第186話 対決、夜魔伯爵!
夜魔伯爵マッシブと戦うことになった俺は屋敷の外に出た。
庭で戦うのかと思ったら、奴はわざわざ表に出る。
後をつけてきていたサキュバスたちを中心に、さらに人が集まっていた。
屋敷は大通りの突き辺りにあるので、そこまで交通の邪魔にはならない。
マッシブは人々を眺めて満足そうに頷く。
「観客がいるのは素晴らしい。ほかにも暇人がいたら集めてこい!」
「おいおい、いいのか? お前が恥をかくことになるんだぞ」
「ふふん。恥をかくことを怖れてこの街を生き抜くことはできん」
そういうとマッシブは白い歯を見せてニカッと笑った。
――なんでこんなに自信があるんだ。何か隠し技でも持っているのか?
真理眼でステータスを見たが【万物魅了】や【超肉体強化】がそれなりに使えそうなだけで、俺に勝てるとは思えない。
能力値はそこそこ高い。とはいえ魔王四天王ほどではない。
百人ほどの観客が集まったところで、俺とマッシブは距離を取って対峙した。
「では、始めようか」
俺は太刀に手を掛けた。いつでも抜ける姿勢をとる。
マッシブがマントを片手で脱ぎ捨てる。夜会服はサイズがぴちぴちで、筋肉の盛り上がりがよくわかった。
「まあ待て、勇者よ」
「ここにきて怖気づいたか」
「いや、違う。勇者が強いのは知っている。四天王をすべて倒した男だからな。だから武力ではかなわないだろう」
「そうなるな」
マッシブはニカッと笑う。
「そこで、提案だ! 私の得意とするもので勝負しようではないか! 勇者は、あらゆる面で秀でていなければならないはずだ!」
「まあ、な。ただし勝負内容を先に言え。勇者の戦いとしてふさわしいかを判断してからだ」
――性技で勝負なんていわれたら、問答無用でぶったぎってやる。
「わかっている――私の最も得意とするもの、それは!」
マッシブはいきなり夜会服を掴んだ。
そして一気に引き千切った。
ボディービルダー並みの、ムキムキの筋肉がさらされる。
「 肉 体 美 だ!」
「「「おお~」」」
観客たちがぱちぱちと拍手を送った。
マッシブはポーズを取りながら、うっとりと太い腕を眺める。
「鍛え抜かれた筋肉。脂肪のない引き締まった筋肉。そして、動きに合わせて、うねるように盛り上がる筋肉! ――どうだ、この美しさは! 勇者も鍛え上げた肉体を見せるだけなら問題ないはずだ!」
俺は頭をポリポリとかく。
「バカじゃないのか、こいつ」
すると道の端にいたグレスギーがボソッと言う。
「今頃気がついたのか?」
「うるさい」
マッシブは胸筋を強調するポースを取りながら、俺を見て鼻で笑う。
「どうした、勇者! ひょっとして貧相な肉体なのか!? 晒すのが恥ずかしいか? 私はむしろ――興奮する!」
バリッ! とマッシブのズボンが弾け飛ぶ。筋肉に覆われた太もも、ふくらはぎ。
背中をこちらに向けて背筋に力を込める。尻がキュッと持ち上がった。
俺は呆れながらも尋ねる。
「ひょっとしてお前、大勢に裸を見せたいだけじゃないのか?」
「当たり前だろう! 見られないと脱いでも興奮しないではないかっ!」
――何を当たり前のように言ってやがる。
俺はステラを見た。ひも状の下着に半脱ぎ浴衣姿をしたエロい格好。
「確か前に『自分は痴女じゃない、見られてもいい格好と見せたがるのは違う』と言ってたよな。その意味がわかったわ」
「でしょ~。アタシはまだマシなほうなんだって」
うんざりした顔で彼女は答えた。尻尾が退屈そうに揺れていた。
あまりに暇そうにしてるので、俺は顎で指図した。
ステラは桃色の髪を揺らして頷いた。
