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春に香る金木犀  作者: ななくさ
第一章 自然が好きな人
8/9

なくした記憶





『×××ー!ハルがぁ~僕を虐める~!』

『ちょっとお兄ちゃん!すぐに×××を頼るのやめなさいよ!』

『お互い傷つけ合って何してんの。マゾ?2人ともマゾなの?うわー』

『ひどっ!そんな目で僕を見ないで!』

『なんかそのセリフ、強姦された女の人が言うセリフみたいね』

『ハ、ハルの口から強姦なんて言葉聞きたくなかった』




なんか、ものすごく馬鹿らしい夢を見た気がする。


でも多分これ、前の記憶だ。



いつも泣いてる泣き虫なビャクヤと陽気で勝気なハル、そして2人の中心にいる×××。毎回毎回夢の内容は変わってはいるけれどこの3人の夢はいつ見ても楽しい。



というか俺は何していたんだっけ…確か軍が来て口塞がれて…てことはここは軍?


いや、それよりも!



「小鳥!」

「起きてすぐに小鳥達の心配をするの、翡翠」



目の前にはふっと笑う玲、いや玲に似た



「軍人?」

「制服、着てないよね?あの軍人から奪還成功ってね」



玲がイエイ、と言って人差し指と中指を広げる俗に言うピースをした。軍人がそんなファンキーな感じじゃないとは思うし多分ここ一泊したあの宿であっているのだろう。見渡せばベッドの周りは荷物の山。

あーアレリアさんが買ったやつだ。うん、ここ宿だ。


ふぅ、と一息ついてその場に置いてあったミルクティーを飲み干した。それと同時に玲にこら、とチョップを喰らう。



「え、何すんの?」

「あのね、無用心に置いてある飲み物を飲まないの。僕が軍人でここが再現された宿だったらそのミルクティーは必ず何か入ってるでしょ?警戒心解きすぎ」

「あーそっか。ごめん」



そっか、再現部屋。それを考えていなかった。


再現部屋とはその名の通り、対象の1番落ち着く場所を再現するものだ。魔法でするのもあるし薬でするのもあるが薬は効力が短くだいたいは魔法。見極めるのはとても困難であると言われているけれど俺はそこが再現部屋なのかどうかがわかる。だってここには自然があるんだから。



「起きたみたいね。じゃあ時間もないことだし翡翠、質問してもいいかしら?」



いきなり入って来たのはアレリアさんだった。驚きはしない、気配はしていたし風も教えてくれた。


それにここは再現部屋じゃない。



「俺が本当に『緑の君』か、何故狙われているか、それと俺の『独り言』そんなところですか?」

「そう、緑の君に伝説も何もないわ。けれど教会や軍が躍起になるほど何か能力を持っている、それを知りたいのよ」



アレリアさんは別段驚きもせずまっすぐ俺を見る。俺は息を吐きだして俺が自然に愛されていることを話した。




「つまり翡翠は自然と会話ができるってことね?」

「はい。小鳥や猫、犬、木とか風とかも話せます。そこからの情報は嘘なんてありません」



てことは財宝のありかとか宝物のありかとか風に聞けるのねうふふとか言ってるアレリアさんに風にそんなこと聞かないというと一気に沈んだ。



「じゃあ、どうして軍や教会の人達に狙われているの?」

「…多分、それは俺の記憶に関することだと思います。それに自然が味方しますから、それを使って洗脳でもさせれば一気に大陸や国は滅んじゃいますよね」



俺がそう言うと沈んでいたアレリアも冷静でいた玲もゾッとしたようで顔をあおくしていた。



「まぁ緑の君ってことは間違いないかもしれないわね」

「あ、そうだ翡翠。あの軍人、ずっと翡翠を見ていてまるで翡翠が『緑の君』だって確信していたらしいんだけれどあの人の前でその能力を使ったりした?」



玲にそう言われて俺は少し考える。


確かにあの時どうぞ、と言った。言ったがどうぞなんて言葉普通に鳥の声が聞こえてなくても言う言葉だ。


それに動物達に話しかけるとか言ってたし。


それに、それに



「何か、見覚えあるんだよな…あの軍人」

「見覚え?軍人とやりあったことなかったよね?」

「うーん、そうなんだけど」



何か面影が似ている。


誰だったんだろう、多分、それもなくした記憶に関することだ。









暗い部屋の中に四人の軍人がいた。先ほど翡翠を攫おうとした金眼の軍人は鞘から剣を抜いて今その剣の先には上司の喉仏にある。それを見ているのは腹を抱えながら笑う軍人と足を組んで椅子に座りながら頬杖をついている軍人だった。



