退屈も良くないという事
エスト達がブレロン要塞経由で領地に戻っていった翌日から、俺はシュタインメッツ家の邸宅に住み、何もなく1ヶ月は長すぎた。
常時いるのは年季の入った女性2名の召使さんと数日に一度来る庭師、それと食材を届けてくれる人ぐらいで、食事の時間に召使さんに呼ばれる以外は、何事もなく過ごしている。
最初の数日は買い漁った本を読んだり、また商店街に行ったりと。
凄く平和で理想的な生活だが、流石に暇だったりする。
やはり人間・・・いや、魔族でも仕事してないと駄目になると実感。
ブレロン要塞のオーガ達に会いに行こうかと考えたり、オンダラの街でも行こうか・・・など考えたが、行けば何かありそうで、心の中で”魔法局で魔法を学んでからの安全だ”とか”行けば何かやる事になる”とか理由をつけてどうも行動に起こせないでいる。
____だが、結論としてそれも面倒になる。
まさに駄目魔族、ニート魔族だなぁと召使に貰ったお菓子を食べながら窓の外を見る。年季の入った召使いメイドのドローベスさんに何か手伝いましょうか?と話しかけても、いえいえ、お客様ですからという一点張りで何もさせてもらえない。まぁ、軟禁とは違い好きに外出できるのでいいのだが。
既に2ヶ月目という時に流れる雲を窓越しに見ながら危機的にやはり仕事でも勉強でもないかしないとマズいという考えにいたり、商店街のギルドという施設に向かう。
お金は別として何か簡単な仕事でも請けようと。
勿論安全な仕事に限るが。
役所のような建物に入ると中も銀行のようにカウンターがあり、待合のような席がいくつかある。意を決してカウンターに向かうと真面目そうな女性が愛想よく分かって話しかけてくる。
「どのようなご要件でしょうか?」
「その仕事があればと思って・・・」
こちらの出で立ちをチラリと見て彼女は話してくる。
「魔導士様ですかね?」
はあ、まぁ・・・と返答すると何やら用紙を出して続けて言う。
「こちらの用紙にお名前と簡単な自身の紹介を、
あ、別に紹介は書かなくても大丈夫ですよ」
言われるがままに名前を書く。
”田中祥吾”と。
暫くお待ちくださいと言われて待つと、
「タナカ ショーゴさん、ショーゴさん」と声が掛る。
ショウゴってのは言いにくいのかな、この世界。
呼ばれて銀色の金属のようなカードをカウンターで渡される。針のようなもので指先から少し血を垂らしてくださいと言われ、そのカードの端の丸い場所に垂らすと、名前の部分が色濃くなる。
はい、これで完了ですよと言われてその銀色の金属のようなカードを渡される。見るとそこに田中ショーゴと書かれている。発音のせいなのか?いまいちこの世界のルールが分からない。
依頼を成就すれば成果数が貯まり、今は銀色ですが、金色、黒色のカードと変更されますと説明を受ける。ポイントカードのような物なんだろうか。若干だが魔力を感じる。依頼は奥の掲示板にありますので、お好きなを選んで、カウンターにお持ち下さいと言われる。
そうですか、わかりましたと挨拶をして言われた掲示板を見に行く。
まずは安全で仕事っていうのを選びたい所。
貼ってあるを見ると、どうも護衛が仕事が多い。
そして知らない街の名前ばかり。
日数にして片道一ヶ月程の物が多い。
それ以外は老人の介護や施設の掃除
倉庫の片付けなんてのもある。
勿論、ここはブレない。
安全な老人の介護か倉庫片付けを選ぶ。
あくまで魔法局に入るまでの時間潰しだしね。
ふと、人族殺して魔力上げは?と心の中でチラついたが、
安全第一という平凡な元日本人の心が老人介護の依頼書を手に取らせた。
その時は俺がこんな平和な事をしている時に既に南のブレロン要塞で、
大規模な戦闘が始まる準備が着々と進んでいるとはあまり実感が無かった。
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「 そうですか、昔は大変でしたね 」
俺は話しかけてくる老人に愛想よく答えて、持ってきた食材を台所に置く。
あれから既に20日程、朝に商店街にあるベンダ高齢者サポートセンターに向かい、日に3個所ぐらいの住所を聞いて一人暮らしの老人の家を周り食事を届け、入用な事があればサポートする仕事をしている。
俺が選んだ仕事は「老人の介護」。
”あんたローブなんて来てると邪魔でしょ?”という初日に言われ、着替えを渡されて 背中に”いつもニコニコ、ベンダ高齢者サポート”と書かれた作業服で作業。夕方にまたサポートセンターでローブに着替えてシュタインメッツ邸宅に戻る。
一日の報酬は銀色の硬貨が5枚。
銀貨1枚が1,000ギルというのを聞いたので、賃金は5,000ギルか。
高いのか安いのか分からないが、これがこの世界のこの業種の一般的な賃金なんだろう。
”評判いいから来月には500ギル賃金あげるからさ”とサポートセンターの人には言われるが、まさか暇つぶして仕事してますとは言えず、ありがとうございますと答える。
「 そうさぁ、昔はなぁ、ベンダ帝国はもっと人族が中心でな」
毎日、”その話は長いのですか?”と思わず聞きたくなるような老人の会話だが、幾人かの老人はこのベンダ帝国は人族やドワーフ族、エルフ族など多くの種族がいるのを好ましく思っていないらしい。
「魔族がいた世界はなぁ」
え?ふと老人が口にした魔族という言葉で反応して聞き返す。
「ワシは知らんが、親父の祖父、
またその祖父の時代には、いや、そのまた祖父だったかのぅ、
いやいや、そのまた祖父の時代だったかのぅ・・・」
「時代はいいので、魔族がいたのですか?」
老人はうむうむ頭を上下させて話す。
「言い伝えになるが、魔族・・・いたそうじゃ」
「それで?どんな・・??」
「魔族ばっかりだったそうじゃぞ?」
「え?、それで?」
「いや、そのまた祖父だったかのぅ、
いやいや、そのまた祖父の時代だったかのぅ・・・」
「いや、それで、魔族は?」
「そうそう、魔族はいてな」
話にならないので、要約すると昔は魔族が沢山いたという事らしい。このベンダ帝国は魔族の生き残りがいるのか老人に聞くと分からないという。最も老人の戯言かもしれないので、なんとも言えないが。それでも老人達の話は色々と為になった、どこそこの貴族はこうだったとか、この貴族とあの貴族は仲が悪いとか、あの貴族の娘がどこに嫁にいったとか。
いずれにしても老人からは色々を聞けて、更に信用されているのかある老人からは、ワシは身寄りがないからと一振りの剣を貰った。元騎士団に勤めていたが、もう振れないし捨てるの忍びないと。
あざーすと軽く返事して収納に入れる。
その時はあまり意味のある剣だとは思わなかった。
売っても2,000ギルぐらいかなとしか。
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「 田中さん辞めちゃうの?折角慣れてきたのに・・・勿体無いわぁ」
「ええ、一応ギルドに所属してるので、他の仕事もしてみたいので、」
剣を貰った老人が亡くなってから数日後、俺は老人介護の仕事を切り上げた。またいつでも来てねとベンダ高齢者サポートのスロビンさんに言われて後にする。
正直、2ヶ月程仕事したが老人介護も暇すぎた。
魔法局の入るまで残り2ヶ月程、まったく暇すぎる。
やはり護衛の仕事でも請けようかと悩み始める。