そうこうするうちに、マッシブは唯一残ったパンツに手を掛けた。
両脇の部分に指を入れ、ぐいーんと引き伸ばす。ブーメランパンツのように股間に食い込む。
「おい、バカ。やめろ」
俺は制止したが、奴は聞き入れない。
なぜか遠い目をして語り出す。パンツを引っ張りながら。
「止めてくれるな。私だって、間違っているのではないか? と、ふと考える時がある。しかし、興奮するとは生きる意味そのものなのだよ! 興奮できてこそ人生は薔薇色に輝く! そして究極の興奮とは、死にたいほどの羞恥の向こう側にあるのだ!」
「何言ってんだ、こいつ」
さすがの俺も、一歩引いた。
しかし間合いを詰めるかのように、マッシブは進み出てきた。
パンツをより引っ張りながら。今にも千切れそうだ。
「私は興奮を得るためなら、最後の一枚を脱ぎ捨てることも辞さない!」
「いや、辞せよ!」
俺のツッコミなど、焼け石に水だった。
マッシブはかなり近くまで来ると、パンツを伸ばしたり引いたりした。
奴の呼吸が荒い。心なしか頬が紅潮している。
しかしパンツはギリギリで破れない。
口では思い切っているが、内心では興奮したい気持ちと羞恥心とで葛藤しているようだ。
「さあ、勇者よ、脱ぎたまえ! 生きている実感をともに得ようではないかぁ! そして、強敵と書いて「とも」と読む関係になるのだ!」
「もう趣旨変わってるだろ、それ。ただの変態だ」
マッシブは片方の手を放し、髪を掻き上げる。パンツが戻って、パチンと鳴った。
「変態? 何を言う。裸を他人に見せて嫌がる反応に興奮するわけではない。見られて恥ずかしいと感じる、いたってまともな精神ではないか! しかも誰にも迷惑はかけていない!」
「家族は困ってそうだけどな」
「うっ――現実的な話をしないでくれ。夜魔はドリームに生きる生き物なのだ! まあ、御託はいい。やってみればわかる! すべてを脱ぎ捨てて、新しい自分を見つけ出せ! 自分探しの旅などしなくていい、ただ往来で脱げばそれが新しい自分だ!」
「確かに新しいけどな。犯罪者という新しい自分だ。よくて笑いものだな」
俺の突っ込みに、マッシブはパンツを思いっきり引っ張って叫ぶ。
「まだわからないのか! 笑われたっていい。人は一人では生きていけない。誰かに見守られて初めて生きている実感が湧くのだ!」
「いい言葉だが、お前が言うと興奮したいだけの変態にしか聞こえない――もう、付き合ってられん」
俺は指をパチンと鳴らした。風が小さな刃となって向かう。
そして奴が引っ張っているパンツを切った。望みをかなえてやったぞ。
その瞬間、興奮しきったキノコが飛び出した。
「おぉう! えくせれぇーんとっっっ!」
マッシブは頭を抱え、腰を突き出す格好でもだえた。
観客達は笑い出した。ガン見しているものもいる。品定めするように、うんうん頷いているものもいる。
意外とみんな慣れていた。よくあることなのかもしれない。
――まあ、この町だからなんともないだけで、他の街でやったら即座に捕まるからな。
そこへステラが戻ってきた。
「は~い。おまた~」
手にはたまごを持っていた。
「えらいぞ、ステラ」
頭を撫でてやると、背中の小さな羽根が嬉しそうにパタパタと動いた。
マッシブが目を見張る。
「な、なにをしている! まだ勝負は始まったばかりだ!」
「面倒だから持っていく。油断してたお前が悪い」
バカとは付き合っていられないので、さっきステラに合図して屋敷に取りに戻らせたのだった。
この家のお嬢さまなんだから何の問題もなく入れるし。
マッシブが座り込み、地面を殴る。
