第145話 ルーナとの決闘!(ラピシアップ)
シュガル諸島沖合いでクラゲ少女ルーナと巨大蟹シザーキングクラブの戦いが始まった。
大海支配者を決める決戦。
海の中、先に動いたのは蟹だった。
門のように巨大な口から白い泡をたくさん吐いた。
【泡弾幕】か。
蟹の周囲に広がり、当然ルーナにも襲い掛かる。
しかしルーナは海中を飛ぶように避ける。
「ハッ!」
ルーナが剣を持つ右手を突き出した。衝撃波が生まれて一直線に蟹を狙う。
進路上の泡が爆発四散する。
同時に頭に被ったクラゲの触手が何本かずつにねじれ合わさって、そこから熱線が放たれた。
【八船貫通】と【火水圧破】だ。
火水圧破はエビルスクイッドの技だったな。
ルーナの放った衝撃波と熱線は蟹の甲羅に弾かれた。硬い。
というか貫通無効の殻と火攻撃無効を持っている。
しかし、蟹までの泡は砕かれた。安全な通路が現れる。
ルーナが一瞬で距離を詰め、蟹の目へとナイフを振った。髪の束のような触手が沢山伸びて嵐のように目を叩く。
【超流動】に【触手乱舞】か。
激しい攻撃が蟹の目を少し削った。
怒った蟹がはさみを振るう。しかしルーナは自在に泳いで避けた。
ルーナは海底すれすれを泳いで後方の死角へと回り込みつつ、震動させた短剣を振るった。
ガッ!
脚の関節に切り傷をつける。傷は小さいが、内部から爆発した。
肉片が飛び散る。【超伝導】か。
四散した体液が掛かったらしく、ルーナの皮膚からぽつぽつと煙が上がる。
酸を飛ばして【ダメージ反射】するのか。面倒なスキルだ。
蟹はまるで見えてるかのように、死角にいるルーナへ攻撃を繰り出す。
【気配探知】で把握しているのだろう。
的確に溶岩を吹き流して狙う。水蒸気を発しながら、ルーナを襲う。
【溶岩激流】
見たところ魔法だが物理ダメージも伴っていそうだった。
ルーナは虹色の光に包まれる。
うねるような溶岩は光の前に弾かれた。
【虹光殻防壁】か。
だが蟹は、ぐぐぐっと力を溜め始める。
バリアが消える瞬間に合わせて無数の棘を発射した。
【誘導棘連弾】
ルーナは必死にかわしながら短剣で粉砕するが、何本かが肌を掠めた。
赤い血が海中に漂う。
にらみ合う2人。
うーん。
一進一退の激しい攻防。
さすがに決闘バトルを勝ち抜いてきただけあって、2人とも強い。
相手が次どう動くか分かってる気がする。
攻撃、回避、追撃、回復。
ルーナは手数がとても多く、回避力が高い。
一方の蟹は殻の固さと巨体により、受けるダメージは微々たるもの。
お互いに致命傷を与えられないまま時間が過ぎていった。
しかし日が傾きかけた頃、勝負が動く。
互いに傷つき、辺りの海域が赤く染まる。
ルーナは赤い触手を揺らして言った。
「蟹よ、動きが遅くなってきたのよさ。もう諦めて降参しなさい」
『誰が貴様みたいな、おいしそうな小娘になど! オレ様が大海の支配者だッッッ!』
「そうなの。でも、あたいだって大海支配者にならなくちゃいけないのよさ。おとーさんのために! ――猛毒活性破!」
ルーナが蟹を指差した。
蟹が濃い緑の光に包まれいく。
『な、なんだ、これは!? ――ヌワァァァ!』
――ズズゥ……ン……。
重い音が響き、蟹の甲羅が内側から弾けとんだ。
海面が盛り上がり、巨大な水柱となって吹き上げる。
濃い緑の霧と、雨のように降り注ぐ蟹肉。
【猛毒活性破】は相手の体内にある毒を活性化させる。
ただ蟹は巨体で毒抵抗も持っていた。
だから小さな傷を全身に与えてから、一気に活性化させた。
長時間戦っていたのは、蟹の全身に毒が回るのを待っていたからかもしれない。
最初からルーナの思惑通りだったのだろう。
霧が晴れ、甲羅の割れた蟹が海面に浮かんだ。
かすかに痙攣している。
ルーナが海面に立つと、蟹は泡を吐きながら言った。
『ま……まさかこのオレ様を倒すとは……あと一歩のところで……悔しい。オレ様こそが海に称えられるはずだったのに……クラゲよ、負けるなよ? オレ様に勝ったんだから雑魚になんか負けるなよ……』
「わかってる。あたいに力をくれた者たちのためにも死ねないのよさ」
ルーナの静かだが力強い言葉に、蟹の動きが安らかに止まった。
キュィィンッ――!
