第140話 ゲアドルフ討伐!
辺境大陸南端、ファスナラフト山にある丸い部屋の中。
天井は高く、広さは直径15メートルほどの部屋。
反対側の壁にはシャッターのような扉があり、全開になっていた。
噴火口に直結しているらしく、虹色の炎が吹き上がっている。灼熱の熱気が室内へ流れ込んでいた。溶鉱炉のような暑さ。
この燃え盛るような室内には、シャッター前でハンマーを振るう骸骨が2体と、少し離れて貴族のような服を着た美形の男――ゲアドルフが立っていた。
チラッと骸骨を《真理眼》で見たところ、ドワーフの骸骨だった。魔封鍛冶師のスキルがLv99だ。
――ずるいな死霊術って。
俺は魔封鍛冶師探すの手間取ったというのに。死体さえあればいいなんて。
ゲアドルフは美しかった目を吊り上げて笑っていた。
「どうも、ようこそおいでくださいました。ラピシアは村に置いてくるとばかり思ってましたよ」
「製作状況がどの程度かわからなかったからな。入れ違いになったら大変だろ。手元にいたほうが守れるからな」
「それもそうですね。とはいえ、わたしとしましても手間が省けて好都合でしたよ」
エメラルドのように美しい緑髪を振り乱し狂ったように笑う。
――が、木刀を見たとたん、髪が青白く染まっていった。
俺はゲアドルフを《千里眼》と《真理眼》で見た。
――これだけ燃え盛る部屋。やはり弱点は『火』ではなくなっていたか。
おそらく『雷』。
さっきまで髪が緑だったのは『木』にしていたからだろう。
狂信的な目を血走らせながらも、良く考えていると思う。
雷は厄介。魔法使いのいない俺のパーティーでは使える者がいないはずだった。
セリカとミーニャがラピシアを守りながら中へ入ってくる。
俺は両手に木刀と太刀を構えながら言った。
「しかし見たところ、まだ完成してなかったみたいだな」
「待っていただきたいのですが、無理でしょうね」
「暇じゃないからな。諦めたらどうだ? 完全に死んだ魂を復活させるなんて不可能だ」
「彼女じゃないとダメなんですよ。彼女しか幸せにしたくないし、わたしを幸せにできません」
「どうしてもか」
「ええ、この世界を捧げても。わたしは彼女への愛を貫きます」
「歪みきってるな」
俺は木刀を上段に構える。
セリカとミーニャも端整な顔に凛々しい決意を漲らせて一歩前に出た。
「仕方ありませんね。おしゃべりでの時間稼ぎもここまでですか。いいでしょう、あなたの手の内はわかっています。戦いでの時間稼ぎもできますよ」
ゲアドルフが青白い髪を揺らしてゆらりと一歩前に出た。
俺は床を蹴って襲い掛かる。
空中を飛来し、一気に距離を詰め――。
ゲアドルフが口が裂けるほど笑った。
奴の手が素早く動く。キラリと光を発し、短剣が空を斬って飛ぶ!
「わたしの勝ちです――」
その瞬間、床が消えた。
飛行の魔法をかけていた俺以外の全員が落下する――。
俺は、素早く腕を振り下ろす!
燃え盛る木刀をゲアドルフに投げつけた。
そして真横に移動してラピシアを狙った短剣を手で掴んだ!
さすが聖剣。手のひらが切れて血が流れた。
投げ捨てつつ《快癒》を唱える。
同時に、ゲアドルフの胸をドスッと木刀が貫いた。心臓代わりの核を壊すほどの大ダメージ。
ゲアドルフの目が驚愕で見開かれる。
「ば、ばかな! トラップを予想していた!? ――しかし、こんなものでわたしは死なない!」
俺は落下していくゲアドルフに太刀を向けた。
「それはどうかな? ――雷炎光破!」
勇者スキルで覚えた魔法。
太刀から迸った雷光を帯びた炎が、木刀に命中する。
ゲアドルフの服と皮膚が雷に打たれたように弾けとんだ。黒い骨が露わになる。
「ぬわぁぁああああ!」
木刀の一撃でHPをほとんど削っていた。そこへ弱点の追加ダメージ。
ゲアドルフはボロボロに崩れながら落下していく。
俺は下を見た。
20メートルほど下は上と同じ円形の部屋。
魔法陣と寝そべる少女以外何もない。
ラピシアは怪我しないだろうし、ミーニャは空中で体を捻って猫が着地する体勢に入っていたので大丈夫と判断。
金髪をなびかせて落下するセリカを空いた手で掬い上げた。
柔らかな肢体を抱き締め、そのまま地面に降り立つ。
思ったとおり、ラピシアとミーニャは無事に着地した。
ラピシアは両足をそろえてドスンと。
ミーニャはほとんど音もなく降りた。
服の裾がめくれ上がって下着が見えていた。
続いて、ドシャッと鈍い音をさせてゲアドルフが床に激突した。
