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第11話 挑戦! 試練の塔(1層目・前編)

12/10、大幅改稿。

 三日後の朝。

 試練の塔のある広場前に、勇者候補のパーティーが集まっていた。だいたい3人~5人ぐらいのパーティーを作っていた。


 他のパーティーを見ていると、ガフと目が合った。

 奴はニヤニヤ笑いながら近付いて来る。むかつく。

「お前、逃げずに来たんだな」

「お前の方こそな」


 ガフが親父とセリカをバカにしたような目で見る。

「なんだお前、まともな冒険者雇えなかったのかぁ? 老いぼれと愛人だけじゃムリムリ」

 がはははっと雑音交じりの笑い声を立てる。

 親父は無視したが、セリカがむぅっと眉間にしわを寄せて憤った。


 俺はガフの言葉を鼻で笑い飛ばす。

「そういうお前だって、ろくでもないメンバーじゃないのか? 山が似合いそうだよな」

 うっ、とガフは息を飲む。しかしすぐに笑みを浮かべる。

「マズの奴は、勇者試験の試練の塔に何度も挑戦してるからな。何でも知ってるんだよ。お前ら経験者いるのかぁ?」


 マズ……確か弓士の山賊だったか。

 この日のために挑戦させていたというわけか。

「経験者なんて必要ないな。どんな試練でも突破するから」


「へっ、お前の死に様が楽しみだぜっ!」

 そう言うとガフはニヤニヤと笑いながら手下のところへ戻っていった。

 ――こいつだけは許せないな。神をここまで侮辱して生きていられるとは思うなよ。

 さっさと試練の塔をクリアしてトーナメントに進みたいものだ。



 俺は四人パーティーで挑戦することにした。

 俺、セリカ、親父、大男。

 大男は俺よりも背が高く横幅もある。全身が暗い色のフードで包まれていた。

 そして全員、リュックサックのような大きな袋を背負っていた。



 それにしても広場の周りは人で一杯だった。大通りの方にまで人々が集まっている。野次や歓声を飛ばしていた。

 フィード焼きの屋台は大繁盛。


 街のあちこちに、中継用のモニターが設置され、人々は開始を待っていた。

 ちなみに賭けも公然と行われている。

 親父やセリカは俺に賭けるつもりだったらしいが、止めさせた。

 理由は二つ。

 筆記試験3位だったこととガフをやっつけたことがあるという前評判から、倍率がかなり低くなってしまったのが一つ。

 もう一つはラピシアの攻略がすんなりいくとは思えなかったからだった。



 待ち続けていると、ようやく試験官らしき壮年の男が試練の塔の屋上に現れた。

 歳を感じさせない機敏な動き。豊かな声量を響かせる。

「『賢さ』の試験を突破した未来の勇者たちよ。これより『勇気』の試験を開始する。日没までに全五層の内部を突破して、この屋上まで上がってくること。つまり10時間以内に突破できた者だけが次の試験へ進める。――では1番から順番に、自分の扉から中へ入っていくのだ! 1番ガフパーティー」

 歓声とブーイングが同時に上がる。

 悪態をつきながらガフが1番の扉に入っていく。

 

