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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第六章 勇者冒険編・北(仮)

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第135話 エトワールがやってくる

 昼過ぎのケイカ村。

 ガタガタと車輪の音を響かせて、一台の豪華な馬車が南から入ってきた。後ろには馬に乗る騎士が続く。20人ほどか。

 村人達が何事かと作業する手を止めて眺める。


 馬車は悠々と進み、村の中央にある旧村長宅前で停まった。

 馬に乗っていた騎士が素早く降りて、馬車の扉を開けた。

 赤い髪を揺らして降り立ったのは、青いドレスを着た美しい王女エトワール。



 俺とセリカと村長、それに狐獣人のマハルが出迎えた。

 セリカと村長が頭を下げる。

「エトワールさま、遠路はるばるご苦労様です。ようこそおいでくださいました、セリカです」

「こ、これは、王女さま。この村の村長をしておったものです。今は新しくできた学校の校長をさせていただいております」

「初めまして、ダフネス国第二王女、私は獣人たちを統括するマハルと言います。お見知りおきを」

 マハルは貴族がするように丁寧なお辞儀をした。


 エトワールはくすっと笑うと、少し首を傾げた。

「ごきげんよう、セリカさま、マハル。それに村長さん。とても素敵な村ですわね」


 そしてエトワールは俺の前まで進むと、膝を付いて頭を垂れる。主君に従うように。

 この挨拶に騎士たちから動揺する声が上がる。



 エトワールは言った。

「お久しぶりです、勇者ケイカさま。数々の活躍、まことにありがとうございます。国民を代表してお礼申し上げます」

「まあ、そう硬くなるな」

 俺はエトワールの赤い髪をわしゃわしゃと撫でた。

 ひゃう、とエトワールが可愛い悲鳴を上げる。

「な、何をなさいますの!? そ、そういうことは人目のないところで……あ」


 騎士の一人が駆け寄ってくる。

「貴様、王女に何をする! 無礼極まりない!」

 でかい女だった。俺よりでかい。身長180センチメートルはあると思われた。

 赤銅色に日焼けした肌。短く刈られた銀髪が日に照らされて輝いている。



 俺はエトワールに聞いた。

「こいつは?」

「アタクシの護衛騎士隊長レムリアですわ――レムリア、よいのです。アタクシの命はケイカさまあってこそ。お下がりなさい」

「で、ですが……」

「下がりなさい」

 きっとエトワールが睨むと、レムリアは動揺を見せつつ下がった。悔しそうに歯噛みしながら俺を見ている。


 セリカが気を利かせて言った。

「エトワールさま、長旅でお疲れになったでしょう。どうぞこの屋敷でお休みください」

「そうですわね。これからの住まいを確認いたしましょうか――みなさん、荷物を運び込んでくださらないかしら」

「「「ははっ!」」」

 騎士たちがかしこまると、お付きの者たちと一緒に馬車や馬から荷物を下ろし始めた。


 しばらく代官屋敷の案内が続いた。もっぱらセリカが説明している。

 エトワールは頷くだけ。

 俺も一緒に入っていた。最初に来た頃、ここで追われて逃げたんだったな。その後、勇者の真似事して家をあさって。

 いろいろあって感慨深い。



 屋敷の説明が終わるとエトワールが言った。

「それで、人魚がいるのですって? ぜひ見ておきたいですわ」

「ん? 休まなくても大丈夫か?」

