第136話 作戦会議
昼過ぎのケイカ村。
代官屋敷に村の役職持ちが集まった。
広い食堂にて会議がおこなわれた。
俺、セリカ、エトワール、護衛騎士レムリア、消防隊長、校長にベイリー。
あとはマハルがいた。全員が簡単な自己紹介を済ませると説明を開始する。
「獣人たちからの聞き込みで、魔王軍がケイカ村に対して『ケイ作戦』をおこなうことがわかりました。夜間に超遠距離からの投石、火矢、魔法攻撃をおこなってきます」
「夜間だと距離感がつかめない。村の中にマーカーを入れてそれを目印にして攻撃するようだ」
俺が補足すると、ざわっと室内が揺れた。
エトワールが赤髪を揺らして言う。
「そのマーカーが何か見つかったのでしょうか?」
「もう目星は付いている――それより攻めてくる人数や詳しい方法はわかったか?」
マハルが太い尻尾を揺らして続きを喋った。
「半分以上憶測が入りますが、まずは飛竜部隊200匹による上空からの岩と油壺の投下がおこなわれます」
「上空からは魔法じゃないのか」
「はい、魔法は結界が解除されてからになります。どう解除してくるかはわかりませんが」
「それまでは油と火矢で火災か……ふむ」
チシャは村に火を放ち、結界を解いて魔物を呼び込むと言っていた。
岩による混乱に乗じて、か。
岩は外壁を破壊するためでもあるだろうな。
マハルが続ける。
「魔法部隊1500名は北西の山に陣を張り、火矢部隊2000名は東の林に陣取るそうです。そして撤退」
「村一つに大軍だな……ん? 村が火に包まれ、結界が解けたら魔物が乗り込んでくるんじゃないのか?」
「いえ、完全に遠距離攻撃だけで終わるそうです」
チシャの知ってる話と少し違うな。
チシャが作戦の全容を教えられていない可能性があるか。
エトワールが言う。
「北西の山って物凄く遠いわね。そんなところから本当に届くのかしら?」
「魔法使い十人単位による儀式魔法を飛ばしてくるようです」
「なるほど。距離による減衰を人数で補うのね……山にいるんじゃ倒しにいけないわ。飛竜も雲の上ぐらいを飛んでくるのでは落とせない。どうしたら守れるのかしら……」
ほっそりした手を額に当てえ吐息を漏らした。
「俺なら無傷で倒せるが、飛竜部隊か魔法部隊のどちらかになるだろうな」
セリカが言う。
「飛竜部隊はケイカさましか対処できませんから、魔法部隊は今の間に妖精の扉を設置して、わたくしとミーニャちゃんとラピシアちゃんで倒す準備をしておくというのはどうでしょう? 火矢部隊は遠距離といっても近くの林なので、まだ村のものでも対処できるはずです」
「うーん、村の戦力がいちじるしく低下するが、それが一番普通の考え方なんだよなぁ」
俺は顎に手を当てて首を捻る。
マハルが不思議そうに言う。
「何か問題があるのでしょうか?」
「うーん。2つあるな。1つは俺が目立たない。俺を真の勇者と信じる者を増やせない」
「「「ええっ!」」」
全員が目を丸くして驚いていた。いったいこの人は何を言い出したのだ、という目で見てくる。
何だその目は。
俺は神になるためにやっているんだ、これほど大きな軍事行動をするなら一人でも多くの信者を獲得しなければ意味がないではないか。
それなのに夜中の上空でばっさばっさと飛竜を斬り落としても目立たない。しかも村は戦場と化しているから、みんなは上を見る暇なんてないだろうし。
正直、意味がない。
一匹撃墜するごとに拍手喝采、帰還したら「勇者さま素敵、抱いて!」とみんなが殺到するぐらい喜ばれなければ信者が増えない。
やる気が出ない。
困ったことだ。
すると、セリカが眉間に不安そうなしわをよせて、おずおずと言った。
「この村にいる人たちはほぼ全員ケイカさまを心酔なさっています。活躍してもしなくても、もうこの村で信者は増やせないかと思います」
「なるほど……それもそうか」
