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一話目がやたら伸びてびっくりしています。

遅くなりましたが二話目です。

よろしくお願いいたします。

 フューミー帝国は、皇帝を中心に貴族による統治が行われている国家であり、貴族と平民、犯罪者や捕虜を処理する為の奴隷身分などで構成される。

 貴族と平民の間には確固たる身分の差が存在し、税金や移動の制限等、権利には大きな差があるものの、貴族に平民との婚姻に制限がわるわけでもなく、平民が武官や文官として国政に参加する事も珍しくはなかった。

 小規模ではあるものの国内での戦闘が無いわけでもなく、盗賊などとの戦闘もあるので、特に武官は現場での戦功によっては平民出身が貴族となる事も希にあった。

 対して文官としては3年に一度皇都にて行われる試験に合格できるかどうかが最初の試練となる。当然、高等教育を受けられる貴族が合格者の大半ではあるのだが、毎回数名は平民からの合格者は存在する。

 リリリア・スバンシーも、その数少ない平民出身の合格者だった。

 役50日間に及ぶ研修を無難に済ませ、指示された配属先はなんと城内の部署。通常は皇都内に無数にある役所勤務から始まるのが通例と聞かされていたのに、最初からエリートばかりが集まる城内勤務という待遇に、期待されているという自負心と緊張感に、ついつい肩に力が入る。

「でも、ちょっと様子がおかしいのよね……」

 研修の最終日にもらった配属先に記載されていた『監査室』という部署には、リリリアも聞き覚えがなかった。しかしそれだけならば広大な帝国の中枢である城内には自分の知らない部署や部門くらいあるだろうと思うのだが……。

「監査室? そうか……君が……」

 と、場所を聞こうと声をかけたダンディなおじさまに、何やら憐れむような目で見られたのが引っかかる。

「とにかく、場所はわかったからまずは遅れないように出勤して、きちんとご挨拶しないと」

 広い城内を20分程歩いて、ようやくたどり着いたのは城の地下2階、正面入口からはかなり離れた場所にあるシンプルなドアの前だった。

 早足でやってきたせいか少し息が上がっていたのを落ち着けて、栗色の髪を手早く整える。

 深呼吸をしてドアをノックすると、中から返事があった。

「失礼します」

 室内を見た第一印象は“狭い”だった。

 デスクが一つと二人がけのソファが向かい合った応接セットが一つ。魔道具でお湯をわかせる器具がついた流し台が一つ。

 それだけでギュウギュウ詰めな印象すらある。

「本日、監査室配属となりました、リリリア・スバンシーです」

キッチリとお辞儀をするリリリアを見て、唯一のデスクに座っていた初老の男性が立ち上がり、にこやかに歓迎してくれた。

「ああ、君が新任の。まぁまぁ、座ってくれたまえ」

 リリリアをソファに促し、なれた手つきでコーヒーをいれながら、男性はダーバシュだと名乗った。

 良い香りがするコーヒーを置いて、ダーバシュはリリリアの前に座った。

「監査室へようこそ、リリリア君」

「ありがとうございます。その……ここ監査室へと配属となったわけですが、ここの仕事内容を聞いておりませんもので……」

「ああ、そうだったのか」

 少し目を泳がせたダーバシュは、デスクからひと束の書類を持ってきて、リリリアへ手渡した。

「ここに、仕事の内容は書いてあるよ」

 暇だから、わかりやすいようにまとめてみたんだ、とダーバシュが言うのに、“暇?”とリリリアは眉を寄せる。

「それと、これがこの部署で働くに当たっての契約書。文官採用された時に書いたはずだから知ってるだろうけど、これは魔導具になってる契約書だから、サインすると強制力が発動するからね。よく読んでサインしてね」