 2番は肩幅の広い屈強な戦士がリーダー。

 精悍な顔つきをしている。盗賊に魔法使い、僧侶を連れて2番扉へ入っていった。



「3番、ケイカパーティー」

 さっそうと和服の裾をはためかせて俺は歩いた。下駄がカラカラと鳴る。


 歓声が上がる。

「頑張れよ、兄ちゃん!」「楽しませろよ!」「親父ぃ、死んだらミーニャちゃんの面倒見てやるからな!」

「うるせー! お前らなんかに娘をやれるか!」

 比較的温かな応援を貰いつつ、3番扉に入った。



 中は薄暗い。

 床は敷石で覆われ、壁も石を組み上げて作られている。

 高さ、横幅ともに2メートルほど。意外と広い。

 通路の正面には大きな扉。

 天井には等間隔に明かりが灯っている。


 見上げながら言った。

「たいまつやランプを用意しなくていいのは便利だな」

「中継映像が見えなくなるからな」

「なるほどね」


 セリカが袋を背負いなおすと、金髪を揺らして強く頷く。

「まいりましょう、ケイカさま」

「ああ、親父、先頭を頼む。次が俺と大男、最後はセリカだ」

「はいっ」「あいよ」

 警戒しながらゆっくりと進みだす。



 そして歩きながら俺はすべてを見抜く目《真理眼》を発動させる。

 床や壁に罠の種類が浮かぶ。

【隠し扉】


「おや? 入ってすぐのところに隠し扉があるぞ」

 すると親父が振り返って答えた。

「よくわかったな。さすがケイカだ」

「使わないのか?」


「そこは上の階に行く階段で、施設のメンテナンス用なのさ。専用の魔法鍵がないと通れねーんだ」

「なるほど」

 ということは、石の棺は上の階に運ばれたというわけか。

 実際、この階からあの怨念のこもった嫌な気配は感じなかった。


 

 罠などはなさそうだったので、通路を進んで正面の扉を開けた。

 中へ入ると、とても広い部屋だった。

 小学校の運動場ぐらいはある。端は暗くて見えなかった。

 部屋の奥には別の扉があった。出口はそこだけ。


「なんだ、ここは……?」

「ここに看板が……」

 セリカが広間の入口の壁を指差した。

 そこには『小手調べ。偽物を倒して鍵を手に入れろ。ただし本物を倒してもペナルティはない』と書かれていた。


「偽物? よくわからないが、全部倒してしまっても構わないんだろ?」

「そのようですわ、ケイカさま」

 セリカが頷き、親父が答える。

「腕慣らしに丁度いいぜ」



 ――と。

 いきなり足元で「ニャー」と可愛い声が響いた。

「ん? なんだ?」

 視線を向けると、猫がいた。

 小さくて可愛らしい体を足にこすり付けてくる。

 ピンッと立てた尻尾の、先だけが少し曲がっていた。 

 愛情のしるし。


「まあ、なんでこんなところに猫ちゃんがいるのでしょう?」

 セリカが目を丸くしながらも、屈みこんで手を出した。

 《真理眼》で見たが、別に危険はなかった。普通の猫だ。

「にゃ~ん」

 猫は目を細めて、セリカの白い手に顔をこすり付ける。可愛い。



「罠にしては、何もないな。迷い込んだのだろうか?」

 そう、俺が首をかしげたときだった。

 突然、部屋の奥からドドドッと地響きが聞こえてきた。

「なんだ?」


「にゃー!」「にゃおん!」「にゃう!」

 もふもふした無数の猫が津波のように押し寄せてきた。

 百匹や二百匹どころではなかった。

 数百匹のラブリーさで広間が埋まる。



 親父が目の色を変えて叫んだ。

「ね、ねこ! しかも、こんなにたくさん!」

「こいつらを倒して偽物を見つけろっていうのか!」

「ありえませんわ! こんな可愛らしい生き物をっ!」


「くそっ、どうする――うわっ!」「きゃあ!」「ふぉぉ!」

 俺たちは戦うことすら出来ずに、猫の波に飲み込まれた。

 もふもふの波に翻弄されて行動できない!


 《真理眼》で見ても、ここにいるのはただの猫だった。

 もちろん倒そうと思えば、弱いから簡単に倒せる。

 

 ――しかし!

 俺たちの行動はモニターによって観客に見られている。

 勇者を目指すものがこんな可愛い生き物を殺しまわるなんて、未来の信用度にかかわる!


「くっ! これが勇者の試練だというのかっ!」

 こんな非人道的な試練、人間が考えたとはとてもじゃないが思えない。

 汚い! さすが魔王、汚い!



 俺は猫の波に押し倒されながら、親父に向かって叫んだ。

「親父! なんとかならないか!」

「な、なんとかって言っても――はわわっ」


「いい年したおっさんが「はわわ」とか言ってんじゃねえよ!」

 ただ、その気持ちはわかる。

 床に倒れた俺たちの周りを愛くるしい猫たちが取り囲んでいた。上にも乗ってくる。顔にも腕にも。

 みんな愛情表現たっぷりに目を細めて体をこすり付けてきた。

 気持ちが蕩ける。

 神なのに昇天してしまいそうだっ!


