首都への旅路
酒屋の主に絵師と強引に紹介された人に半ば強引に似顔絵をモデルになり、やっと解放されて商店街へ戻ると其処は日本の夏の縁日のように路上に店達がテーブルや椅子を出し、そこに大勢の人が盃や料理を食べながら喧騒を奏でていた。俺はゆっくりとその光景を見ながら酒屋の主の所に向かう。各店の軒先には”残虐魔導師ショーゴ祭り”と墨で殴り書きした幟や旗は揺られていた。
「いや、ショーゴ殿、皆楽しくやってます、ありがとうございます」
「う・・・うん、まぁ楽しくやってるならそれで・・・・」
酒場の一層騒ぐテーブルを見ると、エストが胸の大きな女性を両脇に抱えながら相変わらずの騒ぎ様だった。目の合ったエストのこっちだこっちだと呼ばれて席に着くと酒が運ばれて乾杯をしてこの数日の事を面白可笑しく彼は周囲の女性や兵士に語りモードになっていた。喧騒の中でふと窓を見ると日本とは違う満月が妬けに大きく光り見えていて、周りの楽しく話す声を聞きながら不思議に酒を飲み続けた。
皆が飲みつぶれて周囲が静かになった頃、俺は完全に顔が赤くなり呂律の悪くなったエストを静かに話し合う。
「そういえば・・・ショーゴはこの後どうすんだ?」
エストは急に真面目な口調になり話しだす。
「どうって?首都のベンダリオンだっけ?
そこに行ってから、そうだな安全に暮らせる場所を探すかな」
「それは無理だろうな」
「どうして?」
「エポート提督の話だと、既に早馬で首都からの打診も終わってる。
ここだけの話だが、落とした要塞は俺の実家の管轄になり、
後々他の亜人の領地のように亜人が代表って事で半ば決まってる。
で・・・お前は活躍したから帝国の魔導師に取り込めっていう
通達も来てる、大帝参謀部の魔導師になるようにと・・・これな」
エストは懐から木板の挟まれた紙のような物を少し覗かせてみせる。
「別にそうなっても安全には暮らせるのでは?」
「それは無理だな、大帝参謀部の魔導師ってのは偉くなれば別だが、
大抵は若い魔導師は激戦の前線に向かわせられる。
確かにお前の用に上位魔法を使えれば貴重な人材だとは思うが、
大帝参謀部の魔導師達ってのは”組織”なんだよ。
幾ら実力があってもそれだけでは無理だ。
お前は田舎育ちだから分からないかもしれないが」
エストは若干落ち込むように言う。
考えるに日本でも大手の会社になれば、実力だけではどうにも成らない、
所謂、社内営業的な事やコネもあるからそれを言ってるのだろうか。
「 魔導師は戦場では魔導師は貴重だから守ろうとはするが、
相手も真っ先に殺そうとする。
今後、当然ソビッティ国との戦争も激化するだろうし、
帝国の南西にいる亜人も最近キナ臭い動きを見せてる 」
黙ってエストの言葉を聞く。
どれくらいの魔導師がこの世界にいるか不明だが、
特殊部隊みたいな扱いなのだろうか。
知的な後方担当の士官みたいな扱いには成らないのか。
そう考えて少し先が真っ黒に見えてくる。
「まぁ、直ぐってのはアレだから、
俺が数年でも先延ばしにできる方法を教えてやる・・・いいな?」
その後、エストに小声で首都についたら、どう行動すればいいかなど、
会話してその夜はまだ遠くに聞こえる酔っぱらいの声を聞きながら、
夜が更けていった。
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翌日、色々を挨拶されながら首都へ向かう部隊と共にオンダラの街を出た。
酒場の主や商店街の人に挨拶されたりと。領主は体調を壊したとかで使いの者が俺宛にと、何やら手紙と重厚な箱を渡してきて受け取った。
その場で開けるのもと思い街を出てから暫くして馬車の中で手紙を読むと、
堅苦しい言い回しの文章で今後も宜しくという内容と箱には幾らの硬貨が入っていた。
街の門を出て暫くすると部隊が進行する脇に魔道具を買った店の老婆が路端にロバを繋いだ荷馬車を寄せていた。開いた窓から目が合った。何事か言っていたようだが、蹄と軋む車輪で聞き取れなかったので会釈して通り過ぎた。
