第26話 夜中の謁見(情報収集5)
俺は夜の街を歩いていた。
石畳に下駄の乾いた音がからからと鳴る。
そして街の中心にある王城へと着いた。
当然ながら両開きの大きな門は閉まっていた。
見張りに立つ中年の門番に、世間話のように話しかけた。
「こんばんは。少し尋ねたいんだが」
「何者……って、勇者さま。こんばんは」
「王様の寝室はどのへんか分かるか?」
「王様の寝室は確か、南側の中庭に面した最上階かと……いったいなぜです?」
「いや、ちょっと気になっただけなんだ。ありがとよ」
「はあ」
不思議そうに首を傾げる門番をあとにして、俺は門前から立ち去った。
城の外壁に沿ってぐるっと回りこむ。
南側の塀沿いの道に来たところで立ち止まった。
「風よ」
俺に従う風を呼び寄せ、地面を蹴って飛翔する。
夜空に弧を描いて俺は飛んだ。
そして城の屋根に乗った。
《千里眼》で南側の部屋を見ていく。部屋数が多い。
そのうちの一つに、ベッドに入って本を読む王様がいた。寝巻きを着てナイトキャップを被っている。
サイドテーブルにはランプの光が灯っていた。
「ここか」
俺はまた空を飛んで、部屋のバルコニーに降り立った。
テラス窓を開けて部屋へ入る。鍵は掛かっていなかった。
寝室へ入ると、王様が本から顔を上げた。
「ん? そなたは確か新しい勇者であったな。ケイカだったか……勇者はいつでも王に会えるし、どこへでも入れる許可があるが、時間を考えてくれんかの? そろそろ寝るところじゃ」
「夜分遅くにすみません、王様。ですがどうしても聞いておきたいことがありまして」
「ほう。なんじゃ?」
「王様は魔王を倒したいと考えておられますか?」
「む? おかしなことを聞く。当然であろう」
その言葉に嘘偽りは感じられなかった。
俺は居住まいを正して質問する。
「では、この王国に魔王の影響力がどこまで及んでいるかご存知ですか?」
すると王様は眉間に深いしわを寄せてうつむいた。
何か知っている様子。
苦々しい声を絞り出すようにしていった。
「なるほどな。そなたが深夜に忍び込んできたわけが分かったわ。他の誰かに聞かれたくなかった、というわけじゃな」
「はい、そうです」
「さすが勇者じゃ。目の付け所が違う……この国は、どこかおかしいと感じておる。それは昔からじゃった。薄々は魔王の影響を受けておるように感じておった」
「さすがです、王様」
「しかし、証拠が何もなかった。ただ言われるままに頷くしかなかった。下手に動こうものなら、父のように消される可能性もあったからな」
「なるほど。賢明でしたね」
「魔王を倒せる勇者の出現をどれだけ待ち望んだか……だが、忠告しておこう。そなたもまた、魔王には勝てぬ存在であると」
俺はベッドの傍まで行った。
「これでも、ですか?」
じっと王様を見つめる。
王様は、首を傾げつつも、底を見通すような目で俺を見た。
そして、唇を震わせた。
「そ、そなた! 光の力を持つ、真の勇者ではないかっ! おお、なんということだ! あの時は光が見えなかったというのに」
――やはり王様は、ステータスを見れる導師の力を持っていたか。
俺は力強く頷いた。
「ええ、ホーリーゲートを通るために、ちょっと隠していただけですよ」
「な……っ! そんなことができるとは……! まてよ?」
「ええ、そうです。咎人システムは真の勇者になりうる人を殺すシステムです」
王様は、はぁ~と長い長い溜息を吐いた。あごひげがゆらゆらと力なく揺れる。
「そうであったか……そんな気もしておったのだが。ではあの若者も光を持つ者か……自分の無力さが情けないのう」
「お気を落とさずに、王様。話が分かる人で本当に助かります」
「それを聞きに来ただけかの?」
「もし、魔王を倒したら、咎人システムは撤廃していただけますか? 魔王の策略であったという訂正と謝罪も同時に」
「うむ。魔王を倒してくれるのであれば、いくらでも約束しよう」
よし。これでセリカは王国を取り戻したあとも、本当の王女として「もっと生きれる」ようになる。あと魔王を倒すだけでいい。
「あと、咎人を見つけたら、俺に知らせてもらえませんか?」
「うーむ。咎人関連は教会が仕切っておるからな。難しいのう」
「ヴァーヌス教でしたか」
「そうじゃ」
教会の力が強ければ口を出すのも難しいだろう。
魔王の息が間違いなくかかっているだろうし。
そのうち暇なときにでも教会のトップ辺りを粛清すればいいか。
一応聞いておくか。
と思ったら王様のほうから聞いてきてくれた。
「他にはあるか?」
「そうですね。この国にいる魔王の手先となった人間たちはどうしましょう?」
「う~む。難しい問題じゃの。脅されて、無理矢理従わされておる可能性も考えられるからの」
「ですね。では悪質と思えるものだけ排除しましょう」
「うむ。その辺は勇者であるケイカに任せよう」
王様は鷹揚に頷く。ナイトキャップが揺れた。
俺は頭を下げた。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
「頑張ってくれ。この国を、この世界を頼む。そなただけが頼りじゃ」
驚いたことに、王様が俺へ頭を下げた。
自分より身分が下で(見た目は)若造である俺に対して頭を下げるとは。
「任せてください、王様」
この王様のためなら頑張ってもいいかなと俺は思った。
もう一度頭を下げて城をあとにした。
宿屋へ帰ると、白い裸体を晒すセリカの隣にラピシアが寝ていた。
ラピシアのワンピースの裾がめくれて、子供らしい下着や平らなお腹が見えている。顔はセリカの胸の上。まるで赤ん坊のように大きな胸を掴んで顔を埋めていた。
セリカは苦しそうに顔をしかめていた。
俺は二人を引き離すと【勇者の証】を取り出していじる。
『パーティーに加える人を選んでください』
矢印が出たのでラピシアへ向ける。
パーティーに入れた。一応【勇者の証】の裏を見て名前が刻まれたことを確認する。
「やれやれ」
溜息を一つ吐くと、空いたスペースに割り込んで寝た。
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これからもゆるゆると頑張ります。次話は昼過ぎぐらいに更新。