耳障りな音がして、真っ白な光がルーナに集まる。
女神のように威厳のある声が響く。
『新たなる大海支配者が生まれたことを宣言する! ジェリーマーメイドのルーナ! 海を思うがままに統治するがよい!』
……なんか聞いたことのある声だな。
でも大海神リリールじゃない。この声、海邪神リヴィアか?
光が収まり、ルーナは目を開けた。
ぽつっと言った。
「終わったよ……おとーさん」
それから勝者とは思えないほど、静かに水面を歩いて戻ってきた。
長い手足に白いセーラー水着。赤いクラゲ頭が風に吹かれてぷるぷると震えている。
彼女の全身は夕日に照らされて赤く染まてっていた。
俯いて何か考える仕草は、華奢な少女に大人びた印象を与えていた。
懐の勇者の証が明滅していた。
出して見るとルーナのレベルが上がっていた。2つ上がってLv80。
そして蟹のスキルを修得していた。
【渦巻突撃】【幻夢連舞】
【泡爆弾】【泡弾幕】
【生命吸収】【念話】【火攻撃無効】【麻痺無効】【毒無効】
蟹の巨体や殻、ハサミを利用したスキルは修得できていなかった。
【毒抵抗:中】を得て毒抵抗:大が【毒無効】に変わっていた。
海の王者にふさわしい強さ。
ついでにセリカとミーニャも54と58にレベルアップしていた。
岸まで来たルーナにラピシアは笑顔で拍手した。
「ルーナ、おめでと! ルーナえらい!」
「ありがと、ラピシアちゃん……ゆーしゃ、終わったのよさ」
「ああ、お疲れさん」
ルーナは岸辺から俺を見上げて言う。大きな瞳は澄んでいた。
「……やくそく、なのよさ。おとーさんのかたきうち、するんだからっ」
「そういう約束だったな。――どこでする? 海がいいか?」
「海ならどこでもいいのよさ」
「そうか――《水上歩行》」
俺はひらりと海へと飛んだ。
波打つ海面に着地する。
するとラピシアが言った。
「ラピシア、しんぱんする!」
「それは……まあ大丈夫か――《水上歩行》」
ラピシアにも唱えて水の上に立たせる。
船への被害を考えて、沖へと向かった。
途中《快癒》をかけてHPを全快させておいた。
ルーナは大きな瞳を丸くしたが、何も言わなかった。
湾を出ると、うねる波が高くなる。
夕日が空と海を赤く染める中、俺とルーナは距離を取って向かい合った。
太刀を抜く。
「覚悟はいいな?」
「おとーさんのかたき、取るのよさ!」
ルーナは無理矢理と気合を入れたのか、赤い唇を噛み締めて短剣を構えた。
中間に立つラピシアが手を挙げて叫ぶ。
「ケイカ、頑張れ! ルーナも頑張れ! しょーぶ、はじめ!」
「一気に勝負つけるのよさっ!」
ルーナが海面を蹴って駆け出した。セーラ水着の襟とスカートがはためき、赤い触手は後方へなびく。
俺が太刀を中段に構えると、ルーナが短剣を突き出した。
シュッ!
空気が切り裂かれる。まっすぐに飛来する槍のような衝撃波。
【八船貫通】か。
半歩横に動いて太刀で斬り捨てた。
その隙を突いてルーナが叫ぶ。
「――暗黒墨吐!」
クラゲ頭から暗黒の墨が吐き出された。
一瞬にして周囲が闇に包まれる。
千里眼で見ると直径1キロメートルぐらいの巨大な黒い半球が生み出されていた。
ラピシアが「まっくら!」と叫んでいた。
ふうっと、ルーナの気配が消える。
闇の中を自在に泳ぐ【影闇泳】を発動したに違いない。
何も見えない真っ暗闇の中、ルーナは弧を描いて迂回し、俺の後方上から襲いかかる。
――キィンッ!