ドワーフの骸骨は床に当たって木っ端微塵に砕けた。
作り掛けだった剣が部屋の端へと転がった。
ゲアドルフは黒い煙を上げながら、地べたを這う。
顔の半分が崩れ、暗い眼孔がのぞいている。
俺はセリカを下ろしながら言った。
「いくら神でも落下中は身動きが取れない。特に急に床がなくなれば混乱して判断が遅れる。いいアイデアだったと思う」
ゲアドルフは右手と、砕けた左手で這いながら顔を上げる。
「ぐ……な、なぜ……気付いたのです」
「気付いたわけじゃない。いろいろ考えていた対処法の一つってだけだ。常識的に考えて、お前が聖剣振ってもラピシアに当たるわけがないからな。俺とラピシア両方を同時に無効化しない限り」
ゲアドルフが崩れた顔で俺を見上げる。
「お前は……聖騎士だった、はずです……」
「エビルスクイッド戦では【烈風突き《ゲールスティング》】を使って聖騎士のふりをしただけだ。本当はちゃんと勇者として育ってた。だから勇者のスキルツリーの【雷炎光破】を覚えてたんだよ」
「そんな昔から……わたしを騙していた、なんて……あと少し、だったのに……」
ゲアドルフが悔しげに拳を握り締めた。
「多大な犠牲を払ってきたのにな」
ゲアドルフは魔法陣の中央に寝そべる少女へと這って近付く。
一歩進むたびに体が崩れた。
それでも、少女へ向かう。
少女はまるで生きているかのように美しかった。来ている服は薄絹一枚で、体のラインが透けて見えた。
華奢な肢体。膨らむ胸、くびれた腰。とても均整の取れた長い手足。
エルフを示す耳は長く尖っていた。
眠るように動かない少女の顔を覗き込んでゲアドルフは呟く。
「わたしはただ……もう一度、微笑む君が見たかっただけなんだ……」
「例え生き返らせても、微笑んでくれただろうか。大好きな相手が落ちていくのは悲しかったんじゃないだろうか」
「そんなこと、わかってるさ。でも、好きな人と一緒にいたいと願うことがそんなに悪いのか……わたしの、最初で最後の恋だった――っ」
ゲアドルフは搾り出すように言い、そのため余計に体が崩れた。
「生き返らなくても、充分、幸せだったろう――その子は」
ゲアドルフを諭そうとしたが、彼女の名前がとっさに浮かばなかった。
ノクなんとかだったはず。
少女の死体を《真理眼》で見て確認した。
--------------------
【ステータス】
名 前:リヴィア
性 別:女
年 齢:?
種 族:神
職 業:海邪神
クラス:剣豪 神術師 混沌術師
属 性:【暴風】【海流】【微光】
【パラメーター】
筋 力:66万4300
敏 捷:60万9200
魔 力:72万3500
知 識:62万3600
信者数:0
生命力:636万7500
精神力:673万5500
攻撃力:66万4300
防御力:60万9201
魔攻力:72万3500
魔防力:62万3600
【装備】
絹の服 防御+1
--------------------
「え?」
俺が驚くと同時に、少女――海邪神リヴィアが目を開けた。
目の前のゲアドルフに微笑みかける。
この世のものとは思えない神々しい笑み。
ゲアドルフは体を震わせて喘いだ。
「お……おお……! ノクティス……ああ! 会いた、かったよ!」
「ゲアドルフ――ご苦労様」
鈴のように透き通る声で呼びかけつつ、ほっそりした手を彼の顔に伸ばす。
彼女の手が頬に触れ、ゲアドルフの崩れた顔が歓喜の笑みに包まれる。
「ありが、とう、ノク。最後に一目、会えて、僕は幸せだ……約束を果たすよ、ノク。僕の分まで幸せになって、くれ」
「それは、どうかしら?」
「の、ノク……?」
グシャッ!
リヴィアはゲアドルフの半壊していた顔を片手で握り潰した。
頭蓋骨が飛び散り、体もさらさらと粉になって消えていった。
セリカの息を呑む声が聞こえた。
俺は床に目を走らせ、すばやく聖剣を拾い上げる。
リヴィアはゆっくり立ち上がると自分の体を確かめるように、細い腰をひねり、腕を曲げた。最後にはつんと上を向いた形の良い胸を、薄絹の上からわしづかみにした。指の形に潰れる。
「ほほう、この体はエルフ――しかも始祖エルフではないかっ! なかなか良い依り代なのじゃ。魔に落ちた者とはいえ、もう少し夢見させてあげればよかったかの? くふふっ」
邪悪なまでに純真に笑った。
俺は自分の手のひらを《真理眼》で見た。
--------------------
【ステータス】
名 前:蛍河比古命
性 別:男
年 齢:?
