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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第五章 勇者冒険編・東

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第105話 辺境大陸

 数日後、航海は順調に進み、ついに大陸の岸が見えた。

 真上から日が差す昼。


 俺は船首に立って景色を眺めながら呟く。

「ようやく来たな……さっさと妖精界を取り戻して、妖精の扉を使用できるようにしようか」

 そうすれば村や新世界樹、これから手に入れる獣人地区も俺が瞬時に移動して守れるようになる。


「にしても、妖精界に一番近い場所はどこだろうか」

 横に立つセリカが風に乱れる金髪を押さえながら言う。

「聞いてみたほうが早いのではないでしょうか?」

「そうだな。ハーヤ……いや、マージリアがいいか」


 俺は長い呪文を唱えて話しかける。

『マージリア、いるか?』

『ひゃ! ケイカさまか? いったいどうしたというのだ?』

『辺境大陸の西側まで来たが、妖精界に行くにはどこから上陸すれば一番近いか?』

『もうそこまで!? さすがケイカさまだな……妖精界を取り戻すために動いてくれて礼を言う』

『まだ早い。取り戻してからでいい。それより場所だ』

『今は使われていない港町がある。呼んでくれたら案内しよう』

『わかった』


 呪文を唱えると甲板に光る魔法陣が浮かび上がる。

 そして、光が消えると、イケメンが立っていた。

 ズボンにシャツにベスト。撫で付けた髪に帽子を被り、手には弓を持っていた。

 男装の麗人とでもいおうか。


「久しぶりだな、ケイカさま」

 恭しく一礼をするマージリア。

「らしくない格好してるな」

「また潜入中なのだ。貴族の令嬢が妖精の腕輪を持っていると聞いてな」

「宝集めか……ご苦労なことで。とにかく案内してくれ」

「いいとも――今は、この辺か……南へ行けば深い大河がある。そこを少し上れば港町だ」

「わかった」

 船長に話して船は進み始めた。


       ◇  ◇  ◇


 マージリアの案内で港町に着いた。湾になっているが、だいぶ砂で埋まっている。

 外輪船は構造上、喫水線が浅くなるので進めた。


 崩れた岸壁に船をつけた。雑草があちこちに生えている。

 船が止まると、むあっとした熱気に肌が包まれた。


「人がいないな……ん、でも。草を編んで作った小舟があるな」 

「そうだ。少しだけ人が住んでいる。原住民といおうか。文明を失った人々だ」

「なるほど。文化や習慣が違うと話が通じないかもしれないから刺激しないようにしよう」

 かつては太陽教が支配した大陸。

 大量の魔物に襲われて滅んだと聞くが、生き延びていた人がいるらしい。



 俺はセリカとミーニャ、ラピシアに言った。

「では、降りよう。ナナは見張り、クリスティアはいつでも逃げられるようにしていてくれ……ルーナは?」

 クラゲ少女ルーナの姿だけ見えない。


 ラピシアが言った。

「体が痛いって寝てるの。きゅあ、効かない」

「回復魔法が効かない? 熱でも出たのか?」



 船べりに座る人魚のクリスティアが言う。

「たぶん、成長痛だと思われます。ここ最近で急激に成長したので。それに合わせた体になろうとしているのかもしれません」

 ――人とイカと魚とクラゲの融合した、名状しがたき化け物が頭に浮かんだ。


「いあ、いあ、はすたぁ、とか言い始めたら逃げるんだぞ」

「な、なんでしょう、それは?」

「ただの冗談だ。しかしルーナが動けないと守りが手薄になるな。うーん、最悪船は壊れてもいいから、命を最優先にしろよ」

「わかりましたケイカさま」


 髭ともみ上げが繋がった船長も頷いていた。

「船のことは任せときな! いざとなったら結界張れるからよ」

「わかった。頼んだぞ」



 俺たちはマージリアを先頭にして港町を歩いた。石畳には草が生え、漆喰の壁は崩れている。半分以上の家は潰れていた。

 すると、崩れた家の中や、道ばたの影に日焼けした半裸の人たちがいた。