それから5日間、俺達は首都ベンダリオンに向かい進んだ。首都まではあと2つほど街を経由して着くという。人数は分からないが箱馬車が30~40台、
荷馬車や手押しのリアカーのような物を含め結構な隊列だった。夜になると焚き火をして兵士達は馬車の下やテントを出して休んでいた。
俺はエストや提督、士官など寝泊まるするタイプの馬車で休ませて貰った。そのままサウスベンダまで行く予定だったらしいが、補給品を卸すとの事で、近くのブレーダスという織物が盛んな街へ寄る事になった。
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ブレーダスは長閑な街で、街の中央に大きな石造りの塔があり、
店や家々はそれぞれ片方に尖った片流れの屋根をしていた。
隊列が止まり多少静かになると家々からはガシュンガシュンと音が聞こえる。気になって隊列を外れて入り口の開いている1軒の家を覗くと、横から老人に話しかけれる。
「この街は機織りで有名ですからね。
ほら彼処に見える機械で反物を作るのですよ
良ければお土産でローブなど買われては?」
そうですかと是非と挨拶をしてエスト達に所に戻る。今夜は俺達は彼処に泊まると言いながらエストは2階の宿屋らしき指差す。
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程なく夜になり、食堂で食事。他の兵士は?と横にいる士官らしき人に聞くと街の周辺でテント張り、馬や馬車の手入れをしているという。そう聞くと今俺はいい立場にいるなと感じながら表面が粉っぽいパンと妬けに渋い果実酒を飲んだ。
翌朝にこの街にまだ1泊するというので、宿屋の人に聞いて昨日話した士官2名とローブを売っている店へ向かった。
店には派手な色の布などが通れない程、積み重なるように置いてあり店主の挨拶されながら布を見て回る。どれをお探しですか?と聞かれてローブや下着をというと、これなんかどうですか?といくつか持ってくる。ギリアヌの糸で作られてますから丈夫ですよという売り込みに下着や靴下を買う。今まで靴下は履いてなかったので足汗で助かった。
どうもこの世界では靴下は履く人は少ないようで、靴下の代わりにブーツの中に少し藁を入れるのが風習らしい。靴下を履くのは金属製のブーツを履く時だけですねと言われる。買った靴下はゴアゴアした感じで麻のような布だが丈夫そうなので、満足ではあるが。
店主が俺の来ているローブを見て同じものがありますよというので、見せてもらうとローブではなく外套という感じで羽織り胸から首の所でボタンで止める物だったが、こちらも気に入ったので購入した。
翌日、朝早くに俺達は次に街、サウスベンダを経由して首都ベンダリオンに着く。一泊したサウスベンダの街だが、首都ベンダリオンから近い事もあり盛っていたが、ブレーダス程特色のある街では無かった。名産が変な形をした槍だったが、一目見てあまり興味がないので、買い貯めた本を収納から出して宿屋で坦々と読んでいた。
いつもで逃げられるようにと転移魔法についての記述と魔力増強について本を捲り探すが、あまり得られる物が無かった。だが急に魔力を増加させると人格が破綻すると書いてある本があった。魔道具で人族殺して魔力を増強させるってなれば、その事自体が破綻してるとは思うが、本には人族を含め種族には魔力の最大値というものがあり、それを超えようとするのは論理に反していると。
俺は既に要塞で捕虜を意図して50人程を殺してしまったが、今後どうするかという問題もある。この世界は生きる為には力は絶対に必要なのはここまでに理解しているつもりだが、少し心に引っかかる物がある。いや、正確にいうと正確が破綻してるのかもしれないが、殺すのは問題ないが、血をみるというか残虐な事は元日本人として心が痛む。
そんな事を考えながらも俺達は首都ベンダリオンの門を潜った。




