願いを叶える魔法のランプ
あるところに、三人の男がいた。
男たちは、ごく平凡な暮らしをしていたが、ひょんなことから魔法のランプを手に入れた。
それは、何でも一人一つ願いを叶えてくれる精霊が封じられているという。
男たちは早速精霊を呼び出した。
「ご用件は何でしょう」
男たちは、それぞれの願い事を言い出した。
一人目の男は、とても正義心が強かった。
そこで「すべての悪を倒せるような、最強の強い力がほしい」と願った。
すると精霊は「強さには、様々なものがある。
どうやらお前が望むのは、武による力だね?では最強の力をお前に与えよう。
あぁいきなり最強になってもその力を使いこなせないだろう。では徐々に強くなっていくようにしてあげよう」
と、指を一振りし男に魔法をかけた。
男は体中から力がみなぎってくるのを感じ満足した。
二人目の男はとても慈善だった。
そこで「すべての貧しい人を助けられるような財力がほしい」と願った。
すると精霊は「それはいい心がけだ。お金は、扱い方しだいでは、銃やナイフよりも残虐な武器になる。うまく使いたまえ」
と、精霊は指を一振りした。すると何もないところから一つのジェラルミンケースが現れた。
中からは無尽蔵に本物の札束が出てきて男は満足した。
三人目の男はとても病弱だった。
そこで「絶対に死なないように不老不死にしてくれ」と願った。
すると精霊は「どうやらお前は、ひ弱な存在のようだ。では人並みだが頑丈な体とどんなことでも狂うことのない強靭な精神も付加してあげよう」
と、指を一振りして男に魔法をかけた。
すると今まで苦しめていた存在が消え去って楽になり不老不死になったんだ。と実感し男は満足した。
さて、それから三人の生活は一変した。
力を求めた男は、地元の犯罪者を懲らしめていき、やがて各地の紛争地帯を渡り歩いていくようになった。
金を求めた男は、その金を貧しい国へ大量に寄付していった。
不死を求めた男は、各地を旅するようになった。
ここまでは、よくある御伽噺だ。だが話にはオチが付き物だ。
一人目の力を求めた男は、その力で各地の悪いやつを叩きのめしていった。
彼のおかげで、救われた命があった。だが失われた命のほうが多かった。
あるときは、領土侵略してくる軍隊を
あるときは、町を荒らす暴徒と化したデモ隊を
あるときは、敵対する宗教の施設を焼き払う教徒たちを
あるときは、悪事を働いた、かつて助けた人たちを
彼は、悪と判断したら者たちを問答無用で叩き潰していった。
そうしているうちに彼はテロリストとして国際指名手配された。
世界中は彼を悪と決め付けた。
彼は叫んだ。
「どうして、俺が悪いんだ。俺は悪いことをしていないのに!!」
するとどこからともなく精霊が現れて言った。
「善と悪は表裏一体、そのときの価値観によって常日頃から変わるものだ。そしてその価値観は不特定多数の人間によって決められるものだ。間違ってもお前が悪と判断したところで、それが絶対に悪だとは限らないのだよ」
「じゃあなんで……」
「そういえば、昔から変わらない価値観はあったな。強すぎる力は時として悪になる。鬼を狩るものが、鬼として追われるようになる。ふん、今のお前のようではないか。歩くだけで大地はひび割れ、掴むだけで物としての役目を終え、呼吸するだけで空気を殺す。やがてはそこにいるだけで、すべてを滅ぼすだろう、そんな存在を化け物と呼ばずになんと言う。」
精霊は言ってその場から立ち去ろうとする。
そして思い出したように振り返り
「もともとお前が願った力だ。すべての悪を滅ぼすのだったな?ではそうなってしまった以上どうするのかね?」
言ってその姿を消した。
二人目の金を求めた男は、さっそくそのお金を何の考えもなしに大量に貧しいところへ寄付した。さらに食料や衣料品、医薬品を大量に買占め送りつけた。
そのおかげで、たくさんの命を救った。
