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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第八章 勇者冒険編・亡国の姫君

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第185話 夜魔伯爵登場

 地下に広がる巨大な街ウォルピタス。

 享楽の夜が永遠に続く街。


 俺たちはその街の奥にある夜魔伯爵の屋敷にいた。

 入るなりメイドたちが「お嬢さまのお帰りです!」と叫んで、すぐに応接室に案内された。

 

 豪華なテーブルとソファーのある応接室。

 一見、普通に見えたが、よく見れば男性器の張り型や、鞭やロウソクなどが飾られていた。

 出されたお茶も紫色をしていた。いかがわしい匂いがしたので、一口飲んだだけでやめた。

 ステラも「あんまし飲まないほうがいいよ。同性を襲いたくなっちゃうから」と言っていた。



 しばらく待つと、夜会服にマントを羽織った男が出てきた。

 肩幅が広く筋肉質。ニカッと笑うと白い歯が見える。

 夜の街には似合わない健康的な男だった。


「ようこそ勇者。私がこの辺り一帯を支配する夜魔伯爵ことマッシブだ。娘を世話してくれたようでなにより」

「俺は勇者ケイカ。ステラには村の運営を助けてもらってる。――こいつがキマイラのグレスギーだ」

 マッシブはグレスギーを見て、片方の眉だけクイッと上げた。

「おかしな組合せだな。まあいい、勇者が私になんのようだね?」


「要件は2つ。1つ目は魔王城へ行きたい。2つ目はゲアドルフの別邸に行きたい」

 もう駆け引きなしに、率直に言った。

 時間がないし、そこまでひどい提案はしてこないだろうという目論見があった。

 あと真横に彼の娘が座っているので、脅しや暴力が使いにくいってのもある。


 

