表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

他人にも友達のように

作者: 大島 健太郎

今日は卒業式。長かった小学生生活も今日で終わりとなった。僕の大好きだった女の先生とも今日でお別れだ。

お別れの時、先生は皆にこう言った。

「皆が優しいのはよく分かっています。でも、赤の他人にも優しくすることができるかしら。私は皆に、たとえ他人であったとしても昔からの友人のように優しい気持ちで接してあげられるような人間になってほしいと思います。」

先生の最後の言葉は僕に響いた。


4月、僕は中学一年生となった。やたらでかい男の先輩や、大人びた女の先輩に最初はびっくりした。でも僕は小学校の時と同じように友達をたくさん作った。部活は週二日でそんなに厳しくはなかった。まあそれなりに楽しい生活を送っていた。


中学二年生となったある日のこと、隣のクラスに転校生がやってきたと噂になっていた。

「透っていうらしいんだけど、青森から来たやつで東北弁がひどいらしいんだ。しかもどもってるらしい。透っていう名前なのにおかしいよな。」

俺のバドミントン部の友達が言った。

(田舎もんが来たわけね。」ぼくはそう思った。でも、こうも思った。

(小学生の時、先生が言ってたっけ。他人にも友達のように接しろって。しかも東北の方から来たやつなんておもしろいんじゃね?)


僕は彼と会ってみることにした。


「は、はずめますて。透でず。」彼は僕に自己紹介してくれた。確かになまっている。

「初めまして。俺は圭一といいます。透くんはどっかの部活に入るの?」僕は聞いてみた。

「お、おれは部活には入らねえつもりなんだ。時間もとられっし。」

僕は、これでは友達を作るのが難しいだろうなと思った。中学生では、大体の子たちは部活で固まる。しかも東北弁とあってはなかなか仲間になろうとは思わないかもしれない。

「よし、俺が友達になろう!」僕はそう思った。


手始めに、一緒に帰ることにした。彼の父親は、青森で地酒を売っていたらしい。しかし、最近はなかなか売れず、心機一転、東京で蕎麦屋をすることにしたらしい。

「ま、まだ始めたばっかだから、全然うまく打てねーみたいなんだけどよ。」彼は言った。

「でも頑張ってるみてえなんだ。朝早くから起きて仕込みして。」


僕は、彼の素朴な優しさに触れた気がした。東北弁だって、どもってたって関係ない。彼は僕の友達だ。

そう思った僕は、彼に「今日、透くんち行って良い?」と聞いてみることにした。彼が普段なにをしてるのかということが気になったのだ。


「い、いいけど、うちなんもねえよ?漫画くらいしか。」

僕はいいんだと答えた。


そして透のうちに上がりこんだ。透のお母さんは、僕が来たことに関してすごくうれしそうな顔をしていた。

「まあ、な~んもねえけど、あがってってくださいな。」

そして、せんべいとお茶を出してくれた。


僕は、透の部屋をぐるりと眺めた。少年マガジンを集めているらしく、本棚には6か月分くらいのマガジンがそろっていた。他にあるのはマンガ、学校の教科書くらいか・・。

ふと、珍しいものを見つけた。“初心者からの手話”というものだ。


「透くん、手話なんて習ってるの?」僕は聞いてみた。透は慌てて、「あ、ああ、それは・・。隠しときゃよかった。」

聞いてみると、透は週に一回、聴覚障害を持つ人たちと手話をしているらしい。手話だと、透のどもりも相手に伝わらないし、何より耳の聞こえない人との会話は彼にとって楽しい時間なのだそうだ。


「ふ~ん、手話かあ。考えたこともなかったな。」僕は言った。透は、「ま、まあ週いっぺんだし、ただの習い事だから。」と言った。ふと、僕の好奇心がうずいてきた。耳の聞こえない人と、会話したことなんてない。

「それ、何曜日にやってるの?僕、部活は週2だし、時間あるから習ってみたい。」


集会所には20人ほどの人が集まっていた。ここにいる人の大半は耳が聞こえない人たちだ。そんな中、そういう人たちと会話をしてみたいという健常者が少しだけ混じっているというコミュニティーだった。


皆手話で話していた。時折笑い声が混じる。

透が教えてくれた。「は、はじめましてはこうやるんだよ。」

まず右手を下から上にあげながら人差し指を立てた。そして両手の人差し指を向い合せるようにした。

僕はやってみた。

(はじめまして)

拍手が巻き起こった。

感動を覚えた。(伝わるんだ。)

それから、透に教えてもらいながら、少しずつ会話をした。

(僕は圭一といいます。あなたの名前はなんですか?)