だがそれ以上に沢山の紛争を生み出した。
ジェラルミンケースから出していたお金は、いわば銀行の管轄外におかれた造幣所から作られたお金、世界の経済事情を無視してどんどんお金を作っていったためお金の価値はどんどん下がり、あっという間にハイパーインフレーションを引き起こした。
そんなことも知らずに男はお金をぽんぽん作り物資や資源を買い集めていっために、気がついたら世界中は、少ない物資を奪い合うようになっていた。
どこかの豪邸の部屋の奥、部屋の隅で外からくる暴徒たちにおびえながら男は叫んだ。
「どうしてこうなった!!どうして奪い合うんだ!!」
するとどこからともなく精霊が現れて言った。
「お前がやっていたのは、家畜に餌をやっているのと同じことだ。
金という餌をばら撒きぶくぶくと太らせていった。
何もせずに肥えていった家畜たちは、要らぬ知恵をつけ始める。
やがて欲を覚えた家畜たちは、もっと餌を手に入れようと餌を沢山持っているやつに襲い掛かる」
ドンドンと部屋のドアが乱暴に叩かれた。暴徒たちがこの部屋に押し入ろうとしているのだろう。
「その結果が、この様だ。言ったよな?うまく使えと。
お前はすべてを捨てて救済を行うべきだった。いわゆる滅私奉公というやつだ。お金は自分の身を守る道具に過ぎん」
ドアを叩く音がどんどん強くなっていき、ついに破られ暴徒たちが部屋になだれ込んできた。
それを見ながら精霊は、
「皮肉なものだ、平和だ平和だというやつほど、債権を振り回し間接的に人を殺している。
同じ殺人を行うのにも、武器を持って暴れているやつの方が、よっぽど苦労している。
さぁ、覚悟したまえ欲望に駆られた者どもが大量の餌を前に理性的でいられるかな?」
といって、消えた。
三人目の不死を求めた男は、体が前よりも健康になったので世界中を旅して回った。
眠る必要がなくなったために、旅は快適だった。
行く先々で、いろいろな人と交流し、いろいろなものを見て回った。
だが、そういうことをして楽しんでいられたのも、百年くらい経ってまでのことだった。
知り合って来た人たちが、自分より先に死んでいく。
何度か気に入ったところに定住してみたりもしたが、年をとらない男を住人たちは気味悪がった。
なかには、そういうものだと受け入れてくれた友人もいたが、やはり自分より死んでしまった。
残された男にはもう孤独しかなかった。
そして長い長い年月が経ち地球上に人類は男一人しかいなくなった。
そうなっても強靭な精神では我を忘れて狂うこともできなかった。
何度自殺したことか。火山の火口に飛び込んでもやがてどこかでまた蘇ってしまう。
何万年と時が経ちとうとう地球の寿命がやってきた。
そのときにはもう男は動きすらしていなかった男だが、ピクリと動き出し正面を見つめた。
目の前には、いつぞやの精霊がいた。
「どうだ、不死になった感想は?」
「……願わなければよかった。せめて狂うことができたらどんなによかったか」
「それは、肉体は滅びずとも人として死ぬ。お前の願いは不老不死だ。その願いを遵守するためには、狂わせることは許されていない」
「……つらいものなのだな死なないというものは」
「不老不死を求める物語はあるが、それになるのを拒んだ物語は竹取物語くらいのものだ。きっとこうなるのをわかっていたのだろう。
他人のいない世界がどんなにむなしいか」
さて、と精霊は言葉を区切り続ける。
「地球ももうそろそろ終わりだ。我輩もともに消えざるを得ないだろう。最期の話し相手だ、冥土の土産に何か言ってほしい」
男は、何万年ぶりかに笑ってこういった。
「願いをひとつ言おう、縁があったらまた会おうではないか」
作者コメ
ちなみに私は、願うとしたら
「地や床に落ちたお金が一日三万円まで自分の財布に入るというもの。もちろん両替機能つきで」
と、いたって小心者の願いです。
11月22日 少々改稿しました。