表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/284

第18話 塔が終わってラピシア勉強


 夕暮れ時の王都。街が赤い日差しに染まっている。

 試練の塔の2階に俺たちは立っていた。


 公園のような広場を埋め尽くす観衆たちから声が上がる。

「おい、見ろよ!」

「あいつ、生きてたのか!」

「親父も生きてる!」

「すげぇ! 儲かった!」

 試験を突破しただけだというのに、とても賑やかだった。


 セリカが微笑みつつ、俺の耳元に赤い唇を寄せて優しくささやく。

「さあ、ケイカさま。上へ行ってくださいませ」

「ああ」

 俺は階段を登り、塔の屋上へ出た。



 そこには監督官1人と7人の勇者候補生がいた。

 ガフが幽霊でも見る目付きで、金魚のように口をパクパクさせていた。

「あ、お、お前……」

 俺は試験官へ向かいつつ、ガフに目を向ける。

「よお。相変わらずのバカづらだな」

「うっ! ……けっ! お前なんて俺様がぶち殺してやる!」

「楽しみにしてるぜ」

 ニヤリと凄惨な笑みを向けた。

 試練の塔を突破するのにここまで苦労したのも、だいたいこいつのせい。

 許すつもりはなかった。



 試験官が言う。

「残り3分。ぎりぎりだったな。勇者候補ケイカ、『勇気』の試験を突破したことを認める」

 おおおおお!

 と、なぜか盛大な歓声によって祝福された。ただし半分ほどから。

「いきなり本命カードだ」

「楽しみだぜぇ!」

「儲かった!」

 そんな声が聞こえる。


 そして西の地平線に太陽は沈んだ。

 試験官はろうろうとした声を響かせた。

「ただ今をもって『勇気』の試験の終了を宣言する! 通過者はこの8名。一週間後のトーナメントは、通過1番と8番、2番と7番、3番と6番、4番と5番が試合をして勝ったものが次の試合へ進める。以上、試練を通過した勇者候補達に盛大な拍手を!」


 割れんばかりの拍手と歓声。

 俺の相手は1番。

 誰かと見たらガフだった。



 それから塔の外壁にある階段を使って降りた。

 セリカたちのところへ戻ろうとしたとき、ガフの手下がいた。

 

 弓を持った男がすれ違いざまに呟く。

「ありがとうございました」

「ん?」

 俺は振り返ったが視線をそらされた。



 セリカたちのところへ戻り、塔を降りた。

 すると広場の人ごみを掻き分けて、ミーニャが尻尾をぴんと立てて走ってきた。

 父である親父のほうへ走っていたが、俺を見るなり方向転換して飛びついてきた。

「ケイカお兄ちゃん……っ!」

「おいおいどうした。俺は無事だぞ?」


 すると観衆の男が言った。

「あんたたちの映像、途中で放映されなくなったんだよ」

「そうだったのか!?」

「てっきりみんな死んだと思ってたよ」

「そうか、それはミーニャも心配だったな」

「お兄ちゃん……よかった」

 細い体でひっしと抱きついてくるミーニャの頭を撫でつつ、何気なく男へ尋ねた。

「ちなみにいつから見えなくなった?」

「2層目じゃなかったかな? それでよう、あんたが生きてるか死んでるかも賭けの対象になってよー、すげぇ盛り上がったんだわ」

 なるほど。それでギリギリだったのに、賭けに勝った奴らから盛大に祝われたのか。

 


 親父が言う。

「あのなぁ、ミーニャ。ケイカもいいが、こういう場合は、まず父親に――」

「お父さん、無事」

 一言で切り捨てられて、親父はずーんっと沈み込んでしまった。


 