 布もなく、大きな葉を蔓で繋げてスカートをしている。男も女も。腰周りのつるにはたくさんの小袋。

 上半身は裸だった。食事を作る女性などは垂れ気味の胸が激しく揺れていた。


 さっさと通り抜けようとしたのだが、髪に羽飾りを付けた初老の男が近付いてきた。

 族長と思われた。顔は険しいが、敵意は感じない。

「お前、何者?」

「勇者ケイカだ。妖精たちを助けにここへきた」

「勇者! 伝説の! 光の戦士! 太陽の光で、魔物、焼き尽くしてくれる!」

 ――俺は太陽神じゃないんだけどな。


「太陽は無理だが、水で押し流すか、風で吹き飛ばすぐらいならできる。まあ魔王も倒すから安心しててくれ。じゃ、先を急ぐから」

「歓迎! 歓迎する!」

「あとでな」

「……光の戦士、ではない?」

「お前たちの伝承とは違うかもな。それとだ――船には魔物に見えるが聖なる動物が乗ってるから間違って攻撃するなよ」



 俺が港を指差すと、族長は悲鳴のような叫びを上げた。

「太陽の船! 神の船! やはり光の戦士! すぐに歓迎! 船、守る!」

 なんのことだと一瞬思ったが、すぐに外輪を指しているとわかった。

 言われてみれば外輪は太陽をモチーフにしてるようにも見えるかもしれない。


 ……まさか、外輪船で来たことが、部族の友好を勝ち取るなんて。

 さすがの神でも予想外だ。



 族長は身振り手振りを交えて必死に説得してくる。

 俺は頭をぽりぽりと掻いた。

「どうする、セリカ?」

「これだけ言われているのですから、むげにはできませんわ。……それに宴会を通じて、ここの人に勇者ケイカの名を広められるチャンスかもしれません」

「なるほど。確かに魔王を倒すには1人でも多く信者を集めないといけないものな。さすがセリカ。いい助言だ」

「そんな……お力になれて嬉しいです」

 セリカが嬉しそうに頬を染めてはにかんだ。


 ミーニャが尖った耳をピコッと動かして言った。

「ここの料理、興味ある」

 ミーニャの黒い瞳は、崩れた家の影で料理する女性に釘付けになっていた。



 俺は族長に言った。

「わかった。歓迎を受けよう。俺はケイカだ」

「感謝! 光の戦士ケイカ! 太陽に栄光あれ!」

 族長は手を合わせて空に浮かぶ太陽を拝んだ。 


 セリカがぽつっと言った。

「ここの方も、言葉が同じなのですね」

「そうだな。これだけ習俗が違うのに。元になった神々が同じだからじゃないか」

「なるほど、そう考えられますね」


 族長が先に立って歩き出す。

 基地の横に手を当てて叫び声を響かせる。

「ヲー! ヲー! ヨロロヲー!」

 雄たけびの合図。

 それだけで町がにわかに騒がしくなった。

 どこに潜んでいたのか、100人ぐらいの老若男女が宴の準備に走り回った。


 活気があふれる町の中を、族長に連れられて歩いていった。


       ◇  ◇  ◇


 昼下がりの午後。

 坂の上にある半壊した大きな城の傍で、宴の席が開かれた。


 俺が段上の中心に座りその両側にセリカ、ミーニャ、ラピシアが並んだ。

 部族の者たちは皆地べたにひれ伏している。

「ケイカさま!」「光の戦士!」「救世主のみなさま!」 

 輪になって座って酒でも酌み交わすのかと思っていた。


 まあ、敬われているのは分かるので悪い気ははしない。

 セリカは王女で慣れていたし、ミーニャも動じていない。ラピシアも神(代行)なのでむしろ喜んでいる。



 俺は言った。

「そうかしこまらないでくれ。仲良くしようじゃないか」

「ケイカさま、感謝!」「嬉しい!」「神の言葉!」

 ひれ伏しながらも泣きながら喜ぶ人々。


 俺は族長を手招きした。

 羽飾りを揺らして傍へ来る。

「なにか?」

「いや、褒め称えられすぎてる気がしてな。何か困っていたりするのか?」


 族長は少し顔をしかめた。

「……ここにいる皆、3部族の集まり。このままだと、滅びる」

「数が少ないな……魔物が多いのか?」

「急に最近、凶暴に。次々喰われた」

 ――そう言えば、エビルスクイッドが辺境大陸部隊司令官を兼任していたな。ボスが死んで歯止めが利かなくなった?


