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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第六章 勇者冒険編・北(仮)

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第139話 ファスナラフト山攻略

 砦で飛竜部隊を傘下に加えた。

 飛竜たちが懐いてきて「傍にいたい」と言って聞かない。

 もふもふに囲まれるのは楽しいが行動できなくなるので、ドラゴンに心話で相談して話を仲介してもらった。


 エルフに許可を取り、とりあえず大森林の道を挟んだ西側に住んでもらうことになった。

 ちなみに世界樹は大森林の東にある。



 あとは山の尾根にいる魔法部隊を襲った。

 超遠距離攻撃の準備中を襲ったので、魔法部隊は大パニックに陥った。

 1時間掛からず、魔法部隊は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。 


 これで準備は充分。

 俺たちは満を持して辺境大陸の南端にあるファスナラフト山に向かった。


       ◇  ◇  ◇


 分厚い氷に覆われた大地。

 おそらく気温は0度以下。山から吹き降ろす風は恐ろしく冷たく、そして乾燥していた。


 目の前には見上げるほど高い山が聳えていた。

 その麓には多くのモンスターが待ち構えている。アイスドラゴンに霜巨人。アームライオンやキングエレファント。前に倒した熊や巨人もゾンビとして蘇っていた。


 俺は二階建ての家ぐらいある氷山の影に隠れて様子をうかがった。

 大きいボスが20体、それぞれのボスを囲むように小さいのが50体ずつ。

 だいたい1000体ぐらいか。


 ――倒すか? 素材も手に入るしな。

 いや、倒してもどうせゾンビとして蘇えらせるか。

 すべて倒すには時間がかかるだろう。

 あとでいい。



 俺はセリカたち一人一人を風の幕で覆った。冷気を防ぐ。

 それから太刀を抜くとセリカの手を取った。

「全員、手を繋げ――《幻迷風》」


「はいっ」

 セリカが答えて俺の手を取る。柔らかな手。かなり冷たくなっていた。

 ミーニャやラピシアも手を繋ぐ。


「ケイカお兄ちゃん、これは?」

「幻を見せる風の魔法だ。逆に姿を隠した。気付かれないように近付くぞ」

「わかった」



 俺たちは氷原を歩いて山へと向かう。

 山から吹く風が強いため、足跡がすぐに掻き消える。

 体の回りを風が覆っているから音と匂いも漏れない。


 雪を被りながら侵入者を待つ魔物たちの横を通り過ぎて山の麓へ。

 千里眼で道を探すと、谷間を少し上ったところに隠れるようにして洞窟があった。中は薄ぼんやりと明るい。


 俺はセリカを振り返って無言で視線を洞窟へ向けた。

 セリカが頷く。細い指先にぎゅっと力がこもる。

 俺たちは手を繋ぎ、一列になって歩いていく。



 洞窟に入ると風の音が聞こえなくなり、静かになった。厳重に張られた幾重もの結界のためだった。

 内部は幅2メートルほど。奥で左右に分かれていた。

 岩をくりぬいたような頑丈なもので、ところどころに魔法の火が灯っていた。

 見渡すが、結界のせいで千里眼が使えない。


「見つかるまでは慎重に。見つかったらゲアドルフのところまで駆けるぞ」

「わかった……こっち」

 手を繋いだままのミーニャが細長い尻尾で洞窟の左を器用に指した。


「わかるのか。案内頼む」

「うん」

 一列になって歩いていく。

 きっと気配探知のスキルだろうと思った。



 ところどころに白銀色の毛をした狼がいたが、傍を通ってもきょろきょろと警戒はするが見つからなかった。


 先へ10分ほど進むと今度は正面に扉と、上と下へ行く階段が現れた。

 ミーニャの尻尾がぱたりと揺れた。

 上へ行く階段を指す。

 俺は頷いて階段を登った。ちらっと振り返ると、ラピシアはとても真剣な口をぎゅっと閉じていた。


 高さでいえば5階分ほど階段を昇り、また洞窟を歩く。

 通路にアンデッドが増えてきた。

 ゾンビやスケルトンなど下級な魔物には気付かれなかった。



 が、通路の奥まで来たところ、階段の前にいた幽霊は今までとは様子が違った。

 半透明の髪の長い女性が俺をじっと見ていた。水死体のように青褪めた顔で。

「イキテル……ニオイ……キャァァァアアアア!」

 洞窟が崩れるんじゃないかと思うほどの大絶叫。

 ステータスを見ればバンシー。


「うるさい!」

 踏み込んで太刀で斬り付けると、空気を切るように手ごたえがなかった。

 しかしバンシーの顔が恐怖で強烈にゆがみ、体がねじれながら消滅した。



 声を聞きつけて続々とアンデッドたちが集まってくる。

 ミーニャが床を蹴って階段の中ほどへひらりと着地する。黒い袴がふわりと広がった。

「ついてきて」

「案内任せる! セリカ、ラピシア、ついてこい! ――《水刃付与》」

「はい!」「わかった!」


 ミーニャを先頭にして階段を駆け上がる。

 上からは魔物のゾンビや獣の骸骨が襲ってくる。

 ゴーストやレイスなどの幽霊は壁を突き抜けて迫ってきた。


 ミーニャの包丁が一閃する。魔力の光が帯となってきらめく。ゾンビの腕を切り飛ばし、骸骨の骨盤を粉砕した。

 

 後ろから迫る大軍はラピシアが無造作に蹴って叩いて突き飛ばす。

 セリカは壁から出てくる幽霊を切り飛ばしていく。瞬時に凍って動きが止まる。

 というかフローズンレイピアはゴースト系にも効果があるのか。



 俺も負けじと切り捨てまくった。

 上層階に出ると、アンデッドで埋まったまっすぐな通路を太刀を振りながら走る。

 後ろには腐った肉片や砕けた骨が床を埋めた。


 ――と。

 ミーニャが通路の中央で急に立ち止まる。

「足元、トラップ。解除する」

「敵は任せろ――《水月斬》!」

 しゃがむミーニャの横に立った俺は、上段から太刀を振り下ろした。


 ズザザァァンッ!


