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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第六章 勇者冒険編・北(仮)

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第138話 東の砦攻略!(その2)

 獣人地区にある魔王軍の砦の南門広場。

 俺たちは飛竜の背にそれぞれ乗って飛び立った。


 ――と、その時。


 ドォォンッ!

 と凄まじい音が北側から聞こえてきた。


「なんだ!? セリカ、ミーニャ! 大丈夫か!?」

 俺はすぐに千里眼で砦の北側を見た。



 ……そこには巨大なクレーターができていた。

 金色の髪を風になびかせて、背筋を伸ばして立つセリカがいるだけだった。

 クレーターの中には骸骨やゾンビの破片が散らばるのみ。

 アンデッドの兵士が3分の2ほど消え去っていた。


 セリカは細剣を光らせると、天へ突き出す。

 剣から放たれた光は空高く上がった。そのまま遥か高みに滞空して力を増大させてから、一気に地上へ降り注ぐ。

 ドゴォォ……ン!

 激しい衝撃に地面が揺れた。

 またアンデッドが消し飛ぶ。残りは最初の一割にも満たない。


 ――ああ、これが姫騎士の遠距離範囲スキル【流星光破スターライトストライク】か。

 しかもどうやら光属性攻撃らしく、アンデッドに効果は抜群のようだった。

 空を一度経由するため、発動から直撃までの時間が長いのが難点か。

 でも威力は果てしなく高い。



 残りが接近してきたものの、ラピシアが無造作に蹴散らしていく。

 ――大丈夫そうだな。ミーニャは? 


 ミーニャは門に近いところで獣人たちに囲まれて戦っていた。武器を持つ屈強な獣人たちが多い。800人はいる。


 跨る飛竜の首を撫でながら言う。ふわふわの手触り。

「飛竜、北門のところまで飛んでくれ!」

「きゅいっ!」

 白い翼が力強く羽ばたき加速する。すぐに北門上空へ出た。



 俺は降りるのももどかしく、空から飛び降りた。

「きゅきゅっ!」

 後方で飛竜が驚いていたが無視。


 地面に足を揃えて立つ。ミーニャの隣だった。

「ケイカお兄ちゃん、おかえり」

「こいつら奴隷紋を付けられてる。俺が解除していく。ミーニャはそのまま戦え」

「わかった」


「「「うおおお!」」」

 

 獅子、虎、猪、馬、狼、犬、蛇、トカゲ、カエルの獣人たち、およそ800人が襲ってくるが、ミーニャは素晴らしい動きでかわしていった。

 俺も負けじとかわしつつ奴隷紋を触って無効化していった。



 奴隷紋を消すたびに獣人たちに動揺が広がっていく。

「か、体が軽い……?」「命令が……消えた?」「おお! 自分の意志で動ける!」「素晴らしい!」「ありがとう勇者さま!」

 俺に感謝しながら獣人たちは戦いの手を休めていく。


 人数が多かったので時間がかかったがなんとか解除を終えた。

 飛竜が降り立ち、その背にいた獣人たちと合流する。

 アンデッドを倒し終えたセリカとラピシアが来た。



 俺は全員を見渡した。

「ミーニャはこのまま獣人たちと話し合ってくれ。俺たちは中へ突撃するぞ」

「わかった……私が百獣王になるのを反対の人はかかってきて」

 ミーニャが両手に包丁を持ってつんと顎を上げた。黒髪が揺れ、白衣が風になびく。

 屈強な獅子や馬の獣人たちの中に不満そうな雰囲気が立ち上る。


「じゃあ、任せたぞ」

 俺はセリカとラピシアを連れて砦へ戻った。


 体の半分が泥でできた悪魔がへっぴり腰で槍を突き出してきた。

 その穂先を切り飛ばしつつ、大声で叫ぶ。

「魔物ども! 歯向かうものは殺すが、降伏するなら命だけは助けてやる!」

 砦の中に動揺が走る。

 戦おうとする者。逃げようとする者。逃げようとする者を捕まえて戦わせようとする者。部下を怒鳴り散らすだけの無能。ヒステリックに叫ぶ妖魔。泣き出す魔物の子。

 砦の中は騒然としていた。



 俺たちは向かってくる者を容赦なく切り捨てつつ、廊下を走り、階段を登り、砦の最上階を目指す。

 最上階の広い一室には副司令官のキマイラと腕が6本ある骸骨がいた。

 骸骨は背が高く骨が太い。人ではなく獣人や魔物の骨を組み合わせて作られたアンデッドらしい。

---------------------

【ステータス】

名 前:ミストゥス

種 族:デスアダプトロード(魔獣混合スケルトン)

