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第13話 試練の塔 無限エンカウント(2層目)

 試練の塔の2層目に降りた。日没まで残り7時間50分。

 1層目と似たような石造りの通路。高さは2メートルほどで変わらなかったが、幅は3メートルと広くなっていた。

 しかし、階段を下りてすぐの床に白線が引かれ、その先の通路を見て俺は呆れた声を出した。


「なんだ、これ……」

 俺の見る先。

 まっすぐに伸びる広い通路には、どこまでもモンスターがひしめき合っていた。

【ソードスケルトン】剣だけを持つ白い骸骨。弱いが群れる。

【ガーゴイル】悪魔をかたどった石像。硬い。

【骸骨騎士】重装備の黒い骸骨。硬くて素早い。

異形彫像イビルスタトゥ】不気味な魔神をかたどった石像。硬くて強い。


 あと【リカバリーボーン】までいた。

 一層目と強さは同じだが、再生時間は5分だった。


 ――即死トラップ満載の次は魔物大量エンカウントかよ。無能な発想がまじクソゲー。

 というか設計者の思想が透けて見えた。必ず殺すつもりなのだろう。


 ただ《真理眼》で見たところ、罠は張られてないようだった。

 当然か。魔物が踏んでしまうからな。



 観察しながら考えていると、袋を背負ったセリカが金髪を揺らして横に立った。整った顔が決意で美しく引き締められている。

「頑張りましょう、ケイカさま」

「ああ、もちろんだ――親父も遅れるな」

「あいよ」


 セリカが初めて細身の剣を抜いた。錆びた鉄のような刃。しかし俺の目にはその下に清浄な光を放つ銀の刀身が見えた。

 親父は幅の広い、先の曲がったダガーを抜く。


 俺も太刀を抜いた。ひょうたんの水をかけて刃紋を青く光らせる。二人の剣にも同じように水をかけた。

「――《風刃付与》……行くぞ!」

「はいっ」

「おうよ」

 後から無言で荷物を背負った大男が続く。



 俺は白線を越えて駆け出した。

 うろうろしていた魔物が波のように襲い掛かってくる。

 風の刃をまとう太刀を群がる魔物に振るった。


 先頭の3体は太刀で、後ろの魔物5匹ほどを風の追加攻撃で粉々に吹き飛ばす。

 凄まじい破壊力。すぐ後ろに続くセリカや親父が驚きで目を見張る。

 しかし骸骨や石像は驚きなどしない。

 仲間の骨を踏み割って、切りかかってくる!


 骸骨騎士2体の素早い連撃を、俺は紙一重で攻撃をかわす。

「でやぁ!」

 下から斬りあげるように太刀を振るった。木っ端微塵に砕ける骸骨。

 後ろに来ていたガーゴイルも一緒に砕ける。



 その後、十回ほど太刀を振るい、50体以上破壊した。

 しかし通路の十分の一も進めていない。


 俺は太刀をひょうたんの水で濡らしてまた刃紋を光らせた。

「ん? 親父、そこの壁に隠し扉がないか?」

「なにっ……ああ、本当だ、あるぜ」

「ちょっと探ってくれないか。俺はここで敵を防ぐ」

「わかった」

 親父が壁を触って探り始める。



 押し寄せる骸骨や石像を一刀の下に次々と砕いて葬った。

 動かずに倒し続けるため、モンスターの残骸が足元にうずたかく積もった。


 戦いながら思う。

 ――これ、俺が神だから全然平気だが。

 まともな勇者パーティーだと、体力がもたないぞ……?

 ――まさかっ!!


 太刀を振るいつつ叫ぶ。

「親父、離れろ!」

「なにっ!」

 親父は、身軽に立ち上がった。

 そのとたん隠し扉が開いて、わらわらと【ソードスケルトン】の群れが現れた。


「くそっ!――《烈風斬》!」

 俺は太刀を振りぬいて、鋭い風の刃を飛ばした。

 けれど親父を襲う骸骨には間に合わない!


 先頭の骸骨の剣先が、親父の腕を浅く斬りつける。

「くぅっ!」

 親父は四角い顔をしかめつつ短剣を振るう。骸骨の背骨を貫き、粉砕する。


 しかし二体目の攻撃がすぐそこまできていた。

 親父はよけられない――!

「はぁっ!」

 鋭い気合とともにセリカの突きが骸骨の肩を砕いた。風の刃が発動し、上半身を吹き飛ばす。骸骨の剣がガランッと床に落ちて鳴る。


 ようやく俺の風の刃が届いた。

 隠し扉からぞろぞろ出てきた8体の骸骨を戦う前に粉砕した。

「大丈夫か!?」

「ああ、これぐらいなんともない」

 親父は悔しそうな顔で言った。

 セリカが駆け寄り首を振る。

「浅くはないです、手当てします」

「頼む。その間、ここで守る」

「はいっ」


 

 俺は隠し扉に注意しつつ、太刀を振るい続けた。

 ガシャンッ、カランッ、と石や骨を砕く乾いた音が広い通路に反響し続けた。

 倒しても倒しても、魔物の数は減らなかった。


 俺は内心で舌打ちした。

 ――これは、ただ無策に魔物を繰り出しているんじゃないっ!