「話が違う! 貴様もまた、衆人環視の中で裸になる尊さが分からぬ、俗物だったのかっ! 勇者、そなたとは羞恥の先に、真の友情を築けると思ったのだぞ!」
「勝手に決めるな。それとも、今度は俺の得意分野で勝負するか?」
俺は太刀を抜いてマッシブに突きつけた。気迫を込める。
マッシブの全身から汗が滝のように流れた。
するとステラが割って入った。
「ていうかさ、アタシは勇者と一緒になるんだから、ある意味家族にあげるようなものじゃん? 赤の他人にあげるわけじゃないんだし問題ないじゃーん」
「そ、そうだな、いやー、争う必要もなかったか、あっはっは――って、なに!? 勇者と一緒になる!?」
「妻ではないが、家族にはなるかもしれないな――っと、もうこういう仲になってしまったし」
俺はステラを引き寄せる。ステラが必死に頭を振った。
「ひゃんっ――むりむり、今日はもうおなかいっぱい――あぅっ!」
逃げようとするステラのお尻を揉んで引き寄せつつ、キスをした。濃厚な力を注ぎ込む。
ステラが喘ぎつつ、華奢な体を痙攣させる。お椀型の美しい胸が震えた。
観客からは「うわぁ」「欲しい」「ボクにもっ」「あたしにもぉ~」などうらやむ悲鳴が上がった。
マッシブもまた、よだれをじゅるりと垂らして見ていた。
「な、なんという濃厚な、力……これが勇者の力――いや、まて? 勇者と付き合う? サキュバスが? 魔王から見たら? 反逆に見える?」
急に、事態の深刻さに気付いて、取り乱した。
娘が勇者と付き合ったら魔王軍から友好的には扱われなくなるだろう。かわいそうに。
俺は唇を離すと、ステラを抱えて歩き出した。
彼らを放っておいて街の外へと向かう。
大通りを歩く間、ステラは俺の腕の中で喘いでいた。顔が耳まで赤い。
「もうムリぃ……当分いらない……こんなに濃いの注がれたら妊娠しちゃうよぉ……」
ぽっこり膨れたおなかを指で丸くさすりつつ、そう呟いていた。
なんかそんなところが可愛らしかった。
その後、しらふに戻ったらしいマッシブが後ろから叫んだ。
「せめて娘とは肉体だけの関係で! セフレにして使い捨てるだけにしてくれ!」
父として最悪な願い事をしていたが無視した。
サキュバスの常識ではそっちが正しいのだろうけど。
そんな父親に向かってステラはベーッと舌を出していた。
外に出ると昼を過ぎていた。
針葉樹林を歩いて妖精の扉へ向かう。
――これで、たまごは手に入れたか。
あとは魔王城に行く方法だな。
むしろ今から俺だけで行ってみるか?
グレスギーに尋ねる。
「魔王城は北にある城でいいんだよな。魔王はいなくてダミーだと聞いたことがあるが」
「それは間違っていない。ただ執務はすべて北の城でおこなっていた」
「ちなみに魔王はどこにいるか知っているか?」
「さあ……噂では違う大陸にあると聞いたが」
「辺境大陸か?」
「おそらく。場所は知らん」
――確かに辺境大陸の魔物は桁違いに強すぎた。
魔王がいる場所の近くなら強い魔物が放たれているはずだ。
「まあ今は咎人システムの証拠だ。行くか――いや」
ふと、ステラの持つたまごが目に入る。
たまごはピンクと紫が交じり合った色をしている。良く見ると、表面の模様がなんだか卑猥な形に見えてくる。
――これは早々に浄化しないとやばいな。
なんとなく女神じゃないと浄化はうまくいかない気がする。
先にラピシアへ渡すため、俺たちは丘の上にある妖精の扉に向かった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
明日、6月からまた忙しくなってしまうので、不定期更新になります。




