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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ポッキー

作者: にのち

‐平和とダイエットの共通点、それは‐


キーボードを叩き始めて、すぐに指が止まる。

文章の最後でカーソルが点滅するのを見ながら、続きを考える。

一向に浮かばない言葉。


キーボードから手を浮かせ、横に置いてあるポッキーの袋に手を伸ばした。

クシャっと音をたてて潰れる袋。

あるはずだったプレッツェル部分の感触はない。無論チョコレートも。


軽くため息をついて、先ほどの文章の続きを打ち始める。


‐我慢によって成り立つという事である‐


打ち終わった文章を見ていると、不意に背もたれがギシリと音をたてて後ろに傾いた。

背もたれに体を預けていた僕は、顔を上げる。

綺麗な形をした喉仏と、血管がうっすらと見える首筋が目に入った。

喉仏が目立たない僕とは対照的な首。

男らしさがそこににじみ出ているようで、僕にとっては嫌味だ。


「『平和とダイエットの共通点、それは我慢によって成り立つという事である』?どういうこと、コレ」


動く喉仏に、僕は答えた。


「平和も、ダイエットも、何事も我慢だろ。」


「そう?」


僕の言葉に再び喉仏が動き、合わせて顔の位置が少しだけ傾いた。首をひねっている男にさらに言葉を投げる。


「他人を羨んだり、妬んだり、憎いと思ったり。そんな気持ちを、人が少しずつ我慢すれば平和になる」


「ほう」

短い返事。それは納得というより、僕の言葉を促す返事。


「最低限の栄養補給以外の食事、怠惰に過ごしたいという気持ちを我慢すればダイエットに繋がる」


「ふんふん」

真面目に語った僕に対するものとは思えないフザけた返事が頭にくる。

頭にきた気持ちそのままに、背もたれ後ろにある体に頭を軽くぶつけ「興味ないなら聞くなよ」と苦言を一つ。


「いやいや。興味ないわけじゃなくて」


「じゃ、なんだよ」


僕の声に男の顏が目の前のPCから、僕の顔へと向く。


「俺的には、我慢じゃなくて」


言葉を一つ区切り、少しだけ考えをまとめるように視線が右上を向く。


「満足感?満たされてる感覚ってのが大事なのかなーって」


「ほう」

先ほど、男が返した返事をそのまま返してやる。


「人がそれぞれ自分に対して満足すれば、戦争も犯罪もする必要がなくなると思うし。満たされた感覚があれば、必要以上に食べたりもしない」


返事をせずに男を見返す。


「これで、晴れて平和とダイエットの達成じゃない?」


ニコリと僕に向かって微笑む男から顔を背け、体を起こす。

キーボードで幾度かバックスペースを押下し、目の前の文章を途中まで削除した。

続けて文章を打つ。


‐満足感によって達成しうる可能性があるということである‐


僕の打ち出した文章を見て、背後で「おぉ」と小さい声が上がる。


「おぉ。じゃねーよ。さっさと僕を満足させろ。戦争起こすぞ」


体をよじり、背後の上機嫌そうな男を軽く睨む。


「ん?」


にこにことした表情のまま首をかしげる男に、軽く拳を当てる。


「僕のポッキーを横からつまんだろ。僕はまだ満足してないんだから、さっさと買ってこい」


当てた拳を押し、男を背もたれから離れさせる。


「やべ、バレてた?」


苦笑いする男に背を向けて再びPCに視線を戻す。


「同じ、濃厚苺のやつだぞ」


部屋の扉の前まで移動した男の「へーい」という嫌そうな返事に軽く戦争をおこしたくなった。

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