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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第五章 勇者冒険編・東

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第102話 少女クラゲ!

 見渡す限りの洋上は朝日に白く光っていた。


 外輪船の甲板の上。

 俺は赤いクラゲを頭に被った少女に首筋を刺されていた。



 しかし、時間が経つにつれて、少女がガタガタと震えだした。

「な、なんで、死なないのぉー!!」

「そりゃあ、お前が弱いからだ」

 非力な魔物の力で神の皮膚を貫くことなんて不可能。

「そ、そんなぁ! あ、あたいがやらなきゃ、いもーとが、おとーとが、おかーさんがっ!」

 少女はナイフをもう一度振り上げたので、俺はその手を掴んだ。

「残念だが俺は死ねない」


「いやっ! 離して!」

 少女は必死に暴れた。細い足でポカポカ蹴ってくる。頭に被ったクラゲの触手がぺちぺち当たる。が、痛くもなんともない。

「無駄だ。諦めろ――ちなみにお前の父親は誰だ?」

「エビルスクイッドなのさ! とっても、とっても強くて、優しいおとーさんだったんだからぁ! ……うわぁぁん!」

 大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼして泣き出した。



「――あ~、やっぱりかー。イカじゃなくてクラゲなんだな」

「う、うるさい! 兄弟みんなイカだったけど、あたいたちだけおかーさんに似たのよさっ!」

 なんとなくそんな気はしていた。

 少女は泣きながら蹴り続けてくる。


 セリカも困った顔で俺を見てきた。

「ケイカさま、お怪我は大丈夫なのですか? そして……その子はどうされますか?」

「痛くもなんともない。そうだな……」

 ――殺すか。神に対する不敬として。

 神に刃を向けたのだから殺されて当然だ。しかもこいつは魔物だし。

 勇者が魔王四天王を倒したことに文句を言われる筋合いもない。

 というか昔の俺なら事情が分かった時点でさっさと斬り捨てていただろう。


 だが、悩む。

 自分を恨む存在をあっさり殺していいのか。それで俺は人々から今度こそ敬われる神になれるのだろうか。

 昔と同じになりはしないか?

 俺は困ってしまって頬をポリポリと掻いた。



 その時、小さな影が2つ、甲板に現れた。

「お、おねーちゃんを放せぇ~!」「はなちぇ~!」

 赤いクラゲを頭に被った幼い男の子と女の子。

 小さな手にナイフを握り締めて駆けて来る。


 少女の顔に焦りが浮かぶ。

「マーリン! プルラ! 来ちゃだめぇ~!」

 幼い2人はびくっと体を震わせた。

 その拍子に3歳児ぐらいの幼児が、どてっと転んだ。

「プルラ!」

「う、う……うえぇぇん!」

 転んだまま泣き始めるプルラに駆け寄る男の子。

 プルラを助け起こすけれども、近付いてきたセリカにビクッと怯え、さらに俺に捕まえられた少女を見て、男の子は顔を歪めた。

「うえーん、おとーさん、おかーさぁん! 怖いよぉ~!」 

 3人は大合唱して泣き始める。



 なんだか幼い子供たちを泣かせる俺が、すごい悪者に感じてきた。

 セリカは眉を寄せておろおろと驚き戸惑っていた。


 ミーニャだけが警戒を解かず、いつでも先制攻撃できるよう気を張っていた。

 というかイライラしているらしく、黒い尻尾がピーンと立っていた。

 俺の命を狙うものを許せないらしい。ブレないな。さすが俺の巫女。


 どうしようかと、とりあえず少女のステータスをじっくりと見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:ルーナ

性 別:女

年 齢:6

種 族:ジェリーマーメイド(新・柔魔族)

職 業:海域挑戦者

クラス:アサシンLv3 神獣Lv1

属 性:【夕闇】【月光】【青海波】

状 態:進化決闘バトル挑戦中(強制参加)


