第195話 魔王城突入!
早朝。
ダフネス王国の西に聳えるグリーン山の頂上に俺たちはいた。
ラピシアは真っ赤に染まったたまごを持っている。
ドラゴンの住む広い洞窟へと入る。
真横から入る太陽の光を浴びて、ドラゴンの鱗がエメラルド色に輝いていた。
すぐに気付いて長い首を持ち上げる。
「む。ケイカたちか。朝早くからなんのようだ?」
「ドラゴンも早起きだな。――今日は約束を果たしにやって来た」
「ぬぬっ――まさか!?」
「ラピシア」
俺が呼びかけると、ラピシアが前に出た。
赤いたまごをにゅっと突き出す。
「これ! 今、浄化中なの!」
「おおっ! これが5つ目のたまごか!」
「いや、それは6個目だ。セリカ」
「はい、ケイカさま」
セリカが背負っていた袋を下ろした。
中から真っ白なたまごを取り出す。
「こちらはすでに浄化済みだそうですわ」
「おおおおお!」
ドラゴンがたまごを見つめたまま、ぶるぶると震えている。
その大きな緑の瞳から、涙が流れて頬を伝った。
俺は言った。
「これで6個、すべて揃えた。浄化が終わり次第、6個目も返す。約束を果たしてくれ」
「素晴らしい……さすがは勇者ケイカ。人智を超えた神……いや、神になる男だ。よかろう、我が背中に乗るが良い」
ドラゴンは這いつくばり、翼を地面に当たるように下ろした。
「わーい!」
ラピシアが赤いたまごを持ったまま、翼を階段代わりにして背中まで駆け上がった。
セリカはドラゴンの前に白いたまごを置く。
「これはどうしましょう?」
すると洞窟に響く高笑いが聞こえた。
「ふははははっ! 我輩が安全なダンジョンの奥まで持って行ってやろうではないか! ありがたく思うがよい、たまごよ!」
「たまごに感謝を求めるのかよ」
つい突っ込みをいれたが、マントをひるがえした侯爵には届かなかった。
「うむ。では頼む」
傍へ来た侯爵へドラゴンはたまごを渡した。
「任せるがいい。誰も探せぬ奥深くへと運んでやろう、ふははははっ!」
「いや、帰ってきたらすぐに持ってきて欲しいのだが」
「ふむ。ならばあそこにでもしておくか」
侯爵は顎を撫でつつ考えた。
するとドラゴンの背に乗ったラピシアが顔をのぞかせた。
「こーしゃく!」
「なんだ? こわっぱ」
「おるすばん、お願いなの!」
「ふふん、言われるまでもない! 誰も近付かせぬわ!」
「うん! おみやげ持ってくるから!」
「ぬ、いや。……まあ、好きにするが良いわ、ふははっ」
侯爵は少しひるんだが、高笑いで誤魔化した。
今から魔王城へ行くのに、そのお土産とは危険極まりなかった。
そうこうするうちに、俺たちはドラゴンの背に乗った。
ドラゴンが長い首をこちらへ向ける。
「ではゆくぞ」
「おう。いつでもいいぞ」
侯爵が胸を反らす。
「では行ってくるのだ、そして魔王へ恥をかかせろ」
「ああ、頑張るよ」
ドラゴンが翼を伸ばした。骨組みの間に張られた翼膜が淡く光り始める。
そして魔力を噴出して、一気に飛び去った。
青空の高みへ。
あっという間に、洞窟の入口とそこにいる侯爵が小さくなった。
――と。
雲の上へ出たドラゴンが横に飛びながら急に真面目な顔になった。
首を曲げて俺を見る。
「一つ聞いて欲しいことがある」
「なんだ?」
「我が名はアウロラという。この名で呼ぶことを許そう」
――本当の名前か。
真理眼で見てその名は知っていた。
しかし今までずっとドラゴンは「自分はドラゴンだ」と名乗っていた。
教えたくないのだろうと考えて、ずっとドラゴンと呼び続けていた。
……これが試練を乗り越え、本当の信頼を勝ち得た証拠なのかもしれない。
「アウロラか。綺麗な名前だな」
「よすがよい。照れるではないか」
ドラゴン改めアウロラは、頬を大きな爪でポリポリとかいた。本当に恥ずかしがっているようだった。
俺は優しくアウロラの背中を叩く。
「じゃあアウロラ、行ってくれ」
「任せるが良い――しっかり捕まっておるのだぞ」
アウロラは翼を横へピンッと張り、ますます魔力の放出を大きくした。
ジェット機のように早く飛ぶ。
空をキィィィンと音をさせて駆け抜ける。
顔に当たる風が強くなり、俺たちの髪や服が激しくたなびいた。
◇ ◇ ◇
北の極限。
見渡す限りの氷原。吹雪の中をアウロラは飛んでいた。
