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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第九章 勇者冒険編・天

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第205話 愛と平和の世界征服

 魔王退治の準備を整えつつある俺は、愛にとち狂った地邪神ベヘームトと会うためブリザリアにやって来た。


 ブリザリアの王都グラチェス。雪に閉ざされた町。

 100軒ほどの家がある、小さな町だった。

 道は凍り、家々はうっすら雪が積もっている。

 町全体が白一色に染まっている。


 平屋建ての建物が多い。町の中央に二階建ての大きな屋敷があるのが遠目でもわかった。

 どの家も間取りは巨人に合わせてあるためとても大きい。

 一階部分だけで4メートルはある。

 平屋の小屋が多いのは、雪の重みに耐えるためだろうと思われた。



 アイスドラゴンは町外れにある広い庭のある家に降り立った。

 ドラゴンたちの厩舎らしい。

 俺たちはそこから中心にある屋敷へと歩いた。凍った道を踏むとパキパキと薄氷の割れる音がする。


 ラピシアはきょろきょろと辺りを珍しそうに見回していた。青い髪がよく跳ねる。

 先頭は2メートルを遥かに越える巨人女性のティッキーが歩いていた。


 各家は大きな平屋のため、町を歩くとなんだか倉庫街を歩いている気にさせられる。

「いや……違うな。それだけじゃない」

 思わず呟くと、隣を歩くセリカが首を傾げた。地面からの照り返しによって、いつもより顔が白く美しい。

「どうされました、ケイカさま?」

「家々の背が高いから倉庫街みたいだと思ったが、人の気配自体も少ない。ますます倉庫街だな」


 ミーニャがピピッと尖った耳を動かす。

「あるのはドラゴンの気配ぐらい――近い」



 前を歩く、ずんぐりした体格のティッキーが振り返る。

「よく気付いたわね。今は漁業の時期。みんな海へ出て、魚を取っているのよ。男も女も」

「狩猟が主体の民族か。まあ、一年中氷の世界だと作物が育たないもんな。お前は留守番というわけだ」

「ええ。私はあの子たちの保母さんをしてるから」


 ティッキーが視線を上に向けた。

 屋根の上にまだ小さいアイスドラゴンが乗っていた。

 ミーニャがさっと巫女服を揺らして、腰の包丁に手を添える。



「ケキィ……」

 心配そうな声で鳴くドラゴン。ティッキーは優しく微笑んで、背伸びをするようにして屋根の上へ声をかけた。

「大丈夫よ。先に帰っておやつを食べてなさい」

「ケュイ」

 翼を不器用に羽ばたかせて、厩舎の方に戻っていった。


「甘えんぼだけど、とってもいい子たちなのよ」

「慕われてるようだな」

「それなりにね」

 ティッキーは大きく笑う。頼もしいお母さんの雰囲気をかもし出していた。



 他の巨人と出会わないまま、町の中央にある屋敷へと着いた。 

 門も窓も大きい。

 ティッキーは立ち止まると俺たちを見下ろす。

「ここにベヘームトっていう愛仙人と名乗る人がいるわ。勝手に入って」

「立ち会わなくていいのか?」

「ええ、いいの。連れて帰ってくれたらもっといいわ」

 呆れた様子で肩をすくめるティッキー。


「嫌いなのか?」

「勝手にやって来て、お金持ちにしてやるとか何とか。私たちは富や名誉もいらないのよ。――じゃあ、あの子たちにご飯あげなくちゃいけないから戻るわね」


「案内ごくろう」

「ありがとうございます」

 セリカが頭を下げた。



 ティッキーは大きな手を振って笑う。

「いいのいいの。もしよかったら厩舎に寄ってちょうだい。お茶を用意しておくわ」

「楽しみですわ」

 セリカが微笑んで答えると、ティッキーも微笑み返してから去っていった。


「それじゃ、行くか」

「はいっ」

「愛の仙人! わくわく」

 ラピシアが胸の前で両手で拳を握っていた。



 重い扉を押し開けて、さっさと中へ入った。

 扉を閉めると、外界から隔絶される。

 なにやら2階のほうから声が聞こえてきた。


 千里眼と真理眼で見る。

 2階にある大広間に、痩せ細ったジジイが踊っていた。

 禿げ上がった頭を光らせ、白い髭を振り乱している。

 神の威厳も何もないが、一応ステータスを見る限り地邪神ベヘームトだった。



 思わず溜息が漏れる。

「なんか関わりたくないな」

「ケイカさま?」

「いや、なんでもない。ベヘームトは2階だ」


「会う!」

 ラピシアがスキップしながら先頭に出て階段を登っていった。

 俺たちは後からぞろぞろとついていく。



 大広間の前。

 3メートルはある大きな両開きの扉をノックする。

「なんじゃ? 開いとるぞ」

「入るぞ」


 俺たちは中に入った。

 絨毯の敷かれた広間。机やイスは隅に追いやられていた。



 俺を見たベヘームトの目が細くなる。

「お主……只の人ではないな。なに奴」

「俺はケイカ、勇者だ。お前のことはリヴィアに聞いてきた。地邪神ベヘームトだな」

「おお! お前が魔法少女になってくれるのじゃな! 今、変身の振り付けを考えておったところじゃ!」

 