 一層目を突破するような超優秀なパーティーに対して、その体力をできるだけ削ろうと考えているのだ!


 どういうことか。

 弱いパーティー程度だと、一層目の山盛り即死トラップは突破できない。特に最後の昇り階段トラップは絶対引っかかる。

 しかしあれを突破できるなら、相当な切れ者パーティーだとわかる。

 そこで魔王は即死罠を繰り出すのを止めて、体力を削って確実に殺す方式に変えたのだ。

 

 人間は休まないと疲れるが、攻略時間に制限があるため、ゆっくり休んでもいられない。


 おそらく、今後の階層は体力と精神を削る戦いを仕組んでくるはずだ。

 そして精も根も尽き果てたヘロヘロの状態で、――ラピシアとの戦闘。

 普通の人間なら100%負ける。


 冷酷なまでに狡猾なシナリオ。

「やってくれるぜ……はぁっ!」

 太刀を振るってまた押し寄せる骸骨たちを粉砕した。



 手当てを終えたセリカと親父が傍へ来た。

「終わりました、ケイカさま」

「貴重な薬草使わせてすまねえ」

「元気になったのならなによりだ。ちょっと強引だが先を急ぐぞ」

「はいっ」

 セリカが金髪を揺らして頷いた。



 俺は太刀に水をかけて光らせる。

「我が名に従う風と水よ――《嵐刃付与》!」

 ゴォォと太刀が激しい風をまとう。

 それを見届け、俺は足早に前へ進んだ。

 群れで来る【骸骨騎士】と【異形彫像】へ横凪の一閃!


 ブァン――ッ!


 その後ろにいた魔物までも巻き込んで、10体以上が粉々に砕けて床に散った。

「よし、いける!」

「す、すごいですわ、ケイカさま!」

 まっすぐ俺を見る青い瞳が尊敬の光で満ちていた。


 俺は大股で踏み込み、太刀を振るい、そして石造りのまっすぐな通路をどんどん進んだ。

 通った後には石と骨の破片で、床の敷石が見えなくなっていた。



 そして1時間も過ぎた頃。

 ようやく通路の奥までたどり着いた。

 両開きの大きな扉があり、押しても引いてもびくともしなかった。

 真理眼で見たところ【階層扉】に間違いなかった。

 親父が扉を探り、セリカが守り、俺が押し寄せる敵を倒し続けた。


 何百体目かの魔物を倒しつつ、俺は叫ぶように尋ねる。

「まだか、親父!」

「ちょっとまて、これは魔法で鍵が掛かってる!」

「なに!」

「ん、扉の横に文字が書いてあるぞ……くっ、読めねぇ」

「キンメリクさん、わたくしが読みますわ。――そのあいだ交代を」

「おう、頼んだ」

 セリカが素早く動いて、スカートをふわりと広げつつ扉の横にしゃがみこんだ。

 代わりに親父が守りに立つ。


 俺が戦いながら言う。

「なんだったら、祭壇みたいに吹き飛ばしてもいいぞ!」

 セリカが、高く澄んだ声で制止する。

「いけません、ケイカさま! 『この扉を破壊したらその時点で試験失敗とする』と書いてあります!」 

「なんだって! じゃあ、どうすればいい!?」



 文字が読みづらいのか、しゃがみこんだセリカが体を捻って壁を見た。スカートがめくれて白い太ももまで見えた。

「ええっと『この扉を開くにはモンスターをできる限り倒し続けること。さすれば扉は開かれん』と書かれています」

「何体倒せとか、何時間戦えとかは書いてないのか?」

「は、はい……条件はそれだけです――あ、ただ。最後にモンスターを倒してから1分以内に次のモンスターを倒さないとカウントは0に戻ると書いてあります」


 俺は半笑いになって叫んだ。

「く……クソゲぇぇえええ!!」

 これがゲームでも、ここまでひどいクソゲーはなかなかない。

 俺は怒りと憤りで、太刀を上段から全力で振り下ろした。一直線に放たれた風の刃が直線状の魔物を数十メートル先まで粉砕する。

 少しだけ魔物の襲撃が止まる。


 だが失敗に気付いて、チッと舌打ちして駆け出した。

 骸骨に近付いて太刀を振るう。バラバラに壊した。

 しばらくは一体ずつ倒した。数が元に戻るまで。



 ――くそっ!

