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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 勇者冒険編・海

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第22話 どこへ旅立つ?(情報収集1)

二章開始です。今回もできるだけ毎日更新を目指します。

ただ軌道修正したら旅立ちまでが長くなってしまいました。

次話は夜にでも。

 俺は勇者試験を突破し、ならず者を倒し、人々に祝福されて勇者になった。



 すがすがしい朝。

 王都の上に広がる青空を小鳥が鳴きながら横切っていく。

 俺とセリカは朝食を終えて、宿屋の部屋にいた。

 ベッドに並んで座り、今後のことを話し合う。

 

 赤いスカートに白い上着を着たセリカが俺へ顔を向けた。澄んだ青い瞳と、揺れる金髪が美しい。

「これからどうされますか、ケイカさま?」

「そうだな……いろいろ考えてはあるんだが……まずはセリカの意見を聞きたい」

「そうですね……わたくしとしては、魔王の支配する北へと旅立ち、魔物に奪われた土地を取り返すのがよいかと思います」

「普通に考えるとそうだな」

「ケイカさまの強さなら、どんな魔物にだって勝てますわ」



 俺はしばらくセリカの考えを吟味してから言った。

「その方法は却下だな」

「うっ……どうしてでしょう」

「取り返しても、意味がない可能性がある」

「え?」

「この国は魔王の手が裏から伸びている。もし土地を取り返しても、魔王の息が掛かった人間が次の領主になるだけだ。根本的な解決にはならない」

「そ、そんなことがあるのですか……!」

「例えば試練の塔だな。あれは魔王の考えが反映されていると思って間違いない。優秀な勇者を殺すためのな」

「そうだったのですか! 難しすぎると思いました!」

「だから、まずはこの国を変える必要があるな」



 セリカは細い眉を下げて悲しげな顔をした。長い金髪が弱々しく揺れる。

「そんなことが、できるのでしょうか……塔にまで影響していたとなると、とても大勢のかたが魔王に協力しているはず……その人々を全員取り替えるということでしょう?」

「いいや、違うぞ。脅されていたり、上司から言われたから仕方なく従っている、という可能性が高い。だから今は、北はひとまず置いといて、俺の決定にみんなが従うぐらい勇者としての信頼度を上げるべきだ」

「そ、そうなると、どうなるのでしょう?」

 セリカが金髪を揺らして小首を傾げた。


 俺は指を立てて、ポーズをつけながら言った。

「まずはこの国のあちこちを旅して困っている町や村を助ける。そして誰もが俺の決定を受け入れる状況を作ってから、北を攻めて魔王が占領した土地を取り返し、俺が選んだまともな人間を領主にする。ここまでしてようやく人間の手に取り返したと言える」

「す、すごいです、ケイカさま……っ! そこまで考えられていたなんて! わたくしが浅はかでした。なんて素晴らしいのでしょうっ。……ああっ、ケイカさまがいてくれて本当によかったですわ!」


 セリカが並んで座る俺に、全身で抱きついてきた。

 金髪が広がり花のような香りがした。

 柔らかな体とともに、大きな丸みのある胸が押し付けられる。


 わざとやっているのかと思えるぐらい、大きな胸の潰れる感触が伝わる。

 見下ろせば、すぐ傍にセリカの整った顔があった。白い頬は笑みで緩み、青く大きな瞳が喜びで潤んでいる。


 ――喜びすぎて、自分が何してるかわかってないんだろうな。

 そのため、俺は心がチクチクと痛んだ。

 彼女が北に行きたがったのは自分の国が辛い目に遭っていて、王女として一日も早く国民を助けたいからだと思われた。


 もちろん今土地を取り返しても無駄、という俺の考えは正しい。

 今は、心を鬼にして作戦を実行するべきだった。


 

 それに俺のためでもある。

 神になるためには土地を取り返すだけでは弱い。

 見知らぬ人間が魔王を倒しても「誰か知らないが、ありがとう」で終わってしまう。


 まずは名前の売り込みだ!