種 族:八百万神
職 業:神
クラス:勇者 剣豪 神法師
属 性:【浄風】【清流】【光】
【パラメーター】
筋 力:66万4300(+11万+2万1300+53万3000)
敏 捷:60万9200(+6万+1万6200+53万3000)
魔 力:72万3500(+18万+1万0500+53万3000)
知 識:62万3600(+8万+1万0600+53万3000)
信者数:約8042(ラ1+セ1+{光40+ナ100+エ500+処100+普7300})
{}内:20万+10万+15万+1万+7万3000=53万3000
生命力:636万7500
精神力:673万5500
攻撃力:106万3800
防御力: 99万3800
魔攻力:126万2600
魔防力: 92万2800
--------------------
リヴィアは俺とまったく同じ力を持っていた。
「そういうことか……」
神の血を使って依り代に神を降臨させる。
やはりゲアドルフは魔王に騙されていたんだ。
血を流してでもラピシアを守ろうとした結果、魔王の策略と同じ結果になってしまうとは。
リヴィアが部屋を眺め回してから、俺を見た。
「お主の力をそのままもらったようじゃの。なんて読むのじゃ? そなたの名前は」
「俺は勇者ケイカだ」
リヴィアが口に手を当てて笑う。
「くふふっ、なんでそんなことをしておるのじゃ? お主はとっても面白いのう」
「この世界を平和にして勇武神になるためだ」
「ふぅん。暇な奴じゃのー」
俺は警戒しながら尋ねる。
「よみがえったお前の目的は? 邪神なのは分かってる」
「それは楽しむしかなかろ……それより邪神とは心外なのじゃ。神なのだから自由気ままに振舞ってもよいと思わんかの?」
「限度があるな。やりたい放題やったんだろ」
「事情を知らぬ余所者が……まあよい。アトラやヴァーヌスはどうしたのじゃ?」
「アトラ? 知らないな。ヴァーヌスはあと10ヶ月ぐらいは出てこない」
「そうかの。アトラもおらんようじゃな。いい気味じゃ……ではベヘムト起こしてから、世界を引っ掻き回して遊ぼうかの」
美しい顔をにやにやと歪める邪神。
俺は太刀を抜いた。聖剣も腰に差していつでも使えるようにする。
「――それは、俺の敵になる、ということだな?」
「おお。本気でやる気じゃの、怖い怖い……でも、このまま戦うのはわらわがちーとばかし不利なのじゃ。装備で負けておるからの。――じゃあのぅ~……混沌異門」
「待てっ!」
俺は踏み込んで、容赦のない斬撃を浴びせた。
しかしリヴィアは一瞬早く、黒と緑の不気味な光に包まれると姿を消した。
あとには俺たちだけが残された。
セリカが戸惑いながら言った。
「いったい……今のかたは? ゲアドルフの恋人では?」
「違う。海の邪神だ」
リリールから名前だけは聞いていた、海神の前任者。
「邪神……一年以内に魔王が復活するというのに、なんと恐ろしいことでしょう」
「心配するな。俺がついてる」
「はい……ケイカさま。お願いいたします」
セリカは俺にそっと抱きついてきた。微かに震えている。
――怯えている?
ああ、そうか。俺は神だからなんともなかったが、人間にとっては邪神は畏怖する対象だったかもしれないな。
「お前は絶対俺が守るから安心しろ」
「ケイカさまぁ……」
ぐりぐりと俺の胸に顔を押し付けてきた。花のような香りがする。
そっと抱き締めると、腕の中で「あぅ……」と鳴いた。
するとミーニャが寄ってきて同じようにぐりぐりと頭をこすり付けてきた。
「……セリカだけ、ずるい」
「ミーニャも守ってやるから」
手を伸ばして頭を撫でた。尖った猫耳がピッピと気持ち良さそうに動いた。
ラピシアも来るかと思ったが、眉間に可愛いしわを寄せてうんうん唸っていた。
「どうした、ラピシア?」
「大地が、ヘン。ものすごく、イヤ」
大地母神として何か感じ取っているのかもしれない。
いつまでも抱き合ってても仕方ないので、きりのいいところで離れた。
作りかけだった聖剣も拾う。
「ゲアドルフは倒した。残りの魔物を倒してから帰ろう」
「はい、ケイカさま」
それから来た道を戻った。
アンデッドはいなくなっていた。
リリールにリヴィアのことを話したら、いつになく真剣な声で「直接会って話したい」と言われた。
近いうちにケイカ村で会うことになった。
あと帰りに山の麓にいた巨大な魔物たちと戦って全部倒した。
素材商に運び込んだら大金貨約400枚にもなった。大金持ち。
アイスドラゴンの牙や鱗がとても高く売れた。
そしてセリカが1つレベル上がってLv53に。
ミーニャも1上がってLv57に。【二重分体】を覚えた。これはたぶん舞闘師スキルじゃなく猫獣人固有スキルと思われた。
第六章残り数話ですが苦戦中。
毎日更新できるかわかりません。すみません。