「誰がなるか……このラピシアが愛について知りたいので連れてきただけだ」

 ベヘームトが視線を下に向ける。

 ラピシアは満面の笑みで片手を上げた。

「こんちゃ!」



「おお……この子も神に匹敵する力を持っておるな……愛の守護者、地属性魔法少女ラブリーアースにぴったりじゃ!」

「わーい!」

 ラピシアは認められたのが嬉しいのか、その場で手を上げてくるくると回った。


 俺は顔をしかめながら尋ねる。

「なんで魔法少女なんだ? お前は創世神を恨んでいるんじゃなかったのか?」

「恨んでおるとも! だからこそこの世をワシの思うがままに愛に染めてやるのじゃ!」

「意味がわからん」



 ベヘームトは偉そうに髭を捻りながら、片目だけ大きく開く。

「ワシの考えが見通せぬとは、たいしたことないな」

「ほう。だったら言ってみろ」


 ベヘームトは唾を飛ばしながら叫ぶ。

「創世神には愛が足らん! あるのは自己愛だけじゃ! よって今の間に世界をワシの愛で包めば、創世神は手を出せなくなる! 奴の作り上げた世界を根こそぎ奪ってくれる! ――が、ワシもこの歳じゃ。四六時中頑張ることは無理。だからワシの代わりに魔法少女プリティープラネットを使い、世界の平和を守るのじゃ!」


「さっきと名前変わってるぞ」

「ふんっ! 上辺の名称などどうでも良い! 大切なのは魂の叫びじゃ! シャウト、ユア、ソウル!」

「ラッピシァァァ! きゃっはー」

 笑顔で叫びながらくるくる回るラピシア。長いツインテールが丸く弧を描く。



 目の前に広がる光景。

 どこからともなく音楽が広間に鳴り響き、それにあわせて老人と子供が踊っている。

 わりと地獄絵図に近い。


 俺はドン引きしていた。

 セリカは美しい唇を半開きにして、もごもごと何か言おうとしていたが、戸惑うだけで言葉にならない。

 ミーニャは嫌そうに、眉間に深いしわを作っていた。



 ラピシアは楽しげに笑う。

「それで!? 次は、どーするの?」


 ベヘームトが踊りながら宝石で装飾された短い杖を差し出す。

「変身じゃ! このステッキを持って、変身するんじゃぁぁぁあ!」

「へーんしんっ!」


 ラピシアがおもちゃのような短い杖を掲げてくるくる回ると、ピカッと光った。

 ベヘームトが目を血走らせてラピシアをガン見する。



 よくある魔法少女の変身シーンのように、ラピシアの服が消えて裸……にはならず、なぜか白いワンピースの上に、フリルの着いた短いドレスを着ていた。

 ――ラピシアの服は母親の愛がこもった手製のワンピース。よこしまな邪神の悪意など物の相手ではなかったらしい。

 


「へんしんした! わーい!」 

 両手を挙げて喜ぶラピシアと裏腹に、ベヘームトは愕然と口を開ける。

「な、なぜじゃ……! なぜ、一瞬、裸にならん! 役得にならんではないかっ!!」



 気がつくと俺は太刀を抜き、邪神の首筋に当てていた。

「おい、ジジイ。いい加減にしろ」

「な、なんじゃ、いきなり!?」

「うちのラピシアに変なことはするな」


 ベヘームトは視線をそらしつつ下手な口笛を吹いた。

「べ、別になにもしとらんよ? 魔法少女に変身させただけじゃ」

「いや、口走ってただろ。裸とか何とか」


「それは、そういうものなんじゃ! ワシは封印されている間、電波を受信し続けた! メグゥやサリィ、どれみふぁにさくらら! セラムスにプリキュ! ありとあらゆる魔法少女を! その学習の結果、見えそうで見えないのが強い愛になる秘訣なのじゃ!」



「ダメ人間じゃないか。神だけど」

「ふふん、なんとでも言うがいい。愛で世界を守るには魔法少女こそが適任だと知ったのじゃ! この世をワシの愛で染めてやる! 新世界の主神はこのワシじゃぁぁああ!」

 俺の太刀を払いのけて、また踊り出すベヘームト。

「愛で守る~! 愛なの!」

 ラピシアはフリルのスカートをひらひらさせて飛び跳ねている。


 子供とは言え、順応力高すぎる。

 何となくだが露出狂の夜魔伯爵のところへラピシアを連れて行かなくて本当によかったと思った。

 どんなことになっていたか、想像もできない。



 セリカが近寄ってきて、俺の耳元でそっと呟く。甘い息が掛かってくすぐったい。

「いったいどうしましょう、ケイカさま?」

「そうだな……このままラピシアを魔法少女にしても悪影響しかなさそうだ。俺の知識で持って、奴の間違いを指摘してやめさせるしかないか」


 セリカが青い目を丸くする。

「まさか! ケイカさまは魔法少女とやらを知っておいでなのですか!?」

「まあな……あの頃は開店休業状態だったからな……」

 ――自分の神社を失い、道祖神に落ちぶれた神など暇でしかなかった。アニメゲームマンガに小説。暇潰しに見まくったものだった。


「さすがケイカさまですわ、なんでも知っていらっしゃいます」

「あんまり褒められたことじゃないんだけどな……さて、なんと言って丸め込もうか」



 元気よく飛び跳ねるラピシアを見ながら考える。

 ベヘームトは別の踊りまで教え始めていた。

 何の意味があるのかわからないが、あんまりよろしくない。


 だいいち魔法少女になられたら、魔王が攻めてくるまで反撃しないことになる。

 魔王が動けない今こそがチャンスなんだから、防戦は得策じゃない。


 考えがまとまる。

「よし、この定義でベヘームトの間違いを叩いてみるか」

「頑張ってください、ケイカさま」

「任せろ」

 セリカの熱い声援を受けて、変な動きで踊っている二人に近付いた。

 足の裏で下駄が鳴り、手に持つ太刀がギラリと光った。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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