 『勇者ケイカ』をこの国すべてに知らせる。隣の国にも。


 すべての人が俺の名前を覚え、親しみを感じたところで、魔王を倒す。

 見知らぬ人間がテレビに出てても気にならないが、自分の友人がテレビに出てたら自慢したくなってしまうだろう。

 それと同じ。


 だったらやるべき事は1つ……いや、3つか。

 俺は立ち上がった。

「ということで、まずは情報収集だな。行っておきたい場所もあるし」

「はい、ケイカさま。お供します……どこまでも」

 セリカが微笑むと優雅な振舞いで立ち上がった。

 俺たちは部屋を出た。



 まず向かったのは教会だった。

 この世界の神の許可なしに、神の力を使うと殺されても文句言えなかった。

 だからお目通りをして、勇者として頑張るからと伝える――。

 というのが、この世界に来た頃の俺の考え。

 

 でも今は考え方が変わっていた。

 強い力を持つ大地母神ですら、あんな状態にされていた。

 ということは他の神も同じような状況なんじゃ……?

 と思っていた。


 

 お城の近くに大きな教会があった。

 三角形の屋根とステンドグラスの窓がある。

 礼拝するための人々が出入りしている。

 とても信者が多い様子。

 ――くっ、ちょっとうらやましいぞ。


 【勇者の証】を見せつつ教会へ入る。

 中の空気は石造りのためか、ひんやりとしていた。

 礼拝堂は縦に長かった。床に絨毯が敷かれて祈れるようになっていて、奥には祭壇があった。


 俺が祭壇前まで進むと、後ろに従うセリカが小声で言った。

「こちらがヴァーヌス神の御神体です」

「なるほどね」

 祭壇の後ろには剣を掲げる勇ましい女神像があった。背中には鳥のような翼があり、まるで天使の彫刻のようだった。

 俺はその女神像に意識を集中して、心話――いわゆるテレパシーを試みる。

 ラピシアと出会った時、お互い脳内で会話したように。

 神には御神体を通じて話しかけることができる。



 しかし話は通じなかった。何度か試したがつながらない。

 思わず、ニヤニヤ笑ってしまう。


 やはりこの世界、神がいない!

 神は封印か無効化されている!

 これで俺は自由に動ける!


 俺はこの世界に関係ない神とは言え、自分の作った世界を見守っていない神に文句を言われる筋合いはない。

 いちおうラピシアは神の代理といえるが、すでに俺の信者だしな。くくくっ。



 ニヤニヤしていると、セリカが心配そうに声を掛けてきた。

「あ、あの……ケイカさま? ものすごく悪い顔をされていますが、どうされたのでしょう?」

「いや、なんでもない。ちょっとした考え事だ。たぶん、魔王の倒し方とかそんな感じで」

「たぶん、て……時々ケイカさまが怖くなります」

 セリカは責める視線ではなく、心細そうな目で俺を見てくる。怯える子犬のような目。


 俺は頭を振った。

 いかんいかん。セリカの信頼を失ってはいけない。誰の信頼をも裏切れない。人なんて沢山いるからと大切に扱わなかったから俺は日本で失敗したんだ。


 俺は彼女の手を優しく握った。細い指が絡み合う。

「心配かけて悪かった。でも、悪いことも考えなくては最善策が見つからない時もあるんだ」

「なるほど……そうでしたか。さすがはケイカさまです」

 セリカは青い瞳を信じる光で満たすと、繋いだ手をぎゅっと強く握り返してきた。



 すると、突然横から老婆に話しかけられた。

「ケイカさま? ……おお、勇者ケイカさま、おはようございます。お会いできて光栄ですじゃ」

「ああ、おはよう。朝から礼拝とは熱心だな」

「ええ、ヴァーヌス神に素晴らしい勇者が現れたとお礼を言いにきていたのですじゃ。ほんにケイカさまは、わしの生きてきた中でも最高の勇者ですからの」


 俺は平静を装いつつ、内心ではがっかりした。

 別の神の手柄にされてしまうとは。

 う~ん。やっぱり、今の信仰に割って入るのは難しそうだな。あたりまえか。

 まあ、この世界は多神教だから、功績を上げれば末席には加われるだろう。

 頑張ろう。


「そうか。これからも頑張るよ」

「お気をつけて……ああ、これをどうぞケイカさま」

 老婆は腰のポーチから、飴玉を取り出して渡してきた。丸くて黄色いシンプルな飴。

 どこの世界でも老婆は飴ちゃんを持ち歩いては配るらしい。

「ありがとう」

 お供え物は断らない主義なので素直に受け取った。

 