 そして親父は痛切な声で叫んだ。

「だめだ! すまねぇ、ケイカ! 俺は猫が好きなんだぁぁぁ! 殺すぐらいなら潔く死ぬ! ――はわわ」

 親父は目をとろーんとさせて、無数の猫に埋もれて見えなくなった。

 ――惜しい奴を亡くした。骨は拾ってやるから安心しろ。


 ……まあ、親父が猫好きだろうというのは薄々わかっていた。

 奥さんが猫獣人だし、娘の猫少女ミーニャを育てるために山賊を廃業して真人間になるぐらいなのだから。



 俺は隣を見た。猫に半分覆われた金髪が見える。

「くそっ、このままじゃ、勇者になれないっ! ――セリカ、なんとかならないか!」

「にゃー、ですよ、にゃー。……はっ! そうでした、ケイカさま! 今、お助けします!」

 どうみても目尻を下げて蕩けていたセリカは、急に気合を入れて立ち上がった。

 体に乗ってた猫たちを振り落とし、素早く腰の剣を抜く!

 威嚇するように細剣を構えた。


 一度は離れた猫たちだったが、また尻尾をぴーんと立てて、彼女の足元へ擦り寄ってくる。

「「「にゃ~ん」」」

 セリカの端整な顔が泣きそうに歪んだ。

「ああ、群れない猫がこんなにもいっぱい……申し訳ございませんケイカさま! わたくしはダメな女なのですわっ」

 との言葉を最後に、集団で飛びついてきた猫たちに埋もれて見えなくなった。

 ――セリカ、死亡確認。



 が、俺はセリカの言葉にぴんっときた。

 言われてみれば、またたびを持ってるわけでもない俺たちに集団で懐くのはおかしすぎる。

 それにあまりにも猫が可愛すぎる。人間を的確に誘惑している。

 おそらくただ遠距離から術をかけてるだけじゃない。

 現状を把握している何者かが、この場で細かい指示を与えているに違いない!



 俺は猫たちを振り落としてもう一度《真理眼》を発動。

「にゃ~ん」と甘い声を出しながら体をこすり付けてくる猫たちを見ていった。

 猫たちは落としても振り払っても、何度も体によじ登ってくる。

 くそっ、可愛い。


 ――見つけたっ!

 たった1匹ステータスの違う猫がいた。

 見た目は猫にそっくりで、一緒になって甘えている。

 だが、神の目は誤魔化せない【魔導人形】と表示されていた。

「動物型のゴーレムか――ハッ」


 素早く抜いた太刀を一閃。

 ザンッ!

 広い空間に、硬いものを切る音が響く。


「に゛ゃああああ!」

 猫ゴーレムは断末魔の叫びを上げ、辺りにバネや歯車を撒き散らして砕けた。



 周りの猫たちの動きが止まる。

 次の瞬間。

「「「にゃあああ!」」」

 いっせいに、俺たちから逃げ出していった。


 跡に残されたのは、ヘブンに行った親父と、上着もスカートもはだけて、下着を見せて喘いでいるセリカだけだった。


 太刀を仕舞いつつ言う。

「ほら、行くぞ」

「んあ……?」

「あれ……ひゃうっ」

 親父は目を擦って立ち上がり、セリカは顔を真っ赤にして乱れた服を急いで調えていた。



 俺は床に散らばった部品の中から銀色の鍵を拾い上げた。

 間違いなく次の扉を開く鍵だった。


 親父とセリカが傍に来て言う。

「いきなりの強敵だった……ケイカすげぇな。混じってる人形に気がつくとは。危なかったぜ……」

「さすがケイカさまです。わたくしなんて取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」

 セリカは乱れた金髪を手で整えながら言った。


「まあ、おそらく時間浪費と、信頼度低下を狙った罠なんだろうな。いやらしい性格したダンジョンだよ、まったく」

「恐ろしいですわ……」

「そいじゃあ、行こうぜ――鍵、貸しな」


 親父は鍵を受け取ると、奥の扉を調べてから開けた。

 薄暗い通路。今までとは違う雰囲気。

 真理眼で見ると罠だらけだった。



「ここからが試練の塔の本番のようだ。気を引き締めて頑張ろう」

「おうよ!」

「はい! ケイカさま!」

 セリカが青い目を細めて微笑んだ。白い歯が光る。

 見ているこちらも思わず微笑みそうになる癒しの笑顔。

 ――この笑顔、守らないとな。


 セリカの期待に応えるためにも、この世界で神になるという目標を達成するためにも、頑張ろうと思った。太刀の柄を強く握り締めつつ。

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