俺は魔法で空気の流れを作ってセリカたちを寒さからガードした。
飛び続けていると、魔王城が見えてきた。
氷で出来た半透明のドームで覆われている。
アウロラが言う。
「あれがそうか」
「ああ。いっちょ消し飛ばしてくれ」
「うむ」
アウロラが口を開けた。
コォォォォ……と喉の奥へと光が集まる。
光が曲がりながら(・・・・・・・)口へと吸い込まれていく。
「……ん? ――って、みんな伏せろ!」
「は、はい!」
「わかった」
セリカたちがアウロラの広い背中にぺたっと伏せた。
次の瞬間、アウロラの口から太陽のように眩い光が放たれた。
――カッ! ――ドゴォォォン……。
魔王城を包む氷のドームに光が当たり、地上に巨大な火球を生み出した。
爆風というなの衝撃波が駆け抜け、アウロラの巨体を揺らした。
風のバリアを張っていなかったら鼓膜が破けていただろう。
思わず怒鳴る。
「威力高すぎだ、バカ!」
「むう! ばかとはなんだ!」
「魔王城まで消し飛んでしまうだろ!」
「これでも手加減はしたつもりだ!」
「つもりってなんだよ! ――お」
地上では火球と煙が消えていた。
いくつか尖塔が崩れてはいるが、魔王城が形を保っていた。
アウロラが首を曲げて俺を見る。ニヤッと口角を上げた。
「ホラ見てみろ。ちゃんとあるではないか」
「塔が崩れてるけどな! ……さっさと降りてくれ」
アウロラは急降下した。「人使いの荒い勇者だ」とぶつぶつ言いながら。
◇ ◇ ◇
アウロラを魔王城の前に待機させて、俺たちは城の中へと入った。
誰もいない城内。
生き物の気配はしなかった。
千里眼で見通しても何もいない。
部屋や廊下の隅に乾いた骨が散らばっているだけ。
死霊術師のゲアドルフが死んでアンデッドが骨に変わったのだろう。
俺はゆっくりと歩き出す。
「ところどころ罠があるから気をつけろ」
「はい」「わかった」「なの!」
暗いので勇者の証を取り出して明かりを付けた。
廊下の端まで照らされる。
魔王城は大きな魔物でも歩けるようにするためか、幅が広く天井も高かった。
具体的には片側3車線の道路より広く、二階建ての家より高い。
部屋も同じように魔物にあわせて大きくなっている。
ドラゴンや巨人でも通れるだろう。
その分、人の足だと目的地まで遠くなってしまう。
セリカが辺りを警戒しつつ言う。
「どちらへ向かいましょう、ケイカさま」
「右へ向かう通路を奥へ向かってくれ。書類を集めた部屋がある。そこは地下書庫もある」
その部屋には事務机がずらっと並んでいた。
エントランスから右回りで広い廊下を歩いていく。
入口からまっすぐ向かうと二階へ上がる階段があり、玉座の間についてしまう。
地下へと降りる階段もある。地下にはダンジョンが広がっていた。トラップも沢山ある。
モンスターもいる。
しかし今日はそちらへ行かない。
広い廊下をしばらく進むと、突き当たりに来た。左へ直角に続いている。
さらに歩くとT字路に出た。
「ここに罠がある。床のタイルを踏むと電撃を飛ばしてくるようだ」
「任せて」
ミーニャが解除に取り掛かった。
罠の種類を教えたためか、すぐに無効化した。
次のT字路でも罠を解除し、左折した。
廊下を歩くと右手に巨大な扉が見えてくる。
「ここが書類のある部屋だ。モンスターはいない」
「わかりました」
鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。
ただし扉はとても重かった。
部屋へ入る。
百以上の事務机が等間隔に並び、部屋の中央には長いカウンター。
奥には天井までの高さがある本棚が林立していた。
もちろん巨人が活動できるサイズ。
セリカが、うっと息を飲む。
「これは探すのが大変そうですわ」
「きっと分類されているだろう。作戦系の書類棚をまずは探そう」
「はい」
手分けして書類の棚を見ていった。
収められている書類から何の棚か推測する。
部屋の右端から見ていく。
「この辺は、食料の分配のようだな」
「その隣は魔王軍の予算についてのようですわ」
1時間ほど書類を捜した。
セリカが分類から大体類推していく。部屋を三つに区切って考えると、右側が食料や輸送など。真ん中が部隊配置。左が各予算の書類。
作戦系統の書類は見当たらない。