「ひぃ!わ、私は!」

「黙れ。お前が邪魔をするから緑の君を逃した。いいか、俺が緑の君だと言ったらそいつは緑の君なんだ。わかったか」



金眼の軍人は上司にあたる軍人の胸ぐらを掴んでそう言うと手を放した。



「ばっかだねぇ~勝手に動くからそうなるんだよぉ。ショタコンだってープププッいい気味ぃ」

「チッもう少しだったのに」

「ま、そういうことだからぁーこいつが緑の君っていったらそいつは緑の君なんだよ。だってこいつ緑の君が一瞬でわかるんだもんねぇ?」

「当たり前だ…。今は南の国に入ったところだな」

「げぇーストーカーみたい…ま、仕方ないよねぇーあんたは水晶なんだから」



腹を抱えて笑っていた軍人は金眼の軍人の顔を覗き込みながらそう言うと頬杖をついていた軍人が足組みを解いた。



「そろそろ南の国に出撃すんのもいいなァ」

「おぉー?行っちゃいますー?僕らの主力部隊投入しちゃいますかー?」

「いんやァー?俺らの隊は残念ながら行かねェけど他の隊には言っておくぜェー?お前らには行ってもらうけどなァ」



頬杖をついていた軍人は椅子の両側にある肘掛けに手を置いたあとぐっと腰を上げた。



「前衛一三番部隊隊長において命ずる、前衛一三番部隊隊員ビャクヤ、同じく隊員ナギサ、オメェラには特別任務を課す。緑の君を手に入れろ。そのためなら何をしても構わねェ」

「りょーかいしましたぁー!超楽しくなりそう!」

「わかりました」










「あ、コンパス壊れた」

「だから言ったでしょーあの街で新しいコンパス買おうって」

「散々買っといて?あのさアレリア、誰だっけ?僕たちを朝飯抜きプランにさせた人」

「うっ」

「挙句に?買い物しまくってさー残り残金いくらか知ってる?」

「か、返す言葉もございません…」



時々俺はこの二人の力関係がわからなくなる時がある。アレリアさんは買い物をしすぎると玲に怒られるけれど玲は結局アレリアさんに振り回される。


ふぅ、と荷物を持ちながらため息をつく僕に風が吹いた。




『無事だったのね、緑の子』

「あぁありがとう。俺とよく話してる小鳥は大丈夫?」

『ふふ、緑の子を守れなかったって言って嘆いているわ。しばらく言わないでおいて反省させるの』

「うわお、風さん意外と鬼畜」



まさかの優しい風さんの鬼畜発言に俺はふっと笑う。すると風はそよそよと吹いて去っていったと思いきやもう一回風が吹いた。



『あの軍人には気をつけて。あの軍人は緑の君の無くした記憶に関係する人で私たち自然を操ることができるの』

「自然を、操る…」



それは完全に俺の天敵だと思うんだが。



『大丈夫、私たちだって権利がある。だから簡単には操らせないわ。もし操られたら絶対に言うもの。精神は操れないのよあの軍人』

「わかった、でも気をつけてね。何かあったらすぐに行くから」

『それはこっちのセリフ。またね、緑の子』



風はそよそよと去っていった。息をついて前を見るとこっちを凝視している二人がいた。



「何?」

「いや、改めてみると」

「不思議だなーって思うんだよね」



何が、と聞きたかったが聞くまでもない。風と話してること自体が変なのだからやっぱ不思議に思うんだろう。



「やっぱ風にも目とかあるのかしら?」

「いや、目はないよ。けど声は聞こえるから」

「あーやっぱ聞こえるんだね。風はどんな声なんだい?」



どんな声、か…。



「……優しくて温かくて、何か包んでくれるような、声…かな?」



俺がそう言うと玲はそっかとだけ言ってふっと笑った。




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