 仕事のマニュアルはさておき、なぜ契約書がいるのか、とリリリアが首をかしげながら目を通していくと、驚きの内容がそこにあった。

「あの……“情報漏洩には死を以て償う”とありますが……」

 もちろん、文官になった以上は国の機密を扱うこともあり、最初の契約時にもそれについての注意分と罰則事項はあったが、さすがに死ねとまでは書かれていなかった。

 ダーバシュは、疲れて見える笑みを見せて、囁くように言った。

「だってここは、貴族どころか皇帝一族すら敵にする可能性がある部署だもの」

 リリリアは、生まれて初めて血の気が引く間隔を味わった。


★☆★


 皇帝との面会を終えたオワルたちは、丁度日も暮れはじめていたので、夕食も兼ねて酒場に入っていた。

 ここは皇都にいる時には良く利用する行きつけの場所で、幼い姿の魅狐が酒を飲んでいても何も言われないし、常連も何も言わないので楽だった。

 それに、200年前の英雄からの伝承と言われる米で作った酒を出すというのも、オワルたちがここに通う理由でもある。

「ん~~……! やっぱりお酒はこれよね」

 エールやワインも良いけれど、これが一番だと、木のカップになみなみと注がれた酒を一気に半分程に減らした。

「そう思うなら、もっと味わって飲めばいいのに」

「オワルのようにチビチビやるのは、もっと酔っ払ってからでいいのよ」

「ザルのくせに……」

 いつの間にか皇都で流行りだした油揚げと豆腐、それにサラダというやたらヘルシーなつまみで、オワルもそれなりの量を飲んでいる。

「それで、今度の遠出はいつから向かうの?」

「明後日、かな? 明日はまた城に行かないと」

「城に?」

「忘れたのか……」

 溜息をついて、オワルは懐から手帳を取り出した。

 革のカバー付きの手帳は、紙と製本技術の貴重性もあって高価なものなので、周りの視線を集めてしまうのだが、二人はいつものことと気にしないでいた。

「ダーバシュさんが引退して明日引継ぎだから、新任の人と顔合わせしておかないと」

「ああ、そんな話もあったねぇ。10年くらいだっけ。あの子は長続きしたね」

 それにしても、と魅狐はオワルの持つ手帳を指差して顔をしかめた。

「そういう昭和のサラリーマンみたいな事やめなさいよ。長生きしてる間で、昭和・平成で感化されすぎたんじゃない? 織田信長と同い年のくせに」

 いつものへの字口のまま、オワルは手帳を懐に仕舞う。

「平安生まれで時代について来られないからって……」

「歳の事を言うな!」

「先に言ったくせに……」

 口論になると声の大きさと強引さで必ず負けるので、オワルもそれ以上は言わなかった。

 しばらく無言で食事を楽しんでいると、ふと魅狐が不安げな声で言った。

「オワル。あの二人で、しばらくは大丈夫なの?」

 急にしおらしくなった魅狐に、オワルはつい苦笑する。

「ああ、そんなに心配しなくていい。片方はさておき、片方はそれなりに魔力もあったし。しばらくは誰も食べなくていいよ」

「……もう少し、自分勝手に振舞ってもいいとおもうんだけどねぇ。半分は妖怪なんだから」

「でも、もう半分は人間なんだ」

 カップに少しだけ残った酒を飲み干し、オワルは寂しげに視線を落とした。

「お陰様で人の世の中で生活できるんだ。できるだけ人間でいられる部分はそうしたい」

「はぁ。わかったよ。いずれにせよ私はオワルについていくから」

「ああ、ありがとうな」

 にっこり笑った魅狐が手を上げると、店の主人がいそいそと近寄ってきた。普段はカウンターから出てこない、向こう傷のあるいかつい男が小走りに近寄る様は異様で、周りの客たちは唖然としている。

