第213話 学校と予言と休暇の終わり(ケイカ村日和その5)
聖剣が出来るまでの間、村を見て回っていた。
俺はだいぶ高くなった日差しの降る中、村の北にある学校へとやって来た。
三階建ての校舎に入る。
ラピシアはちゃんと勉強できているか少し気になっていた。
授業は3つの教室で行われていた。
まずは初級クラスを見る。
幼い子供たちが机に座って黒板の文字を書き写している。
ほかに本を朗読したり、数字の数え方や足し算を習っている。
小学校低学年並みの授業といったところ。
教師は妖精のマージリアだった。相変わらず女教師のようなミニスカート丈で授業をしていた。
クラゲの子供マリーンとプルラがここにいた。
言葉をまだ満足に覚えていないはずのラピシアはいなかった。
続いて上級クラス。
授業内容は少し高度になっていた。
掛け算や割り算、また動植物の育ち方や生態系などを習っている。
ナーガのナナはこのクラス。
まだ幼い蛇体を椅子に絡めるようにして座っている。
教師はハーフエルフのリィ。見た目は14歳ぐらいだが、これまたミニスカート丈で授業している。
「はーい、わかったかなー? 水は雨から川、そして海から雲となって、世界を循環しているのよっ。じゃあ、次は固体、液体、気体の仕組みについてっ!」
なにやらハイテンションで喋っている。
もう少し落ち着いた子だったように感じたが、教師という仕事に舞い上がっているのだろうか。
それとも体調でも悪いのか。
気になったので《真理眼》で見てみる。
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【ステータス】
名 前:リィ
性 別:女
年 齢:72
種 族:ハ|フエ=ルフ
職 業:精霊使E 庭視R教師
クラス:精霊術師Lv10 魔道具技師Lv2 庭師Lv1
教師Lv5 剣士Lv1 魔法(使いLv1 給仕Lv1
農民Lv1 手仕事師Lv3 死V霊術*てLv1
獣S?%戦士Lv1 騎士豪Lv1 剣舞~巫P女Lv1
僧T侶Lv1 料理人Lv1 O盗賊Lv1 淫#魔Lv1
属 性:【木】【光】
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――っ!
またステータスがバグってる!
というか、クラスがLv1ばかり。
エルフって僧侶や魔法使いになれたのか?
いや、ハーフエルフだから……って、死霊術師を覚えた!?
この文字は剣舞巫女か!? この世界でミーニャだけだぞ?
というか、淫魔ってステラのクラスのはず。
ひょっとして、リィは見た職業をそのまま覚えて取り入れてしまうのか。
それで種族として本来修得できないクラスがバグになると。
今ですらハイテンションな性格になっているのだから、このままだとまた体や精神に不調をきたしてしまうだろう。
今夜にでも治してやらないとな。
そう考えてからまた歩き出した。
この教室にもラピシアがいなかったため、最後の教室へ向かった。
最後は魔法科クラス。
数名の子供たちが授業を受けている。
座学ではなく、教室の前にある教卓の周りに集まっていた。
ここにラピシアがいた。
教師はコーデリアばあさん。
教卓の上に水の入ったガラスのコップが置かれていた。
「よく見ておるのじゃ。魔法は体内にある魔力を変化させてから放出する。まずは魔力そのものを出す感覚を掴むのじゃ」
しなびた手をコップに添えて力を込める。手がかすかに光り、コップの水がさざなみを打つ。
「お~」「わぁ~、すごい」「なにか、出た!」
子供たちは声を揃えて驚いていた。
「さあ、お前たちもやってみるのじゃ」
子供たちは教卓のコップに手を伸ばして力を込めた。
まずは男の子。水面に一つだけ波紋が立った。
「なかなかじゃ」
続いて少女のララがコップを触る。
水面が暴れるように波立った。
「わぁ、できた!」
「ほほう。なかなか才能があるではないか――次、ラピシアよ。やってみせよ」
「はーい!」
ラピシアは手を上げて返事すると、コップを両手でしっかり握った。
――あ~、嫌な予感がするな。
ラピシアは、眉間に可愛いしわを寄せて唸り始める。
「んぅぅぅぅ~!」
次の瞬間、コップが膨れ上がった。
どっぱぁぁん!