 切っ先から放たれた青い衝撃波が床を走る!

 直線状にいたアンデットたちを木っ端微塵に粉砕していく。



 するとミーニャが、すくっと立ち上がった。

「お。解除終わったか?」

「今ので罠ごと壊れた」

 じとーっとした半目で見てくる。


「……うん、よかったじゃないか。――行こう」

「納得がいかない」

 罠解除という自分の見せ場を取られたためか、黒い尻尾が怒ったようにピーンと立っていた。


 セリカがうんうんと何度も頷いている。

「さすがケイカさまです。なんでもできてしまわれるなんて」

「それは、素直に、すごい」

 ミーニャが、こくっと頷くと包丁を抜いた。



 また駆ける。

 しばらく行くと正面に両開きの扉が見えた。

 ミーニャがしゃがみこんでチェックする。

「鍵かかってる」


「解除は任せる。――セリカは扉の向こうからの幽霊攻撃に備えろ。ラピシアはミーニャの背中を守れ」

「はい!」「わかった!」


 俺は走ってきた通路へ向かって水月斬を放つ。

 ズァァァッ! と青い衝撃波が走りぬけ、集まってきていたアンデッドを粉砕した。


 しかし相手はアンデッド。恐怖などなく、倒しても倒しても襲い掛かってくる。

 3回ほど水月斬を飛ばしたとき、後ろでミーニャが言った。

「開いた」


「よし、入るぞ! 気をつけろ」

 ミーニャが解除道具を仕舞うのを待って、扉を押した。

 ギィィっと錆びたような音を立てて開いていく。



 中は洞窟ではなく、長方形の部屋だった。広くはない。バスケットコートぐらいだろうか。机や棚、ベッドがあった。

 反対側の壁には入ってきたのと同じような両開きの扉がある。

 その扉の向こうから、カンッカンッカンッと規則正しい金属音が響いてくる。


「あの向こうだな」

「そのようですね……今まさに聖剣を作っているところでしょうか」

「ということはまだ作り終えていないということだな……だが用心しよう」

 バタンッとミーニャが後ろの扉を閉めた。

 アンデッドたちはこの部屋に入ってこれなかった。



 部屋を横切り、両開きの扉へ。

 ミーニャは扉を探るが首を振った。黒髪がさらさらと揺れた。

「鍵、かかってない」

「わかった」

 俺は太刀を左手に持ち換え、腰に差した木刀を抜いて右手に持った。


 セリカが扉に手をかけるが、俺は止めた。

「ちょっとだけ待ってくれ」

「はい、わかりました。ケイカさま」

 


 相変わらず扉の向こうから聞こえてくる鍛冶の音を聞きながら、少しだけ考えた。

 ――今聞こえている音がフェイクで、すでにゲアドルフが聖剣を作っていたらどうするか。


 それでも奴の攻撃がラピシアに当たるとは思えない。

 ラピシアは神だ。その動きが捉えられるのは同じ神のみ。

 こちらの不意を突かない限り。もしくは動きを封じない限り、奴の攻撃は無駄に終わるはず。


 しかし魔法も状態異常もラピシアには効かない。

 俺とラピシアを魔法を使わず同時に行動不能にする方法。

 いくつか考えられるな。


 それに何かされる前にゲアドルフを速攻倒してしまえばいい。

 ただ【不滅蘇生】の能力が厄介だった。弱点が『火』以外に変更されている可能性がある。

 狙いとしては俺が勇者として育っていないとゲアドルフが思っていること。


 ――となると。



 俺は自分に《高速飛翔》の魔法を掛けつつ言った。

「ミーニャは背後に注意しろ。セリカはラピシアを守れ。入ったら俺が攻撃する」

「わかりましたケイカさま」「頑張って守る」「ラピシアは?」


「ラピシアは攻撃を受けないように注意な。怪我するから」

「わかった!」

 ラピシアが小さな拳を握り締めて元気に答えた。



 それを合図にセリカが扉を開けた。

 その瞬間、中から一気に熱気が押し寄せた。

 まるで溶鉱炉に入ったかのような暑さ。


 部屋になだれ込んだ熱気はベッドや棚を焦がした。

 うっ、とセリカとミーニャが顔をしかめる。


 慌てて俺は風の幕を張りなおした。ついでに水も張る。

「ラピシア! ミーニャとセリカにキュアを!」 

「あい! ――きゅああああ! きゅあああ!」

 二人が回復する前に、俺は肩で扉を押し開けて中へと踏み込む。


 木刀が熱気を帯びて炎に包まれた。

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勇者のふりも楽じゃない
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