うまくいかなくて別の話になりました。

 それとは別にリリールとリヴィアの話も必要そうです。

 ステラが先かな。


 続きはできるだけ早く書きたいと思います!

 お読みいただきありがとうございました!

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
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