「わかっていただきありがとうございます」
セリカは大きな胸をほっと撫で下ろしていた。
俺は千里眼で北西のほうを眺めた。
それほど高くない山脈が連なり、その尾根辺りにローブを着た魔族が魔物を指揮している。これが魔法部隊か。
北にも目を向ける。
獣人地区には支配拠点となる砦が3つあった。東、西、中央。
その東側の砦に飛竜がぞくぞくと集まっていた。
体長5メートルほどの羽毛の生えたドラゴン。どことなく鳥に似ている。
奴隷のように扱われる獣人たちが、飛竜と兵士の世話をしている。
けれども村の東や大河、湖、北東の山などには魔物の姿は見えない。火矢部隊はもう行動開始していないと間に合わないはずだが。
あと攻め込むはずの別働隊がいないのが気になるところ。
空爆して敵を叩いて弱ったところへ地上部隊が突撃するのが常套手段のはず。それをしないなんて。
俺はパンッと手を叩いた。
「よし。いい方法考えた。――攻めよう」
「「「え?」」」
マハルもエトワールもみんな固まった。
「村を守っても信者を増やせないなら、飛竜部隊の駐屯する砦ごと倒せば、使役される獣人たちを解放できて敬われるはずだ。なにも馬鹿正直に相手の攻撃を待つ必要はない。先手必勝!」
「「「えええ!!」」」
「さ、作戦会議を開いた意味が……」
「何を言う。相手の出方がわかったからこそ攻めたほうが得策だと判断できたんじゃないか。情報集めてくれてありがとうな、マハル」
「は、はい。お礼は牛獣人のスジャータさんにお願いします。良く覚えていたので」
「ん、機会があればな。マハルからも礼を言っといてくれ。俺は飛竜部隊、返す刀で魔法部隊を倒してくる。夜には間に合うと思うが、一応防御体制を整えておいてくれ。こんなふうに……」
俺が説明すると、みんな頷いて聞いてくれた。
終わるとセリカが金髪を揺らして立ち上がる。
「さすがケイカさまですわ。先を読む考え、いつも驚かせられます。――では、行きましょう」
「ああ、行こう」
俺はセリカを連れて代官屋敷を後にした。
屋敷に戻ると、妖精の扉をくぐる前にチシャの部屋に行った。
チシャは床にぺたんと座り込んで考えていた。
「やっぱり、屋敷から出て行ってなかったか」
「気付いたのね」
「虚勢を張ったふりをして冥土の土産が~なんて言い始めたのはおかしかったからな。なかなか芝居上手だ」
チシャはぐにゃっと床に寝転んだ。ボロを着た華奢な肢体がなまめかしい。白髪と尻尾が力なく垂れた。
「もういいわ殺しなさい。私が死ねばマークは消えるわ」
「それを信じるのも危険だな。まあかたきは討ってやる」
「……どういう意味?」
「お前の父を直接殺した魔族を倒してやる。同じ方法でな。――魔族の名前はわかるか?」
「グルモン総督よ」
どこかで聞いた名だなと思ったら北西のロニ村を獣人率いて襲ってきた豚だった。
「……あ、やっぱり無理だ」
「口先だけの男だったのね」
「あの豚はもう倒した」
「えっ」
チシャが目を丸くした。
庭にいた獣人にマハルを呼んでもらい、チシャを渡した。
「こいつが遠距離攻撃の目印だ。作戦通りに頼むぞ」
「はい、わかりました」
チシャが言う。
「なにをする気なのかしら?」
「今から魔王軍倒しに行ってくる。ケイ作戦を潰しにな」
「できるわけないわ。もうこの村はおしまいなのよ」
「できたらどうする?」
「なんでもしてあげるわ」
「ほう……じゃあ無条件奴隷にでもなってもらおうか」
「いいわよ、もう。どうでもいい」
チシャはくたびれたように言った。黒い耳が垂れていた。
俺はチシャをマハルに任せて妖精の扉へと戻る。
世界樹の木刀も腰に下げた。
室内にある石板の前にはもうセリカとミーニャ、ラピシアが揃っていた。
「じゃあ、行くぞ」
「「はい!」」
彼女たちを引き連れて獣人地区へと移動した。やられる前にやるために。