 攻撃力:110

 防御力:140

 生命力:400

 精神力:200


【スキル】

スティング:剣で刺す攻撃。

影闇泳シャドウスイム:影や闇に潜って泳ぐ。影がないと使用不能。

【データ】

水属性抵抗:小

--------------------

 ……なるほど。新種なのか。

 おそらくこの3人しか同種族はいないのだろう。

 今は弱いが、鍛えればとても強くなりそうだ。見た目10歳だが、実年齢は低いな。魔物は成長が早いのかも。

 ステータスを眺めていて閃くものがあった。


「強制的に戦わないといけないのか。ていうか魔族なのに神獣って。お前の母親の種族はなんだ? 気持ち悪い化け物か?」

「ひどいっ! なんてこと言うのよさ! おかーさんはとってもきれいな人魚なんだからぁ!」

「ほう。だからジェリーマーメイドか。母親はどこにいるんだ?」

「う……っ」

 少女が泣くのをやめて声を詰まらせる。



「どうした?」 

「おかーさんは、人魚の里に帰ったけど、捕まったのよぅ。魔族に協力した悪者だって……」

「それは、まあ。そうなるか」

「だからあたいがゆーしゃ倒せば、海で一番になれるから! 手下を引き連れておかーさんを取り返すの!」

「なるほど。そういう理由か。でも無理だな」


「あたいはおとーさんの子なんだからっ! ゆーしゃになんて負けないのよさ!」

 はぁ、と俺は溜息を吐いた。

「エビルスクイッドはとても強かった。強いだけじゃなく頭も良かった。魔王に忠誠を誓っていたから仲間に誘っても断られた。どちらも立場上引くことはできなかった。だから俺は自分の持てる最高の技で倒した」

 だから謝る気はまったくなかった。倒したことに後悔はない。

「それでも、おとーさんに、生きててほしかったぁ! 絶対に、許さない!!」

 ――まあ、そうだろうな。

 

 俺は少女を見つめて言った。

「ああ、恨め。俺を憎め。……ただな、今のままじゃ絶対勝てない。もっと強くなれ。父親より強くなった時、相手をしよう」

「それじゃあ遅いのよぉ! おかーさんが……っ!」



 たまごを抱えたラピシアがすたすたと歩いてきて、少女の肩をぽんぽんと叩いた。

「大丈夫! お母さんには会わせる!」

「ほ、本当に……?」

「うん! だってケイカは勇者だから!」

「……ゆーしゃは魔族の敵よ、信じられないっ」

「だったらラピシアを信じて!」

 満面の笑みで、少女の顔を覗き込んだ。

 同じぐらいの身長。クラゲ被ってる分だけ少女の方が高いけれど。

 ラピシアもまた母が恋しい年頃。共感したのだろう。


 少女は泣き顔のままラピシアを見て、俺を見て、弟たちを見て、またラピシアを見た。目に涙が溜まる。

 そして言った。

「おねがい……おかーさんを助けて……っ」

「うん、わかった! ――いいよね、ケイカ?」



 俺は少し考えた。

 が、すぐに結論を出す。

 勇者だし神だし、ラピシアいるし、話がこじれても大海神リリールを召喚すれば余裕だろう。

 それにうまくいけば人魚も信者に引き入れられるかもしれない。

 正直、魔王が復活する約1年後までに、人間だけで数万人は到底無理だと考えていた。だったら多種族も積極的に取り込んでいかないといけない。


「わかった。お前の母親を助けてやる。名前は?」

「ほんとに助けてくれるんだ……あたいはルーナ。あっちは弟のマーリンと妹のプルラ。おかーさんはクリスティアっていうのよさ」

「じゃあ、人魚のところへ案内だ。――ラピシアはルーナの面倒見てやってくれ。仲良くするんだぞ」

「うん! もう友達だもん! 大丈夫――」

 ラピシアが青いツインテールを揺らして頷いた瞬間だった。


 ギィィィッ!

 突然、耳障りな甲高い音が頭上で鳴った。ガラガラ蛇の警戒音を思い出す。

 見張りをしていたナナが叫んでいた。

「南からすごく大きい魚きます! 空を飛んで!」

「なにっ!?」


 

 水の柱のような竜巻に乗って、全長10メートルはある魚が向かってきていた。体全体が黒金のように鈍く光り、4メートルもある鼻先は剣のように鋭く尖っている。メカジキに似ていた。

 赤い眼を爛々と輝かせて残忍に笑った。

「ぎゃはは! 見つけたぞォ! イカの娘! 人間の船に逃げ込んでやがって! 安心しな、お前を殺して力を引き継ぎでやっからよ! オレこそが次の支配者だぁ!」

 なるほど。そういうシステムなのか。


「ひぃっ、シーメタルグラディウス! いつもあたいたちを狙って……に、逃げるのよさ!」

 ルーナはクラゲの頭をぷるぷると揺らして反対側へ逃げようとした。

「別に逃げる必要はないな」

「え?」


 俺は太刀を片手で持つと、船べりの上に立った。

「外輪は止めておけ!」

「らじゃー!」

 船員たちが慌てて動く。


 俺は真理眼で奴を見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:シーメタルグラディウス

種 族:新・鱗魔族

職 業:魔王軍海洋部隊中隊長 海域挑戦者

クラス:魔獣Lv45 狂剣士Lv30

属 性:【激風】【深闇】

状 態:進化決闘バトル挑戦中(強制参加)


 攻撃力:2500

 防御力:2800

 生命力:1600

 精神力: 700 


【スキル】

スラッシュ:剣で切り付ける

竜巻突撃トルネードダイヴ:竜巻に乗って体当たりをする。

大海轟割斬ディバイドストリーム:魔力を注いだ剣で斬ることによって、数百メートルに渡って分割する。


【パッシブスキル】

水属性抵抗(大)

