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第21話 勇者誕生と祝福と



 ガフの処理が一段落してから、トーナメントは再開された。

 軽く取調べなどを受けた。


 ただガフが明らかに呪いの装備で強化して多くの一般人に被害を与えたので、俺は公衆の面前で人殺しをおこなった悪人ではなく、突発的に発生した魔物を処分しただけと判断された。


 やはり用心しておいてよかった。

 トーナメントでは死人を出しても問題ないと事前説明があったが、むやみに殺していたら人殺しの汚名が付いて、勇者にはなれないところだった。



 その後も一応、他の試合も全部観戦した。

 ――また魔王がが何か仕掛けている可能性もあるからな。


 ただ、そこまで強い勇者候補はいなかった。

 人間としてはしっかり修練を積んでいるようだったが、俺の敵ではなさそうだった。


 二回戦も簡単に勝ち、決勝戦へとコマを進めた。



 決勝戦の相手は、美しい青髪をした、凛々しい好青年だった。

 青年は礼儀正しく一礼をしてから俺を見た。濁りのないまっすぐな視線。

「初めまして、ケイカさん。あなたの強さには惚れ惚れしました。私では力不足でしょうが、お手合わせお願いします」

「ああ、いいとも」

 俺は笑って応えた。

 それぐらい、気持ちのいい青年だった。


「決勝戦! ケイカVs.レオ! 勝った方が勇者になる優先権を持ちます! さあ、気合を入れて――始めっ!」

 司会が叫ぶと同時に、銅鑼の音が鳴り響いて試合が開始された。


 まあ、戦いは俺の圧勝だった。

 しかし、真理眼でステータスを見たとき、あることに気が付いた。

 それはレオ青年が2属性持ちだったこと。二つ目はなんと【光】だった。

 2属性目だったので、咎人システムが機能しなかったらしい。



 レオが剣を振りかぶりながら距離を一気に詰めてくる。

「これで最後です、ケイカさん! ――ハァッ!」

 剣が輝く風をまとう。必殺のスキル【聖風烈斬】。

 

「風よ、離れろ」

 命令すると、風が消えた。

 威力の落ちたレオの剣を半身になって避けた。

「な、なんで――ぐっ!」

 俺は右手に持つ太刀の柄で、彼の腹を殴った。

 レオは膝から崩れ落ちる。剣がカラカラと地面を転がった。

 ――なんでと言われても、俺が水と風の神だからなんて言えるはずがない。



 レオは地面に両手をついて、荒い息で言った。

「ま、まいった。私の負けです」

 司会が叫ぶ。

「おおおっと! 善戦惜しくも決め手にはならず! レオ候補、負けを宣言しました! これにより決勝戦、ついに決着! 勝者ケイカ! 新しい勇者の誕生です!」

 わぁぁぁ! と闘技場が大きな歓声で揺れる。

 一人一人がもう何を言っているのか聞き取れなかった。


 俺は手を振って観衆に応えつつ、倒れたレオに手を差し出す。

 彼は微笑むと俺の手を握り、青髪を揺らして立ち上がった。

「あなたが相手で本当に良かったです。おめでとうございます」

「俺も、戦えてよかったよ」

「その言葉だけで嬉しいです」

 彼は子供のようにあどけなく笑った。白い歯が光る。

 ――しかもこいつ、おべっかじゃなく、本心から言ってるとは驚かされる。

 好青年とはレオのような存在を言うのだろう。

 きっと二つ目の属性が【光】だからだろうと思った。



 すると、入口が開いて係員たち数人が、門とその枠だけを運んできた。

 闘技場の真ん中に設置してすぐに帰る。

 天使や竜の紋章が掘り込まれた、立派な門だった。


 司会が説明する。

「さあ、優勝したケイカ様と準優勝のレオ様は、勇者聖門ホーリーゲートをくぐっていただきます! これをくぐれるのは勇者の心を持つ者のみ! レオ様は、ケイカ様に何かあったときの勇者予備員となります。来年はトーナメントからの参加となります。――では、まずレオ様から」



 レオが颯爽と歩いていく。

 大理石の門を通っていく。

 すると。

 ブゥゥンッ! と門が震えて、耳障りな音を立てた。

 レオの顔が驚愕と焦りで青くなる。

 司会が叫んだ。

「ああっと! なんということでしょう! レオ様は【隠れ咎人】と判明しました! 素敵な男性だったのに、残念です!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! これは何かの間違い――」

 しかし衛兵がぞろぞろと現れて、レオはまるで罪人のように引き立てられていった。



 俺は目を凝らしてホーリーゲートとやらの詳細を見た。

【属性探知機】人々の属性を読み取る。


 ――2属性目の光属性までも見てしまうのか。

 かなり深く見れるようだった。

 能力やステータスまで見られるのは、ちと困るな。



 俺は《真理眼》で自分の手のひらを見てステータスを呼び出した。

 そしていじる。

 ――別に異界の神が自分の能力をどういじろうと勝手だからな。


--------------------

【ステータス】

名 前:ケイカ[蛍河比古命]

性 別:男

年 齢:20[?]

