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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第七章 勇者地固め編・貴族動乱

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第165話 王都防衛と奥の手

 夕暮れ時の王都。

 街壁のすぐ傍まで来ていた巨人霊ヨトゥンは、足元にいる貴族軍へと拳を振り下ろした。


 ぬかるみに足を取られて逃げることすら出来ない兵士たちが悲鳴を上げる。

 王都の街壁や建物の上から見守る人々も呻き声を出して目を覆う。

 ただ一番みっともなく叫んでいたのはミルフォードだった。


 青い鎧を来たまま泥の中でのた打ち回るミルフォード。

「うわぁ! 待て、待ってくれ! 話が違うぞ、ガルゥ! アズス!」

 魔族の名を呼ぶが、もういない。


 

 ヨトゥンがただの人間の言葉を聞き入れるわけもなく。

 無慈悲な拳が振り下ろされる。

 拳の陰に入った兵士たちが腰を抜かして震えている――。


 俺は太刀を構えつつ最高速度で飛んだ。

 先ほど降らせた雨――聖なる水で全身ずぶ濡れになったヨトゥンへと。


「山間を流れる清らかな小川よ 悪しき力を流し清めよ――《浄化清水・水月斬》!」


 ズァァァン――ッ!


 ヨトゥンを浄化しつつ、巨体を背中からかかとまで斬りつけた。


「オオォォォン……」

 ヨトゥンは悲しげな断末魔を上げた。


 ――安らかに眠れ。


 とむらいの言葉を心の中で呟くと、彼の厳しかった顔に微笑みが浮かんだように思えた。

『恩に着る――もっとも強き……勇者よ』

 そして半透明の巨体が静かに光り始める。

 無数の清浄な光の粒となって蛍のように儚く散って消えていった。


 あとには俺だけが立っていた。

 静寂の訪れ。

 夕暮れの赤い空の下、風が吹いて髪を優しく揺らしていく。



 ようやく事態を理解した人々が、爆発したかのような歓声を上げた。

「すげぇ!」「あんな化け物を倒したわ!」「さすが大地母神さまに愛された勇者!」「ケイカさまこそ、真の勇者さまじゃ!」

 王都が歓喜の声で揺れんばかりに。


 死を覚悟して震え上がっていた兵士たちは、涙を流して俺を称える。

「助かった!」「なんて人だ!」「ありがとう、勇者さま!」


 俺は手を上げて歓声に応えた。

 ――いやはや。上々の出来だな。

 途中少し焦ったが、終わりよければすべて良し!



