第191話 金色熊の反抗!
獣人地区の南西にある山。
エーデルシュタインと獣人地区との国境でもある。
そこに熊獣人たちの集落があった。
といっても熊は縄張り意識が強く、また数が少ない。
そのため村から出て、みんな山の中へ入ってほぼ単独で暮らしていた。
村に残る熊長老に話して呼び集めてもらう。
ゴォーン……ガゴォォォン……と長老が集合の鐘を鳴らすと、山々に良く響いた。
1時間ほど掛かって50人ほどの熊が集まった。
待ってる時間がとても長く感じる。
俺は少し焦り始めているようだった――。
村の広場で狼の村と同じように話して情報を聞く。
「お前たちは最近、急に羽振りがよくなったそうだが、山賊のアジトを襲ったり盗品を売りさばいたりしなかったか?」
正座する熊たちが首を振った。
「違います」「山賊なんて知らない」「盗品を売ったわけじゃない」
「そうなのか。じゃあ、なんで羽振りがよくなったんだ?」
何か隠しているようなので尋ねたが、思わぬ反発が来た。
一際体格の大きな、野性味溢れる顔つきをした熊獣人が言った。髪やもみあげ、胸毛や腕毛までも金色だった。
「お前らには関係ねぇよ。帰んな」
「あ゛?」
思わず荒い声が出た。
金色の熊獣人が、俺の眼光にひるまず睨み返してくる。
「山賊とは関係ねぇ、つってんだろ」
するとミーニャが俺を遮って前に出た。
ぴーんと立った黒い尻尾が、怒りでぶわっと毛羽立っている。
「誰に向かって口聞いてる。ケイカお兄ちゃんにその態度は、許されない」
「知らねぇよ。下手に出てりゃいい気になりやがって」
「…………決闘」
ミーニャが腰に手を当てて見下ろして言った。
周りの熊たちが「やめとけ!」「やばいって!」と止めるのも聞かず、金色熊獣人はのっそりと立ち上がった。
背が高い。ミーニャと対峙すると大人と子供に見える。
それにしても、ミーニャの持つ【百獣王の威光】はすべての獣人を従えるはずではなかったか?
疑問に思って金色熊を真理眼で見た。
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【ステータス】
名 前:クマル
性 別:男
年 齢:28
種 族:熊人族
職 業:狩人 王子
クラス:豪戦士Lv45 プリンスLv28
属 性:【砂塵】【光】
生命力:2800
精神力: 460
攻撃力:1800
防御力:1500
【スキル】
豪腕風撃:風を纏った力任せの振り下ろし攻撃。小範囲攻撃。
強打嵐撃:威力2倍で殴る、複数回攻撃。
豪殺双爪斬:鋭い爪で二回切り裂く。相手防御値無視。確率で即死効果。
超剛毛:一定時間、防御力を2倍に上げる。
【パッシブスキル】
肉体強化:能力上昇。
野性解放:体の能力を限界を超えて引き出す。能力を上昇。
HP自動回復:小。生命力を少しずつ回復する。
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歯向かうだけあって強いな。それでも能力値はミーニャの半分しかないが。彼女が別格に強すぎる。
そして職業が【王子】。王族に威光は効きにくいのか。
広場の少し離れた場所で、ミーニャは颯爽と包丁を抜くと構えた。
「相手してあげる。……さっさと、来て」
しなやかな手足に力を込める。
先に動いたのは金色熊だった。
「クソ猫がぁ! はらわた引きずり出してやる!」
大地を蹴って襲い掛かる。地面を揺るがす怒涛の勢い。
ミーニャは無表情のまま、平然として首を傾げた。肩までの黒髪が横に流れる。
「その程度で?」
次の瞬間、彼女が風になった。巫女服の袖をはためかせ、残像を残して移動する。
一拍遅れて、取り残された砂煙が慌てて彼女を追いかけた。
クマルは太い腕を無造作に振り下ろす。それだけで風が纏わりついて破壊力が増した。
これが【豪腕風撃】か。
が、ミーニャは風をまとう腕を紙一重で交わして、相手の後ろへ回り込む。
「な、なにっ!?」
「遅い」
神速の峰打ちを繰り出した。二刀流で腎臓を背中から叩く。回避不可の【神舞俊速】か。
金色熊クマルは前のめりに吹っ飛ばされる。
「ぐおぉぉ……」
クマルは地面を転がりつつ、背中を押さえた。腎臓は急所なのでとても痛いはず。
それでも野獣のようなギラギラした瞳の光は失われていない。顔を怒りで紅潮させつつ、四つんばいの姿勢で彼女を振り返る。
――が、そこに猫の姿はなかった。
「こっち」
「なっ!?」
舞うような動きで反対側から接近していたミーニャは、細い足を鞭のようにしならせてクマルの腹を蹴った。黒袴がめくれて黒の水着が見える。
ズンッ!