種 族:人間[八百万神]

職 業:町人[神]

クラス:剣豪Lv10 [神法師]

属 性:【風】【水】[微光]

--------------------

 まあ、こんなもんだろ。能力や装備名もちゃちゃっと普通程度に書き換えた。

 []内は当然俺しか見られない。



 俺が書き換えている間に、レオの姿が完全に消えた。

 司会が言う。

「さあ、大変ショッキングな展開となってしまいましたが、気を取り直して、優勝者ケイカ様、どうぞ勇者聖門をくぐってください!」


 俺は、ゆうゆうと歩いて門をくぐった。

 無表情にくぐったが、内心は少しドキドキした。



 門を通り抜けて、反対側で立つ。

 しーんと静まり返っている。

 しばらくして門が緑色に光った。

 司会が叫ぶ。

「あ、出ました! ケイカ様は見事勇者にふさわしい心の持ち主でした! おめでとうございます! すべての試験を突破したケイカ様、新たな勇者の誕生です!」


「おめでとう!」「あんたならやると思ってたよ!」「頼むぜ、勇者さま!」

 観客が口々に褒めてくれた。

 こうも直接、見知らぬ大勢に賞賛されると少しくすぐったかった。



 その後は、貴賓席へと案内された。

 闘技場を見下ろす位置にある。3階ぐらいの高さの客席。

 そこには、王冠を被り、髭を生やした国王がいた。

 俺は片膝を突いて挨拶した。

 すると国王は立ち上がって言った。老人とは思えない、観客席全体に響くような声だった。

「新たな勇者ケイカよ。よくぞ試練を突破した。これからも修練を積み、魔物に苦しむ人々を助け、魔王の手がかりを探し。真の勇者となりて魔王の手からこの世界を救うのだ。――これを」

 国王は手のひらぐらいの大きさがある銀色のメダルを持ち上げた。鎖が付いている。

 片膝をつく俺の首にメダルの鎖を掛けた。


 チラッとメダル見る。

【勇者の証】魔王関連捜査権 魔王関連裁判権 魔王関連刑執行権 必要物資現地調達許可 各地通行許可 各種税免除 勇者技能系統樹付与


 これがあれば、魔王が絡んでいる事件に対する行動はすべて許される。

 魔王の手先じゃないかと俺が疑ったものの家に勝手に入り込み、勝手にたんすを調べて、薬草や物資は全部没収して、魔王の手先の証拠があればその場で叩き殺しても、すべて許される。

 ――そして俺は神だから、証拠なんて幾らでも捏造できてしまったりする。 



 俺は顔がにやけそうになるのを堪えて、頭を下げた。

「王様、ありがとうございます。全力で魔王退治に向かいたいと思います」

「うむ……ところで、新たな勇者の顔をもっとよく見せてはくれぬか?」

「はい? ええ、どうぞ」

 俺は顔を上げた。

 国王はじーっと俺の瞳を見つめてきた。まるで底まで見通すような透明な目。

 そして小さな溜息を漏らした。俺を見下ろす目に失望の光が揺れていた。

「よい顔じゃ。新たな勇者として頑張ってほしい。こちらは支度金の金貨50枚じゃ」

 ずっしりと重い袋を渡される。

 小金貨ってことはないだろうから、大金貨50枚、500万円てことか。

「ありがとうございます、王様」

「それではみなのもの、ご苦労であった。最後に彼を祝いたまえ」

 パチパチパチと盛大な拍手。口笛まで誰かが吹いている。


 国王の態度に疑問を覚えながらも、ひとまずは見守る人たちに手を振って歓声に応えた。



 宿屋まではパレードだった。

 大通りの両脇に人が集まり、祝福の声を掛けてくれる。

「よくやった!」「ありがとう!」「儲かったぜ!」

 好き放題に言ってくれる。


 途中、包帯を巻いた老人が進み出てきた。

「かたきを討ってくれてありがとうですじゃ」

「ん? ああ、パン屋の親父か。当然のことをしたまでだ」

「さすが勇者さまですじゃ」

 老人は何度も頭を下げた。


 街中を困らせていたガフが山賊とわかった今、それを倒した俺の評価はうなぎのぼり。

 勇者になったことも合わさって王都に俺の名前を知らないものはいなくなった。

 ――ふむ。これ以上の名声を得るには、王都以外の問題を解決して、その噂を街に流すしかないだろうな。


 神になるぐらいの尊敬を集めるためには多大な功績がいる。しかし功績とは誰も知らないうちにひっそりと魔王を倒すことではなく、活躍を知れる形で何度も伝えてこそ功績となる。