 セリカが隣へ来る。ローブをすっぽりと被ったラピシアと手を繋いで。

「さあ、帰って休みましょう」

「そうだな。お祝いは明日だ。さすがに疲れたな。どこかで食べて帰るか」

 その言葉にミーニャのネコ耳がピンッと立った。抱きついたままで顔を上げる。

「ごはん……作った」

「それは助かるな。じゃあ、帰るか」

「はいっ」

 みんなを引き連れるようにして、宿屋を目指した。


 途中、街の人たちからの祝福がくすぐったかった。

「あんた、すごいねぇ!」「この調子で頑張れよ!」「次も儲けさせてねっ!」

 俺は苦笑しつつ手を振って応えた。



 宿に帰ってささやかな晩餐。

 ミーニャの作ったスープと焼き鳥は素っ気無い感じだが、おいしかった。


 その後、俺は部屋に戻った。

 セリカとラピシアがいる。ラピシアの青い髪は床に付くほど長かったが、本人が切ることを嫌がったので、紐でくくってツインテールになった。

 床の上でくるくると踊るように回っている。長いツインテールの動く様子が面白いらしい。


 俺はベッドに並んで座るセリカへ言った。

「まずはセリカ、ラピシアに言葉を教えてやってくれ」

「はい、わかりました」

 ところがラピシアが、こぶしを振り回した。

「ベンキョウ イヤナノ!」

「一応、お母さんから面倒見てくれといわれた手前、何も教えないわけにはいかないだろ。神がバカじゃ話にならないしな」

「ヤーダー」

「そっか。じゃあやめとくか」

 ラピシアが、きょとんと首を傾げる。

「イイノ?」

「ああ、いいとも。その代わりお母さんが起きてきたときに、失望してまた怨霊化するかもしれないけどな」

「イヤァァァ!! ベンキョウ スルー!!」

 見開いた金色の瞳を涙で潤ませて、ぶるぶる震えだした。

 ――ちょっと悪いことした。よほどトラウマだったらしい。



 するとセリカが手を伸ばして震えるラピシアの頭を撫でた。

「ラピシアちゃん、勉強するって考えるから嫌になるのですよ」

「ソウナノ?」

「言葉や振る舞い、知識を身に付ければ、素敵な女性になれます。すると皆さんから褒めてもらえます。お母さんに会ったら、とても喜んでもらえますよ。お母さんに褒めて欲しくはないですか?」

「ホシイ……ケイカ ステキナジョセイ スキ?」

「ああ、もちろんだ。だからセリカは大好きだ」

 セリカの顔が火が付いたように赤くなる。

「じゃ、じゃあ、素敵な女性になりましょう」

「らぴしあ ナル! セリカヲ コエル!」

「がんばって」

 二人は机に向かって言葉の勉強を始めた。


 やれやれ。

 セリカは何と言っても元王女。素敵な女性としては完璧な存在だろう。

 実際、身のこなしや言葉遣いは惚れ惚れするものがあるし。

 任せても大丈夫だと心から思った。


 

「じゃあちょっと親父に会ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ」

「イッテラッシャー、ナノ」

 俺は部屋を出て一階酒場へ向かった。


 今日は臨時休業。

 親父がカウンターに座って酒を飲んでいた。

「飲むかい?」

「あとにするよ。まだ用事があるから」

「そうかい。で、俺には?」

「ラピシアの相談だ。急に子供が増えたら怪しまれる。親父の親戚を預かっていることにして欲しいんだが」

「いいぜ。ケイカの頼みなら、なんでもオーケーだ」

「すまない。恩に着る」

「おう、任せとけ」

「じゃあ、もう一つの用事、すませてくる」

「なんだか知らねぇが、気をつけてな」

 俺はカウンターを離れて外へ出た。



 深夜。

 家々の明かりが消えた街並み。石畳の通りに人影はほとんどない。 

 街灯が、ぽつぽつと明かりを灯している。


 俺は暗がりに向かいつつ言った。

「出てこいよ。さっきからずっといるだろ」

「気付いていたのか……さすがだな」

 暗がりから姿を現したのは山賊の若い男だった。ガフの手下の一人。手には弓矢を持っている。


 俺は腰の太刀に手を添えつつ言った。

「トーナメントで戦っても勝ち目がないから闇討ちしようって考えか?」

「いいや。私の独断で来た。話がしたかった」

「俺には何もないがな」

「まずは礼を言いたい。妹を救ってくれてありがとう」

「妹?」


 そう尋ねると、男は身震いした。ふぁさっと背中に透明な羽根が生える。

「見覚えあるだろう」

「……あの妖精か」

「試練の塔に囚われると知って探していた。けれどなかなか出会えなかった」

「なるほど。それで何度も挑戦していたってわけか」


 彼は羽根を閉まった。

「妹はどうだった?」

「ああ、最後まで世界の平和を願っていた。そして、転生したよ」

「そうか……ありがとう」

 男は真摯に頭を下げた。


「会いに来た理由はそれだけか?」

「いいや。もし妖精関連の何かがあったら私の名を呼んでくれ。命に代えても協力しよう。私の名はマージリアだ。妖精の加護があるならスキルで呼べる」

「わかった。他には?」

「……ガフが汚い手を使おうとしている。おそらく人質を取って負けさせるつもりだ」

「なるほど。奴の考えそうなことだ」

「女子供は安全な場所へ避難させておいたほうがいい」


 俺は顎を撫でつつ言った。

「いや……むしろセリカを観客席で人質にさせるよう仕向けろ」

「……仲間じゃないのか?」

「仲間だからさ」

 この機会を逃せば面倒が増す。

 勇者になれば処刑の裁量すらも得られるが、今はまだ勇者ではない。

 だったら正当防衛が成立する状況を仕組まないとな。



 男は、ふうっと首を振りながら息を吐いた。

「お前の考えは分からないが努力しよう――それではもう行く」

「ああ、一つだけ。なんで山賊になった?」

「この弓はもともと妖精のものだった。一人では取り返せないので、仲間に入って機会をうかがった。それだけだ。一つだけ言わせて貰うが、山賊になってから一人も殺してない」