職 業:魔王軍西方部隊副司令官 **Lv64

クラス:死霊Lv69 死騎士Lv78

属 性:【劫光】【死魔】


 攻撃力:3200

 防御力:1900

 生命力:4000

 精神力:2400


【スキル】

 十字突き:十字に切り付けつつ槍で突く。

みだれ打ち:六本の手でいっせいに攻撃。

 死風烈撃:風をまとって瞬時に距離をつめ攻撃。確率で驚愕、恐慌状態。

 致命光破クリティカルストライク


  燕切り:遠距離攻撃を切り落とす。

 魔獣咆哮:敵グループの行動抑止。確率で状態異常。

いざないの死眼:確率でデスカウント発動。

---------------------

 なかなか強い。こいつも副司令官だな。


 部屋の中、キマイラは大きなクッションに寝そべって目を閉じている。

 骸骨はテーブルに座り、お茶を飲んでいた。骨の隙間から零れそうなのになぜか飲めるらしい。



 骸骨がカップから口を離すとキマイラへ首を向けた。

「勇者がここへ来るのも時間の問題だぞ。どうするのかね、バロン? そなたの空間魔法を使えば逃げ出せると思うが」

「ミストだけでもさっさと逃げろ。俺はゲアドルフ様に今回の作戦と、この砦を頼むと言われた」

「戦うというのか。なによりも命を大切にせよと、ゲアドルフさまが命令したのだぞ?」

「仕方あるまい。今ゲアドルフさまは魔王様復活のための魔剣を作られておる。魔王様ならあの勇者に勝てる。その時間稼ぎをできなかった俺に生きる資格はない」

 キマイラは溜息を吐くとクッションに顔を埋めた。


 ――こいつ、ゲアドルフが魔王軍なんてもうどうでも良くて私情に走っているのを知らないのか。

 俺は廊下を走るのをやめて、ゆっくりと歩き出す。

 セリカが不思議そうに首を傾げたが素直に従っていた。

 