 結構手間取ったが、ようやく神になるための条件は揃った。

「そろそろ旅立ちかな……」

 俺の呟きに、隣を歩くセリカが金髪を揺らして微笑んだ。



 宿屋に戻ると、一階の酒場はパーティー会場になっていた。

 イスは取っ払われて、テーブルだけの立食形式。

 近所の連中まで押しかけて来ている。

 厨房から親父が出てきて言った。

「ケイカ! やったな! 俺の目に狂いはなかった。さあ、どんどん食べてくれ! 酒も飲み放題だ!」

「親父、ありがとうな」

「いいってことよ!」

 親父は豪快に笑いながら又厨房へ戻っていった。


 ラピシアがツインテールの青髪を後ろになびかせて駆けて来た。

「ミーニャ まもった!」

「そうだったな。偉いぞ、よくやった」

 ミーニャを人質にされると面倒だったので、見張りを頼んでいたのだった。ラピシアは子供だが神だけあって桁違いに強い。

 頭を撫でてやると、金色の目を気持ち良さそうに細めて、にへら~と笑った。

「もっと ガンバル!」

「その調子だ。ご飯食べたら勉強も頑張れ」

「ウッ……が、がんばる……」

 目を丸くしたかと思ったら、そのまましょんぼりと肩を落とした。小さい体がますます小さくなる。

 俺は苦笑して言葉を撤回した。

「いや、今日はしなくていいぞ。食べて遊べ」

「ほんと!? ケイカ 好き!」

 ラピシアは抱きついてきた。細い腕を回してピッタリと。平坦な小さな体に密着されると暑かった。

「よしよし、食べて来い」

「わかった!」

 ラピシアはツインテールを揺らしてテーブルへと向かった。



 その後、俺は多くの人から祝福されつつ、酒を飲み食事をした。

 セリカは控えめに、俺の横にいた。

 酒が切れたり、ご飯がなくなると、頼む前に持ってきてくれた。

 その間、彼女はずっと微笑みっぱなし。俺を見上げる青い瞳が喜びで潤んでいた。

 そんな何も言わないセリカが、一番祝福してくれてるように感じて、俺は妙に心が楽しくなり、微笑まずにはいられなかった。




 深夜。

 宿屋の部屋で俺とセリカは二人きりになっていた。

 一階の酒場は宴が続き、時折ラピシアの歌声が聞こえた。精一杯遊んでいるらしい。


 ベッドで並んで座るセリカが嬉しそうな声で話しかけてくる。

「お疲れ様でした、ケイカさま。勇者になると信じておりました」

「いろいろ迷惑かけたな。――ああ、そうだ」

 俺はふところにいれていた、王様から貰った袋を取り出した。

「セリカの貯金をかなり使わせてしまったからな。これで補填しておいてくれ」

「まあ! これはケイカさまのものですよ。わたくしのものだってケイカさまのものです。――わ……わたくし自身も」

 最後は小声で言った。端整な顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 俺は彼女の頭を撫でた。やはりこの金髪が一番指先に心地よかった。


「そう言うな。だったら預かっておいてくれ」

「はい、わかりました。わたくしがケイカさまのお財布になりますね」

「頼む。――で、今回貰ったのは大金貨50枚だったか」

「いえ、こちらは違います」

「ん? まさか小金貨か?」

 俺の問いに、セリカが袋を開けて中の金貨を取り出した。

 ほっそりした指先が持つのは、あまり見たことのない大きさの金貨。


「王様からの報酬は中金貨になります。小金貨4枚分の価値です」

 真理眼でジーッと見ると情報が出た。1枚で2万円だった。

「やすっ! 大金貨でくれりゃいいのに」

「昔は大金貨だったのらしいですが、財政が逼迫してしまい。でも50枚を渡すのはしきたりなので変えられず、結果、記念金貨を作りまして」

「なるほど、経費削減か……あまり見たことがないのも、記念金貨だから流通していないのか」

「そのとおりです。それに小金貨や大金貨の方が使い勝手がよいので……」

 セリカは困ったような笑みを浮かべていた。

 まあ、ただで百万円もらえたんだ、よしとしよう。



 セリカが金貨を仕舞うのを見ながら、ふと俺は言った。

「今日はすまなかったな。その、おとりにして」

「いえ、お力になれて光栄ですわ」

「怖くはなかったのか?」

「それは……」

 セリカは困ったように、はにかんで笑った。

 その仕草が可愛くて、思わず華奢な肩を抱き寄せた。金髪がなびいてキラリと光る。

 セリカはしなだれかかりつつ、吐息のような甘い声を出した。

「あぅ……」

「もっといい方法があったかもしれない。次からはもっと大切にする」

「そんな、もったいないお言葉です。どんどん危険な目にあわせてくださいませ。ケイカさまのお力になれるだけで、わたくしは嬉しいのですから」

 セリカは俺の胸へ猫のように顔を押し付けてきた。いとおしいぬくもりが伝わってくる。

「ありがとう」

「そのお言葉だけで嬉しいです……」

「ずっと俺の傍にいてくれよ」

 セリカはなぜだか、ぼうっとした青い瞳で俺を見つめた。

 そして徐々に頬を赤らめると、満面の笑みで頷く。

「はいっ、ケイカさまっ!」


 遠くから宴の音が響いてくる。

 俺は酒場の騒音を遠くに感じつつ、もたれてくるセリカの柔らかな体を抱き続けた。

第一章、完でございます。

読んでくれた方々、ありがとうございました。


二章のプロットは作りなおすので3日~1週間ぐらいかかります。

それでは、また。

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