短剣と太刀がぶつかり、火花が散った。
危険を感じてすぐに横へ飛んだ。
ぶわっとルーナの息が広がる。
【毒の息】を吐いたな。
俺が海面へ着地すると、ルーナは【超流動】で迫ってきた。
連続攻撃を打ち込んでくると同時に、クラゲ頭から【泡爆弾】を飛ばしてくる。
――やはり短剣と触手でスキル同時攻撃をしてくるのが強い。
普通の魔物では相手にならないだろう。
短剣を避けつつ、泡を斬る。
その後も真っ暗闇の中で激しい攻防が続いた。
ルーナはありとあらゆる組合せでスキルを発動し、俺は避けては斬った。
百以上の剣閃が光った。
とまあ俺は《真理眼》でルーナがどこにいるか、なにをしてきたか全部分かるので当たるはずがなかった。
しばらくして、周囲の闇が薄れてきた。
西の空が燃えるように赤くなっていた。
ラピシアは何も見えなくてつまらなかったのか、海面の上で膝を抱えて体育座りをしていた。
闇が完全に消える。
ルーナは肩で息をしつつ、短剣を構えて立ちすくんでいた。赤い触手が所在無くうねっている。
見れば彼女の大きな瞳には涙が溜まっていた。
それでも、息を一つ吐いて切りかかってくる。
スキルも何もない、ただの突進。
キンッと甲高い音をさせつつ、太刀で受け止めた。
ルーナは間近から涙目で俺を睨み上げる。
「……こんなの、ずるいよ……っ。あたいじゃ勝てない……っ! おとーさんでも勝てないよっ!」
「そうだな」
父と同じ高み――大海支配者にまで登りつめたからこそ、俺の本当の強さがわかったのだろう。
ルーナが涙を散らして頭を振った。触手が伸びて鞭のように振るわれる。
【触手乱舞】
ヒュォォッと空気を切り裂いて赤い触手が至近距離から俺を襲う。
しかし俺は軽いステップですべてかわした。
半分の触手は暴れつつも、残り半分が筒のように捻れあう。
圧縮された熱水が迸る!
【火水圧破】
――だが。
俺はもうかわすことすらしなかった。
なぜなら涙でぼやけた彼女の視界は、俺を捉えていなかったから。
熱水は外れて後方に飛び、沖合いに高い水柱が上がった。
ルーナは泣きながら叫ぶ。
「どうしておとーさんは逃げなかったの……っ! こんなの、勝てるわけがないのにっ! あたいたちのことなんてどうでもよかったの!? それとも勝てると勘違いしたの!? どっちにしろ馬鹿なのよさっ!!」
俺は静かに首を振った。
「それは違うぞ、ルーナ。エビルスクイッドは逃げなかったんじゃない、ひかなかったんだ」
「え? 同じ意味じゃ……」
「エビルスクイッドは馬鹿じゃない。早々に俺の実力を見抜いたはずだ。実際、勧誘されたしな。それでも自分が信じる道のため、自分を信じてついてきてくれた部下のため、覚悟を決めて散っていた仲間たちのために、あいつはひくわけにはいかなかったんだ」
「お、おとーさん……っ」
ルーナがぐずっと鼻をすすり上げた。目からボロボロ涙をこぼした。
「確かに勝負は俺の勝ちだった。エビルスクイッドは勝てなかった。でもあいつは、最後の、最後の一瞬まで――負けなかった」
ルーナは触手で目を拭った。夕日を浴びて涙が光る。
「ああ……おとーさんは、あたいやおかーさんたちを忘れてたわけじゃないんだねっ、最後の最後まで大切にするすべてを守るために戦ったんだね!」
「そうだ。今にして思う……あいつは最後まで俺に背中を向けなかった。部下のため仲間のため家族のため、そして自分のために、真正面から戦い続けた――立派だった」
ルーナは持っていた短剣をぽろっと落とした。
「あたい、おとーさん好きだよ! おとーさんの広い背中、大好きだったよ! ……うわぁぁん! おとーさあぁぁん!」
体を震わせて号泣した。
俺は近付いてそっとルーナを抱き寄せた。
彼女は俺の胸に顔を埋めて「うわぁぁん!」と火が付いたように激しく泣く。
華奢な背中や頭を撫でると、クラゲ頭がふるふる震えた。
自然と優しい声が出る。
「良く頑張ったな、ルーナ。それでこそエビルスクイッドの娘だ」
「おとーさぁぁん!!」
ルーナは泣き続けた。日が暮れるまで、泣き続けた。
いつしかラピシアが傍に来て、ルーナの背中をよしよしするように撫でていた。
東の空が濃紺色に染まり、星がちらほらと輝く頃。
ルーナは泣くのをやめて微笑みを浮かべた。でもまだ少し嗚咽を漏らしている。
「……ゆーしゃ、おかーさんと弟妹たちを、お願いなのよさ」
「ああ、任せろ。たまには村へ遊びに来いよ」
「うん、わかった」
俺の腕の中で素直に頷くルーナ。
大きな瞳を至近距離から見下ろしながら、思いついたので言ってみた。
「むしろ、戦いが終わったんだから住んでくれてもいいんだぞ?」
するとルーナは首を振った。赤い触手がふわりと揺れる。
「あたいにはやることがあるのよさ。おとーさんとは違う方法で、この海を守る」
「そうか。支配者だものな。大変だが、頑張れ」