 骸骨がテーブルにカップを置く。

「しかしバロンよ。正面切って戦うのは無意味だぞ? 1秒ももたんだろう。そもそもあんな非常識な強さの奴に勝てるわけがない」

「だな。魔王軍ももう終わりだ……あの勇者に勝てるのは魔王様しかいない」

「当然だ……さっきの見たか? 強化聖金で作られた隷属の首輪をただの筋力で引き千切ったのだぞ? ワシはアレを見て逃げることに決めた」

「薄情な奴だな」

「ふんっ、創造主の言葉に忠実だと言ってくれ」

 骸骨は、口を開けて笑うとまたお茶を持って一口飲んだ。


 キマイラは蛇の尻尾で床を叩く。

「変な奴だ。さすが茶を飲めるように改造してくれとゲアドルフさまに訴えただけあるな」

「ワシに混ざる誰の記憶かもうわからんが、茶をたしなむことだけはワシの生きがいなのだ」

「それはよかったな。……と、そろそろ死ぬ準備をするか」

 のそり、とクッションから起き上がるキマイラ。



 骸骨が表情のない顔をキマイラへ向ける。

「バロンの意思が固いのは知っている。それでもここで死んで欲しくはないな」

「生き延びたところでどうする? 勇者を殺したいと考え続ける限り、俺はどこかで殺されるだろうよ」

「なんのために勇者を殺すのかね?」

「え? それは、魔族や魔物、ひいては自分のためだろう? 魔王さま、ゲアドルフさまのためでもある」


 骸骨はガチャッと骨を鳴らして立ち上がる。茶は置いていた。

「そうか……お前はもうすぐ死ぬのだったな。だったら、言っても構わんだろうな」

「何をだ?」

「ゲアドルフさまは魔王を復活させるために魔剣を作っているのではない」

 キマイラのごつい顔の眉間にしわが寄る。

「……どういうことだ?」


「あの方は、亡くなられた恋人を生き返らせるために魔王軍に協力しているだけだ。今回、生き返らせる目処が付いたのでもう魔王軍は用済みらしい」

「なっ、なんだと!? それは本当なのか!」

「ああ、本当だ。ゲアドルフさま自身がそう喋っているのをどこかで聞いた」

「そんな嘘を誰が信じる……? ――いや、ミストは嘘を言う男ではなかったな」

「残念ながらな」

 キマイラはよろよろと足をふらつかせてクッションへ倒れこんだ。ポフッと気の抜けた音がした。



「で、では……死んでいった者たちはなんのために死んだと言うのか――いや、でも魔王様が復活していただけたら――」

「魔王様はもっと悪い」

「なに?」

「あの方は人も魔族も皆殺しにするつもりだ」


 ――え?

 千里眼と多聞耳で聞いていた俺は驚いて足を止めた。

 隣にいるセリカとラピシアに言う。

「ちょっとそこの部屋で待機だ。戦闘は頼む」

「は、はい」「わかった」

 すでに俺たちは最上階にいたが、近くにあった小さな部屋に入った。

 副司令官2人の会話を聞く。



 広い司令官の部屋の中、キマイラはクッションの上で身をよじらせて驚いていた。

「な、なぜだ!? なぜ魔王様はすべてを皆殺しになど」

「復讐のため、だそうだ」

「意味が分からんぞ」


 骸骨が四本の腕で腕組みをする。残り2本の手は盾と剣を持っていた。

「ワシも詳しくは知らん。混合された誰かの記憶に残っていただけだからな。ただ、この世界で得た力は他所の世界に持っていけなかったそうだ。それで殺して手に入れて持っていこうとしたところ、偶然、女神によって刺された。本当に偶然だったのか」