「お呼びですか!」

「相変わらず暑苦しいね。小さい頃はもっとヒョロッとしてたのに」

「魅狐さんはお変わりないようで……」

「マスター。明日の夜に取りにくるから、料理を数日分作っておいてもらえる?」

 メニューは任せると言うオワルに、主人はにこやかに了承した。

「腕によりをかけて用意しておきます!」

「頼むよ。ここの料理は好きだからね」

「油揚げは別にたくさん用意しておいてね」

「もちろんです」

 酒代も合わせて、と充分すぎる量の金を渡され、主人は店の外まで終わるたちを見送った。

 魔導具の明かりがほのかに光る夜道は、人の通りも少なくなる。

 すっかり酔った様子の魅狐は、上機嫌な様子オワルの左腕に絡みついて歩く。

「うふふぅ~」

「相変わらず酒癖が悪いなぁ」

 対するオワルは完全に素面だった。

 いつから酒に酔わなくなったのか、もう考える事も面倒だった。

「そこのお前たち」

 不意に、背後から二人に声をかける者がいる。

「何か?」

 面倒くさそうに振り向くと、一人の若い騎士が数名の兵士を従えてオワルを睨んでいた。

「このような時間にそんな小さい女の子を連れ回しているのだ。声をかけて当然であろう」

 街中で活動する際に騎士が良く着ている装甲を減らして軽くしたタイプの鎧を着ている騎士は、20歳前後位で整った顔立ちをした男だった。

「小さい女の子?」

「!……しかも酒を飲ませておるな!? こんな小さい子供の、しかもその格好はイナリ教のシスターではないか! 年端も行かぬシスターに酒を飲ませて連れ回すとは……」

 ここで、一人の兵士がオワルと魅狐の顔を見て何かに気づいた。

「アレッドンさん、この人たちは大丈夫です。というか、手を出したらまずい!」

「何を言うか!」

 慌てて止めようとする兵士を一喝し、アレッドンと呼ばれた騎士は剣を抜いた。

「この顔と状況はどう見ても犯罪者ではないか! 皇都を守る者が何に怯えている!」

 剣をオワルに突きつけ、グイグイと詰め寄ってくる。

「近くの番所まで来てもらおう。ゆっくり話を聞かせてもらうぞ」

「仕方ないなぁ……」

 オワルが渋々言うとおりにしようとすると、魅狐の指先が不意にアレッドンを向いた。

「狐火」

 つぶやかれた言葉と同時に、アレッドンの鼻先で小さな火の玉が弾けた。

「うわっち!」

 顔を押さえて転げまわるアレッドンに、最高に不機嫌な顔の魅狐が鼻を鳴らした。

「私たちの逢瀬の邪魔をするとは。随分な奴ね」

「き、貴様ぁ!」

「魅狐、あまりやりすぎるな」

「でも……」

「いいから」

 オワル言われて、魅狐は仕方ないと溜息をついて腕を下ろした。

「シスターだからと言って、騎士に向かって魔導を使うとは! まとめて牢にぶち込んでやるからな!」

「はいはい、夜だからあまり騒いじゃ迷惑よ」

「ぐぬぅ……」

 怒り狂うアレッドンの指示で、オワルたちは兵士たちによって番所の簡易牢へと連れて行かれた。

 兵士たちは何か知っているのか、非常に申し訳なさそうな顔をしていたが、オワルは公務員も大変だ、と完全に人事だった。

「明日には貴様の取り調べをする! シスターも教会から人を呼んで抗議するからな!」

 覚悟しておけ、と言ってアレッドンが番所を出て行くと、残された牢番も見えない場所まで離れてしまい。二人きりになってしまった。

「やれやれ、監視体制がなってないね」

「私たちには都合がいいでしょう?」

 床にごろりと横になったオワルに、魅狐は身体を重ねて擦り寄ってくる。

「こんな所で盛るなよ」

「接吻だけよ。それに、寒いからくっついていたほうがいいでしょ?」

 寒さなんて感じないくせにとオワルは思ったが、こうなると聞かないので魅狐の身体を抱きしめた。

お読みいただきましてありがとうございます。

ちょいちょい名称に古臭い物が出てきますが、仕様です。

次回も気長にお待ちいただければ幸いです。

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