「ええ、これぐらいの旅、なんてことないですわ。しかもずっと舗装されてましたから、全然疲れておりませんの」

 ――見たところ、本当に疲れていない様子。

 舗装してよかったと思った。


「じゃあ、いろいろ案内しようか。防衛のためには施設を知っておいて貰わないといけないからな。まずは学校、病院、公衆浴場に旅館。それに屋敷だな」

「畑も見ておきたいですが」

「今はいい。それよりも施設だ」

「……? わかりました。確かに大きい建物が多かったですわね。気になりますわ」

 エトワールは不思議そうに首を傾げたが、反論はしなかった。

 そのまま外へ行こうとすると、騎士隊長のレムリアが眉間に皺寄せて詰め寄った。

「エトワールさま! 危険です!」

「エビルスクイッドが出るとでも言うのですの?」

「ぐっ……」

 レムリアは歯噛みした。

 まあ、そりゃそうだろう。それを言われたらこの国の人間は何も言い返せない。

 あの時は、誰一人エトワールを助けようとしなかったのだから。

 俺が仕組んだことだけど。


「それじゃ、行くぞエトワール」 

「はい、ケイカさま!」

 ドレスをふわりとなびかせてエトワールは俺の横に並んで歩き出した。

 レムリアを置いてけぼりにして。



 まずは村の最北端にある学校へ連れて行った。二階建てのL字の建物。

「ここが学校だ」

「どんな仕事を教えるのでしょう?」

「いや、子どもたちに読み書きを教える。才能のある子にはより高等な勉強をさせる」

「なるほど……費用は?」

「村の人は当分は無料だな。他の村の人はスカウトした優秀な子は無料。ただこの学校を卒業したものは寄付してもらうことになる」

 ある意味、奨学金制度と同じである。


「なるほど……人々に知識を教えると。よいお考えだと思いますわ」

「ん、人間だけじゃないぞ。エルフや魔物の子供にも一緒に学んでもらう」

「ええっ!? エルフはわかりますが、魔物と!?」

「いずれはな。まずは神獣だ」

「し、神獣……」

 エトワールのすみれ色の瞳が信じられないほど大きく見開かれていた。


「まあ、あとで会わせる。じゃあ、次行くぞ」

「は、はいっ」

 エトワールを連れて、道の反対側へ。



 北門に近い場所に学校と、道を挟んでその施設がある。

「ここは?」

「騎士団の詰め所にしてもらいたい。裏庭には練習場もある」


 エトワールが首を傾げる。

「人の出入りの多い南門の方がよろしくありませんこと?」

「いい質問だ。だが、この村は王国の最北端。戦う敵は北側の魔王軍占領地。だから騎士団詰め所も北側にした」

「なるほど……さすがケイカさまです。深い考え理解いたしましたわ」

「あと騎士団で門の警備以外に、村の見回りを村人と共同でやってもらいたい。人員はすでに決めてある」

「わかりました。そのように手配しますわ」



 次に村の南にある旅館へ行った。通りに面した3階建ての大きな建物。

「ここが旅館だ。温泉もある」

「まあ! この辺りは温泉は出ないはずですのに! すばらしいですわ。まだ営業はしていないのかしら」

「経営者が決まってなくてな。利用は開始しているがまだ素泊まり段階だ。ただ、温泉は名物になるからかなり集客が見込めるぞ」

「収入が多いのは良いことですわ」

「じゃあ、次」


 旅館の傍の小道を東へ進む。

 二階建ての大きな建物が見えてくる。

 近くへ行くと、修道服を着たファルが出迎えた。

「こんにちは、王女さま。ここが病院です」

「すごく大きな建物ですわね。病院ということは、怪我や病人を収容するのでしょうか?