 族長は言う。

「魔物、餓えてる。危険、危ない」

「物資輸送がうまくいってないのか」

 魔王軍、もう崩壊しかけだな。



 族長は手を合わせて懇願してきた。

「守ってほしい。この村。人々」

「うーん。できなくはないんだが……」

 セリカが不思議そうに首を傾げる。

「どうしてでしょう? ケイカさまでも難しいのでしょうか?」

「あれがなぁ……」


 俺は千里眼で鬱蒼と生い茂るジャングルを見た。

 そこに徘徊する魔物たち。

 とにかくでかい。


 全身がトゲで覆われたドラゴン。ただし20メートルはある。

 炎をまとった鷲。翼を広げると30メートル。

 あとは家よりも大きい、三面六臂の象。鋼のような筋肉がしなる。かなりの強さ。しかも30頭ぐらいの群れを作っている。

 背の高さ10メートルを越える巨人たちもいる。巨大な剣や鎧で武装している。

 一番弱そうなネズミでも6メートルぐらいある。


 太陽教を潰すために魔王ヴァーヌスが生み出した魔物の精鋭たちなのだろう。

 俺なら余裕で倒せるが、銅像では倒せると思えない。

 結界を張っても壊されそうだ。壊れない結界を張ったら人すら出入りできないだろう。

 ――それに、太陽神の影響が強すぎて、手柄を横取りされてる気分になりそうで、気が引けた。



「難しいな――というか、よく今まで生きてこれたな」

「太陽の粉、かければ逃げられる」

 族長は腰の小袋を1つとって捧げるように渡してきた。

 袋を開けると中には白い光を放つ砂が入っていた。


 横で見ていたセリカが青い瞳を丸くして口を手で押さえる。

「まあ! 聖金ですわ!」

 聖金貨の材料にして、最高の武器防具を作る時に合金添加物として使用される金属。

 白魔法の力を込められる金。これがあるため普通の金は地球よりも価値が低い。

 ちなみに銀も、普通の銀と黒魔法の力を込められる銀――魔法銀があり、金と同様に普通の銀は価値が低かった。

 綺麗なだけの金属なので通貨に使われていると説明してくれた。


 聖金貨1枚が500万円なのに、そこそこ重量のある大金貨で10万円はなんか安いな? と思っていたが、そういう理由があったとは。 

 お金にあまり興味がないので気にしてなかった。



「ん? ということは、部族全員が腰に下げてる袋は全部聖金の砂なのか」

「はい。川で取れる。底の砂」

「ほう! ――砂金の状態でとれるのか」

 100人全員が1人10袋ぐらい持ち、一袋は50~80グラム。聖金貨、約2枚分。

 軽く100億円越える金額。


「……川にはあとどれぐらいある?」

「たくさん!」

 族長の答えでは分からないので、俺は千里眼で見た。

 大河の川底に光るきらきらした砂。

 まあ、ざっと換算しただけでも、聖金貨100万枚は作れるだろう。

 5000000000000円。5兆円。1枚30グラムとして3トン。



 俺は頭を抱えた。

「これが社会に流通したら経済崩壊しかねないな……」

「た、確かに、聖金貨の価値が暴落しそうですわ」

 魔物を倒せる金属が出回ることは悪くないが……。

 存在を隠しながら、少しずつ流通させるしかないか。


「族長、その砂のことは船の人々には言うな。絶対にな」

「わかる。ケイカさまだから、伝えた」

 昔、この大陸に流れ着いた人が、聖金の存在を知り、大量に奪ったらしい。

 そのため聖金が枯渇して魔物に対処できなくなり、一つの部族が滅ぶほどの大打撃を受けたらしい(流れの強い川のため、砂金採集は手間がかかるそうだ)


「ミーニャやラピシアも言うなよ?」

 真剣な顔でコクッとうなずく猫耳少女と神少女。



 俺は吐息を吐きつつ言った。仕方がない。

「族長、わかった。なんとか守れる方法を考えてみよう。ただし守れたときは俺を敬うんだ。太陽以上に」

「わかった! ――ヲ~! 皆聞け! ケイカさま、我らの救い主!」

「「「おおお!」」」

「ケイカさま、神と崇める!」

「「「ケイカ! ケイカ!」」」

 熱狂的な声で応えられた。

 それだけ切羽詰っているということだろう。


 すると、ミーニャが素っ気無い声で言った。

「……ごはん、まだ?」

「ああ、そうだな。族長、昼飯まだだから、頼む」

「わかった――食事を!」



 族長が指示すると、黒や茶色をした色気のない食事が運ばれてきた。

 鮮やかなのは生の魚肉ぐらい。赤い身が光る。


 俺は見た瞬間息を飲んだ。

「え、まさか」

 茶色く焼かれた魚をほぐして食べた。

 くわっと目を見開く。

「味噌!!」


 俺は次に魚の刺身を箸(今作った)でつまむ。

 小皿に入った焦げ茶の液体につけて食べる。

 ガタッとイスを倒して立ち上がって天を見た。

「醤油! ……いや、たまり醤油だ!」


 湿度の高い気候。

 豆を保存しようとして生まれたのだろう。


 立ち上がって小躍りする俺を、セリカとミーニャが目を丸くして見ていた。

 ラピシアだけが黙々と食べて。

「うまい!」

 と、大きな声で叫んでいた。


 ――お~、子供でもわかるか。いや、子供だからこそ常識にとらわれず判断できるのか。

 とにかく、この味は守らなければならないと、密かに決意した。

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