 ――この世界で信者から得た信仰の力は異世界では0になってしまうということか。

 それで地力を上げることにしたのか。



「魔王様は異世界から来たのか?」

「どうもそうらしい。そしてその世界に復讐するため、この世界の力を喰らい尽くしてパワーアップするそうだ」

「……結局、我々がやってきたことはなんだったのだ?」

「しょせんワシらは捨て駒よ。偉い方々が目的を達成するためのな」

 骸骨はゆるゆると首を振った。諦めたような仕草。



 むくり、とキマイラが起き上がる。

「……なんだか死ぬのが馬鹿らしくなったな」

「それがいい。死なないのが一番だ」

「そうだな、まあいいか。最初で最後の裏切りを楽しんでみるとしよう――ん? ミストはゲアドルフさまが作ったアンデッドなのに逆らっても大丈夫なのか?」

「確かにアンデッドとしては絶対服従なのだが、大勢の記憶の中では従っていないからな。たぶん他のアンデッドよりも自由なのだろう」

「自由すぎる気がするがな」

 キマイラが鼻で笑い、骸骨は6本の腕で肩をすくめた。


「まあ、そういうな。どうせ勇者には負けたも同然なのだし、一緒に死に場所を探す旅に出ようではないか」

「おかしな奴だ。死んで欲しくないだとか。死に場所を探すだとか……死眼持ちのくせに」

「人間にも魔物にもいい奴がいる。ただそれだけのことだ」

「ミストは人も混じっているのか?」


「ああ、ワシはエーデルシュタインの宝石を掘り出すために生み出されたからな。そこに住んでた人間も混じっているようだ。いろんな思い出がある」

「例えば?」

「……ワシの記憶ではないから言わないで置こう。いつか機会がきたら、またな」

 骸骨は視線を落とし、空いた手で左の指をさすった。そこには元は腕輪だったと思われる装身具が太い指にはまっていた。

 見たことのある紋章が彫られている。


 チラッと横に立つセリカの手を見た。

 ほっそりした指にはまるのは、エーデルシュタイン王家の血筋を示す継承の指輪。

 同じ模様だった。

 そういやステータス欄に、職業が記載されてなくてLvだけがあった。

 ――国王Lv64ってことか。


 一瞬、セリカとあわせてやろうかとも思った。

 しかし逆に辛いかもしれないと思った。記憶だけが残っているにすぎないから。

 判断できなかった。



 キマイラが寝転んでいた大きなクッションを器用に背負った。

 骸骨の傍へ行くと見上げて眉をひそめる。

「急に黙り込んでどうした? 変な奴だ」

「すまん、少し考えていた。……そのクッションを持って行くのか? なんというか……」

 戸惑うように首を傾げる骸骨だったが、キマイラはジロッと下から睨み上げた。


「茶道具を持っていこうとするお前に言われる筋合いはないな」

「そうか。誰にでも一つぐらい大切にしたい物はあるのだな。――行こう」

 マントを着て茶道具袋を背負った骸骨と、キマイラが部屋を出た。


 廊下に出たところでキマイラが叫んだ。

「部下どもに告ぐ! 勇者との戦闘は絶対にするな! 俺もミストゥスすらも負けた! 今は逃げることだけを考えよ!」

 わぁぁ、と砦がうねるように騒がしくなり、魔物たちが四方の門から三々五々に逃げ始めた。



 キマイラが俺たちのいる方角へと足を出した。

 すると骸骨が呼び止めた。

「そちらには行かない方がいいだろう。よくない気がして、なぜか行きたくない。……いや、この姿を見られたくない、のか?」

 骸骨は独り言のように呟いた。

「そうか」

 キマイラは気にせず引き返し、別の階段へと向かった。

 しばらくして最上階から2人の姿は消えた。



 俺は横にいるセリカを見た。気を張って警戒している。

「なあ、セリカ。父親に会いたいか?」

「え? いきなりなんでしょうか、ケイカさま……そうですね、会いたくないといったら嘘になりますが、できれば国を取り戻してから再会したいと思います」

「そうか……頑張れ」

「はい。ケイカさま」

 セリカは指輪をはめた手に目を落とし、達観したように微笑んだ。


 ――骸骨が気付いたように、指輪を通して何か悟ったのかもしれないな。

「じゃあ、行こうか。さっきの声が言ったように、もう勝負はついた。司令室を探って何もなければ帰ろう」

「はい」


 俺は『二人を合わせなくて良かったのか? いやこれで良かったのだ』

 と、もやもやと悩みながら砦を家捜しし、目ぼしい書類や武器防具、魔道具なんかを見つけて砦を出た。

 すでに魔物は砦の中に残っていなかった。



 北にいるミーニャたちと合流した。

 男の獣人たちは砦の外に全員寝転がっていた。その獣人でできた絨毯の中に、ミーニャは颯爽と立っていた。

 さすがミーニャ。


 ラピシアがキュアをかけて目覚めさせると、獣人たちと話し合った。

 結果、獣人たちはこの砦を守ることになった。周囲の村にも伝令を走らせて協力を要請する。

 それから妖精の扉を設置していつでも駆けつけられるようにした。



 最上階の小さな部屋の前。

 いろんな種類の獣人たちが集まり、口々に礼を言った。

「勇者さま、ありがとうございましたでちゅ!」

「解放してくれたこと、心から感謝します」

「我ら獣人、勇者と猫の娘に従うことを誓おう!」


 俺は鷹揚に頷く。

「獣人地区には魔王軍の砦があと2つあるからな。油断するなよ」

「「「はいっ!」」」

 笑顔の彼らに見送られて妖精の扉をくぐり、山にいる魔王軍魔法部隊を倒しに向かった。



 今回の戦闘でセリカのレベルが52、ミーニャが56に上がっていた。

 ミーニャは盗賊スキルの【気配探知】を覚えた。


 そして――俺は今回、獣人たちを苦しめた砦の一つを落としたことで1000名以上の信者を増やし、信者数は8000人を突破した。

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