硬化防御メタルコート:防御力を上昇

肉体強化ハイパワー:能力を上昇。

--------------------

 メカジキは竜巻に乗ったまま猛スピードで向かってくる。

「おらおら、逃げな! 船ごと真っ二つにしてやんよ! 俺に切れねーものはねぇ!」

「あ~。敵がお前みたいなクズだと安心する」

「なんだと! ほざけっ! ――大海轟割斬ディバイドストリーム!」

 メカジキは空高く飛び上がると、鼻先の剣を激しく輝かせた。


「死ねぇぇえ――ッ!」

 振り下ろされる長大な剣。

 風圧を伴う斬撃。


 ザァッ!


 ――しかし、大剣は途中で消えた。


 俺の太刀が、メカジキの剣を根元から断ち斬っていた。


「なっ、なにぃぃ! ――ぐぼぉ!」

 驚き戸惑う奴のエラを掴み、巨体を深く斬った。丸太を斬り付けたような感触。


 ドサッと甲板に乗せて押さえつける。

 メカジキは血を流しながらもまだ生きていた。



 俺はルーナを見た。

「とどめはお前が刺せ」

「え!?」

「父親より強くなって、俺に敵討ちするんだろう?」

「そ……そんな」

 ルーナは貝のナイフを持つものの、ガタガタと震えていた。


 メカジキは状況を理解したらしく、急に下卑た言葉を吐き始めた。

「な、なあ、嬢ちゃんよぉ! た、頼む、見逃してくれよ! ほら! オレもう剣がなくなっちまったしさぁ、なっ? 頼むよ!」

「ううう……」

 ルーナは眉間に深いしわを寄せて震えた。頭のクラゲがぷるぷる揺れる。


「へへっ、そうだよ、助けてくれよ。……よく見たら可愛い顔してんじゃねぇか。オレが女の喜び教えてやるから、助けろよ! 何もかも忘れるぐらい可愛がってやるぜぇ!」

「――は?」

 ルーナの震えが止まった。目が驚きで丸くなっている。

「お前の親父が人魚にしてた以上のことしてやるから、見逃せよ、な?」

 ――馬鹿じゃないのか、こいつ。

 俺は呆れながら聞いていた。



 ルーナは先ほどまでと違った震え方を始めた。

 メカジキは言葉が通じてると思ったのか、さらに言った。

「お前の親父なんか、オレの足元にも及ばないぜ? 見逃してくれたらたっぷりお礼してやるぜ、その体にな!」

「……るな。…………おとーさんを馬鹿にするなぁぁぁ!!」

「――《風刃付与》」


 ルーナは体重を乗せてメカジキの喉元に突進した。貝のナイフが俺の魔法で緑に光る。

「うわぁぁ! やめろぉぉぉ!」


 ――ザシュッ!

 赤い血が噴水のように吹き上がった。

「ぎゃあああ!」

 メカジキは尻尾を甲板に叩きつけて、暴れまわる。しかし俺とラピシアが押さえているのでまともに動けない。

 そして2度ほど痙攣した後、死んだ。



 ルーナの手からナイフが落ちてカランと鳴った。

「よく頑張ったな」

「……おとーさん、あたい、やったよ……」

「さあ、ボーっとしてる暇はないぞ。人魚の里に案内してくれ」

「わ、わかったのよさ」


 するとミーニャが颯爽と歩いてきた。尖ったネコ耳がぴんっと立つ。

 そして、歩きながらおもむろに白衣を脱いだ。日に照らされる白い半裸と黒のビキニ。

「解体、する」

「やっぱりするのか。堂々とした脱ぎっぷりだな」

「ん。水着だから、恥ずかしくない」

 ミーニャは黒袴は穿いたまま、二刀流の包丁をきらめかせた。



 ルーナは弟たちに抱きつかれながら俺を見た。

「ゆーしゃ、本気なの……?」

「ん? ああ、強くなってもらわないとな」

「なんで……?」

「理由はいろいろあるが、エビルスクイッドはいい奴だったから。敵として尊敬できたから、かな」

「……いつか、必ず、かたきとる、から」

「楽しみにしてるぞ――さあ、方向を教えてくれ」


 俺とルーナは船長に位置を教えた。

 外輪がまた水をザァザァと跳ね上げ始め、人魚の里へと進んでいった。


 ルーナはLvアップしつつ、メカジキのスキル【竜巻突撃】【水属性抵抗】【肉体強化】を覚えた。メタル化など、種族に合わないものはラーニングできないらしい。

 ついでにミーニャのレベルも上がっていた。

 ちなみに夕食はメカジキの照り焼きだった。


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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
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