水が爆発するように吹き上がった。
コーデリアばあさんは頭から水を被る。
ぽたぽたと髪から雫を垂らしつつ、ラピシアを睨む。
「これ、ラピシアよ。お前は加減というものを知らんのか?」
「ごめん! ――あ! こういうのは、ゆっくり力を入れていく! 宝石壊すみたいに!」
月でエーデルリヒトを粉砕する作業をしたときのことを思い出したらしい。
ただ、コーデリア婆さんは首を傾げていた。
「宝石? なんのことじゃ? ――まあよい。皆のものは今の感覚を忘れないよう、しばらく繰り返しなさい」
「「「は~い」」」
子供たちは各自コップに水を入れて練習を始めた。
すると、コーデリア婆さんが教室から出てきた。
廊下から覗いている俺に気付いていたらしい。
「もう魔法の授業を始めたんだな」
「いやなに、これは本格的な授業を始める前の、学校にとっての予行調査じゃ。今はまだプレオープンだからの」
「なるほど。最適な授業方法を探すって訳か。まあ、うちのラピシアをよろしく頼む」
「あやつはもう、わしが教えることなど何もないわ――ありえん」
コーデリアばあさんは疲れたように首を振る。板張りの廊下に水の雫が散った。
俺は苦笑しつつ答える。
「ラピシアは普通の子じゃないから、気にするな――じゃあ、頼んだぞ」
踵を返して離れようとすると、コーデリアばあさんが後ろから呼び止めてきた。
「待たれい、勇者よ」
「ん? まだ何かあるのか?」
コーデリアは真剣な顔で俺を見上げる。
「未来が見えん」
「……どういう意味だ?」
「そのままじゃ。水晶玉で未来を占おうとしても、何も見えなくなった。しかも、あらゆる者の未来がの。世界が滅びようとしておるらしい」
「ほう……原因はどう考える?」
「魔王じゃろうて。半年以降の未来が見えぬ」
「つまり――俺は退治に失敗するか、世界を守れない、というわけか」
険しい表情で尋ねると、コーデリアは首を振った。
「未来は未定。予知は結局、一番なりそうな未来を示しているにすぎん。もっとも可能性の低い未来が選ばれることもある。諦めるでないぞ」
俺は、ふんっと鼻で笑った。
「言われるまでもない。俺はこの世界で勇武神になってやるからな」
「頼もしい。さすがは勇者じゃ」
俺は一歩、ばあさんから離れた。
「じゃあ、コーデリア。子供たちの未来を頼んだぞ」
「任せておけい。教えるのは得意じゃからな」
かっかっかっ、と黄色い歯を見せた笑った。
俺は頷いて学校を後にする。
久しぶりに見て回って、ケイカ村は順調に発展しているのがわかった。
いい感じだ。
ばあさんの予言が気になったぐらいだが。
とはいえ俺は神だ。信者数も6万超えた。
魔王を倒す方法も手に入れた。
負けるはずがない。
もうすぐ昼のため太陽が天頂に近付いていた。
村の通りを歩いていたが、俺は足を止める。
冷たい風が吹きぬけて和服を乱していく。
頭に手を当てて考え込んだ。
――いや、まて。
もっと慎重になれ。
失敗は許されないんだ。
何か見落としをしているんじゃないか?
魔王ヴァーヌスも神格を得ている。
しかも基礎能力は俺よりヴァーヌスのほうが高いはず。
ただ、ヴァーヌスは自分を必ず倒せる方法を設定して、代わりにより強大な力を手に入れていた。
しかし倒すための聖剣はもうすぐ出来上がり【魔王撃滅閃】も覚えた。
これでセリカやミーニャ、ラピシアの支援を受けられれば必ず勝てる、はず。
――じゃあ、なんで滅亡の予言がなされた?
支援が受けられず、一人で戦うことになるとか?
セリカとミーニャは一人で四天王を倒せるほど強いし、ラピシアにいたっては神代行だから桁違いに強い。
そうだ、セリカミーニャで勝てなくてもラピシアが勝てない相手なんて神ぐらい……。
俺は、はっと息を飲んだ。
いったいいつから、魔王とだけ戦うなんて決め付けていたんだろう。
今どこにいるか知らないが、創世神アトラが敵に回る可能性だってある。
あのファルカンとかいう魔物だってそうだ。
5桁の能力値は、この世界のルールを逸脱している。
この世界に生まれた存在ではない。
つまりヴァーヌスが異世界から召喚した可能性が高い。
ファルカンみたいな奴が他にもいる可能性だって考えられる。
――最終決戦までにもう一度、魔王とその周りを調べなおす必要がある。
俺は自然と眉間にしわが寄るのを感じながら、妖精の扉のある屋敷へと向かった。