衝撃波を伴う蹴りが腹に突き刺さり、クマルの巨体が数メートルほど浮いた。
「ぐはぁっ!」
腹を押さえて白目を剥く。
ミーニャの黒い瞳がキラリと光る。
「反省して」
自然落下してくるクマル目掛けて、怒涛の攻撃を繰り出した。しなやかな蹴り、強烈な肘打ち、そして包丁の峰が襲い掛かる。
下からの突き上げる無数の攻撃を受けてクマルの体は浮き続ける。
しかしミーニャは荒々しくも舞うような優雅さは忘れていない。
白衣の袖と黒袴の裾がめくれるように翻る。
見ている熊獣人たちは声を失って、ただ美しくも激しい舞いに見惚れていた。
一方、クマルは空中にいるため受身も防御もままならないようだった。
金色の毛を逆立てるのみ。防御を上げる【超剛毛】で耐えるしかないよな。
しかしミーニャは容赦なく、大きな体全身にくまなく打撃を打ち込んでいく。熊だけに。
舞は続いた。
クマルは気絶してもう声も出さなくなった。
すると、ミーニャは手を止めて、刃渡りの長い解体包丁を両手で上段に構えた。
太陽をギラリと反射する。
「終わり」
自然落下してくるクマル目掛けて、全力で振り下ろす。
後先考えない、必殺の一撃。
――使用後の硬直がある【一の太刀】だな。ただし相手防御値無視。攻撃力2倍。
ズド――ンッ!
クマルの腹に峰打ちをめり込ませて、さらに地面へ叩きつけた。地面が大きく陥没する。
死んだんじゃないかと思ったが、クマルは口から泡を吹いて痙攣していた。しぶとい。
見ているとラピシアがたまごを抱えたまま歩み寄って「きゅああああ」と唱えた。
――これで大丈夫だな。
しばらく振り下ろした姿勢で止まっていたミーニャは、深呼吸してから包丁を納めた。
見入っていた獣人たちに淡々とした声で言う。
「これだけやって、まだ文句があるようなら、次はないと言っておいて」
熊獣人たちは我に帰ると、冷や汗を流しながら土下座した。
「は、はい」「必ず、説得します」「お許しくださいっ」
――完全に恐怖政治だな。まあ力がすべての獣人社会ならこれでいいのか。
俺はそんな彼らに尋ねた。
「で、なんで急に裕福になった理由を言えなかったんだ?」
すると、獣人たちは俺とセリカを交互に見た。
しかし、ミーニャの長い尻尾がゆらりと動くと、慌てて言った。
「つい最近、宝石が出る場所を見つけたからです」
「ほう、それは別にいいじゃないか。なぜ隠す必要が……ん? ここは国境近いよな。まさか」
熊たちが大きな体を縮こまらせて土下座した。
「その、宝石が出る場所は、国境を越えたエーデルシュタイン領になるんですっ」
「ほほおん」
俺の態度に反応してか、ミーニャが収めた包丁の柄に手を添えた。
少しだけ鯉口を切って刃を見せる。カチャっという無機質な音が残忍に響いた。
ひぃぃ、と熊獣人たちは悲鳴を上げる。
「お金は返します!」「なにとぞお慈悲を!」「助けてぇ!!」
俺はチラリとセリカを見た。
「どうする?」
セリカは優しい笑みを浮かべて言った。
「宝石の出る場所を見つけてくださって、ありがとうございます。教えてくださるなら、今までの分は、どうぞ鉱脈発見のお礼としてお納めください」
熊たちが沸き立った。
「「「おおお!」」」
「なんとお優しい!」「女神様じゃ!」「さすが美しい姫君!」
踊り出す熊獣人たち。
――素晴らしい飴と鞭を使った人心掌握術。恐怖で震え上がらせておいて優しい言葉で懐柔する。さすが王女。
俺は一応釘を刺しておく。
「ただし、ちゃんと道案内して、採掘が始まるまでの盗掘防止と、道整備はするようにな」
「「「はい!」」」
声を揃えて彼らは答えた。
――貴重な財源。
今すぐにでも採掘に取り掛かりたいが、セリカが咎人であるという状況を変えることが最優先だった。
まあ、埋まっている原石が少しでも残っていれば、ラピシアに頼んで増やしてもらえるから問題ない。
その後、熊獣人たちに宝石の場所を聞き、そして今後の予定を打ち合わせてから別れた。
太陽は西の空へ傾いている。空を雲が多い始めた。
俺たちは妖精の扉へ戻るため、山道を下った。次は猪獣人の村だ。
すると隣を歩くセリカが暗い顔をして言った。
「宝石が見つかったのはよかったです。でも、たまごが……」
「意外と、見つからないもんだな」
前を歩くミーニャが振り返る。
「大丈夫。ここにあるなら絶対見つけ出す」
「頼もしいな。――そうそう、さっきはよくやったぞ。さすがミーニャだ」
「……当然のことをしただけ」
淡々と言いつつもミーニャは急に頬を染めると、顔を隠すように前を向いて歩き出した。
でも、尻尾は嬉しそうにぱたぱたと左右に揺れていた。