「うんっ」
最後に一つクラゲ頭を撫でて体を離した。ゼリーのように柔らかい手触り。
ルーナは我を忘れて泣いたことを思い出したのか、恥ずかしそうに頬を染めていた。
――と。
暮れ行く空の下、突然、白い光が明滅した。
横を見ると、ラピシアが光っていた。今のでレベルアップ条件『生を知る』に何かヒントを得たらしい。
輝くような笑顔で俺を見上げて言う。
「ルーナのお父さん、死んじゃった。でもルーナと一緒に生きてる!」
「そうだな」
「ラピシアのお母さん、今いない。でもお母さんはみんなと一緒に生きてる!」
「そうなるな。みんなに愛され、敬われてな」
ラピシアは、ぐっと拳を握り締める。
「ケイカも、セリカも、ミーニャも、村のおじさんやおばさんも、ドラゴンも、侯爵も、ミーニャのお父さんも、みんな生きてる! ――きっと、死んでも一緒に生き続ける!」
「ふむ。それがラピシアの『生きる』ってことか?」
するとラピシアは激しく首を振った。青いツインテールがわさわさ揺れる。
「ラピシアも生きたい! 死んでもみんなと一緒に生きたい! お母さんみたいに! ……きっと、みんな想い合っているかぎり、死なない! ゲアドルフは思うだけで思われてなかった、だから生きてても死んでた!」
「なるほど。心や記憶の中に生き続ける、か」
思われるためには、小さな真心でいいから、誰かに優しさを残さなくちゃいけないものな。
「うん! ――みんなと生きたいって思うことが『生きる』ってことだと思う!」
「――ああ、それも一つの『生きる』だな」
「うんっ!」
ラピシアが弾けるように笑った。
その瞬間、カッ! と白い光が辺りを眩く照らした。
『メンバー(ラピシア)がレベルアップしました』
『新しいスキルを修得しました』
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【ステータス】
名 前:ラピシア
性 別:女
年 齢:257
種 族:半神人
職 業:大地母神Lv6(火を知る)
クラス:治癒師 神術師
属 性:【豊穣】【輝土】【聖地】
所 属:勇者ケイカパーティー
【パラメーター】
筋 力:13万(2万)(+0) 最大成長値∞
敏 捷: 7万(1万)(+0) 最大成長値∞
魔 力:20万(2万)(+0) 最大成長値∞
知 識: 9万(1万)(+0) 最大成長値∞
幸 運:999(0) (+0) 最大成長値∞
信者数: 0
生命力:100万
精神力:145万
攻撃力:13万
防御力:14万
魔攻力:60万
魔防力: 9万
【スキル】
回復:味方を回復させる。(熟練度:142/250)
幻惑:体をぼやけさせて攻撃を当たりにくくする。(熟練度:18/100)
防御低下:相手を柔らかくする。(熟練度:26/100)
睡眠:相手を眠らせる。(熟練度:93/100)
防御上昇:味方を硬くする。(熟練度:1/100)
【地母神スキル】
地精結集:大地の力を自分か他の神に集める。攻撃力×Lv値。
地殻反転:地殻を引っくり返して地表を刷新する。
地質変更:土・砂・岩・鉱物などの大地自然物を別の大地自然物に作りかえる。
地星誘致:自分の星の近くにある衛星や惑星を引き寄せて合体させる。
地勢変革:自分の立つ大陸を自在に隆起陥没させ山脈や海溝を作る。大陸移動もできる。
大地恩恵:自分の立つ大地にいる、死んだもの敵意をもつもの以外すべてを回復する。
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次は火か。これは簡単そうだな。
「生を知る」は修得が大変だったせいか、スキルを2つ覚えてる。
しかし山脈作っちゃうかー。封印だな。
もう1つはパーティーヒールの極大版。大規模な戦争では使えるかも。
俺はラピシアに言った。
「新しく覚えたスキル、回復の方は使っていいが、もう一つは使わないこと」
「わかった!」
元気に頷くラピシア。
ラピシアの変異に驚くルーナに声を掛ける。
「さあ、お腹すいただろう。今日は帰ろう」
「うん!」「はいなのさっ」
俺たちが港へ戻ると、町の人やナーガたちに感謝された。
「魔物を倒してくれてありがとう!」「もうダメかと思ったよ」「さすが勇者ケイカさまだ」
海蛇はナーガと町人総出で解体してくれていた。
少し売って欲しいというので町の商人に肉と素材を売り、残りはあとで取りに来ることにする。
するとセリカが迎えに来た。
「ケイカさま、さっき人魚さんが来られました。今からケイカビーチで歌謡ショーをするそうで、ケイカさまとルーナさんを招待したいと」
「そうなのか。行ってみるか――ルーナも一緒に行こう」
「うん、わかったのよさ」
俺たちはナーガたちに別れを告げて、連れ添ってドルアースへ向かった。