 その後、兵士たちとともにぬかるみを出て街門の傍へ行った。

 閉じられていた門が開けられて人々が出てきた。

 みんな笑顔で俺を称えてきた。手を合わせて拝んでる老婆までいる。



 周囲にいる兵士たちは感激して俺に礼を言ってきた。

 ただ、騎士団長は街壁にもたれて、がっくりとうなだれている。

「これまでか……」

 計画が失敗して少しふけたように見えた。


 その隣ではミルフォードが呆然と口を開けていた。

「そんな……こんなことが……計画が……」



 俺は下駄を鳴らして奴に近付く。

「残念だったな、ミルフォード」

「な、なに!? ……いえ、救援に駆けつけましたものの、力及ばず。申し訳ありません」

 泥まみれの姿ながら、丁寧な態度を取り繕った。


 ――どうやら手のひら返しをするらしい。

 クーデターを失敗したんだから計画はなかったことにするつもりか。

 この期に及んで潔くない。



 侮蔑の視線で見下ろし、大声で言った。

「往生際が悪いぞ、ミルフォード。それにプレヴァーもな。魔族の協力を得て今回の件を仕組んだのはわかっている!」


「「「えええ!」」」

 外へと出てきていた街の人が驚きの声を揃えた。

 兵士たちも驚いている。 


「なんだって!」「自作自演だったのか!」「ひどい! 民を守るのが貴族の勤めのはずなのに!」

 おばさんも老人も青年も、拳を振り上げて怒鳴った。



 ミルフォードは慌てて立ち上がり、必死に弁明する。

「ち、違う! 何を言うんだ! 私たちは王都の危機に駆けつけたじゃないか!」

 俺が横から上げ足を取る。

「領地からは遠いだろう? よく今日が襲われる日だとわかったもんだな」

 うっ、と息を詰まらせるミルフォード。


 人々の顔が険しくなる。

「そうだそうだ!」「おかしいぞ!」「説明しろ!」


「そ、それは……我が領地で活発に活動していた魔族を倒したときに魔族の計画がわかったんですよ! それで至急駆けつけたんだ!」

 ミルフォードは汗を噴出しつつも、言葉を巧みに操った。



「なるほど、理屈は通ってるな――だが、甘い!」

「なに!?」


 俺は口の横に手を当てて、遠くへ向かって大声で叫ぶ。

「おーい! セリカ、やってくれ!」

 ――まあ、ここからじゃ、聞こえるはずはないが。


 心の中で呪文を唱えて、妖精のハーヤへと呼びかける。

『やってくれ』

『はーい。ぽちっとなー』

 


 そのとたん、街や空のあちこちに四角い画面が現れた。

 試練の塔の開催時に使う、映像中継用のスクリーン。


 千里眼で塔管理施設を見ると、小さなモニターが壁一面に並ぶモニター室で、妖精のハーヤがちょこまかと動いて機械を操作していた。

 傍にはセリカと、キンメリクの親父。

 親父には建物への侵入を手伝ってもらった。元山賊だけあって、鍵解除の腕は衰えてなかった。


 人々の戸惑う声が聞こえる。

「お? どうした?」「なんだ、これ」「なんで中継が?」


 セリカが金髪を揺らして画面に現れた。

 凛とした声で言う。

「みなさん、わたくしは勇者ケイカさまの仲間です。今から勇者さまが魔法で記録した過去の映像をお見せします。貴族とヴァーヌス教の司祭、そして魔族との密会の様子です」


 次の瞬間、画面には魔族と司教、そして貴族たちがヴァーヌス教の応接室で密談する姿が映し出された。


『勇者は、貴族と魔物の関係に薄々気付いたと息子から連絡があったぞ。油断ならない奴だ』

『城を狙う魔物の増援は試練の塔に補充しておいた』

『救助に駆けつける貴族軍は間に合いそうでしょうか?』

『ゲアドルフが残した秘密兵器がある。巨人の死霊(ジャイアントレイス)だ。勇者が出てきてもそうは負けはしない』

 今回の計画を克明に話していく。


 本来なら映像の信憑性が問われるところだったが、大活躍した俺を人々は信じきってくれた。

 すぐさま人々は驚愕し怒りの拳を振り上げる。

「あれは貴族の方々じゃないか!」「なんてやつらだ!」「司教さままでいるわ!」「もう許せない!」

 

 ミルフォードは逃げようとしたが、町の人たちに囲まれてしまった。


「なにをする! 私は貴族だぞ!」

「お前のせいでうちの子が怪我した!」「貴族じゃないわ! ただの犯罪者よ!」「このひとでなし!」

「うわぁぁぁ!」

 ミルフォードは地面に倒され、サッカーボールを取り合うように全員から蹴られまくった。

 まあ、そうなるな。

 硬い鎧着てたから大丈夫だろう。

 


 俺は兵士たちを見渡して言う。

「さあ、お前たちはどうする? 死刑確実の貴族と運命を共にするか、それとも身の潔白を証明するか」


 一人の若い兵士が青褪めた顔で尋ねてきた。

「私は何も知りません。どうすればよいのですか、勇者さま?」

「さっきの映像に出てた貴族や司祭たちを捕まえてくれば、命令に従っただけだと認めてやろう」

「「「わかりました! 今すぐ!」」」

 兵士たちは疲れた体に鞭打って、駆け足で王都の中へ散っていった。


 もちろん、王様の命令で城の騎士団も動いていた。

 全員捕まるのは時間の問題だろう。


 