 ところがマッシブは腕を組むなり首を振った。

「それは受けられないですな」

「どうしてだ?」

「私としましては、魔王軍にも人間側にもいい顔をしておきたいんでね。片方が一方的に不利になる申し出は受けられないのだよ」


「なるほど」

 俺は横に座るステラを見た。

 彼女は手をひらひら動かして首を切るジェスチャーをした。

「ああ、気にしなくていいよん。言うこと聞かないなら、ぶった切ってくれていいから」


 マッシブが娘を睨む。

「なんてこというんだ! 父親が大切だとは思わないのか」

「話通じない父親なんていらないよん。下着一緒に洗ったら臭いし」

「く、くさ……ぐふっ!」

 マッシブは胸を押さえて震えた。娘の言葉がこたえたらしい。



 俺が場をとりなす。

「まあまあ、悪気があっての言葉じゃないから。ステラも少し言いすぎだぞ」

「は~い、ごめんなさ~い」


「それにマッシブ。魔王軍が一方的に不利になる話でもない」

「ほほう? なぜそう言えるのかね?」

「魔王城に行っても魔王は倒さず帰ってくる。ゲアドルフの別邸も荒らす気はない。ある物が一つ、欲しいだけ。それはもともと魔王軍のものではないしな」


「ちょっと失礼」

 いきなりマッシブは立ち上がると部屋から出て行った。

「なんだ?」


「うんこでもしにいったんじゃない?」

 俺はステラの唇を指で押さえた。ぷにぷにと柔らかい。

「もっと言い方があるだろ。直球は禁止な」

「は~い。わかりまん……くぷぷぷ」

 何かとんでもないことを言いそうだったので、鼻と口を押さえた。

 背中の小さな羽根をバタバタさせて暴れる。

 短い浴衣が乱れて、紐下着が露わになった。



 そのうちマッシブが帰ってきた。

 手には大きなバッグを提げている。

「ふむ。セックスするなら部屋を用意するが……それともここがいいかね? 劇場を借りて観客を入れてもいいが」

「どんなプレイだよ」


 ふっ、とマッシブは鼻で笑った。

「セックスは芸術だ。エンターテイメントだ! 入場料を取る価値がある!」

「価値観の違い、としておこう。――それより、魔王城とゲアドルフ邸には連れて行ってもらえないのか?」


 真面目な話に戻ると、マッシブは難しそうな顔をした。

「残念ながら魔王城は無理だ。行かせたくてもできない」

「どうしてだ?」

「四天王が全員倒された時点で緊急防御装置が働き、魔王城に通じるすべての転移ゲートは閉じられた」

「マジか! じゃあ、直接乗り込むしかないのか……」

 ――うーん、距離が遠いな。俺一人ならすぐに行って帰ってこれるだろうけど。



「ゲアドルフ邸は?」

「ひょっとしてこいつが欲しいのではないかね?」

 マッシブはそういうなり持ってきたバッグを開けた。

 中にはピンクと紫に彩られた、エロティックな丸い玉が入っていた。


 思わず声が出る。

「それは、たまご! どうしてお前が!」

「ふふん。ゲアドルフの研究や私物はすでに回収して保管してあるのだよ。盗賊に荒らされないためにな。これも魔王軍への恭順の一環なのだ」


「そのたまごは、ただのたまごだ。譲ってくれないか?」

「ふっ。嘘がヘタだな、勇者は――これは持っていた魔物の力を災厄として世界にふりまくたまごだろう? ふふふっ。悪いが勇者には渡せないな」

「どうしてだ? 持っていてもしかたないだろう?」



 するとマッシブは悔しそうにギリギリと歯軋りした。

「たまごは6個ありながら、なぜデスペラードには渡して、私には渡さなかったのだ! 私があの腐れヴァンパイアより劣るとでもいうのか! 私なら必ずや、愛欲まみれの爛れた世界に染め上げて見せるというのに!」

 凄まじい変化。さっきまでの落ち着いた印象ががらりと変わる。

 デスペラードって地獄侯爵の本名だな、確か。

 嫉妬丸出しじゃないか。


「その愛欲まみれの世界が嫌だったんじゃないのか。というか、マッシブは地獄侯爵が嫌いなのか」

「そうだとも――というか、勇者ですら私を舐めているな!」

「いやいや、初対面なのになめるもなにもない」

「私の事は呼び捨てにして、デスペラードのことは敬称でよぶ!」

 ――少し痛いところを突かれた。


 嘘を言ってもしょうがないので、正直に話す。

「ああ……侯爵は侯爵と呼んでしまうな。確かに少し尊敬しているかもな」

「くぅ~、これだ。みんなそうだ。私とデスペラードを比べて奴は凄い凄いと誉めそやす。そんなに奴のテクニックが凄いのか? 私はベッドの上でなら性技48手を一週間繰り広げられるぞ! ベッドの上では無敵なのだ、ふははっ」

 マッシブはマントを広げて胸を反らした。

 さすが、ステラの父親。インキュバスの本領発揮か。

 付き合ってられないが。



 俺はステラを見た。

「よくこの街がまともに運営できてるな」

「アタシもそう思う」

 ステラが呆れ顔で答えた。


 マッシブがジロッと俺を睨む。

「勇者よ。私と勝負して勝ったらこのたまごをやろう。しかし負けたら、私がデスペラードより凄いことを世界に喧伝するのだ。わかったな!」

 俺は太刀に手を添えつつ立ち上がる。

「手っ取り早い。望むところだ」


 するとマッシブは部屋の出口に向かった。

「ここは狭い。表に出たまえ」

「いいだろう」

 俺は後に続いた。

 ステラとグレスギーがついてくる。


 廊下を歩いていると、後ろでステラが、はぁ~と大げさなため息を吐いた。

「ケイカなら大丈夫だと思うけどさ~。お父さんのペースに乗せられないでね。変態だから気をつけて」

「わかった」

 

 前を行くマッシブは、体を捻ったり準備運動をしながら表に向かっていた。

 俺も首や肩を動かしつつ、戦いに備えた。

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