もっと村の外れにあってもよいのでは」

「確かに伝染病とかは怖いがな。必ず治すから大丈夫だ。そうだな? ファル」

「そ、そんな……寿命は無理ですが……ですが温泉の薬効もあわせれば、かなりの治療が見込めます! ――健康診断もしていますし」


 エトワールが首を傾げる。赤い髪が揺れた。

「けんこうしんだん?」

「はい、そういう技術を持った人を雇って、血を見ることで病気の有無を判断できるのです」

「まずはこの村で試して、効果があるなら、周りの村へも移動式で広めていきたい」

「まあ! そのような方法を! 素晴らしいですわ!」

 エトワールは素直に目を輝かせていた。

 出会った頃とは大違いの可愛らしさだった。



 そして、病院の裏手に連れて行く。

 村の最南東。

 柵に囲われた5メートル四方の深い穴がある。


 エトワールがおそるおそる覗き込みながら言った。

「こ、これは……?」

「村の住人が働いてもらってる。神獣さまだぞ、気をつけろ」

「し、神獣さま!?」

「おーい、アイ。上がって来い」

 底の方で水に沈んでいたアメーバ状のアイが核の目玉をぎょろりと上に向けて、ずるずると壁を這って上がってきた。


 地上に出てきたところで紹介する。

「こいつがアイ。温泉の廃水処理を担当してもらってる。――こっちがエトワール。この国の王女さまだ」

「あ、はい。あの……エトワール、ですわ……」

 顔面を蒼白にしながらも、気丈にエトワールは言った。

 さすが王女といったところか。


 すると、アイはひゅるひゅると触手をエトワールへ伸ばした。

「え、え?」

「握手じゃないか?」

「――わ、わかりました……」

 エトワールが華奢な手を伸ばして触手を掴んだ。軽く上下に揺すって握手する王女とアメーバ。

 なんだこの絵面。



 エトワールは疲れたみたいだったが、さらに案内した。

 向かうは俺の屋敷。

 まだ建設前の荒地を歩いて北上する。


 庭木に水をやっていたフィオリアとリィのエルフ親子を紹介する。

「この二人は庭の手入れをしてもらってる。見てのとおりエルフだ。エトワールも木や草の相談があったら乗ってもらうといい」

「初めまして王女さま。フィオリアです」

「あたしはリィですっ。すごいね、セリカさんと同じぐらいきれい!」

「これ、リィ!」

 フィオリアがリィを叱ると、リィはちろっと舌を出した。


 エトワールは信じられないものを見る目付きでエルフ親子を見ている。

「ほ、本当にエルフさんなのですね……めったに会えない稀少な存在が、ただの庭仕事を……いえ、なんでもありません。よろしくお願いしますわ」

 俺たちの後に従うセリカが、苦笑しながら言う。

「エトワールさま、お気を確かに。まだありますから」

「まだ!?」

 一瞬、エトワールの体がふらっと横に揺れた。ショックだったらしい。



 俺は巨乳エルフに尋ねた。

「クリスティアはどこだ?」

「ため池で魚の餌やりに行かれましたわ」

「子供たちもか?」

「ええ、そうです」


「わかった。――じゃあ、逆方向だが、行くかエトワール」

「は、はい……もう好きにしてくださいませ……」

「すねるな。行くぞ」

「ひゃうっ」

 俺はエトワールの手を取って、引っ張るように歩き出した。



 村を出て西側。

 畑のある場所にため池はあった。

 池を覗き込んだエトワールが、ふぁぁっと変な溜息を吐いた。

 水中を人魚のクリスティアが自在に泳ぎまわっていた。水中に差し込む日差しを浴びて、白い肌と魚の鱗がキラキラと光る。


 俺が太刀の鞘で水面を叩くと、すぐに気付いたクリスティアが上がってきた。紫の髪から水が滴る。

「どうされました、ケイカさま?」

「新しくこの村に赴任してきた代官で王女のエトワールだ。こっちは人魚のクリスティア。魚の養殖をやってもらってる」

「初めましてエトワールさま。クリスティアです」

「人魚ですわ! 本物ですの?! ――あ、この国の王女エトワールでしてよ。よろしくお願いしますわ」

 俺は言う。

「偽者出してどうする。――お、あれがクリスティアの子供のマーリンとプルラだ」



 ざばっと水しぶきを上げてクラゲ頭の子供たちが出てくる。

「こんにちは」「ちゃー」

「あら、可愛らしい。こんにちは、エトワールよ、よろしくね」

 エトワールはしゃがんで目線を合わせて話した。


 俺がぼそっと呟く。

「その子たちは、こう見えて神獣だからな」

「なっ!? ありえませんわ! ――いったいどうなっておりますの、この村は!?」

 ついにエトワールは頭を押さえて叫んだ。

 正論過ぎてぐうの音も出ない。

 どうしてこんな村になったんだろうな。



「まあ、代官頑張ってくれ」

「……ケイカさまの近くにいられるならと思いましたが……ええ、頑張らせていただきますわ」

 エトワールの声にはもう力が残っていなかった。


 そこへ最後の爆弾を投下する。

「で、今日か明日の夜に魔王軍がこの村に攻めて来るから、今から作戦会議するぞ」

「ふぇええ~!!」

 エトワールは力尽きたのか、ぺたんとその場に座り込んでしまった。

 ぐすっと泣きべそをかいている。


 しかし時間がもったいないので、お姫様抱っこして抱え上げた。華奢な体は軽かった。

「ひゃあ! ――な、なな! どうされたのです!?」

「作戦会議だって言ったろ」

「ケイカさま、歩けますわ! 大丈夫でしてよっ」

 頬を真っ赤に染めて腕の中でじたばたと暴れるが、俺は離さなかった。赤髪が乱れ、スカートがめくれただけに終わる。すらりとした白い素足が日に照らされていた。

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