 そして俺とセリカは教会を後にした。



 俺とセリカは飴玉を舐めつつ石畳の通りを歩く。

「人気のある神さまだったな」

「ですね。やはり魔物を討ち滅ぼすとされる神様ですから」

「次の神殿はどこだ?」

「えーと、教えてもらったのは確か、裏通りを入ってすぐに地の神ルペルシアのやしろ。その通りの向こうに空の神アドウォロスの神殿があったはずです」

「ルペルシアはいいや、空の神のほうで」

「はい、こちらです。ケイカさま」


 ドブ川のような細い水路に面して、小さな神殿があった。

 近付こうとして和服の袖を引っ張られる。

 セリカは口を人差し指でぽんぽんと叩いた。

「神殿付近での飲食は禁止です、ケイカさま」

「もうこの辺から神域扱いか。すまなかった」

「いえ、いいんです……飴は少し食べるのに時間かかりますね」

 セリカが並びの良い歯を見せて困ったように、はにかんだ。


 俺は彼女のほっそりした手を持つと、顔の前まで持ち上げる。

「じゃあ、俺だけ行ってくるよ。確認だからすぐ終わる」

「え?」

 うむを言わさず、俺はセリカの白い手のひらに飴を吐き出した。

「ひゃっ!? な、いきなり何をなさるのです!?」

「食べ物は粗末にできないだろ。んじゃ、言ってくる」

 何か言いたそうな彼女を残して、俺は足早に神殿へ入った。



 中はこじんまりとした一軒屋のような神殿。20人ぐらいが座れる部屋が二部屋だけ。そのうちの一部屋に小さな銅像が立っていた。

 神の像に話しかけても誰もいない。

 やはり、神はいないと考えて良さそうだ。一応全部確認するが。



 俺は軽い足取りで外へと戻る。

 う~、とセリカは困った顔で、木漏れ日の下に立ち尽くしていた。

「待たせたな、次行こう」

「うぅ……それで、この飴はどうされるのですか」


 俺は彼女のすらりと細い手を持つと、屈みこんで顔を近づける。

「そりゃ、食べるに決まってるだろ」

「一度出したものをまた食べるなんて……汚いです」

「セリカの手はとてもきれいだ」

「そんなこと……ひゃぁ!」


 彼女のすべすべした手のひらに唇を押し付けた。舌で、れろっと飴を舐め取る。

 びくっと体を震わせるセリカ。赤いスカートの裾がひらひらと揺れる。 

 彼女は逃げようとしたけれど、折れそうなほど細い手首をしっかりと握り、甘く溶けた飴の残りを何度もたっぷりと舐めた。

 そのたびに「ひゃぅっ」とか「ぁん」と、押し殺した甘い息を漏らす。痙攣するかのように震える。


 見上げると、セリカは空いてるほうの手の甲を噛んで、必死に声を殺していた。

 整った顔を真っ赤にして目をぎゅっとつむっている。

「どうした、セリカ? 大丈夫か?」

「こんな外でなんて……は、恥ずかしいですっ。ケイカさまぁ」

 甘えるような泣き声で、セリカは懇願してきた。いやいやをするように細い首を振る。木漏れ日を浴びて金髪が艶かしく光った。


「綺麗に舐めないと手がべとべとになるからと思ったんだが」

「も、もう大丈夫です」

「そうか。じゃあ、次に行くか」

「……はぃ」

 手を離すと、ぐったりと疲れたようにうつむくセリカ。足取りがふらふらしている。

 急にどうしたんだろうと思いつつも、はぐれないように彼女の手を取った。

「……あぅ」

 セリカは吐息を漏らしつつ、でも彼女のほうから指を絡めるようなつなぎ方をしてきた。



 その後も神殿や教会を回って神がいないことを確認した。

 ――よし、これで俺は自由に力を使えるぞ!

 もちろん、人々に神の力は見せ付けられない。化け物と思われてしまう。

 せいぜい勇者ができる範囲で楽するぞ。


 あとなぜか一緒に歩くセリカが、ぐったりしていた。

 そんなに歩き回ってはいないんだが。

「疲れたのか?」

「もぅ……ケイカさまって信じられないです……」

 その言葉にドキッとして、俺は繋いだ手を離すと彼女の頭を撫でた。

 すると顔を真っ赤にして、俺の体に寄りかかってきた。

「はぅぅ……」

 そしてぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 王女様って、ときどき変な仕草するよな、かわいいけど。と俺は思った。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
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