ラピシアはたまごを抱えてうろうろしていた。手伝えなくて暇なのか、事務机の引き出しを開けまくっていた。
「地下か、それとも別の場所か」
「わたくし思うのですが、ここは総務や経理などで、作戦立案は軍直轄になるのではないかと」
「なるほど。一応、地下書庫も把握してから、別の場所だ。ここより小さい部屋だが二階にも書類の部屋がある」
「わかりました。ミーニャちゃんと一緒に地下書庫を探ってみます」
セリカが金髪を揺らして離れていった。
その後ろ姿を見ていると、ふいに視線を感じた。
「――ん?」
立ち止まって部屋を見渡したが誰もいない。
千里眼で地下を見た。
地下の書類室は行き止まり。ここにも誰もいない。
さらに別の階段からいける地下二階、三階を見ていく。
罠がありモンスターがいる。
踏むと回転する床まであった。
そして地下4階。
広大な空間が広がっている。城の面積よりも広い大広間。
広間の奥には玉座があり、階段から玉座まで赤い絨毯がしかれていた。
そこにぽつんと一人のモンスターがいた。
シルクハットを被った骸骨。貴族のような服を着ている。
やせ衰えた青白い馬に跨って、上を見上げていた。
俺と目が合う。暗い眼窩に青白い炎が灯っている。
――なんだ、こいつ。
真理眼で見た。
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【ステータス】
名 前:ファルカン
種 族:悪魔族
職 業:魔王近衛隊隊長
クラス:暗黒騎士Lv99 悪魔Lv50
属 性:【魔】【劫火】
攻撃力:2万5000
防御力:2万5000
生命力:2万5000
精神力:2万5000
【スキル】
馬槍突撃:馬で駆け抜けつつ槍で貫く。縦1列に2倍ダメージ。
剛烈槍:強烈な突き攻撃。追加風ダメージ。
影烈槍:影から槍を生みだして貫く。防御値無視攻撃。移動不可状態付与。
滅死槍烈破:多段突き。即死攻撃。小範囲。
旋槍防御:槍を回して絶対防御。物理魔法無効。他行動不可。
【パッシブスキル】
行動予知:相手の次の行動を予知・予測する。
第六感:あらゆることに対して鋭敏な感覚を持つ。
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……え?
能力値が4桁を越えている。
近衛隊隊長とはいえ、強すぎる気がするが。
こんな奴がこの世界にいたのか。
戦った場合、セリカやミーニャは一撃で死んでしまう。
ただ地下四階の大広間をゆるゆる歩いているだけなので、下まで降りなければ大丈夫だろう。
「悪魔か……」
「どうしたの?」
赤いたまごを持ったラピシアが俺の隣で首を傾げていた。青いツインテールが長く流れる。
「いや、とても強い魔物がいてな。ファルカンという名の。もし出会ったら、俺が戦うからラピシアは二人を守ってくれ」
「わかった! ……これ」
ラピシアが手を前に突き出した。
何か見つけたらしい。
受け取るとそれは鍵束だった。5つの鍵には付箋がつけられており、数字が書かれている。
真理眼で見ると【総務室の鍵】【棚の鍵】【転移室の鍵】【作戦室の鍵】【廊下の鍵】とあった。
「お。鍵だなこれは。……ていうかこの部屋、鍵が掛かってたのか」
「わくわく。ラピシアが使う!」
「部屋を出るとき、使っていいぞ。でもよく見つけたな」
「わーい。――えらい?」
「えらいぞ」
頭を撫でてやると、えへへとはにかんだ。
やはり作戦室は別にあるらしい。
その後は書庫まで調べたが、咎人関連の書類は見当たらなかった。
鍵を閉めて二階へと向かう。
総務室の扉は鍵を使うと、とても軽くなった。異様に重かったのは無理矢理開けたせいらしい。
外に目を向ければ、日が暮れていた。
アウロラは城の近くで丸まって待機している。
気になる化け物ファルカンは、地下の大広間をうろうろ歩くのみ。
時々、俺を見上げてくるのが気に触るが。
無視して咎人の書類を捜そう。
二階へ向かう途中、T字路でラピシアが壁を指差した。
「ここ! 使う!」
良く見れば鍵穴があった。
ラピシアに廊下の鍵を渡して使わせる。
罠が解除された。
「ふむ。その鍵を持っていたのは主任とか課長クラスだったのかもしれないな」
「楽しい!」
鍵を回せることが嬉しいらしい。ラピシアはたまごを抱えてご機嫌だった。