(趣味はなんですか?)

耳が聞こえないといっても、健常者と何も変わらない。暖かい人たちばかりだった。

あっという間に時間は過ぎた。


帰り道、透と話した。

「楽しかったよ。皆いい人たちばかりだったね。」透は「お、おれも最初は緊張したけど、圭一はよくやってたよ。伝わるもんだろ?」

手話を通じて、僕たちももっとわかりあえた気がした。


週に一回、透と集会場に行くようになって3か月ほど経った頃、集会所のリーダーみたいな人が手話で言った。(今度、健常者とのふれあいの時間があります。そこで皆さん、何か発表をしてください。)


僕は透に言った。「発表ったって、何をすりゃいいんだろうね?」その時、手話で仲良くなっていた清水さん、上村さんという聴覚障害者が(君たち、余ってるんだったら僕たちとやらない?)と声をかけてきた。

(僕たち、手話で歌を表現しようと思ってるんだ。)

(君たちが歌いながら手話をする。僕たちが後ろで手話とダンスで盛り上げる。いいと思わないかい?)

僕は内心、(歌かあ、ちょっと自信ないんだよな・・。)と思ったが、透は「それでいいんでねか。何やるか決まってねえし。」といった。


それから、僕と透、清水さんと上村さんが集まって週に1回、練習することにした。僕は最初乗り気でなかったが、手話がジェスチャーみたいに歌を表現できることを知って手話の方に力を入れることに決めた。そうなるとだんだん楽しくなってきた。透は意外と歌がうまく、伸びる声で皆を魅了していた。


僕は、発表会にあることを計画していた。透のクラスの何人かを呼ぶのだ。透はまだ友達が少ないみたいだったので、透の意外な面を見せて友達にさせてしまおうという計画だった。


発表会の日がやってきた。


僕たちはグリーンのキセキという歌を呼ぶことに決まっていた。

透はかなり緊張しているようだった。「あ~、うまく歌えっかな。俺。」僕は「大丈夫だよ、透だったら。」といった。

その時である。「よう、圭一。見に来たぜ。」透のクラスで僕と同じバドミントン部の慶太郎である。クラスの友人も何人かつれてきてるみたいだった。「透もがんばれ。俺、透がなんか発表するなんて思いもしなかったよ。」

透はそれを見て、さらに緊張が増したようである。手に人の文字を書いて飲み込んでいるのを見てしまった。


発表が始まった。紙芝居をナレーションを付けて手話で表現している人や、ダンスを中心に発表している人などたくさんの発表を見た。

そしてついに僕らの番がやってきた。

透は(ふう~)と深く呼吸をした。僕も同じように深呼吸をした。

歌が始まった。

「あした、今日よりも好きになれるう~」透ののびやかな声が響いた。僕も必死に歌い、手話で応戦する。清水さんと上村さんもちゃんと踊れてるようだ。

「何十年、何百年、何千年時をこえよう~きみをあいしてる~。」

歌が終わった。シーンとした静寂が、大きな拍手に変わる。


慶太郎たちがかけよってきた。

「透、俺こんなお前が歌うまいなんて知らなかったよ。」

「ほんとにうめえな。今度カラオケ行こうぜ。」

透は緊張しているらしく、「べ、別に俺は・・。」なんて言っている。


僕は思った。大成功だ。これで透もクラスになじめるだろう。

窓の外が一層キラキラして見えた。

もうすぐ夏が始まる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 温かみのある文体で、誤字もなく、読みやすかったです。会話と地の文の配分もちょうどいいと思います。東北弁、学校の詳細な様子、手話の要素など、手がこんでいるので読んでいて楽しかったです。 [気…
2015/05/15 22:18 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