「あとは……騎士団長のプレヴァーか」

 渋みのある顔をした初老の男プレヴァーに目を向けた。


 プレヴァーは地面をじっと見つめながら、張りのある声で言う。

「勇者どの。こちらの負けじゃ。この命、好きにしてくれい」

「そうか。だったらファブリカ王国の貴族と第3王子とのつながりを証言してもらおうか」


 俺の言葉に、プレヴァーはゆっくりと顔を上げた。

「そこまで知っておったのか……さすがは四天王を倒した勇者どのであるな」

「認めるのか」


「先ほどの映像以外にもいろいろと用意してあるのだろう? だったら潔く散ったほうがよい」

 ――まあ、あの映像、神の力で捏造しただけで、実は微妙に細部が違うはずなのだけど。



 俺は咳払いをして気持ちを切り替えつつ、プレヴァーへ尋ねる。

「お前のことを調べさせてもらったが、質実剛健で人当たりもよかった。そんなお前が、なぜ悪事に加担した?」


「王子のためであった。王子が不遇な扱いを受けておるのだが、それはわしのせいじゃからな」

「ほう?」


「わしがつい、王妃との噂になってしまった。その後で生まれたばかりに王からは……」

「不倫したのか」

「いいや。ただ何度か会って話をしただけじゃ。王妃は尊い存在であって恋する相手ではない」

 まっすぐに俺を見る瞳に曇りはなかった。


 俺は頷いて言う。

「嘘は言ってないな。まあ、それで第3王子が他国の貴族を味方につけてまで王位を狙った理由がわかる。今のままでは永遠に自分の境遇は改善されないから」


「その通り。王子に負い目があるわしは、結局、止めることはできなかった」

「で、戦いのことしかわからないから、こんなことに手を貸したってわけか」


 プレヴァーは目を瞑る。

「潔く斬り捨ててくれ。死ぬなら強い者の剣で旅立ちたい」

 覚悟を決めた態度。

 国家反逆罪で死刑が順当だが、どうも同情の余地がある。

 元をただせばファブリカ国王にも原因があると言えなくもない。


「ここでの戦いは終わった。死ぬなら別の戦場で散れ――城へ行くぞ」

 俺はプレヴァーを立たせた。



 すると、巫女服をなびかせてミーニャが石畳の道を走って来た。

 いつも通りの無表情。

 しかし俺の顔を見るなり、頭の上の猫耳がひこひこと嬉しそうに動いた。


 街壁の門の傍にいる俺の胸へ飛び込む勢いで駆けて来て止まった。黒髪がふわっと広がる。

「向こう、終わった」

「南の魔物は片付いたか。ご苦労だったな。次はこのプレヴァーとミルフォードを城に連れて行ってくれ」

「わかった――貴族、どこ?」



 話していてすっかり忘れていた。

 門の外、怒りのままに蹴りを入れている集団を振り返る。

「もういいだろう。その辺にしておいてやれ。さすがに殺すのはまずい」

「「「わかりました! 勇者さま!」」」


 人々が左右に分かれた。

 輪の中心には鎧を着たゴミが落ちていた。

「きたない」

 ミーニャは一言で表現すると、ぼろきれになったミルフォードを引きずって城へと向かった。プレヴァーを連れて。



 後ろ姿を見送りながら、俺は別の場所へと足を向けた。

 傍にいた街の人が首を傾げる。

「勇者さまはお城に行かれないので?」

「まだやることがあるからな」


 俺は千里眼で街の大通りにある建物を見ていた。

 ヴァーヌス教の教会。

 王都は騒然としていたが、教会はそれ以上にもめていた。

 人々が押し寄せて説明を求め、内部では末端の僧侶や神官が上級司祭に詰め寄る。


 ただし、人々は中に入れない。

 全身鎧で完全武装した神官戦士たちが入口にいた。体を覆うぐらいの大きな盾を並べて人の波を防いでいる。



 ――用意がいいな。

 あの全身鎧を着るだけで時間かかるだろうに。

 まさか俺の計画に気付いていた?


 だがそれはすぐに勘違いと気付く。

 神官戦士の持つ武器を真理眼で見た。


【聖鉄鎚(ホーリーメイス)】アンデッドに2倍ダメージ。


 対悪魔用でも対魔獣用でもなく、対アンデッド。

 つまり試練の塔から街へとあふれたアンデッドを始末するのはこいつらの仕事だったのだ。

 人々を助けてヴァーヌス教の信頼をますます高めるつもりだったのだろう。



 ――うん。

 やはりヴァーヌス教は害悪だ。

 もちろん無心に信じてる者は咎めないが、必要悪だと考えて実行していたものは全員処分するしかないな。


 民意は完全に俺を支持している。

 やるなら今だろう。


 俺はどうやって討ち取るか思案しながら歩く。石畳に下駄の音がよく響いていた。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
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