 大技使ったら、数が減りすぎてカウントがゼロになってしまう。

 かといって一体ずつだといつ終わるか分からない。

 ていうか、1分て。

 休む暇なく倒し続けないといけない。休ませる気ゼロ。

 どんなに優秀なパーティーであっても疲れきってしまうだろう。

 俺は神だから関係ないが。


 石像を粉砕しながら鼻で笑った。

「いいだろう。そっちがその気なら何が何でもクリアしてやる!」

 ただ、このまま魔王のルールに従いっぱなしなのは嫌だった。

 まともに付き合ってられるか! 俺のやり方でやらせてもらう。



 俺は一番近い隠し扉の前まで行った。しばらく隠し扉の前で戦う。

 ――と。

 隠し扉が開いて異形彫像が10体出てきた。

 太刀を振るいながら、中を観察する。


 隠し扉の中は正方形の部屋。

 中心に台座があって、スイカぐらいの大きな丸いオーブが据えられていた。

 不気味な黒い魔力を発している。魔物を発生させているのはアレだろう。


 扉が閉まってきたので、急いで唱えた。

「――《魔力湧水》」

 俺の魔力をオーブに注ぎ込む。とたんにオーブが細かく震動した。


 魔物を倒しつつ、別の扉へ。

 そこでも同じように魔力を注ぎ込んだ。

 3つほどオーブに魔力を注いで、ゆっくりとセリカたちのところへ戻る。



 セリカが細い首を傾げて言った。

「なにをされたのですか?」

「すぐにわかる」

 そういったとき、最初の隠し扉が開いた。


 ドォォォ――ッ!

 【異形彫像】がなだれのように通路へあふれ出してきた。100体はいた。


「ひゃぁっ! け、ケイカさま!?」

 セリカが驚いて可愛い悲鳴を上げた。青い瞳を丸くしている。

 俺は口の端を歪めて笑った。

「これぐらいでちょうどいい――そらっ!」

 俺は太刀を振るった。風の刃が荒れ狂う。


 だが倒しきる前に骸骨騎士がこれまた濁流のようにあふれ出す。

 セリカが大きな胸の前で手を握りしめ、不安そうな顔をした。

「やりすぎです、ケイカさまっ」

「これぐらいが気持ちいいんだろ! ――てぁっ!」

 太刀を振るい骸骨を鎧ごと斬り飛ばし、奴らの鋭い突きを半身で避けて、また切る。



 それから1時間半。

 突然、ゴォーン、と銅鑼の音が響いた。

 それとともに、俺たちの後ろにあった扉が、ぎぃぃぃと軋みながら開いていく。

 チラっと視線をやったが広い部屋に上りの階段があるだけだった。真理眼で見ても罠は見当たらない。上り階段も本物だった。

「親父、注意して入ってくれ!」

「おう!」

「セリカも油断するな」

「はい、ケイカさまっ」

 親父、セリカ、大男が入るのを見届けてから、俺も入った。



 階段を登っていく先行の3人。

 そこへまた、ゴォーンと銅鑼の音が響いた。

「げ!」 

 両側の壁がずずずっと持ち上がって、そこから無数の骸骨と石像が現れた。背の高い巨人と思える骸骨までいる。


 セリカが振り返り、金髪を乱して叫ぶ。

「ケイカさま、お早く!」

「ああ! 今行く!」


 俺は太刀を振りつつ一息で階段まで飛んだ。

 だが【ガーゴイル】が空を飛んでセリカの背中を襲う。

「こいつら飛べたのかっ! ――くっ!」

 俺は太刀を振って風を生み出す。

 ――《烈風斬》!


 ザンッ、とガーゴイルをまとめて落とした。

 そのまま駆け上がり、長い階段を登っていく。

 魔物が追ってきたのは途中まで、白線を越えると引き返していった。



 階段を昇りきると、大きな扉が立ちふさがっていた。鍵も魔法も掛かっていない。

 3階層目の扉だろう。


 誰からともなく「はぁ~」と大きなため息を吐いた。

 俺は親父に尋ねた。

「今、何時間たった?」

「入ってから4時間半だな」

「あれだけ増やして、それでも2時間半かかったのか……」

 セリカが形の良い眉を寄せて心配そうに言う。

「このままだと、時間が厳しいかもしれません」

「あと5時間半……急がないとな……」



 ぐっと奥歯を噛み締めた。

 するとセリカが俺の手を握ってきた。すべすべした手のひらからは優しい体温が伝わってくる。

「お疲れ様でした、ケイカさま。急ぐ気持ちもわかりますが、少し休憩にいたしましょう?」

 お願いするようなセリカの言葉。 

 しかし俺を労わる気持ちが伝わってきた。戦っている間中ずっと、心配してくれていたんだと理解した。


 俺は頬を緩めて頷いた。

「そうしよう。……セリカ」

「はい?」

「その――ありがとうな」

「いえ……っ」

 セリカは頬を染めると花が開くように笑った。

 それを見てるだけで戦いの疲れが溶けていくようだった。


 親父の、やれやれという溜息が聞こえたが気にしなかった。



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