「そうかい。俺にとってはどうでもいい。――じゃあな」

「ああ、また会おう。頑張ってくれ」

 俺はマージリアと別れて宿屋へ戻った。



 部屋に入ると、ラピシアがでかいベッドに寝ていた。細い手足を精一杯伸ばして大の字になっている。すやすやと寝息を立てていた。

 俺は咎める視線で、じぃっとセリカを見た。

「勉強は?」

「ちっ、違います、今日の分はもう終わってしまいました」

「は?」

「ラピシアちゃん、とても賢くてすいすい覚えたのですよ」

「ほう」

 いくらなんでもそんなに賢いはずは……と思いつつ、俺はラピシアに目を向けた。

 そういや《真理眼》で見ていなかったなと思って。

 ラピシアのステータスが浮かび上がる。

--------------------

【ステータス】

名 前:ラピシア

性 別:女

年 齢:257

種 族:半神人

職 業:大地母神Lv1

クラス:治癒師 神術師

属 性:【豊穣】【輝土】【聖地】


【パラメーター】

筋 力: 3万(2万)(+0) 最大成長値∞

敏 捷: 2万(1万)(+0) 最大成長値∞

魔 力:10万(2万)(+0) 最大成長値∞

知 識: 4万(1万)(+0) 最大成長値∞

幸 運:999(0) (+0) 最大成長値∞

信者数:  0


生命力:25万

精神力:70万


攻撃力: 3万

防御力: 3万

魔攻力:10万

魔防力: 4万


【装 備】

武 器:なし

防 具:【白銀のワンピース】母の愛が込められた服 防×1.5倍【全状態異常無効】【時間比例回復】

装身具:大地の指輪

--------------------

 なんぞこれ!

 俺よりは弱いが……なぜ神にLvがついてる!?

 神としての基本能力に加えて、人間のレベルアップが組み込まれているのかっ。


 すぐに勉強を終えられたのは知識が4万もあるからだな。

 この調子だと、すぐ俺より強くなっちまうじゃねーか……とほほ。


 がっくりと肩を落としかけたが、ふいに閃く。

 ……ん? でも半分は人だから、まさか……!?


 自分の手を見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:蛍河比古命

性 別:男

年 齢:?

種 族:八百万神

職 業:神

クラス:剣豪 神法師

属 性:【浄風】【清流】【微光】


【パラメーター】

筋 力:8万1210(+3万1210)

敏 捷:9万1910(+2万1910)

魔 力:19万2110(+10万2110)

知 識:6万1410(+4万1410)

信者数:5

--------------------


 うぉ!! ラピシアの能力値がそのまま加算されてる!!

 まあ、普通、神が神を従えることはあっても、信奉するなんてないもんな。


 つまりラピシアを育てれば、その分俺も強くなるということか。

 Lvが1つ上がると1~2万増えるみたいだし。

 ……でもクラスじゃなく職業にLvが付いてるのは初めて見たから成長率はどんな感じなのだろうか。

 まあ、こつこつ強くしていこう。



 自分の手を眺めてニヤニヤしているとセリカが心配そうな声を出した。

「あの、ケイカさま……? そろそろお休みになったほうがよろしいのでは?」

「そうだな、ってベッド取られてるし。別の部屋で一緒に寝るか?」

「ひゃっ……でもきっと何もないんでしょうね。別にどこでもかまいません」

「そっか。なら、この部屋でいいか」

 俺はベッドに近付いて、大の字に寝るラピシアを横に寄せた。

 そして二人分のスペースを作る。

 俺は真ん中へ横になる。


「じゃあ、寝よう」

「うっ……いつもより近いです」

「仕方ないだろう。ラピシアが寝てるんだから」

「は、はいっ」

 セリカはもじもじしていたが、鎧と上着を脱いで身軽になると、隣に入ってきた。

 というか本当に近い。

 端整な顔が目の前にあって、お互いの吐息が交差する。大きな青い瞳、近くで見ると睫毛がとても長かった。


「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい、ケイカさま」

 セリカはそう言うと、俺の胸に顔を押し付けてきた。金髪から花のような香りが薫った。

「セリカ?」

「すやすや」

「口で言うなよ」

「ふんっ、すやすや」

 怒ったような甘えるような声。なんだか可愛いので、腕を回して華奢な体をぎゅっと抱き締めた。柔らかい胸が押しつぶされる感触。

 すると、セリカはビクンッと体を跳ねさせた。

「ひゃあっ」

 と叫んだかと思うと、くにゃっと体の力が抜けた。

 よく分からないが、寝たらしい。

 俺も今日一日の疲れが押し寄せて、そのまま寝た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GAノベルより1月15日に3巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